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先史魔法文明のたったひとりの生き残り、らしいよ  作者: koshi
第2章 大森林の小さな村
30/71

30.攻撃魔法の撃ち合いというものは、それはそれは恐ろしいものなのね



 村人達はバルデ家に立て籠もり、いまだに抵抗を続けている。彼らがこもる石造りの家は、小さな砦と言っても過言でもないほど頑丈であり、魔導銃程度では攻め落とすことは難しい。さらに村人達の激しい反撃に曝されたハンター達は、遠巻きに取り囲むしかない。


 時間がかかるのは、ハンター達にとって不利だ。包囲のさらに背後から、オオカミの襲撃は続いている。さらに、ドラゴンがいつ帰ってくるかわからない。朝になれば、森の中の騒ぎに気づいた軍や市当局が、介入してくる可能性もある。


 業を煮やした彼らは、ついに切り札として強力な魔法使いを戦いに投入した。村人達の篭もる砦は、爆発魔法に曝されたのだ。





「もう一度くらったら、ユーキお姉ちゃんが死んじゃう」


 一発目の爆発魔法はなんとか耐えることができた。しかし、もう一発くらえばユーキお姉ちゃんの防御魔法が耐えられるかどうかわからない。なによりも、ユーキお姉ちゃん自身の身体がもたないだろう。


 そう思った瞬間、ダーヴィーの身体は自然に動いていた。


 ダーヴィーは飛ぶように走る。部屋の中の村人達すら彼女の動きに気づかない。あっという間にドアのかんぬきをあけ、家の外に走り出す。


 敵の魔法をおびき寄せねばならない。目標が分散すれば、お姉ちゃんの負担も下がるかもしれない。


 もし再びこの家が魔法で攻撃されれば、お姉ちゃんは絶対に防御魔法を発動するだろう。たとえ自分の体力が尽きようと、彼女が村人を守るため躊躇するはずがないのだ。ユーキお姉ちゃんは、平気で自分の命をすべて削るに決まっている。


 ぱんぱんぱん


 疾走する少女に対して、ハンター達が遠慮なく魔導銃を撃ちかける。いくつもの銃弾がダーヴィーをかすめる。


 正面に見えるのは、隣のあばら屋。物心ついてからいったい何度かよったかわからない、幼なじみの家。


 あそこまでたどり着けば、少なくとも囮になれる。それだけじゃない、……反撃だって。


 ほんの数十メートルの距離が、ダーヴィには果てしない距離に感じられた。





「ばかもの! 撃つな! あれが目標の少女かもしれないのだ。傷つけては元も子もないのだぞ!!」


 必死に叫ぶ元締めの声など無視するかのように、魔導銃の火花が続けざまに少女に向けて放たれる。風のように走る少女の身体のまわりで、いつくもの爆発の花が咲く。もし一発でもかすめれば、少女はただではすまないだろう。


 ふう。


 おんぼろの家に無事飛び込んだ少女の姿を確認し、元締めは胸をなでおろす。隣の魔法使いも、ひとつ息をついている。


「バカ共が! ……あれが目標の少女なのか? それとも、本命はまだ石造りの家に残っているのか?」


「遠目ではわかりません。とりあえず、おんぼろ家に逃げ出した方から先にやってみましょう。もしこちらが本命ならば、私の爆発魔法は防御されるはずです」


 爆発魔法を発動直前の男は、空中に掲げた右手の方向を変え、オンボロ屋を指さす。それに伴い、形成されかけていた魔法陣がゆっくりと移動する。オンボロのほったて小屋の真上から、周囲を照らすように金色の文字が光る。





 必死に息を整えながら、ダーヴィーは窓の外を見る。ガラスもはいってない窓の外、巨大な魔法陣が真上に見えた。今にも爆発しそうな火花を散らす黒雲を伴い、ゆっくりと回転している。


 私を狙ってきた。これでお姉ちゃんは大丈夫。


 爆発魔法から自分の身を守らなければならないことも忘れ、ダーヴィーは一息つく。


 さらに、窓の外には、こちらに向かってくるハンター達の姿も見えた。爆発を目くらましに、一気にここに突入する腹づもりなのだろう。


 このオンボロの家では、爆発魔法には耐えられない。そして、自分はあの魔法を防御することはできない。精霊魔法は、一度発動したら人間の力ではキャンセルすることは不可能。攻撃魔法に狙われた人は、逃げるか、あるいは覚悟を決めるしかないのだ。


