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先史魔法文明のたったひとりの生き残り、らしいよ  作者: koshi
第2章 大森林の小さな村
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17.露天風呂にはいるよ その2


「ほら、さっさと入るわよ。日が暮れちゃうわ!」


 露天風呂を前にいつまでも裸になるのを躊躇している俺に対して、ペレイさんがしびれをきらしている。


 ままよ。俺も男だ。いや、正確に言えば身体は女だけど魂は男だ。男のはずだ。


 俺は一瞬だけ躊躇したのち、ダーヴィーから借りたワンピースを脱いだ。男らしく豪快に脱いだ。


 しかし、……やっぱり男らしくはなりきれなかった。ここは露天風呂のある川辺。周囲に視界を遮る物などない。誰も見ているはずがないとわかっていても、どうしても不安になる。


 おもわず自分の胸元に視線をうつす。ほとんど真っ平らな胸だが、やはり男のそれとは根本的に違う。華奢なあばら骨を隠す程度の膨らみはしっかりとある。誰がなんと言おうと女の子の胸だ。そんな胸を、誰も見てないとはいえ堂々と外界に露出させてしまっていいのだろうか?


 などと俺の脳みそが悠長に考えている間に、身体が先に本能的にうごいた。とっさに両腕が動き、小さな小さな胸を覆い隠したのだ。たぶん顔が真っ赤になっている。


「もう、ユーキちゃん。誰も見てないから大丈夫よ。この村に覗くような人はいないわ」


 ペレイさんが笑いながら、はやくお湯にはいるようと促す。


 確かに覗きなどいないのだろう。しかし理屈ではないのだ。もし誰かにこの裸をみられたらと想像すると、なぜかとんでもなく恥ずかしいのだ。この感情が本能的なものなのか、アーシスの記憶がのこっているのか、それとも『女の子は恥ずかしがるものだ』という後天的な知識のおかげなのかはわからない。だが、とにかくものすごく恥ずかしいのだ。だから、腕が勝手に動いて胸を隠してしまったのだ。


 おちつけ。いま目の前に居るのはペレイさんとダーヴィーちゃんだけだ。女の子同士で裸を見られることは、恥ずかしい事ではないはずだ。そう自分に言い聞かせる。


 しかし、しかしだ。確かに身体は女の子だが、くどいようだが俺の魂は男だ。そして俺にかぎらずほとんどの男は(特殊な性癖の持ち主でないかぎり)、不特定多数の女の子の前で裸をさらすことにはやっぱり抵抗があるのだ。


「ユーキおねぇちゃん、はやく」


 くっ、わかったよ。確かに中途半端に脱いだこの格好のまま、いつまでもこうしているわけにはいかない。そろそろ覚悟を決める時だ。


 のこるはパンツのみ。俺はちょっと前屈みになり、両手でパンツに手をかける。


 ふと顔をあげると、ダーヴィーちゃんがお湯の中からこちらをガン見している。


 おもわず手がとまる。その姿勢のままUターン。くるっと後ろを向く。そして、その場にしゃがみこみ、なんとかバランスをとりながら片足ずつ脱ぐ。


 脱いだ下着をワンピースの中に隠し、大きめな岩の上に置く。そのまま、しゃがんだままの姿勢で後ろにずり下がってお湯に入ろうとしたのだが……。


 ばしゃん!!!


 やはりこの体力の無い身体で、不自然な姿勢まま、石ころが沢山ある不整地を、後ろ向きずり下がるなんて無理だったか。もう一歩さがればお湯というところまでなんとかたどりついたものの、俺は湯船の縁の岩にひっかってバック転状態のまま頭からお湯につっこんだのだ。


「きゃー、ユーキちゃん、なにやってるの!!」


 逆さまにお湯に突入してから、ペレイさんとダーヴィーに救い出されるまで約十秒。俺はお湯の中で逆立ち状態だったらしい。どちらが上かもわからず、息ができないまま水面下で必死にじたばたしている間、下半身は水面上にまるだしだったのだ。犬○家の一族のあの格好だ。ああああああああ、死にたい。





 ふぅ。


 周囲から聞こえるのは川のせせらぎ。小鳥の声。あたりにただよう白い湯気。体温よりもちょっと高い、お風呂としてはぬるめのお湯。硫黄の臭いはほんのわずかで、さらさらとしたほとんど透明のお湯。


 生き返るなぁ


 いまはこんな身体だが、しかし中身はやっぱり日本人。温泉が好きだという特性は、日本人の魂に刻み込まれている情報だ。身体が変わったくらいでは、温泉好きはかわることはない。うん、温泉はいい。このファンタジー世界でやさぐれてしまった心をいやしてくれる。


