表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
先史魔法文明のたったひとりの生き残り、らしいよ  作者: koshi
第3章 先史文明の生き残りと異世界の妖怪と
48/71

48.科学技術が発達するほど人間は外道になるのかもしれないね




「アンドラさん、しっかりして。あなたはマコトの護衛なんだから、マコトを、エメルーソ殿下を守ってくれ。殿下の敵をやっつけろ」


 ユウキちゃんはそれだけ言うと、その場にへなへなと座り込んだ。


 あわてて抱き上げると、例によって顔は紫色。苦悶の表情、荒い呼吸、全身をピクピク痙攣させている。


 殿下だけではない。私も、大通りにいた一般市民も、爆発魔法の被害を受けなかったのはユウキちゃんのおかげだ。その小さな身体に、耐えきれないほどの大きな負担がかかったのだろう。一度発動した精霊魔法は、絶対にキャンセルできないはずなのだから。


『殿下の敵をやっつけろ』


 ユウキちゃんの命令が、電撃のように全身を駆け抜ける。頭の中でこだまする。何度も何度も何度も何度も。


 ……私は、この精霊を身体に纏わせた少女の命令に従う。従わなければならない。そのために生まれたのだから。


 本人も気づかぬうちに、アンドラの顔は獣化していた。全身の細胞に生気がみなぎっている。無限の力がわいてくる。





 それに合わせたかのように、殿下が立ち上がった。


 血まみれのまま、胸の傷口もふさがってはいない。足元の血だまりは、今も広がり続けている。それでも殿下は、自分の足で立ち上がる。どこからだしたのか、愛用の刀を手に取る。


 男達を、まるで焼き殺すような凄まじい視線で睨みつける。怒髪天。憤怒。どんな時でもへらへらしていたあの殿下が、これほどまでの凄まじい形相をみせるとは。


 当然だ。アンドラには理解できる。


 目の前の魔法使いは、殿下の愛するミヤノサ市民を無差別テロの対象にすると宣言したも同然なのだから。あるいは、王家と王国政府に対する公然たる侮辱も、怒りの原因にちがいない。


 いや、……この魔法使いは、何度もユウキちゃんを襲ってきた相手だ。怒りにまかせているようにみえて、殿下はユウキちゃんに対する脅威を一気に排除してしまうつもりなのだ。彼らに対する死刑執行の命令書にサインがなされたのも同然だ。もちろん、執行官は私だ。私がやる。やらねばならない。





 殿下に相対している男達が、そのあまりの迫力に思わず身をすくませる。


 それでも逃げ出さないのは、彼らが素人ではないことの証明になるだろう。腰が引けつつも殿下に銃を向け、魔法陣を展開する。しかし、アンドラから見て、それは勇気ではない。無鉄砲、あるいは自殺行為と呼ぶべきものだ。


「あまり俺をなめるなよ。……ならば、おまえ達はここで完全に叩きつぶず。どうせ兄上も近くでみているのだろう? 俺の敵にまわるということがどのような意味なのか、しっかり教えてやる。いけ、アンドラ!」


 殿下の命令を引き金に、まるで弾丸が弾けるようにアンドラの身体が動く。地面を蹴り、風をきり、彼女の肉体は敵のまっただ中にむけておどり込む。






 一瞬。瞬きをした瞬間にそれは起こった。


 エメルーソ殿下と対峙していた魔法使いは、いったい何がおこったかわからなかった。


「あっ?」


 自分の横で銃を構えていたはずの男が、ひとことだけ声をあげた。


 魔法陣を展開中だった彼は、何気なくそちらを見る。


 そこにあったのは、真っ赤な柱。つい先ほどまでは、そこに仲間がいたはずだ。


 えっ?


 もう一度まばたきをして、目をこらす。そこにあるのは人ではない。人の胴体。胴体だけだ。肩の上から大量の血が噴き出している。


 頭は? どこへいったんだ?


