37話.君と恋をする
この回で完結となります!
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始業の十分前、自席に鞄を下ろすと待ち構えていたかのように紘介が俺の肩を叩いた。
「帝! なんで遅刻してるんだよ!」
「すまない、寝坊した。車を降りてから必死に入ったんだが」
「車? 送迎つきかよ! さすが貴族の坊ちゃんは」
耳が痛むような大きな声。
嫌味を言われている事はわかるが、俺に非があるので反論できない。
「あれ、帝、ネクタイ曲がってるぞ?」
「そんなはずは……家を出る前にも何度も確認して……」
「へぇー、何度も確認してきたんだ?」
にやにやと笑う絋介を見て、揶揄われていたことに気がついた。
睨みつけるが、絋介の表情は変わらない。
「身なりを気にするなんて、可愛いことするなぁ、帝」
「悪趣味だな、君は」
「少しでも格好良く見られたいんだよな? なんせ半年ぶりだもんな」
目を細めて窓の外を見つめる絋介の視線を追った。
雲ひとつない、晴れ渡った青空。
まるであの日のように。
半年前、桜吹雪の日。
姫は東城に残ると言った。自分の生きる世界は、やはり其処であると。
それに関してとやかく言うつもりはない。姫が自分で答えを出したのだ、寂しい思いこそあれ、難癖をつける気はない。
しかしそれでは、姫を取り戻そうと翻弄された時間は無意味であったのでは、と思うだろう。
否、無意味ではなかった。
姫は東城家で暮らすことを選んだが、それは東城の嫡子である時泰の言葉があったからだ。
『半年待て』と、東城は言った。『現当主である父上は此度の汚行で失脚する。次に当主となる俺が東城を変える。戒律に縛られず自由に、東城の屋敷で暮らしながら俗世とも触れ合える風通しの良い家を作る』
その言葉を信じて姫は東城家残留を決意し、俺と絋介も納得した。
当主になったからといってこれまでの風潮を変えるは容易いことではない。有言実行できたというのは、彼が真に傑物であっということであろう。
そうして半年を経て、姫は再び高校へ通うことになった。
今日がその、半年ぶりの登校である。
「そういえば帝、ここに居ていいの?」
絋介の言葉に、俺は首を傾げる。
「羽姫に会いに行かなくていいの?」
「なにを……」
その時、絋介の言わんとすることを理解して立ち上がった。
「まさか……いつから?」
「俺と同じ時間に来たから、かれこれ二十分かな」
「なぜ、先に言わない?」
「いつ気がつくだろうと思って」
「本当に悪趣味だな、君は」
勢いそのまま、教室を飛び出した。
「いってらっしゃい」という絋介の声。
教室の出入り口で人とぶつかるが気にしている余裕もなく、廊下を走り抜けて校舎の端へ向かう。
胸が高鳴った。
慌てふためいて駆け込んでくる俺を見て、彼女はなにを思うだろう?
情けないと笑うだろうか、衣服が乱れていると呆れるやもしれぬ。
息を整えろと心配してくれるだろうか。
また一段と美しくなっているだろうか、それとも半年前の愛らしいままの姿か。
なにを話そう、どんな顔をして会おう。
あぁ、他念が多い。
今は一刻も早く、あの場所へ向かうべきなのに。
高揚感を胸に、旧階段へ入るためのドアを開けた。
「やぁ、おはよう」
一目見ただけなのに、嬉しさや懐かしさ、喜びの感情が全て吹き出した。
愛らしい、可愛らしい。
綺麗だ、美しい。
言葉を尽しても足りない、伝え切れない。
俺は本当に、彼女が好きで仕方がない。
小窓を見つめていた人影が、俺の声に気がついて顔を上げた。
「おはようございます」
挨拶の言葉あとに、彼女が。
俺の元に帰ってきたかぐや姫が、ふわりと愛らしく微笑んだ。
「文を……帝様に歌を、届けに参りました」
終
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