 ふう。

 

 もうひとつ息を吐く。視界に入るのは、美しいかわのせせらぎ。緑豊かな森。


 すぐそばから水音が聞こえる。ダーヴィーちゃんが川に移動して裸のまま泳いでいるのだ。しかし俺の視線はそちらには向くことはない。ペレイさんが平らな岩のうえでバケツで水を汲んで髪をあらっているようだが、そちらも決して見ない。


 俺が俺だった頃は、女性の裸は大好きだった。自らが女性の身体になってしまった今でも、決してきらいではない……はずだ。しかし、この状況で、身体だけが女になってしまったこの俺が、一緒にお風呂にはいった女性の裸をガン見するのは、なんというか、卑怯というか、罪悪感を感じてしまうのだ。自分の裸を見られるのと同じくらい恥ずかしいことのように思えるのだ。


 だから俺は必死に風景をみる。脇目もふらずに正面を睨み続ける。決して視線をそらさない。


「ユーキちゃん、何をみているの?」


 すぐ横から声が聞こえた。いつの間にかお湯の中に戻ってきたペレイさんだ。超至近距離で、その裸体はイヤでも視界に入ってしまう。


「いいいいいいえ、なにも」


 必死に目をそらそうとしても、強制的に視線が吸い寄せられる。


 ペレイさんは、綺麗だった。とても中学生くらいのオオカミ男が息子にいるようにはみえない。俺の母より若いのは確実だろうが、いったいいくつなのだろう?


 お湯の中にわずかにみえるその体は、とにかく女性らしくて柔らかそう。締まるところは締まり、同時に女性的な丸みとふくよかさをもつ身体。綺麗な肌が、ちょっと上気して桃色に染まっている。金髪を結い上げたうなじが色っぽい。なんというか、宗教画のような神々しさを感じる裸体なのだ。


「川になにかいる?」


 俺が見ていた方向に、身を乗り出す。ぶるん。釣り鐘型の胸が水面から顔をだす。俺は、声も出せずに見とれてしまう。


 その視界の正面に、何かが割り込んできた。


 ダーヴィーだ。湯船の中を潜水のまま泳ぎ、俺とペレイさんの間に割って入って浮上してきたのだ。二人の会話に混ざりたいのだろう。十二才くらいの銀髪エルフっ娘はそのまま俺の前に立ちはだかると、正面から俺の顔をみる。


「なにをはなしているの?」


 俺は声をだせない。目の前に立ちはだかる少女の裸体もまた、とんでもなく美しいのだ。


 単純にサイズという点だけみれば、さすがにいろいろとまだまだだ。だが、こいつは絶対に将来有望だ。既に兆候がある。腰付きとかはあくまで子供の身体。なのにすでに胸は俺よりもある。鎖骨から絶妙なラインでメリハリのあるお椀型の胸。なによりも肌が綺麗。白くて極めが細かくて、しかも全身プニプニしたくなる弾力。神秘的で妖精的で、まるで彫像のようなこの世の物とは思えない美しさ。さすがエルフだ。




 しばしの間、俺は二人に見とれていた。ふと気づくと、そんな俺の様子をペレイさんとダーヴィーちゃんが不審そうにみている。


 やばい。なんとかごまかさなくては、ここは話をそらすしかない。どうする。女の子の大好きで食いついてきそうな話といえば……。


「そ、そいうえばダーヴィーちゃん。ビージュとはずいぶん仲が良さそうだけど、……好きなのか?」


 あ、赤くなった。エルフっ娘の白い肌が、一瞬で真っ赤にそまる。


「ほんの何年か前までは、いっしょにお風呂にはいっていたのよねぇ」


 オオカミの母親ペレイさんが、そんなエルフっ娘を冷やかす。


 ますます赤くなるダーヴィーちゃん。かわいいな


「ビージュはまだ子供。なんでも体力まかせで解決しようとする」


 うーん。まぁ、これくらいの歳の女の子からみれば、同年代の男の子はそう見えるんだろうなぁ。って、ビージュ君の方がちょっと年上じゃなかったけ?


「魔法が使えないのは仕方がないにしても、ビージュはもう少し頭をつかって生きるべき」


 ペレイさんが吹き出している。俺の脳裏には、エルフの尻に敷かれるオオカミ男の図がありありと浮かび上がってしまった。ごちそうさん。




まだつづく


まだまだお風呂はつづきます。


2013.08.18 初出

2015.06.28 誤字脱字をちょっとだけ修正しました



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