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4話.五つの試練と御石の鉢



 転校生の噂は瞬く間に広まり、翌日には学校中から見物者が訪れるほどだった。

 麗しき姫を一目見ようと男女問わず数多の生徒、教師までもが廊下に群がる。

 紘介といえば、複雑そうな嬉しそうな、どちらともつかない表情で姫を見守っていた。


「いいのか。大切な義妹が好奇の目に晒されているぞ」

「え? あー……嫌な気はするけど、同時に嬉しい」

「よくわからん」

「親心、みたいな? 羽姫はずっと一人だったから。友人もできず、彼氏もいなくて。だから心配だけど、嬉しい」

「……なるほど。わからん」


 加えて、この状況はどうだろう?

 教室の外でわらわらと、彼らは姫を見つめるだけで声をかけようともしない。勝手に写真撮影を行う者まで現れる始末である。

 保護者である絋介が良いならと様子を見守ることにしたが、それが間違いだったのかもしれない。



 そして姫が転入して一週間。

 相変わらず好奇の目を向けられる彼女を見かねた紘介が、助け船を出した。


「羽姫は見せ物じゃないんだぞ! こうなれば羽姫に見合う、ただ一人の恋人を決めることにする!」


 いや、助け船というか……


「本気で好きなら、羽姫の望むものを手に入れてきてくれ」と、男たちに難題を課すことにしたらしい。

 数多の男たちの中から選ばれた恋人候補は、五人の男。


 石島イシジマ

 蔵持クラモチ

 阿部アベ

 大伴オオトモ

 麻上アサガミ


 なぜ彼らが選ばれたのかは理解しかねるが、絋介なりに思うところがあったのだろう。

 彼らがみな貴族であるということは、俺にも少し責任があるかもしれない。


「お前らは金持ちだからな! だから選んだんだ!」


 教壇に登り、絋介が声高らかに叫ぶ。


 あぁ、否。


 おそらく何も考えていない、彼はただの阿呆だったようだ。




 絋介がそれぞれに課す難題を読み上げる。

 当事者である姫ではなく、彼の保護者である絋介が。姫は終始うつむき、黙って絋介の声を聞いていた。


 なぜ、自分の口で言わない?


 俺の疑念をよそに、男たちは息巻いて教室を飛び出し、姫は顔を上げぬままその場に居残った。





 石島に与えた試練は、『天竺(てんじく)にある御石(みいし)の鉢を持ってきてください』というもの。


 天竺? ……インド?


 バカな。

 かの三蔵法師が長年かけて辿り着いた場所だぞ。しかも世界に二つとない仏の御石、簡単に見つかるわけがない。

 あてがあるのか無知なのか、石島は「天竺に行ってくる」と公言し姿を消した。


「楽しみだね」などと心を躍らせる同級生たち。


 どうやら、俺のクラスメイトはみな阿呆であるらしい。





 三日後、登校した石島の手には、墨がついて汚れた鉢があった。

 目に見てとれる、あからさまな偽物。


 おいおい、冗談だろ?


 姫も同じように思ったようで、不審そうに石の鉢を覗き込んだ。

 しかし光を放つという石からは、鉢は蛍ほどの輝きも感じられない。


『おくつゆの光をだにぞ宿やどさまし をぐら山にて何もとめけむ』


 姫の代弁、紘介は鉢を石島に押し返し教室から追い出した。

 慌てた石島は鉢を捨て、いかに入手が困難かを訴えて同情を引こうとした。

 高校生男子が大粒の涙と、鼻水までも垂れ流し。


「恥(鉢)を捨てる」


 あまりの醜態に、誰ががそんな言葉を発していた。



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