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5話.蓬莱の玉の枝



『東の海に蓬莱ほうらいという山がありけり。白銀しろがねを根とし黄金を茎とし、真珠の実をつける木……その枝をたまふ』



 難題を承った蔵持はさっそく翌日、休学届を出して旅立った。

「留学に行って来る」と、意味不明なことを周囲に告げて。

 一方、姫には「あなたのために、玉の枝をとって参りましょう」と格好をつけて出て行った。


 正直、俺はこいつが一番苦手だった。


 胡散臭い、計算高い、尻尾が掴めぬ。いくら思い浮かべても、嫌なところしか出てこないやつだ。

 なぜか、俺への対抗心も強い。

 教室を出る際、俺を見て薄ら笑いを浮かべたのは勘違いではないと思う。



 蔵持が戻ったのは石島が玉砕して三日後のこと。

 諦めてさめざめと泣く石島を足蹴にし、姫に歩み寄る。


「戻って参りました、姫」


 片膝をつき姫の手をとろうとしたが、紘介に弾かれた。


「約束のものは持ってきたんだろうな?」


 絋介が怒鳴ると、蔵持はにやりと笑った。

 肩から提げていた袋の中から見事な金の枝を取り出す。その節々には、美しい真珠がいくつも実をなしていた。

 唖然とする人々を見て、蔵持はもう一度口角をあげた。


「だから言ったろ? 月詠」


 ……なぜ、俺に問う?


 蔵持の視線は姫ではなく、俺に向いていた。


「家来たちを連れ海を渡り、あまたの困難を乗り越えて……」


 尋ねてもいないのに、金の枝を得た時の冒険話を始める蔵持。

 耳障りだと思いながら視線を上げた時ちょうど、姫の顔が見えた。


 顔面蒼白。

 

 とてつもなく不健康そうな顔で玉の枝を凝視していた。まさか本物を持ってくる者が現れるとは、夢にも思っていなかったのだろう。

 俺がこの場にいなかったら、どうするつもりだったのか。


「すまぬ、お通し頂きたい!」


 その時、ちょうど良いタイミングで袴を履いた男が五人、教室に入ってきた。

 饒舌に語っていた蔵持が、口を開けたまま男たちを見つめる。


「月詠の帝殿がおはすはこの教室か?」


 慌ただしく室内に入れ込み、きょろきょろと月詠帝という人物を探す。

 蔵持が「戻れ!」と叫んだが、残念なことに、彼らの主君は既に俺となっている。


「俺が月詠帝だ」


 一歩前に名乗り出ると、袴を履いた男たちが俺に伏せた。


「蔵持の御琴が未払いの制作費を、倍にしてお支払い頂けるというのは本当か?」


 俺に手紙……もとい、領収書を差し出す。


「どういうことだ?」


 何事かと首を傾げる紘介の隣、蔵持は開いた口が塞がらぬ様子で立ち竦んでいた。

 俺は領収書を手に取り、周囲に見えるように掲げた。


「ここに書かれている倍の額、君たちに支払おう」


 領収書には誓約の文面と支払い金額、契約の証拠として書かれた蔵持の直筆サイン。


「見事なガラス細工だ、本物と見間違うほどに」


 俺の言葉、そしてこの状況に、周りの者たちの表情が陰った。


「制作費って、まさかアレ?」

「贋物?」


 ばそぼそと陰口が飛ぶ。

 正に、と頷いてしまいそうになるのを必死で堪えた。


「これほどの品を作ったのにたった五十両とは。ケチな男だな、蔵持」


 蔵持に視線を向けると、今にも飛びかかってきそうな真っ赤な顔で俺を睨んでいた。


「違う、これは本物で……それに俺はこんなやつら知らない。騙されないでください、姫。これは月詠が仕組んだ罠で」

「なにを仰る! 貴方だって、我々と共にその玉の枝を作ったではないか」


 とまあ、俺が口を挟む間もなく蔵持の工作が明らかになった。


「月詠……おまえ」

「気に病むことはない、借金を返せないでいる級人を救うなんて雑作もないことだ」

「姫が俺のものになったら支払うつもりだったさ!」


 熱く語る途中で蔵持自身、気付いたらしい。

 玉の枝が造物であると認めたことを。

 支払いのサインを終えた俺は目を細め、蔵持に向かって微笑んだ。


「中断させて申し訳ない。さて、続きを聞こうか。玉の枝を手に入れるために作り上げた、君の冒険話を」

「……なぜ、どうやって知った?」


 なおも対抗してくる蔵持に俺は心底あきれ、眉間の皺を指で押さえた。

 雉も鳴かずば打たれまいとは、正にこのことか。


「君の難点は、女に酔い易きことだ」

「女? は?」

「昨晩、これと似た細工品を別の女性に贈ったな?」

「なぜ、それを……」

「すまない、彼女は俺の下人の娘だ」

「……は?」

「それとなく話を聞いてくれと頼んだのだが、まさか一夜を共にするとは思わなかった」


 蒼ざめる蔵持と、言葉の意味に気が付いて顔を伏せる姫。

 純愛が正義だと信じて疑わない絋介に至っては、厳しい視線を蔵持に向けていた。


「さて蔵持、虚言は許容範囲だとして、求愛中に他の女と交わるなど、君の姫に対する恋心はいか程なものか?」


 蔵持は低く唸り、教室を飛び出した。



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