 あまりの出来事に、現実感が伴わない。


 ドサ


 頭を失った胴体が、その場に崩れ落ちる。そして、記憶の底からよみがえる忌まわしい恐怖。


 それは、森の中。はじめて目標の少女に出会った時。魔法と魔導銃をことこどく少女に無効化されたあげく、オオカミの少年に彼以外のハンターが皆殺しにされた。自分ひとり、他のハンターの死体に紛れてからくも生き残った時の、戦慄の記憶。


 オオカミだ。凄まじい速度で振り抜く爪で、人間の頭をピンポン球のように吹き飛ばす。オオカミ族が素手で戦う際の、得意技だ。


 しまった。殿下の隣に居たはずのオオカミ族の女秘書が、いない。どこにもいない。回り込まれたか。彼女も殿下もすでに無力化したと思い込んでいた。接近戦に持ち込まれてしまっては、こんな人数では絶対にオオカミをとめることなどできない。


 逃げる。


 魔法使いの男は、踵を返す。彼は、逃げることに躊躇しない。何があっても生き残る。どんなことをしてでも生きて帰ってくる。そして、最終的に任務を達成すればよい。それが、彼の雇用主から求められる絶対条件なのだ。


 だが、遅すぎた。決して目では追えない速度で、彼の周囲を影が走る。振り向く間もなく、後ろにいたはずの黒めがねの肉体が縦にさけた。


 くっ。


 さらにもうひとり。今度は彼の目の前に居た男。腹から爪が、そして腕が生えている。背中からオオカミの腕に腹をつきぬかれたのだ。


 このままでは逃げられない。めくらましを!


 彼は、右腕を空に向ける。展開中だった爆発魔法の魔法陣を完成させるのだ。


 ピタ


 その首筋に、冷たいものがあたる。ひやりとした感触が、一瞬にして全身に広がる。身体が動かせない。視線だけを下に向ければ、それは銀色に輝く刃。片刃の刀。殿下が少しでも力を入れれば、彼の頭は胴体から別れることになるだろう。


「いまさら魔法など目くらましにもならん。あまりユウキに負担をかけるな」






「貴様、その顔には見覚えがあるな」


「わ、私は、殿下とは初対面のはずで、す、が」


 彼は、職業上の理由により、王国要人には顔を知られる事の無いよう務めてきた。雇い主以外の王家に方々に対しても、それは徹底していたはずだ。


「ユウキに奴隷の首輪をはめて、箱につめこんだ魔法使いだな? あの時、おまえを逃がしたのはやはり失敗だったな」


 あの時? いつだ? 目標の少女に顔を知られたのは仕方がないが、殿下とどこかであったか? 空を飛ぶ中型のドラゴンと、さらに途方も無く巨大なドラゴンに船を襲われ、少女を取り返された時のことか? あの時は、二頭の魔物以外に人間などいなかったはずだが。


「アンドラ、皆殺しにはするなよ。数人はいかしておけ。……ああ、五体満足でなくてかまわんぞ。口さえきければいい」


 目だけをうごかして周囲を確認すれば、すぐそばに居たはずの情報部の人間は、すべてただの肉片になったか、あるいは腕や足を失って倒れている。


 返り血にまみれたオオカミ女が、少女をかかえて正面に立っている。おそらく市の治安警察だろう、武装した男達があつまり、周囲をとりかこんでいる。


「おまえも殺さない。一応断っておくが、死のうとしても無駄だぞ。ユウキの治癒魔法で回復させたあと、死ぬよりもつらい思いをさせてやる。おとなしくしていた方が身のためだ」






 ふ、ふ、ふふふふふ


 唐突に、魔法使いが笑い出した。


 アンドラは、彼が狂ったかと思った。あるいは、狂ったふりをして、逃げ出すチャンスをうかがっているのか?