 なんとか耐えてみせる。そして、……ただでやられるものか。


 ダーヴィーは覚悟を決める。


 この一発さえ耐えきれば、一気に形勢を逆転する力が、私にはある。お姉ちゃんだけでなく、村のみんなを救えるかもしれない力が、私にはあるのだ。





「だめだ! ダーヴィー」


 囮になるべく走り出したダーヴィーを、俺はとっさに追いかける。しかし、脚がもつれて動かない。


 くそ、なんて弱々しい身体だ。


 自分自身に悪態をつきながら、必死に這いつくばってドアに向かう。だが、ドアの直前で村人に止められてしまった。大人達に抱き上げられてしまえば、俺の力ではどうにもならない。


「はなせ! ダーヴィーを止めるんだ!!」


「だめよ、ユーキちゃん!」


「でも、ダーヴィーが!」


「もう間に合わないわ。あの娘だって魔法使いよ。信じましょう」


 俺は村人の手を借りて、窓から隣のオンボロの家の方向をみる。


 ペレイさんとビージュの家。そして俺の家。その屋根の上には、巨大で禍々しい魔法陣が形成されている。


 円形の陣の中心には黒い雲が集まっている。小さな火花がいくつも線香花火のようにまたたき始め、まるで爆発のパワーを貯めているようにみえる。


「くそ、また爆発魔法ってやつか」


 俺のヘアバンドは反応しない。こいつ、俺の直接の危機でなければ反応しないつもりか?


「爆発するぞ! ふせろ!!」


 誰かが叫ぶ。同時に、俺も誰かによって力尽くで引き倒される。


 ダーヴィー、死ぬな


 窓の外が光る。そして、二度目の衝撃波が襲う。石造りの家がビリビリと揺れる。





「ダーヴィー……は?」


 爆発から何秒たったのだろうか。周囲が静かになったのを確認した後、俺はおそるおそる顔をあげ、窓を覗く。


 まず目に入るのは、周囲の焼け焦げた地面。視線をあげると、そこには瓦礫があった。木っ端みじんのバラバラになったペレイさんの家の跡だ。俺が寝ていたベットが、いつもビージュがだらしなく昼寝していた納屋が、ペレイさんが煮炊きにつかっていた竈が、大事にしていたクローゼットが、……何もかもすべてが木っ端みじんになり、焼け焦げくすぶっている。


 な、なんという破壊力だ。ダーヴィーが、あんな小さな少女が、あの爆発に曝されたというのか。


 俺は瓦礫の山を睨む。目を細めて必死に視線を走らせる。瓦礫の中にエルフっ娘の姿をさがす。


 ……頼む。無事でいてくれ、ダーヴィー。


 取り囲んでいた腐れ外道ハンター達が、銃を構えたまま瓦礫に近づいていく。まさかトドメを刺すつもりなのか。


「ダーヴィー!」


 俺は、再びドアに向けて走る。それを、ペレイさんがとめる。


「まって、だめよユーキちゃん」


「ダ、ダーヴィーが、あの爆発をくらったんですよ。見捨てるんですか!」


「ちがうの。よく見て」


 ペレイさんが指をさす。瓦礫の真ん中の上空に、ぼーっと光るものが浮かんでいる。それは金色の文字。空中でゆっくり回り始めた文字は、やがて巨大な魔法陣となっていく。


「あれは、……ダーヴィーの魔法陣、なのか?」





 爆発魔法の衝撃と火炎が収まった後、ハンター達が爆心にあつまる。ばらばらになったペレイさんの家をとりかこむのは二十人か三十人か、とにかく多数のモヒカン野郎達が、ニヤニヤしながら瓦礫に銃をむける。


