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・第三話

夜だというのに、外の銃声や爆発音は室内まで響いていた。


息が白くすらなる廊下を足早に抜けて、ロビー二階部分の吹き抜けへ出る。

右に迂回して階段を降り、受付でぐっすり寝てる男性に苦笑いした後、豪勢な玄関扉を開けた。



外は、かなり冷えている。


風が音を立てて吹いていて、顔に吹き付ける。

黒いモッズコートのポケットに左手を突っ込んだ後、耳が凍ってしまう程に寒かったので、右手でフードを乱暴に掴んで頭に被った。


コートが風に揺れる。

手を突っ込んだ左手のポケットから手袋を取り出し、両手に嵌めた。

腰のあたりに手を宛てがい、銃が装備されていることを確認する。


「……っし、行くか」


誰に言うでもなく、そう呟いた。



――――――――――――――――――――――



漫ろ雨のような銃弾が、まばらに降ってきている。


結界魔法を張っている半径3m程の円形の領域の膜に、それは少しずつ、しかし絶えることなく降り注いでいる。



結界の中には俺ともう一人、小さな男の子・・・が横たわっていた。


「まあきりそうどろ、ひみきりめどれんた!」


簡易魔術式で、男の子の傷口の痛みを麻痺させた。

彼は少し呻いただけで、その後苦しそうな素振りは見せなかった。


彼の傷口、太ももには、極悪な神経毒が塗られた銃弾が食い込んでいた。

元々この毒は、兵士の闘志を削ぐために開発されたものだ。

死には至らないが、一般男性でも泣き喚く程の痛みを伴う正確の悪い毒で、それが子供相手に撃たれているのだから、生死を跨っても不思議ではない。


しかし、この子は良く耐える。悶絶級の痛みを無言で歯を食いしばるように耐え、声を出さないように必死で隠れている所を俺が見つけ出した。


まぁ、そこで安心したのか声が漏れてこのような集中砲火を受ける羽目になっているわけだが。


「……やれやれ」


ともあれ、まずはこの貫通せずに残ってしまった弾丸を取り出さなければならない。

生憎、手持ちには刃物がないから、切開して取り出すこともできない。


そこで、腰のホルスターから小型の銃を取り出した。


ベレッタM8000、.357口径。

通称、『クーガー』と言われる、個人的にナイスなテイストの拳銃の一つ。

まぁ、知り合いの修理・改造屋リペアに無理を言って魔改造を施し、

魔力注入倉は勿論、魔力増幅機能も魔法空弾機能もついている、結構お気に入りの一品。


いや、そんなことはどうでもいい。

良い物を持っていると、自慢したくなる。


グリップを上に向かせ、弾を装填した。

左手で少年の目を覆い隠し、右手で銃を構える。

そのまま、少年の・・・傷口部分に・・・・・狙いを定める・・・・・・


一発、二発。


すぐさま足を上げて、弾が三発分・・・貫通しているのを確認してから、回復魔法の詠唱に入る。


今のは、つまり撃った弾丸で、残った弾丸を押し出す、というものだった。

技術が発達し、異様に弾丸が硬くなったことを利用した荒治療だったが、

これをやった利点は、弾丸の周りの肉も一緒に削がれて落ちるという点だ。

毒が残ってしまっては意味がないし、なにより解毒と肉体回復と、二回も詠唱する手間が省けて、一石二鳥なのだ。


少年は眠っているようだった。

結界のお陰で微かとはいえ、銃撃音が絶え間なく聞こえる戦場で寝るとは、いい度胸をしているようだ。

彼を肩に担いで、全体重が伸し掛かる重みを感じる。



それはいいとして、現状確認。


結界の外の近くには、大きめの廃ビルが三棟建っている。

弾道を辿るに、それぞれ3人程の狙撃手がいて、こちらを狙ってきているようだった。

その全ての狙撃を避けながらホテルへ向かうのは、かなり危険だ。というか、無理に等しい。

少年を担いでいなければ、結界を張りながら、鼻歌混じりにも歩いて帰れるのだが……。


と、言っても策が無いわけではない。


少年を抱き直し、結界を解く。

銃撃音が激しくなるのを感じながら、一番近いビルへ逃げこむ。


転げるように入ってから、銃を構え、敵に備える。

―――どうやら、一回に兵の配置はしていないらしい。

この分なら、屋上まで誰も居ないだろう。


「―――ふぅ……。」


少年の傷回復の続きをした後、クーガーの弾倉から弾を取る。

そのまま弾を入れない状態で、銃口を天井へ向ける。


グッとグリップを握り直し、魔力が満ちていくのを肌で感じながらトリガーを引く。

すると、圧縮された空気が魔力を帯び、魔力弾となって天井を貫いた。

それを、何発か撃ったところで、天井にいくつかの穴が出来た。


その下から、麻酔用煙球・・・・・を配置する。

少年の鼻と口を押さえながら、片手でそれを撃って、自分も押さえる。


球が爆ぜ、煙が瞬く間に充満していく。

目には害の無いタイプの麻酔だから、鼻と口を押さえる程度で十分対策出来るほどの武器オモチャだ。


しかし耐性がない奴らは―――。

煙が薄くなった所で、何の躊躇もなく階段を上ると、三階程で力なくぐっすり寝ている軍の奴らの姿があった。

情けない奴らだ。


「ねんりみくろりみ、ろもつろうとりる、とろみるおどる」


麻痺系上位魔法《麻睡の淵バッドナイト》で麻酔を施した。

これで三日間くらいは目を醒まさないはずだ。

すっかり趣味になってしまった、軍から武器を奪う行為(今回はドラグノフ狙撃銃が二丁あった。大手柄)をしてから、

とりあえずは広い部屋を探した。



軍の奴らは、夜が明けると若手と交代するのか、狙撃の勢いが低くなる。

だから、明日までここで待って、それから裏から出れば問題無いだろう。


毛布になりそうなものがなさそうだった。


少年をコートで包むようにしてから、堅いコンクリートに横たわった。

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