「任務に失敗した以上、私の命はありません。……殿下。仮にも王家の一員である貴方なら、奇跡の力を使えるのはその少女だけではないことを、ご存じでしょう?」


「な、……に?」






 俺は、意識は朦朧としたまま、アンドラさんにお姫様だっこされている。


 よくわからないが、周囲の悪人達は無事にお縄についたようだ。例の爆発魔法の使い手も、マコトにより首筋に刀を当てられている。


 俺の体調は最悪、マコトの傷はふさがっていないようだが、まぁ一件落着ということか。ならば、もう少し寝ていよう。あとはマコトとアンドラさんが、なんとかしてくれるだろう。


 しかし、安心して脳みその奥に沈みかけた俺の意識を、強引に引き戻すものがいた。クシピーがさけぶ。


『注意してください。周囲の精霊に、原住生物脅威排除コードが転写されています。アーシスに直接の害はありませんが、周囲に現住生物が存在する場合は影響に注意が必要です』


 なに? 注意? いつもの『警告』じゃないのか?


 まだあたまがボーッとしている。だが、なぜかものすごく気になった。ただの『注意』と聞き流さなかった俺を褒めてやりたい


「注意? 注意って何だ? 脅威排除ってなんだ? クシピー、何を注意すればいいんだ? いったいどんな魔法なんだ? 魔法陣なんて誰も展開していないぞ」


『遺伝子操作により知性化した現住生物には、安全のため即死遺伝子が組み込まれています。原住生物脅威排除コード、通称即死コードは、緊急時に一定範囲に存在する即死遺伝子の持ち主を認識し、速やかに体内で致死性毒物を合成させて即死させるものです。精霊システム制御エージェントの利用権限の持ち主しか実行できません。したがって実行にあたり魔法陣は必要としません』


 俺は、一瞬あっけにとられてしまった。……なんだそれわ? いったい誰がそんな外道なコードを開発したんだ? ていうか、おまえ以外のエージェントがいるのか?


『コードになされていてる署名によると、開発したのはアーシスが所属していた連邦宇宙軍技術研究本部チームです。最低の権限をもった簡易型エージェントが近くに存在するようですが、詳細はわかりません』


 なっ!


 い、いや、誰がコードをつくったかとか、他のエージェントとかは後回しだ。そんなことよりも、『現住生物』ってマコトやアンドラさんも対象じゃないのか?


「クシピー、キャンセルだ、キャンセル。すぐにキャンセルするんだ。その即死コードとやらを、やめさせろ!」


『コードそのもののキャンセルは間に合いません。……たったいま、アーシスの真上で実行されました。実行中の精霊が拡散中です』


 頭の上、星空を遮るように、不気味な黒い雲がひろがったように見えた。周囲に黒い雲が爆発的に広がっていく。


「ななななな、なんとかしてくれ! 俺の周囲の人だけでもいい、防御しろ! 確認も復唱もいらない、今すぐにだ」


『了解』


 ほぼ同時に、クシピーが光る。かろうじて俺の周囲、アンドラさんと数人だけが、光の繭につつまれる。俺の近傍の精霊達が、黒い雲の侵入を阻む。






 黒い雲は、それほど広範囲には広がらなかった。もともと、あまり広範囲につかえる魔法ではないのかもしれない。ほんの数十メートルの範囲を覆っただけだ。だが……。


 ばた。


 俺たちを助けに来てくれたであろう警察の人達が、十人ほど同時に崩れ落ちる。雲に触れた瞬間、まるで糸の切れた操り人形のように。


 雲は、あっという間に晴れた。しかし、残されたのは、ただ静寂。


 そこには、悲鳴も、苦痛も、恐怖もない。おそらく、本人も何がおこったのか理解する暇などなかっただっただろう。そのまま即死だ。直前の表情そのまま、ただ肉体が事切れている。雲に覆われた範囲に、動く者はなにもない。


 俺は、声もでない。


 ……死んだのか? 人って、こんなに簡単に死んでしまうものなのか?






 マコトは?


 マコトは、光の繭の範囲に入っていたのか? 防御されたのか? されていてくれ。


 俺は首をふる。頭痛がひどい。吐き気もとまらない。視界がぼやけている。しかし、そんなことはどうでもいい。暗闇の中、俺は必死にマコトを捜す。


「マコト! どこだ? アンドラさん、マコトは無事か?」


 マコト!!!


