15話.交差する剣の東城
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藤宮の屋敷を去り、歩くこと三十分。
本日二度目の石壁。しかし藤宮の屋敷とは違い装飾がなく、白い無機質な壁がそびえ立っていた。
鉄でできた巨大な門の上には、剣を交差させた模様をあしらった家紋。
「東城家だ」
俺の言葉に、絋介はぎょっと肩を跳ねさせる。
「と、東城って、羽姫が軟禁されてるって」
「滅多なことを言うな、すでに会話は聞かれている」
巨大な正門を見上げていると、その隣にある小さな扉がキィと音を立てて開いた。
「ご無沙汰しております、月詠の帝様」
中から出てきたのは三十路ほどの男。
恰幅の良い彼は薄灰色の直垂を纏い、両手を合わせて頭を下げている。
「久方ぶりです」
本当に久々過ぎて、この門番が久しぶりなのか初めましてなのかわからなかった。
最後に訪れたのは兄上の元服の儀だったか。
「時泰殿はご在宅で?」
「連絡済みで御座います。しばしお待ちを」
その体勢のままピクリとも動かない。
藤宮の者といい目の前の彼といい、なぜ門番は熱心な者が多いのだろう。
ため息をついて正面に向き直る。
その時ちょうど、鉄門が音を立てて隙間を作った。
「事前の応諾もなしの訪問とは、不躾にも程がある」
家来の男たちが手動で動かす巨大な鉄門、そのど真ん中で偉そうに仁王立ちしている男が言った。
歳のほどは周りの家来達より随分若い二十歳と少し、端正な顔立ちの長身男。
「イケメン……」
絋介が零した言葉がやつに伝わってなければ良いと、切に願った。
「久しいな、月詠の帝」
「あぁ、相変わらず元気そうだな、東城の時泰」
交わす挨拶に和やかさなど欠片もなく、むしろピリピリとした険悪な空気が漂っていただろう。
倉皇として頭を振り乱す絋介の庶民的な様が、やはり面白かった。
「お前達は下がれ」
早々に人払いをした東城時泰は門上を一瞥し、移動して立ち話の場所を変えた。
監視カメラが音声を拾うことを危惧しての配慮だろう。
「虜外の叩扉についてはこちらに非がある、申し訳ない」
「素直に詫びるじゃないか、可愛らしいことだ」
口角を上げながら、東城は懐から取り出した煙管の先にライターで火をつけた。
「夜武羽姫のことだろ?」
「話が早くて助かる。藤宮からなにか聞いたか?」
「やはり藤宮のところへは訪問済みか。いや、やつには未だ連絡していない。だが、お前がここに来ることは想定済みだ……となると、そいつが讃岐絋介か」
視線を向けられた絋介が萎縮し、両手を揃えて腰を九十度に折る。
「初めてまして、讃岐絋介です。帝くんとは高校の同級生で……」
「あー、そういうの要らない。知ってるから」
「知ってる?」
「調べたからな、夜武羽姫に関するあれこれについては。それよりお前、帝くんって呼ばれてんのか? きっしょ」
煙管を吹かす東城の横顔が憎たらしいが、拳を握って暴言を飲み込んだ。
「単刀直入に聞くぞ、東城。夜武羽姫が東城の人間であるという根拠は?」
「根拠……まずは経緯から話していいか? 長くなるが」
「差し支えない、全て話してくれ」
「そうか。じゃあ少し待っててくれ、水飲んでくる」
「……なにを言っている?」
「のど渇くんだよ、煙ばかり吸ってると。逃げないからそこで待ってろ」
こちらの了承も得ないまま、東城は扉の中へ入ってしまった。
平常運転の彼に唖然とする間も無く、苛立ちが募る。
「み、帝……」
咄嗟に、声をかけてきた絋介を睨んでしまった。
しかし絋介は俺の表情に気付くことなく、俺に耳打ちする。
「あの人が、御三家の東城の人?」
「あぁ、東城時泰。この屋敷の次期当主だ」
「なんか、貴族っぽくないね。帝や藤宮さんと比べて大雑把というか……」
「野蛮というか?」
「そ、そんなことは言ってないけど」
「東城は内の戒律が厳しいからな。他のところで気が抜けるのは致し方ない。お上様もその辺は容赦している」
「へぇ……次期当主ってことは、東城の中でも位が高いってことだよな?」
「位が高いどころかほぼ頂点だ。現当主の汚行が明るみになった今、実質の権力者はあいつだろうな」
「現当主? おこう?」
「……君は、藤宮の屋敷でなにを聞いていたのか」
「話って、姫が東城の主人の隠し子で……え?」
「その主人が現当主、あいつの父親だ」
「じゃあ、羽姫は、東城の……」
「当主の娘、次期当主の妹。姫にとっては、あいつが本当の兄になる。東城の血が流れていることが事実ならばな」
「え、えぇっ?」
大声を上げる絋介の口元を両手で押さえる。
その時ちょうど戻ってきた東城が煙管に火をつけ、ケラケラと笑った。
「なにお前ら、そういう関係なの? ミカドクン? ……きっしょ」
辛抱が効かず殴りかかろうとした俺を、絋介が腕を掴んで止めた。




