表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/37

15話.交差する剣の東城



 藤宮の屋敷を去り、歩くこと三十分。

 本日二度目の石壁。しかし藤宮の屋敷とは違い装飾がなく、白い無機質な壁がそびえ立っていた。

 鉄でできた巨大な門の上には、剣を交差させた模様をあしらった家紋。


「東城家だ」


 俺の言葉に、絋介はぎょっと肩を跳ねさせる。


「と、東城って、羽姫が軟禁されてるって」

「滅多なことを言うな、すでに会話は聞かれている」


 巨大な正門を見上げていると、その隣にある小さな扉がキィと音を立てて開いた。


「ご無沙汰しております、月詠の帝様」


 中から出てきたのは三十路ほどの男。

 恰幅の良い彼は薄灰色の直垂を纏い、両手を合わせて頭を下げている。


「久方ぶりです」


 本当に久々過ぎて、この門番が久しぶりなのか初めましてなのかわからなかった。

 最後に訪れたのは兄上の元服の儀だったか。


「時泰殿はご在宅で?」

「連絡済みで御座います。しばしお待ちを」


 その体勢のままピクリとも動かない。

 藤宮の者といい目の前の彼といい、なぜ門番は熱心な者が多いのだろう。

 ため息をついて正面に向き直る。

 その時ちょうど、鉄門が音を立てて隙間を作った。


「事前の応諾もなしの訪問とは、不躾にも程がある」


 家来の男たちが手動で動かす巨大な鉄門、そのど真ん中で偉そうに仁王立ちしている男が言った。

 歳のほどは周りの家来達より随分若い二十歳と少し、端正な顔立ちの長身男。


「イケメン……」


 絋介が零した言葉がやつに伝わってなければ良いと、切に願った。


「久しいな、月詠の帝」

「あぁ、相変わらず元気そうだな、東城の時泰」


 交わす挨拶に和やかさなど欠片もなく、むしろピリピリとした険悪な空気が漂っていただろう。

 倉皇として頭を振り乱す絋介の庶民的な様が、やはり面白かった。


「お前達は下がれ」


 早々に人払いをした東城時泰は門上を一瞥し、移動して立ち話の場所を変えた。

 監視カメラが音声を拾うことを危惧しての配慮だろう。


「虜外の叩扉についてはこちらに非がある、申し訳ない」

「素直に詫びるじゃないか、可愛らしいことだ」


 口角を上げながら、東城は懐から取り出した煙管の先にライターで火をつけた。


「夜武羽姫のことだろ?」

「話が早くて助かる。藤宮からなにか聞いたか?」

「やはり藤宮のところへは訪問済みか。いや、やつには未だ連絡していない。だが、お前がここに来ることは想定済みだ……となると、そいつが讃岐絋介か」


 視線を向けられた絋介が萎縮し、両手を揃えて腰を九十度に折る。


「初めてまして、讃岐絋介です。帝くんとは高校の同級生で……」

「あー、そういうの要らない。知ってるから」

「知ってる?」

「調べたからな、夜武羽姫に関するあれこれについては。それよりお前、帝くんって呼ばれてんのか? きっしょ」


 煙管を吹かす東城の横顔が憎たらしいが、拳を握って暴言を飲み込んだ。


「単刀直入に聞くぞ、東城。夜武羽姫が東城の人間であるという根拠は?」

「根拠……まずは経緯から話していいか? 長くなるが」

「差し支えない、全て話してくれ」

「そうか。じゃあ少し待っててくれ、水飲んでくる」

「……なにを言っている?」

「のど渇くんだよ、煙ばかり吸ってると。逃げないからそこで待ってろ」


 こちらの了承も得ないまま、東城は扉の中へ入ってしまった。

 平常運転の彼に唖然とする間も無く、苛立ちが募る。


「み、帝……」


 咄嗟に、声をかけてきた絋介を睨んでしまった。

 しかし絋介は俺の表情に気付くことなく、俺に耳打ちする。


「あの人が、御三家の東城の人?」

「あぁ、東城時泰。この屋敷の次期当主だ」

「なんか、貴族っぽくないね。帝や藤宮さんと比べて大雑把というか……」

「野蛮というか?」

「そ、そんなことは言ってないけど」

「東城は内の戒律が厳しいからな。他のところで気が抜けるのは致し方ない。お上様もその辺は容赦している」

「へぇ……次期当主ってことは、東城の中でも位が高いってことだよな?」

「位が高いどころかほぼ頂点だ。現当主の汚行が明るみになった今、実質の権力者はあいつだろうな」

「現当主? おこう?」

「……君は、藤宮の屋敷でなにを聞いていたのか」

「話って、姫が東城の主人の隠し子で……え?」

「その主人が現当主、あいつの父親だ」

「じゃあ、羽姫は、東城の……」

「当主の娘、次期当主の妹。姫にとっては、あいつが本当の兄になる。東城の血が流れていることが事実ならばな」

「え、えぇっ?」


 大声を上げる絋介の口元を両手で押さえる。

 その時ちょうど戻ってきた東城が煙管に火をつけ、ケラケラと笑った。


「なにお前ら、そういう関係なの? ミカドクン? ……きっしょ」


 辛抱が効かず殴りかかろうとした俺を、絋介が腕を掴んで止めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