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13話.藤花の藤宮



 最初に向かったのは、藤宮家(情報屋)。


「すげ、なにこの家」


 呆然とする絋介が見上げるのは、藤花の枝が絡み付いた巨大な石壁。

 三メートル近くあるだろうか、壁のほとんどが藤の枝で覆われていた。


「藤宮の本邸だ。名前くらい聞いたこと……ないんだったな、君は」


 呆れたような視線を感じ取ったのか、絋介が頬を膨らませた。


「そりゃ、大貴族の帝は博識かもしれないけどさ」

「俺が博識なのではない、世間の常識だ」

「ていうか帝、なんでこんな大豪邸に?」

「十中八九、彼なら姫の居場所はもちろん、その経緯も把握している」


 蔓を掻き分け、呼び出しのベルを押すとビーっと大きな警告音が鳴った。

 慌てふためく絋介をよそに、俺は正面を見上げる。


「突然申し訳ありません、月詠の帝です」


 石門に向かって声を発すると、大門の脇にある小さな木扉が開いた。


「ご無沙汰しております、帝様」


 現れたのは、痩せこけた初老の男性。


「本日はどのようなご用件で?」


 老人は後ろ手で丁寧に扉を閉めた。

 身体はこちらを向いたまま、目線も変えずに。


「近くまで寄ったものですから。しばし世間話でもしようかと」

「それは坊ちゃまもお喜びになることでしょう。どうぞ中へ、と申し上げたいところですが」


 老人の視線は俺を取り越して、絋介に向いていた。

 想定内だ。

 おそらく月詠でも、同じ処遇を受けるだろう。


「俺の友人です」

「左様でございますか」

「随伴を許可頂きたい」

「私の身では承りかねます」

「そうですね」


 深々と頭を下げる老人。

 俺は笑顔を貼り付けたまま、鞄の中から携帯を取り出した。


「あの、帝……今どういう状況?」


 挙動不審に近い様子の絋介を無視し、通話履歴を探す。

 連絡を取ったのは随分前だが、彼の名前は上から数えたほうが早い位置に見つかった。


「誰に電話してんの?」


 いちいち実況してくれる絋介には構わず携帯を耳に当て、やがて通話が開始された。


『やぁ、久しぶりだね、帝。少し背が伸びたかな?』


 呑気な声が癇に障ったが、冷静を装って石門を見上げる。


「見ているのだろう、万年引きこもり。さっさと通行の許可を出せ」


 厳しめの口調で告げ、石門上部にある超小型監視カメラを睨む。

 藤宮家だけではない、御三家全ての屋敷に同じセキリュティ設備が導入されている。

 呼び出しベルを押すと、まずは門番のモニターに来客の顔が映し出される。

 一度来訪した者の顔は忘れぬとんでも特技を持つ門番たちは、モニターを見て誰の客人か判断し、該当する主人に一報を入れる。

 来客の知らせを受け取った者はカメラの映像を視聴することができ、その後の対応を門番のイヤホンに指示する。


 通常はこのように、門番と客人が長く会話することはあり得ない。

 一報を受けた主人がすぐに門番に連絡し、客人をもてなすよう指示するからだ。


 多忙や不在ですぐにモニターを見ることが出来ないなどの場合もあるが、この男に限ってそれはあり得ない。


「どうせ今もベッドの上で甘味を貪っているのだろう、暇人め」

『案外忙しいものだよ、この生活も』

「なにが君を忙しくさせているのか理解しかねるが、まずは通行を許可してくれ」


 自然と声に力が入ってしまう、この男と会話をする時は。


『あっはは、相変わらず手厳しいなぁ、帝は』


 愉快そうな笑い声の後、ガサガサっとビニールの袋をあさる音が聞こえてきた。


「食うのをやめろ!」


 俺の怒声に、通話の主はスナックを齧りながら『へいへい』と気の抜けた返事をした。


『通してあげてください、帝もその友人とやらも』


 通話口の言葉は門番にも届いたようで、老人は辞儀をして大門の扉を開けた。


「これより先の責任は、帝様自身でお願い致します」

「承知しています。いくぞ、絋介」

「え? あ、はい」


 状況を掴めない絋介が、戸惑いながらも俺の後に続いて門を潜る。

 頭を下げる老人に、同じ様を見せる絋介の姿が少し愉快だった。




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