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先史魔法文明のたったひとりの生き残り、らしいよ  作者: koshi
第4章 ふたつの世界を股にかけ
54/71

54.領空侵犯したらスクランブルされるのは当然だよね



 ドラゴンのフキ爺さんの言う『次元の穴』、クシピーやアーシスの世界の言葉でいえば『特異点』。だが、俺の間の前にあるはずのそれは、まったく目には見えない。濃密な空気をたたえた空がどこまでも続いている、それだけだ。


『特異点に侵入します』


 一瞬にして空気の色が変わった。つい先ほどまで俺のまわりに存在したのは、熱帯雨林気候帯に属するミヤノサのじめじめした濃密な大気だった。ついでに、それは人類にとって有害な成分を含み、さらに目に見えない精霊達に支配された空間だったはずだ。


『通常空間に戻りました。状況を確認中。……警告。リング衛星の精霊システム制御中枢を確認できません。大気中に精霊が存在しません。現在、精霊が存在できるのは、私の支配下にある半径約10メートルほどの空間にのみになります』


 クシピーが何かしゃべっているようだが、俺の頭には入らない。それどころではないのだ。


 俺にはわかる。ひとつ深呼吸しただけでわかる。。空気の色が、匂いが、……うまくいえないけど、世界が違う。確かに違う。ついさっきまでいた異世界とはなにもかもが違う。懐かしい匂いがする。


『各種環境因子を分析中。温度、気圧、酸素・二酸化炭素その他大気成分、重力加速度、環境放射線、……アーシスの生命維持に支障をきたす因子は今のところみあたりません』


 うん、たしかに快適だ。


 爺さんはまだ飛んでいる。しっかり羽ばたいている。さすがドラゴン。アンドラさんは、……この大気でも平気なようだ。なにも問題は無い。


 俺は、おそるおそる尋ねる。


「クシピー、……ここは?」





 答えがかえる前に、俺は全てを理解してしまった。


 爺さんが急旋回したのだ。すぐ近くの高速な飛行物体を避けるために。


 俺は首をまわす。ギリギリをかすめていく飛行物体を仰ぎ見る。


 ドラゴンよりも遙かに巨大な胴体。銀色に輝く翼。かん高い金属音。白い尾を引くジェットエンジン。赤と白の鮮やかな塗装。尾翼に描かれた見慣れたマーク。


「……ジェット旅客機。俺は二十一世紀に帰ってきた、のか?」


『現在地不明です。高度はおよそ千五百メートル。あらゆる周波数であきらかに人類文明由来と思われる電波が受信できますが、内容の解析には少々時間がかかります』







 天候は良好。どこまでも青い空。無風。機体は絶好調。トラブルなど起こりようのないコンディション。


 全地球規模の温暖化にともない亜熱帯化しつつある我が国の中で、この北の大地だけは意固地なまでにさわやかさを保っている。まるで俺様を歓迎してくれているかのようだ。今日のフライト予定はこれでおわり。北日本最大の歓楽街が俺を呼んでいる。


 民間旅客機のコックピットの中、副操縦士はうかれた調子で機長に尋ねる。


「機長。地元ですよね。美味い店おしえてくださいよ」


 だが、隣に座る大先輩から返ってきたのは、つれない返事だった。


「すまんね。俺は家に直行するよ。今夜息子と一緒にドームに行く約束しているんだ」


 そういえば、この人の家族は今でもこっちに住んでいるのだった。


「ああ、例のサッカーチームの応援ですか。最近調子はどうですか?」


 副操縦士の彼はサッカーについてはあまり詳しくはない。ただ、機長が家族ぐるみで地元チームを応援していること、そしてそのチームは降格と昇格を繰り返し、決して強豪とはいえないマイナークラブであることだけは知識として知っていた。


「うーーん。まぁまぁかな」


 機長が苦笑いしながら答える。あまりこの話題には触れない方がよさそうだ。





『オールジャパンエア505便。こちらチトセアプローチ。最終進入コースに誘導します。機首を050に向け、高度を4000フィートに降下させてください』


『了解。機首を050に向け、高度を4000フィートに降下しま、……なんだあれは?』


『オールジャパンエア505、どうしました?』


『突然現れたぞ! 君にも見えるか? 空中衝突防止装置に映っていない。旅客機じゃないんだ。レーダーは?』


『オールジャパンエア505、どうしました? 応答してください』


『くそ、レーダーに映ってやがる! 幻覚じゃないぞ。たしかに実在するんだ。さっきまでは存在しなかったのに。目の前だ。機首の左、ほんの100メートル先だ。同じ高度を同じ速度で飛んでいる』