 立っている。しかし、片膝をついている。頭を垂れ、いまにも倒れそうだ。例の爆発魔法男が倒れているその側で、刀を杖代わりに身体を支えている。


 マコトォ!!!!!


 俺は、おもわず悲鳴をあげてしまった。


 アンドラさんには、クシピーの声が聞こえていなかったはずだ。まだ何が起こったのか理解できていない彼女をふりほどき、俺はマコトに向けて走る。吐き気も呼吸困難も続いてる。しかし、はしる。足がもつれる。こける。それでも、腕の力で這い寄る。必死に近づく。


 死ぬな、マコト。俺が作ったという外道なコードで、死なないでくれ。


 あと一歩。そこまで近づいた時、マコトの足がついに崩れかける。


 死ぬなぁ!


「うおーーーー」


 マコトの叫びだ。大気を振るわせながら、オロチが吠える。一度崩れかけた身体を、強引にふたたび持ち上げる。気合いで立ち上がる。


 その身体が、光っているようにみえた。それは、異世界人達のテクノロジーの結晶である精霊の光ではない。もっともっと原始的な、野生の力。オーラといってもいい。


 周囲の空間が歪む。マコトの姿が歪んで見える。俺には、マコトの身体が中から破れ、体内から巨大な生物が飛び出すように見える。山よりも巨大なオロチの姿が見える。





「お、お、おまえ、平気なのか? アーシス達の作った即死コードとやらをくらって、生きていられるのか?」


 やっと足元にたどりつき、見上げた俺。その頭をマコトがなでる。死ぬほど苦しそうな表情をしながらも、俺にむけて微笑んでみせる。


「あ、ああ。……どうせアンドラに刺された時から、俺の心臓は止まっていた。生物学的には死んでいたんだ。さっきの即死魔法をくらったのは、ちょうど全身の細胞の再生中だった」


 俺を抱き上げるマコトは、まだふらふらしている。しかし、確かに生きている。


「確かに、今のこの俺の身体は、この惑星の生物のものだ。ロクでもない先史文明人により、ロクでもない遺伝子を組み込まれた身体だ。だが、魂はちがう。神話の時代に全身バラバラにされても、死ぬことができなかった魂だ。……異世界からきた先史魔法文明人の連中に、なめられてたまるか」


 そ、それはアーシスに言ってるいるのか? まぁ、よくわからんがすげぇ。すげぇぞ、八岐大蛇!


 俺は、いつの間にかマコトに抱きついていた。後から思い出すと恥ずかしくて消えてしまいたくなるが、マコトの首にしがみつき泣いていたのだ。


 マコトは、そんな俺の頭をなでる。背中をなでる。身体中を触りまくる。相変わらず手つきがいやらしいが、気にならない。いや、もっと触ってくれ。生きている証を俺にしめしてくれ。


 涙と鼻水とよだれにまみれた俺の顔を拭きながら、マコトがつぶやく。


「実行犯の口を塞がれてしまったわけか……。俺のご先祖、建国王が先史魔法文明人から賜ったといわれる『王家の秘宝』には、臣民を強制的に命令に従わせるだけでなく、命令に従わない者を排除する魔法の力もあると聞いていたが。中世時代ならともかく、やっと議会政治が定着したこの時代になってそれを使う者がいるとはな。しかも我が王家の中に」


 気がつくと、周囲にまた人が集まっている。アンドラさんの指示で、惨状の後片付けが始まっている。殿下に抱きついている俺も注目されているようだが、俺はマコトを離さない。


「兄上は、どうせもう逃げだしてしまっただろう。しかし、このままではまた刺客がくるだけだ。……決着をつけるためには、王都に行かねばならんだろうな」


 王都、か。クシピーによるとアーシス達の最大の本拠地の遺跡があるという、あそこか。俺もいつかは行かねばならんと思ってたんだ。





2014.05.11 初出


(*)同じ世界を舞台にしたもうひとつの物語も連載しています。もしよろしければそちらも合わせてご覧ください。

 『剣と魔法の異世界だって、美少女アンドロイドの私がいれば平気なのです』( http://ncode.syosetu.com/n8255ca/ )


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