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王子様は休業中  作者: 小林晴幸
よん。異変が現れはじめました。
35/36

幕間:歪んだ過去 ―内側から声―

今回は短いです。





  心の奥底から、声がする。

 小さく、弱々しい声。

 だけどその存在が消えることはない。

 どれだけ消そうとしても。

 消そうとしても、消そうとしても。

 どうしても、この声は消えなかった。

 最後の最後で、ちっぽけな強さを失わない。

 小さくても確かに光る。

 どろどろに爛れた闇の様な奥底で。

 埋もれながらも、消えてしまわない声。


 その強さ、ほんの少しだけ。

 たった少しだけ、哀れみを傾ける。



『――ああ、失敗した』


『失敗…って、どうしたの』


 心の中から、声がする。

私の声に呼応し、声が話しかけてくる。

だから…私と声は、心の中で会話する。


『何を悔いているの? 何の心配?』


『貴方に言っても、仕方のないことを心配している』

『そんなことを言わずに、教えて欲しい』

『……白の国に』

『うん』


『……………白の国に、王子が生まれた』


『白の国に…そう言えば先刻、使者がそう言っていたね』

『ああ』

『へえ…色彩同盟の盟主国に、世継ぎの誕生……あれ、でも』


『白の国に生まれるのは、王女だったはず…』


『そう、確かにそのはずだった』

『遙か以前に、先見をした限りでは…』

『ああ。遠い未来の光の中で、白いドレスの少女が微笑んでいた』

『……そう、隣に、異国風の顔立ちをした黒い髪の少女を寄せて』


 未来を見た限りでは、白の国の世継ぎは美しい少女であった。

 不確定な未来であれど、絶対に覘けないとは言わない。

 しかし未来は不安定。

 そして、確実性を求めるのならば目眩のするような魔力と力量を要する。

 それでもよりよき未来を選び取るために。

 覘き、垣間見た未来の光景。

 そこに映し出されていたのは、愛らしくドレスを着こなした美少女。

 何度視ても、何度視ても。

 目的の、時。

 白の国の世継ぎは少女の姿で予見されたのに。

 占いが、外れたというのだろうか。

 いや、そんなはずは…


 あれほどに、はっきりと。

 確かな質量をもって映し出された映像が、確実性を持った未来が。

 別の未来にすり替わるなんて、余程でなければあり得ない。

 では、その余程があり得たのだろうか。

 王妃によく似た少女の(かんばせ)は、あんなにはっきり見えたというのに。

 本当に、あんなにも確かな結果が外れたか?


『美しい少女だった。白い肌の、赤い唇の』

『王妃によく似た、麗しの少女。だけど、何故…?』

『…もしかしたら、長じることはできないのかも』


『いや、そんなことはない。生まれた赤子の命数を視た(・・)


 生まれた赤子の命は、決して弱くも小さくもなく光る。

 白く白く、雪よりも白く。

 雪のような儚さなど、微塵も感じさせない鮮烈さで。

 少なく見積もっても、大人になれない子供の命ではない。

 輝き強く、健やかに長じるだろう。


 そう、囁く声に震えが混じる。

 怒りと惑いと、不審の震え。

 予見は外れたのだろうか?


 導きの繋がりが、白の国を指し示す。


『生まれた王子は確実に、美しく立派に育つだろう』

『…そして、彼女(・・)に出会う?』

『ああ…やはり、失敗した』


 タイミング的にも、立場的にも。

 生まれた王子以上の逸材など、そうはいない。

 だが…

 もう既に、こちらは選んだ後(・・・・)


『最善を掴み損ねた。

だが、いまのままでもこれと言って悪いわけでもない』


 

 唇が、両端から吊り上がっていく。

 嘗ての清らかさなど、すっかり忘れ果てた笑みで。

 やがて来る未来を得るべく為に。

 時を見計らい、準備を重ねなくては。




 その言葉に、返ってきた呟きは…


 悲しげに、震えていた。





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