『こちらのレーダーでも確認しました。日本語で結構です。いったい何が飛んでいるのですか? 緊急事態を宣言しますか?』


『あ、ああ。そうだな。頼む。緊急事態! 緊急事態だ。あの竜が襲ってくる前に、はやく着陸させてくれ!』


『もういちど言ってください。いったい何が飛んでいるのですか? 自衛隊に確認させますか?』


『竜だよ、竜。ドラゴンだ。人間を乗せたドラゴンが飛んでいるんだ! はやく戦闘機を! 助けてくれ!』








「なんじゃあれは?」


 進路を邪魔されたドラゴン爺さんが、あきらかに不機嫌な様子でつぶやく


「爺さん。……もっと近寄れるか?」


「ああ? あれは人間共が作ったものか?」


 そうか、爺さんがあっちの世界にいったのは二百年前だったか。


「大丈夫。あれは民間機、危険はないはずだ。たのむ、もっと近くで見たいんだ」


 俺は両親の職業の影響で、航空機やロケットについてはちょっと詳しい。あの機種は基本的に国内線だ。しかも高度と速度からみて着陸態勢だ。あれについていけば……。


「ふん。あちらの世界の人間どもはいつまでも精霊魔法とやらから抜け出せないままだったが、こちらの連中はワシのいない間にそれなりに進歩したようだな。どれ、サービスしてやるか」






「ママ、ドラゴンだ!」


 旅客機の中、窓にへばりついた少年がさけぶ。


「へぇ、よかったわね」


 隣に座る母親は、機内誌を読みながらぞんざいに返事をかえす。


「本当にドラゴンだよ。見て! 女の子が手を振ってる」


 機内がざわついているような気がする。大声で騒ぐ息子のせいかもしれない。しかりつけようと、母親が顔をあげる。


「静かにしなさい! そろそろ着陸よ。ほら、ちゃんとベルトをし、……ひっっ!」


 彼女は、息子のベルトを直そうとしたまま固まった。視線が偶然、窓の外の光景を捕らえたのだ。


 それはドラゴン。まごう事なきドラゴン。しかも、人間が二人またがっている。緋色の髪をなびかせて、スカートをひらひらさせた女の子が、こちらを向いて手を振っている。


 必死に機内を落ち着かせようとするCAの努力もむなしく、乗客達は一斉に窓際に寄る。合計数十以上にのぼるカメラのレンズが、窓の外に向けられる






 あらゆる航空機の航跡をリアルタイムで把握可能なモニタが並ぶ作戦指揮所の中、無機質なブザー音が鳴り響く。


「要撃機あがりました。コールサイン『サラマンダー』」


「505便は? ドラゴンとやらはまだついてくるのか?」


「約100メートルの距離で追跡されたまま、505便は着陸態勢を維持しています。高度を上げさせますか?」


「いや。民間機の安全が第一だ。このまま降ろせ。それに未確認物体をひきつれたまま市街地上空に侵入させることは避けたい」


『サラマンダー03、こちらルイーダ。現在のコースを維持してください。会敵予想時刻まで5分』


「時間が無い。第3高射群にも発令しろ。地対空ミサイル用意。迎撃態勢だ」


「『ドラゴン』は505便を追跡したまま北上中。応答ありません。間もなくサラマンダーがコンタクト」





『こちらサラマンダー03。505便とコンタクト。視認距離まで接近する。……うわっ!』


『サラマンダー03、こちらルイーダ。どうしました? 物体を確認できましたか? 応答してください』


『こちらサラマンダー03。ド、ドラゴンだ。ドラゴンに人間が乗っている! 指示を』


「映像を送らせろ。映せ!」


 その瞬間、作戦指揮所にいた全員が凍り付いた。


『こちらサラマンダー03。指示を』


「……大臣につなげ。緊急連絡だ」





 俺は旅客機に向けて必死に手を振る。ひさしぶりにこの世界の人間に会ったのだ、手を振らずにいられるか。そして、窓の中の人々も、みなこちらに手を振ってくれている。歓迎されているのか、俺。


 旅客機は次第に速度と高度を下げる。飛行場は目の前だ。


 やっぱり。この海岸線には見覚えがある。……マコト、俺は帰れるぞ!


