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先史魔法文明のたったひとりの生き残り、らしいよ  作者: koshi
第2章 大森林の小さな村
19/71

19.露天風呂にはいるよ その4

 猛スピードで逃げるドラゴン。エルフっ娘は覗き犯達を逃すつもりはない。彼女の指先がフキ爺さんを追い、それにあわせてレンズの焦点が動いていく。


 しかし、さすがに空中を飛んで逃げるドラゴン相手に、巨大なレンズが焦点を合わせ追跡するのは難しいようだ。逃げられてしまうのか。


「まだ!」


 ダーヴィーがさらに魔法を唱える。指先を空中で走らせ、新たな魔法陣を描く。


『警告、周囲の精霊に……』


「律儀だなおまえ。大丈夫だって」


 ダーヴィーは、ソー○ーシステムをあきらめたようだ。レンズを構成していた空中の水玉を解放。こまかい水滴が空中で渦を巻いている。まるで巨大な竜。水竜は、ダーヴィーちゃんの指先にあわせ彼女が指示する方向に動き始める。凄まじい加速。瞬きする間に猛烈な速度。逃げるドラゴン爺さんに向け、超高圧のジェット水流が空中を走る。




「おい、おい、おい! すげぇ水流が追ってきてるぞ! どうするんだよ!!」


 フキ爺さんにまたがったビージュが振り返ると、恐ろしい勢いで超高圧ジェット水流が追いかけているのが見えた。今にも追いつかれそうだ。


「ダーヴィーは本気のようです。アレに追いつかれたら死ぬでしょうねぇ。フキさん全速力で飛んでください」


「承知した。高速飛行モードじゃ」


 巨大なドラゴンが空気抵抗を減らすため手足を縮める。大きく羽ばたく省エネモードから、翼を小さくたたみ素早い羽ばたきの飛行形態に移行する。だが、それでもダーヴィー操る水竜を振り切れない。


「おい。たかが覗きで殺されるのかよ。あんた弟子の教育を間違えてるんじゃないのか?」


「なにを言いますか。僕はダーヴィーの親代わりでもあるんですよ。あの子には、隣のエロオオカミ野郎からイヤらしいことをされそうになったら、遠慮無く全力で殺すつもりで魔法をたたき込んでやりなさいと常々言いきかせてありますから」


「隣のエロオオカミって俺の事かよ! ていうか、親代わりのあんたが覗きをしたあげく自分で魔法をくらってれば世話ないじゃねぇか!!」






 さすがのドラゴンも、ダーヴィーちゃんのあれをくらったらただでは済まないだろう。俺は地上から、ジェット水流とドラゴンの追いかけっこをはらはらしながら見ている。


 ドラゴンは、後方から追いすがるジェット水流に気づくと一気に加速した。うわ、胴体のあたりから漏斗上の白い霧が発生しているじゃないか。ベイパーコーンだ。皮膚に沿って流れる高速の気流の一部が衝撃波を発し、その圧力によって空気中の水分が凝結しているのだ。


 いったいどれだけの速度がでているんだ? コーンが発生すると言うことは、かなり音速に近いんじゃないか? 本当にあれは生物なのか? というか、上に乗ってる生身の二人は大丈夫なのか? ついでに、そのドラゴンの速度をもってしても振り切ることができないダーヴィーちゃんの魔法は、どんだけ凄いんだ。


 ああ、追いつかれる。あと数秒で命中だ。しかしその瞬間、ドラゴンの機動がかわった。


 ブレイク! 左右に不規則に急旋回を繰り返す。それでも後ろから水流が追いすがる。ローリングシザース! ただの水と生物のくせに、こんな機動が可能なのか!


 だが。……だめだ逃げ切れない。推力はおそらく同じくらいだが、無生物である水流の方が中の生物に対するGの影響を気にしなくて良いだけ絶対に有利だ。空対空ミサイルと同じだ。このままだといずれ追いつかれる。


「しつこいのぉ」


 誰もがそう思った瞬間、ドラゴンはさらに凄まじいマニューバを見せた。速度と進行方向のベクトルはそのままで、翼をひろげ胴体と頭を上に向けたのだ。


 コブラ!!


