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絵本

作者: 雨風
掲載日:2026/06/18

書斎にて。

第三王子・カイドウは暖炉のそばのソファに腰掛け、とある絵本を眺めていた。

「失礼致します」

紅茶と茶菓子を載せたワゴンを押しながらエミリーが現れた。

彼女の目が机上の絵本に留まった。

「あら?絵本…?」

「ああ、見つかってしまいましたね。私は昔から絵本が好きで…、という話は前にしたことがありましたね」

カイドウは柔らかな笑みを浮かべた。

「特にこれがお気に入りでね。『ほしくずのおひめさま』」

彼がページをめくると、鮮やかな色彩が目にパッと飛び込んでくる。星空を旅する少女の冒険譚である。

エミリーは自然と彼の隣に腰を下ろした。

「わあ、懐かしい…!わたくしも知っております。小さな頃、母親が読んでくれました」

「では読み聞かせてくれないか?」

唐突なカイドウの提案に、エミリーは目をぱちくりとさせた。

「わたくしが…ですか?」

「きみの声で聞きたくなった」

カイドウはそう言って、絵本をエミリーに差し出した。

彼女はそれを戸惑いつつ受け取り、緊張して若干震える指で最初のページをめくった。

「むかしむかし……」

最初こそ声が硬かったが、物語が進むにつれ緊張が解けていった。

星の姫が旅の友達と会うシーンでは、声色が一層優しくなった。

「わたしといっしょに、ほしぞらをたびしよう」

エミリーが顔を上げると、少年のような瞳をしたカイドウが目に入った。

普段の威厳ある王子からは想像し難い無邪気な表情であった。

エミリーは微笑み、続きを読み進めた。

星の姫が竜と出会い、月の下で踊るワンシーン。

「あなたはわたしのたからものよ」

このセリフを読んだ後、カイドウの指が反射的に彼女の手に触れた。

「……!」

エミリーの朗読が途切れる。カイドウは慌てて手を引っ込めた。

「すまない」

「いえ……」

しかし彼女は本を閉じなかった。

声色は輝きと優しさを増していき、彼女は登場人物に息を吹き込むように丁寧に読み進めた。

「…こうしてひめは、あたらしいほしをみつけたのでした。おしまい」

ぱたん、と本が閉じられたのと同時に、カイドウはエミリーに拍手を贈った。

「素晴らしかった。ありがとうエミリー」

「お気に召されましたか?よかった…。でも、お言葉ですが、子供向けの絵本ですよ…?」

カイドウは目を伏せる。

「童心に返りたくなる時があるんだ」

カップに口をつけ、紅茶を一口飲んだ。

「…恥ずかしいから、他の者には秘密に」

「わたくしだけの秘密…。うふふ」

エミリーは手を口元に当て、小さく笑い声を零した。

カイドウの意外な一面を目の当たりにし、嬉しくなったのかもしれない。

「お気に入りの絵本があったら、他にも紹介してくださいませんか。わたくし、カイドウ様のとっておきの絵本をもっと知りたいですわ」

エミリーが目を輝かせて言ったが、カイドウは照れつつ

「夜ももう遅い。また明日にでも。絵本は逃げませんからね」

と返した。

彼女は、明日もまた二人きりで会う口実ができた、と心の中で小躍りをしながらティーセットを片付け始めたのだった。

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