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王子様は休業中  作者: 小林晴幸
よん。異変が現れはじめました。
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28.引き合う理由





 受け入れるのも大変な現実に、鈴蘭は許容量の限界を超えてダウンした。

大慌てしたのはスノウだ。

甲斐甲斐しく世話を焼き、心配そうに少女の顔を覗き込む。

まるで雛を庇護する親鳥のよう。

その様を見て、納得したようにラプランツェが頷いた。

「そう言えば最初から、スノウ様は鈴蘭さんに親切で好意的でしたね」

「…まあ、確かに普段以上に親切だったかもしれない」

「苦手な淑女(ハイエナ)共と同じ、女性だというのに…ですよ?」

「「………」」

「……何が言いたいのかな?」

 黙り込んだ側近達の、無言の眼差し。

それに晒されてやっと注目を浴びていたことにスノウは気づく。

視線に不穏な物を感じたのか、向けられた笑顔は硬い。

側近達の、物言いたげな視線。

やがて全てをわかったような顔で、ラプランツェが切り出した。

「スノウ様、鈴蘭嬢に優しくしたいとか、守ってあげたいとか、無性に惹かれるとか、そんな心当たりはありますか?」

「ぶはっ!?」

 ダイレクトな問いかけに、スノウが噴き出した。

そのまま咳き込み、苦しそうに身を折っている。

「ら、ラプランツェ…そんな直球な」

主が本気で苦しんでいる横で、おろおろしながらも楽しげな笑みでサンドリオの目元が歪んでいた。

面白がっている。

その一言に尽きる。

だけど鷹揚に笑うラプランツェは、追撃の手を止めない。

「どうです? 何か無性に惹かれるものがあるんでしょう? 認めてしまわれてはいかがでしょうか」

「お、お前…ラプランツェ…いつも以上に不遜な奴め……」

 気管に詰まったのか、苦しげなスノウの声は掠れていた。

しかし弱っている風体でも、滲み出す物がある。

怒りだ。

「…何故、怒るのでしょう」

「いや、わかるだろう」

 きょとんと首を傾げるラプランツェに、ベルリオが呆れる。

だけどラプランツェは、本気でわかっていなかった。

「私はただ、魂と血の関係は面白いなぁと…」

「「「………は?」」」

 王子と書記官と騎士の声が、見事にそろった。

意味がわからないと、顔に明々書いてある。

どうやら本気で食い違っているらしいと、流石にラプランツェも気づいた。

そして自分の発言が、どう取られていたのかも。

軽く笑ってそれを流し、ラプランツェは続けた。

「考えても見てください。最初からちょっとおかしかったじゃないですか。いくら倒れたからといって、身元のわからない少女を王宮まで運び込んだり、初っ端から大胆不敵な無礼の数々をスノウ様が軽く許容して流したり…と」

 そう言われれば、主従にも思い当たる物はある。

改めて考えればどう考えてもおかしいのに、確かにあの時は…

自分の言動が信じられなくて、スノウは愕然とした。

中には王族としてあるまじき言動も含まれている。

この、1ヶ月。

傍で接してきた中で、明らかに保護対象という以上の許容がそこにある。

いくら何でも、理由も無しにおかしいだろうと。

それこそ、己の好意として意識せずに許していた。

そんな、数々を。

ラプランツェはこう分析した。


「肉体と魂には切っても切り離せない密接な関わりがあり、そして血の繋がりとは魔術的・霊的な繋がりとも通じます」

「それがどうして、私と鈴蘭の関わりに繋がるのかな」

「ですから、魂と血ですよ」

「「「???」」」

 魔法使いの講釈に、三人の女装は本気で話の展開がわからなくて首を傾げた。

「スノウ様の、この国の王族の血は初代の王から連綿と続いてきた物。脈々と流れる血は、初代から引いた物。初代王と確かに繋がる血であり、肉。元を正せば初代を元とし、初代から作られた物ですね」

「ラプランツェ、本当に話がくどい…」

「確かにくどい」

「頭の悪い俺にもわかるよう、もっと簡潔に頼む」

 魔法使いの持って回った言い回しは、評判が悪かった。

それに魔法使いは溜息を吐き、分かりやすい説明に切り替える。

「つーまーりー、スノウ様や他の王族の方々は、最初から鈴蘭さんに親切でしたね? 無意識に好意的でしたね? そして鈴蘭さんもまた、異世界という意味不明の環境なのにスノウ様に速効で懐き、頼り、警戒もせず信頼を寄せた。その原因は何か?」

そこまで言って一区切りとした魔法使いは、皆がちゃんと自分の話を聞いていることを確認した後、結論を出した。


「鈴蘭さんの持つ初代王の魂と、スノウ様が初代王から引いた血肉が反応し、引き合っていたんですよ。どちらも嘗ては同一の物として、共にあった存在ですから」


 鈴蘭の魂はスノウの血肉を嘗ての己の物として懐かしみ、スノウの血肉は鈴蘭の魂を嘗ての己の物として懐かしんだ。

そうやって引き合う魂と血肉が、それぞれに宿る精神にまで影響を及ぼした。

だからこそ、無意識に、無条件に。

鈴蘭とスノウは惹かれていたのだと。

魔法使いはそう言うのだが…

「まあ、理屈としてはそう言いましたが、感情論は理屈じゃないので。あまり深く考えなくても良いでしょう。ただ参考までに言うなら、肉体と魂じゃ魂の方が上位ですからね。スノウ様はきっと、鈴蘭さんを守らずにはいられないし、わがままもつい聞いちゃったりと…ええ、つい無意識に尽くすことになると思います」

「散々思わせぶりに話しておいて、その結論はないだろう…?」

 自分の感情云々を理屈的に解説されて、スノウの顔は引きつっていた。

色々と本人も納得できたり、または納得しかねる部分があるのだろう。

眠る鈴蘭の頭を撫でるが…何とも言えず、スノウは複雑な顔をしていた。


 そのまま、鈴蘭はその日ずっと眠り続けた。

その間にそれぞれの考えを交え、女装男子達は推論を重ねる。

初代妃エレンシーゼが何のつもりなのか、目的、狙い。

そしてこれから何が起こるのか、推測、憶測、絵空事。

重ねながらも、スノウ達は鈴蘭に説明する為の見解を固めていった。





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