「ユウキちゃん! また別のが来たわ。小さいのがふたつ」


 アンドラさんが前方を指さす。何も見えない。いや、確かに米粒のような物が見えるような……。と、あっという間に近づく。ものすごいかん高い音をたてて、至近距離をすれ違う。そして、回り込んで旅客機の後ろにつく。


 うわー。我が国が誇る最新鋭第六世代戦闘機だ。パイロットが見えるくらいの至近距離。俺はおもわず手を振る。


 パイロットが戸惑っているのがわかる。そうか。そうだよなぁ。民間機とは違うよなぁ。戦闘機のパイロットが、ドラゴンに乗った女の子に手を振られてもふり返すわけにはいかないよなぁ。


 ん? 戦闘機がゆっくりと位置をかえる。一機が旅客機と爺さんの間に割って入るのか。そして、もう一機は、……爺さんの真後ろにつきやがった。


 なんかイヤな予感がする。気のせいだよな。


 前の戦闘機が翼を振っている。パイロットが手で合図している。下を指をさしている。ついてきて着陸しろといってるのか?


「チョロチョロとうるさいのお。ちょっと脅かしてやろうか」


 やめろ、爺さん。あれは速度も機動も化け物だ。いかにドラゴンでも絶対に勝てる相手じゃないいいいいい、って言ってるのにいいいい!


 俺が言い終わる前に、爺さんは火を噴いた。





『ルイーダ、こちらこちらサラマンダー03。ドラゴンが火を噴いた!』


『こちらでも見えた。……攻撃行為と判断。武器の使用を許可する。警告射撃だ』


『ルイーダ、確認させてくれ。いまなんと言った?』


『警告射撃。それでも従わなければ落とせ』


『あれはあきらかに軍用機じゃない。それに生身の人間がまたがっているんだぞ!』


『505便には二百人が乗っているんだ!』


『……了解』





『アーシス。電波信号のひとつのフォーマットが判明しました。おそらく旧式のGPSだと思われます。現在の連邦構成惑星では利用されていない、かなり旧型の信号です。ただ……』


 ただ? めずらしくクシピーが言い淀む。


『このGPS信号を素直に解釈すると、ここは二十一世紀の地球であると結論ずけざるをえません。また、これは大気成分その他の環境因子とも矛盾しません。ひきつづき他の受信信号も解析中』


 人工知能にしてはずいぶんと慎重で曖昧な言い回しだな。でも、ここがどこかなんて、クシピーよりも先に俺はとっくに気付いていたぜ、……って?


 あれ?


 なにかひっかかる。大きな違和感。


 あれれ? 何がおかしい? そして、気付く。


 ええええええええ! いや、まて。ちょっとまて。そんなバカな事があるか。あるはずがない。


「クシピー、ちょっとまて! どうしてアーシスと同じ異世界から来たおまえが、『二十一世紀の地球』の事を知ってるんだ?」






 バババババババ


 何かがかすめた。後ろの戦闘機の機関砲だ。警告射撃か? 爺さんが火を噴いたのを、攻撃と思われたか? 勘弁してくれぇ。


 振り向いて反撃しようとする爺さんを、必死に止める。


 だめだ! 爺さん。次はミサイルが飛んでくる。鋼鉄みたいなウロコにくるまれてる爺さんの身体はともかく、俺やアンドラさんは死ぬ。絶対に死ぬ。急降下してあの山の中、森に逃げるんだ!






2014.07.21 初出

2014.08.16 誤字や文章のおかしな部分をちょっとだけ修正しました

2017.05.20 表現を数カ所修正しました


 交信内容のリアリティについては、あまり突っ込まないでいただけると助かります。



(*)同じ世界を舞台にしたもうひとつの物語も連載しています。こちらよりもかなり呑気なお話ですが、よろしければそちらも合わせてご覧ください。

 『剣と魔法の異世界だって、美少女アンドロイドの私がいれば平気なのです』( http://ncode.syosetu.com/n8255ca/ )




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