ドア
Kが部屋に入ると反対側にあるドアが音を立てて閉じたところだった。一瞬、人影が見えた。ドアが閉じた部屋には誰もいない。窓のない室内で、薄暗い蛍光灯がひとつともっているだけの、壁も天井も白い空間だった。部屋のすみにソファーがあった。
Kは、先ほど誰かが出ていったドアの前に立つとノブをまわした。ドアが開いて次の部屋に入ると、また同じような窓のない、壁も天井も白い室内だった。そして反対側のドアから誰かが出て行くのが見えた。そのドアはKの注視をさえぎるように音を立てて閉まる。
出ていった人物は何者なのか。
Kはドアノブをまわして、中に進むと、また白い部屋だった。Kは、次々とドアを開けて部屋から部屋へと進んでいく。白い部屋があとからあとから現れる。Kの先を進む人物は、後ろ姿をちらりと見せて白い部屋に消える。
そして背中だけが見えるその人物に、ついに追いつき、Kは、おい、と声をかける。振り返ったその顔には目鼻はなく、マネキンのような作り物だった。
動揺したKは小さな叫び声をあげた。
そこで目が開いた。
Kは白い部屋のソファーから、よろよろと起き上がった。額にはうっすらと寝汗をかいていた。
部屋の天井も壁も白い部屋のソファーで、Kは動悸を静めるために、ゆっくりと呼吸をした。部屋の向かい合ったドアは、どちらかが出口へ通じている筈だった。Kは一方のドアのノブを廻した。ドアが開いた中は、バケツと使い古したモップが無造作に置かれた小部屋だった。Kはもう一方のドアをあけた。
そこには顔の無いマネキンが立っていた。
Kは二度めの悲鳴をあげた。絶望と驚愕の混じった悲鳴だった。
海浜公園に隣接したアミューズメントパークの物置小屋のなかで、意識を失っていた人物が発見されたとき、従業員も駆けつけた救急隊員も、この人物がなぜここに入り込んだのか見当もつかなかった。所持品は小銭入れと数字の書かれた手帳。上着のネームで、Kという名前がわかった。
Kは、小屋の中の古びたソファーに マネキンと共に横たわっていた。
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