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先史魔法文明のたったひとりの生き残り、らしいよ  作者: koshi
第2章 大森林の小さな村
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16.露天風呂にはいるよ その1


「ユーキちゃん、お風呂にはいりましょう」


 ペレイ母さんがそんな提案をしてくれたのは、数日後の夕方のことだった。




 その日まで俺が村で何をしていたかというと、ほとんどボーッとしていただけだった。


 貧しいペレイさん家にお世話になっているわけだから、ただ飯を喰うわけにはいかない。働かず者食うべからずということで、俺は俺なりに頑張ってみたのだ。だが、……なにもできなかった。


 オオカミ男のビージュと一緒に狩りに出かけるわけにはいかない。ついて行けるはずがない。ペレイさんと一緒に小さな野菜畑の世話をしてみても、すぐに息が切れてしまう。木の実やキノコの採集にいっても、食える物と食えない物の区別がまったくわからない。


 ビージュが狩ってくる野生動物だか魔物だかわからん獣の血抜きや解体を手伝おうともしたのだが、都会育ちの俺には手も足もでなかった。でっかい鉈みたいな刃物を器用につかい、時には自分の爪と牙をつかって四つ脚獣を見事に解体していくオオカミ少年を、遠くから見守ることしか俺にはできなかったのだ。


 ちょとは腕に自信のあった料理でさえ、未知な食材を目の前にして、何をどうすればいいのかすらわからない。コンロもレンジもフライパンも調味料も無い。釜なんてつかったこともなければ、薪に火をつけることもできない。


 要するに、この村で生活するにあたり、俺はなにをやっても足手まといなのだ。


「無理しなくてもいいのよ」


 ペレイさんは優しく言ってくれるものの、内心は呆れているに違いない。俺ってこんなに無能な人間だったのか。わかっていたことだが、それが白日の下にさらされてしまうとやっぱり凹む。


 肝心の治癒魔法だって、その能力を村人のために活かす機会はいまだない。この村の連中は基本的に頑丈な連中ばかりで、ちょっとしたケガくらいなら放っておいてもすぐ治ってしまうのだそうだ。もしかしたら、バルデさんのケガを治癒した際に盛大にぶっ倒れた俺の姿をみた人々が、俺の治癒魔法を遠慮している可能性もある。村人はいい人ばかりだしなぁ。




 てなわけで、俺はボーッとしている。ダーヴィーちゃんと一緒に、ころころと子犬のように戯れる魔物のガキ共を眺めながら。早い話が子守である。


 村の端っこ付近、森との境界にあるちょっとした草原で戯れているのは、ネコ耳のガキ。背中から翼がはえたガキ。頭に角の生えたガキ。その他もろもろ、とにかく人間ではないけれど可愛らしい魔物のガキ共だ。親が狩りや畑仕事に出ている間、この広場にガキ共が集められるのだ。


 もしこいつらが本気をだして暴れたら、俺の力ではまったく太刀打ちできないだろう。しかし、こいつらは皆よくできたお子様ばかりなので、俺を困らせるようなことはほとんどない。勝手に遊び、勝手に泣いて、勝手に昼寝をしてくれる。


 下半身が馬の男の子が女の子を背中に乗せて走り回っている。すげぇ速度。あ、女の子が振り落とされた。調子にのるからだ。あーあ、泣いちゃった。


「大丈夫か?」


 女の子ももちろん人間では無い。髪の毛が蛇だ。何匹居るのかわからないが、うねうねうねうね頭のうえでのたくっている。幸いなことに、こちらを攻撃する気はなさそうだし、近づいても石になることはないようだ。


 ケガをしているのか? 可愛らしいミニスカートから覗く膝小僧をほんのちょっとすりむいただけか。


 平和なのはいいが、ガキをみているだけなのも退屈なので、いろいろと試してみることにしよう。さいわい今日は体調もいい。


「大丈夫、大丈夫。泣くなって。俺がなおしてやるから」


 俺の『魔法』について、ここまでにわかったこをまとめてみる。このヘアバンドは、ふつうに話しかけても反応してくれない。しかし、俺の近くで危険な魔法が使われるとか、銃で撃たれるとか、とにかく俺の身に危険がせまると『緊急モード開始』と宣言した後、防御結界を張ってくれる。さらに、俺自身ではなくても、近くにケガ人が居ることを認識してくれると、同様に治癒の魔法を発動してくれるのだ。


