第3章第2話 ナイロンの迷宮
「……っ、はぁ……、はぁ……」
パトロール中の廃工場。神代麗子は、自らの荒い呼吸が冷たい空気の中で白く弾けるのを見つめていた。
今夜のパトロールに、確かな敵の気配はなかった。しかし、彼女の胸の奥には、得体の知れない「ざわつき」が沈殿していた。
第1話の夜、健一のケアの最中に一瞬だけ芽生えた、あの不純な疼き。
「克服したはずなのに」という確信が揺らぐたび、ロイヤルブルーのレオタードが、いつもよりわずかに重く、そして肌に纏わりつくように感じられる。
その時、工場の奥から、冷たい笑い声が染み出してきた。
「……ほう。やはり戻ってきたか。私の『調律』を、君の身体はまだ求めているようだ」
闇が凝縮し、形を成す。かつて埠頭で霧の中に消えたはずの支配者――ゾディアックが、そこには立っていた。
「ゾディアック……っ!? なぜ……あなたは、消えたはずでは……!」
「私は消えぬよ、セイントレディ。君が健一という男の腕の中で、一瞬でも私の指先を想起した時、私は君の『影』として何度でも再誕する。……今も、君のレオタードの裏側で、二つの突起が期待に震えているのが、私には手に取るように分かるぞ」
「そんな……っ! 出鱈目を!」
麗子は叫び、地を蹴ろうとした。しかし、その瞬間、彼女の身体を万力のような圧迫感が襲う。レオタードの繊維が自ら意志を持ったかのように収縮し、彼女の四肢をコンクリートの支柱へと縛り付けたのだ。
「ああああっ……! レオタードが……私の身体を……っ」
「正義の皮膚が、私の言葉に共鳴しているのだよ。……さて、今夜は君の『足元の規律』から解体していこう」
ゾディアックが跪き、麗子の足元へと手を伸ばす。
彼は、彼女が正義のために踏ん張るための堅牢な「ブーツ」に指をかけた。
カチリ、とロックが外される。重厚なブーツが左右ともに脱がされ、床へ無造作に放り出された。
残されたのは、ブルークリスタルの力で強化された、肌色のナイロンに包まれた無防備なつま先だった。
「ひ……っ、やめて……! 触らないで!」
ゾディアックの指が、パンスト越しに彼女の土踏まずを、そして指先を丁寧になぞる。
「ああああああっ……!!」
麗子の背中が大きく弓なりに反った。
ブーツという盾を失い、薄いナイロン一枚で晒された足の裏は、想像を絶する過敏な受容体と化していた。強化パンストの繊維がゾディアックの指の動きを「翻訳」し、微細な摩擦を強烈な悦楽へと増幅させ、瞬時に彼女の「二つの突起」へと送り届ける。
「見てごらん。君を守るはずのパンストが、今や私の指先を君の全身へと運ぶ『迷宮』になっている」
「ひ、あ、あああぁっ! 足なのに……どうして……っ!」
足元への蹂躙が、レオタードの裏地を突き破らんばかりに「二つの突起」を尖らせる。
ゾディアックは嘲笑いながら立ち上がり、彼女の胸元へと迫った。
「仕上げだ。君が自らの意志を封じ込めるために貼った、その『最後の理屈』を剥いでやろう」
彼はレオタードの襟元に手を滑り込ませると、二枚のニップレスを、端からじりじりと剥がし始めた。
肌から粘着剤が離れる、拒絶の音。
左右のニップレスが剥ぎ取られ、床へ捨てられる。
「やめて……お願い、それだけは……っ!」
「防壁」を失った裸の肌に、強固な張力を誇るロイヤルブルーの生地が直接密着する。
もはや緩衝材はない。
足元からパンストを伝わってくる「翻訳された快感」と、剥き出しの突起を直接圧搾するレオタードの冷たい着圧。
「あ、あ、あああああっ……!!」
麗子の腰が、空中で激しく跳ねた。
ブーツを脱がされ、パンスト越しに足を弄ばれる屈辱が、剥き出しの突起を通じて全身を敗北の色に染めていく。
正義の象徴であったはずの装備すべてが、彼女を裏切り、快感を与えるための最悪の道具へと堕ちていく。
廃工場の影で見守る健一。
彼は、自分が整えてやったはずの麗子の「規律」が、彼女の心の揺らぎによって再び「悦楽の檻」へと変質していく様を、痛切なまでの静寂の中で見つめていた。
麗子の胸の二つの突起は、レオタードの表面に、隠しようのない敗北の形を刻み込みながら、激しく痙攣を繰り返していた。
(第3話へつづく)