 かつて、ロシア軍のSu27や米軍のF22のみが可能だといわれた高度なマニューバ。フライバイワイヤ、強力な推力とベクトルスラストが可能なエンジンを備えた機体のみで可能と言われるものだ。


 一気に速度が下がったドラゴンに対し、水流は勢い余って横を追い越してしまう。


 その隙にドラゴンは翼をひろげ、その場で仰向けに空中でバック転。信じられない! 頭が下を向くと同時に翼をたたんで急降下。位置エネルギーを運動エネルギーに変換して、一気に加速。下に向かって逃げる。


 あの速度から、なんという機動。生物とは思えない。いや生物だから、しかも異世界の魔物だからこそ可能なのか。高速で逃げる目標を目で追っていたダーヴィーにとって、ドラゴンの姿は一瞬消えたに違いない。これで逃げ切れるかもしれない。





 しかし……。


「下よ! ダーヴィー」


 一瞬ドラゴンを見失ったダーヴィーに対して、ペレイさんがとっさに指示する。ペレイさんも覗き犯を逃すつもりはないようだ。


 宙返りの際、ドラゴンの頭から小さな影がひとりぶん振り落とされたような気がするが、誰も気にしていない。


 ダーヴィーは水流を下に向ける。一度拡散した水球が、ふたたび集合してドラゴンを追う。まだだ。まだ逃げ切れない。


「ダーヴィー、すまない。僕がわるかった。いいかげん許してくれぇぇぇぇ」


 バルデさんの声だ。そう言いつつも、真っ逆さまに加速をつづけるドラゴンの頭の上に光る文字が現れる。落下する胴体の周囲を環になって回転をはじめる。こんな機動中に魔法陣だと?


『警告、周囲の精霊に……』


「大丈夫だってば!」


 そして、光る。魔法陣を中心として、周囲の空間にいつもの強烈な光源が発生する。


「く、あれは、師匠の閃光の魔法!」


 フレアか!


 目がくらむ。何も見えない。さすがのダーヴィーも一瞬、目をつむる


 その隙に、垂直落下していたドラゴンは翼をめいっぱいに広げ、落下速度を活かしたまま身体を水平にもどす。川に沿って低空で、さらに羽ばたき猛烈な加速で逃げをうつ。


 さすがにダーヴィーの水竜はついていけない。まっすぐに落ちると、そのまま地面に激突。地響きとともに、ものすごい穴があく。クレーターに川の水が流れ込んでいく。


 ドドーーン


 周囲の空気が震える。ソニックブームだ。ドラゴンは水面を波立てながら超低空を飛び去っていく。ついに音速を超えたか……。どんな化け物だよ。


「……にげられた」




 だが、覗き犯の逃走劇はまだ終わっては居なかった。


 ひゅーーーー、ばしゃん!


 数瞬後、湯船の中に何者かが落下してきたのだ。


 なんだ?


 盛大に立ち上った湯柱のあと、水面になにかモフモフしたものがプッカりと浮かんでいる。


 ……オオカミ男だ。超絶マニューバの際にドラゴンから振り落とされ、目の前におちてきたのだ。


「なんて運転するんだよ!」


 がばっという音と共に、オオカミは湯船の中に立ち上がり空に向かって叫ぶ。


 おまえ、あれだけの速度と高度のドラゴンから振り落とされて、ぜんぜん平気なのかよ。なんて頑丈な、というかおまえもたいがい化け物だな。


 そんなオオカミ君の正面にいるのは俺だ。湯船の中で立ち上がった俺と、ビージュの目があう。


「あ」


「あ」


 おれは動けなかった。後から考えれば、せめて前を隠すなりお湯の中にしゃがむなりすればよかった。だが、この時はとっさにどうすればいいのかわからなかったのだ。


 オオカミ少年の視線が、ゆっっくりと下にさがる。


 とっさに胸を隠すという行動は、人間という生物が持って生まれた本能じゃないんだなぁ。恥ずかしがるという行為は、女の子が女の子として生きていくうちに、後天的に身につける動作なんだなぁ。……なんて事を頭の隅で考えながら、俺は硬直していたのだ。


 そんな俺を見ながら、ビージュも硬直している。こいつもどうしていいのかわからないのか。





「この、エロオオカミ!!」


 怒りに燃えるダーヴィーちゃんがかまえている。湯船の中に仁王立ちしながら、手を腰の後ろに大きく振り、軸足を回転させる。唖然としているビージュに一撃をいれようとしているのか。


 だ、だめだダーヴィーちゃん。君も女の子だ。しかも裸だ。その状態でハイキックは……。


 止める間もなく、凄まじい勢いで蹴り脚があがる。軸足で回転しながら、オオカミの顔面にむけて猛スピードで足が飛ぶ。


 どか!! 小気味よい音とともに、脳天に蹴りをいれられたビージュ君が、まっ赤な顔をしながら川の向こうまで吹っ飛んでいった。



温泉はこれで終わりです。次回からいろいろと事件が起こっていくと思います。

これからもよろしくお願いいたします。


2013.08.19 初出

2013.08.20 ちょっとだけ修正



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