 俺は、右手をゴーゴン少女の傷にゆっくりと近づける。わずかな出血を指でぬぐう。少女が顔をしかめるが、まだ治癒魔法は発動しない。ヘアバンドの奴は、俺自身の体調は常にモニタしているらしいのに、俺以外の人間のケガはなかなか認識してくれない。直接触れなければだめか。俺は、少女の血のついた指を、ヘアバンドに近づける。


『緊急モード開始。治癒コードが必要ですか?』


 反応した! 他人の傷の場合は、やっぱり触れるほど近づけなきゃ認識してくれないのか。


「もちろんだ」


『了解。治癒のコードを実行すると、アーシスのための生命維持活動が一時的に約20%低下します。よろしいですか?』


「ああ、たのむよ」


『了解。権限確認。治癒用コードを転写中」』


 おそらく『緊急モード』というのは、緊急事態を検知して自動的にそれを回避するための仕組みなんだろう。わざわざ宣言するということは、『緊急モード』以外のモードもあるのだろうなぁ。例えば日常会話モードとか、戦闘モードとか。アーシスによると、このヘアバンド、じゃなくて櫛は俺の『唯一の味方』だそうだから、なんとかもっと仲良くなりたいのだが、どうすればいいのだろう。何かキーワードのようなものがあるのだろうか?


『完了。実行します』


 淡い光とともに、みるみる少女の傷が治っていく。あいかわらず吐き気はするが、今日はそれほどでもない。体調さえよければ、一日数回は平気かもしれない。間を開ければもっといけるかな。


 ふと顔をあげれば、子供達が俺の前にあつまっている。魔法を発動しながらひとりでぶつぶつ言っている俺を、観察しに来たのだろうか。


「ありがとう!!!」


「ねえちゃん、すげぇな」


 ガキ共の汚れのない純粋な顔に癒やされる。


「ユーキおねえちゃん、誰とはなしているの?」


 ひとり冷静な声はダーヴィーちゃんだ。


「あー、俺の守り神」


 納得してくれたのかどうかはわからんが、ダーヴィーちゃんはしげしげとヘアバンドをみている。


「おねえちゃん。髪に血がついている」


 あ、ついちゃったか。ていうか、この世界に来てから俺は何度も血まみれになったかわからない。村の側を流れる小川で軽く水あびはしたけど、もっとしっかり洗いたいな。そもそも、ここは高温多湿の熱帯雨林気候だ。何もしなくてもじっとり汗をかく。元日本人の俺としては、やっぱりお風呂に入りたいなぁ。


 俺の心の叫びは、実際に声にでていたらしい。


「お風呂ならある」


 え、風呂あるの?




 風呂。中世っぽいファンタジー世界に迷い込んだ元日本人が必ず入りたがるもの。もちろん俺もはいりたい。


 ダーヴィーちゃんの説明によれば、この森は巨大な火山の麓にひろがっているため、ところどころに温泉が湧いてるのだそうだ。ドラゴンのフキじいさんの上からみた、あの天を突くような山のことだろう。


「村には水の嫌いな種族も多いのだけど、私はお風呂だいすきなの。ユーキちゃんもいっしょにいきましょう!」


 なぜかペレイさんがノリノリで、その日の夕方には、俺とダーヴィーちゃんと三人でお風呂にいくことが即決されてしまった。


 ……いや、確かにお風呂には入りたい。温泉ならばなおのことだ。しかし、いまのこの俺にはいろいろと問題がある。


 俺の手をひくペレイさんとダーヴィーちゃんを改めて見る。当たり前だが、ふたりとも性別は女だ。成熟した大人の女性と、青い果実のような少女だ。この二人とこの俺が一緒に風呂に入る? い、いいのか? いや、確かに嬉しいが、やっぱりだめだろう。