 多数の魔導銃に狙われた瓦礫の中心にいるのは、ひとりの少女。わずかに燻るクローゼットの残骸の中にうずくまる小さな肢体。


 地面に両手を突き、激しく胸が上下している。確かに呼吸をしている。死んではいない。


「いいか、命令があるまで絶対に撃つなよ!」


 後ろからリーダーらしい男が必死に叫んでいる。しかし、モヒカン達はニヤニヤしたまま、少女をイヤらしい視線でなめ回す。


「へっへっへ、目標の少女というのはこいつか? 賞金はいただきだぜ」


 男達の視線の先の少女は傷だらけだ。可愛らしいシャツとスカートは破け、胸や太ももが半分はだけている。爆発に曝された白い柔肌は擦り傷にまみれ、何カ所か火傷も負っているようだ。


 モヒカンどもに気づいたのか、半分瓦礫にうまった少女が顔をあげる。緑色の瞳が、ゆっくりと男達を見上げる。成熟していない身体に似合ったまだ幼い、しかし整った顔つきの美少女。銀髪、耳が尖っているエルフ少女が、男達と視線を合わせる。


 ぞくっ


 少女の顔をみた途端、ハンター達の脚がとまった。同時に背筋に冷たいものがはしる。顔から下卑たニヤニヤが消える。少女は、……笑っていたのだ。爆発魔法に傷つけられ、ボロボロになっているにもかかわらず。


 年齢に似合わぬ妖艶な、そして残酷な笑顔に魅入られ、ハンター達は動けない。





 ぼぉ


 不意に、少女を中心として、金色の文字が空中に浮かび上がる。ハンター達の目の前で、新たな魔法陣が形成されていく。


「攻撃魔法? こ、このガキ、あの爆発の中で呪文を唱えていたのか!」


「逃げろ!」


 慌てふためくハンター達に視線を固定したまま、ダーヴィーは笑っていた。


「もう、……おそい」





 今、自分は笑っている。確かに笑っている。こんなに笑顔なのは、久しぶりかも知れない。


 爆発呪文の火炎に曝される瞬間、咄嗟にペレイさんのクローゼットの中に隠れた。建物が木っ端みじんに吹き飛ばされ、火炎に焼かれる中、床に伏せながら必死に呪文を唱えていた。爆発に耐え抜き、反撃するために。


 そして、敵の爆発魔法が終わったとき、……自分は死んでいなかった。私の勝ちだ。





 自分はこれから魔法を使う。


 魔法陣の中心、右手を天にかざしながら、少女はわらう。


 魔法使いの能力など、もともと望んで得たものではない。師匠があそこから救い出してくれなければ、今頃はロクでも無いことにむりやり魔法を使わされていたに違いない。


 しかし、いま私は自分の意思で魔法を使う。人間に対して呪文をつかう。本気で、殺すつもりで、攻撃魔法を使う。おねぇちゃんを、村の人々を救うために魔法を使うのだ。


 頭の上に魔法陣が完成する。空中の金色の文字が、振り向いたハンター達の青ざめた顔を照らす。必死に逃げる男達の背を眺めながら、ダーヴィーはわらう。


「もう遅いと言ってるのに……」





 魔法の発動と同時に、周囲の気温が急激に下がる。さらに、少女を中心として風が渦巻き始める。


 高温多湿の大気の中、水分が一気に凝結し、氷の結晶がみるみる大きくなる。雹ではない。精霊により精密に制御された結晶の成長。形成されたのは、薄く、鋭く、全てのものを切り裂く氷の刃。無数の氷の凶器が、銀髪の少女の周りをとりまいている。


 きらきら、きらきら、輝きながら、氷の結晶が風とともにゆっくりと少女のまわりを回転し始める。


 ハンター達はやっと気づいた。自分たちの周囲の空間が、いつのまにか膨大な数の氷の刃にとりかこまれたことに。逃げ場などすでに無いことに。そして、もう何をやっても自分たちには生き残る見込みがないことに。


 次の瞬間、視界が真っ白になった。少女が腕を振り下ろすと同時に、風が一気に速度を増したのだ。猛吹雪、いや氷混じりの竜巻。音速にも達しようかという速度で、無数の氷の刃が乱舞する。前も見えない中、ハンター達の肉体がずたずたに切り裂かれていく。


 熱帯の森の中に突然あらわれた白い地獄。それは、血の臭いをまき散らしながら、徐々に赤黒く染まっていった。



読んでいただきありがとうございます。今後も週一回のペースを維持できるよう頑張りますので、おつきあいいただけると幸いです。よろしくお願いいたします。


2013.11.10 初出



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