「おふろ嫌い?」


 完全に腰がひけている俺にむかって、銀髪エルフっ娘ダーヴィーちゃんが尋ねる。


「いっ、いえ、温泉は大好きですが、……ひ、ひ、ひひとりで入りますので」


 この体になってからまだ数日しかたっていない。俺は、自分の体すらよくみたことはない。着替えの時も目をつむっている。しかも、ひとりではいるならまだしもだ、こんな美しい女性陣といっしょに入るなんて、ちょっと、非常に、いろいろとあれだ。


「村からちょっとだけ歩かなきゃならないの。ひとりでいけないでしょ?」


「み、道さえ教えていただければ」


「髪をあらってあげるわ」


「いや、そんな、おそれおおくて」


「何をわけのわからない事を言ってるのよ。いいから、いらっしゃい」


 ふたりに強引に手を引かれ、俺は温泉に連行されてしまう。





 ほぉ、これは……。


 一目見るなり、俺は目を見張った。これは、まごう事なき温泉だ。露天風呂だ。


 村から徒歩で三十分くらいの距離。俺を待っていたのは、川沿いから流れ出す源泉を岩で囲んだ湯船に貯める露天風呂だった。熱すぎる源泉を川の水をまぜて適温にしているのだろう。川が増水すると水没してしまう、ワイルドな天然の完全掛け流し。日本でも秘湯ガイドとかによく掲載されているあれだ。


 ごくり。喉が鳴る。これは入りたい。すぐにでも飛び込みたい。


 ちなみに、この露天風呂をつくったのは、オオカミ男のビージュ少年だそうだ。彼もお風呂は大好きらしい。犬や猫は風呂好きな個体と嫌いな個体の差が大きいが、彼はたまたま好きな方なんだろう。狩りの合間などに、ひとりでここに入っているらしい。


 そのビージュ君は、さっきペレイ母さんが冗談で「いっしょにはいる?」と言ったら、顔を赤くしてどこかにいってしまった。純情な青少年は、女性陣が風呂に入るというだけで、いろいろ想像したんだろうなぁ。うむ、気持ちはわかる。わかるのだが、俺の裸は想像しないでくれ。


 ちょうど人があがってきた。ドラゴンのフキ爺さんだ。半身裸にハーフパンツだけの人間形態だ。顔はしわしわ。白いヒゲにはげ上がった頭。だが、鍛え上げられた肉体にはものすごい筋肉がついている。どこで手に入れたのか知らないが木製の桶をかかえ、肩にはタオルをかけてご機嫌だ。


 そんな爺さんが、軽く会釈する女性陣を横目にすれ違い、ゆうゆうと去って行く。東洋風の龍やらオロチ、蛟ならともかく、西洋風のドラゴンも風呂にはいるんだなぁ。





 さて、くどいようだが目の前にあるのは天然の露天風呂である。もちろん脱衣所なんてものはない。


 ダーヴィーちゃんは、あっというまにシャツとスカートを、そして下着を脱ぎすてると、木の枝にひっかけてそのまま浴槽にはいってしまった。白くて小さな肢体が、湯船のなかで潜水と浮上をくりかえしている。元気な娘だ。


 ペレイさんも、ゆっくりと脱ぎはじめる。ボロボロのエプロン。繕いだらけのワンピース。そして、あまり色っぽくない下着。着ているものはぼろいけど、動きがいちいちおしとやかで色っぽいんだよなぁ。おもわず視線が釘付けになる。


 そして……。


「どうしたの? ユーキちゃん」


 はっ。俺は目をそらす。


「いっ、いえ、なんでもありません!」


 ? ペレイさんは不思議そうな顔をしている。


「ユーキおねぇちゃん、はやく」


 ダーヴィーちゃんがお湯の中からよんでいる。たかが一緒にお風呂に入ることが、なんでそんなに嬉しいんだよ。


「ほら、さっさと入るわよ。日が暮れちゃうわ!」


 しびれを切らしたペレイさんが、俺のワンピースを脱がしにかかる。あああ、やっぱり俺もぬがなきゃだめ?


「あたりまえでしょ!!」



つづく


2013.08.17 初出

 


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