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1話.竹取物語のその後




 彼女が泣いた。



 帰りたくない――…



 と、そのように聞こえたのは俺だけだろうか。


 あぁ、そうだな……未練がましい阿呆は、俺一人だ。



 周囲の者は呆けたように突っ立っている。

 おとなしく籠に乗る彼女の背中をぼうっと、眺めているだけ。

 かくいう俺も、その中の一つと化している。



 待って――…



 自分の声が聞こえた。

 喉は震えていないのに、唇さえ動かすこともできないのに。

 

 まって……



 待ってください、姫――…



 風が吹いた気がした。

 空気が震え、月の使者とともに彼女が振り向いた。

 


 行かないで、地球に残って

 もう一度、俺と――…

 


 声が出ない。


 言葉はきっと、彼女に届いていない。



 月の者が再び背を向けた。

 彼女の後姿を隠す。 

 如何(どう)しようもない。



「終わりだ」



 自由を取り戻した時にはすべて終わっていた。


 すべて、全てだ。


 傍らでは老夫婦がうずくまって嗚咽を漏らしている。

 顔を上げると暗闇しか見えなかった。

 彼女の姿はない、月すらも夜空から消えた。



 残されたのは僅かばかりの土産と、後悔。




 誰かが言った、「これは翁夫婦と姫の家族愛だ」と。


 俺は言った、「なにを読み違えたのか」と。「あれは、男女の恋愛物語だ」


 決して叶うことのない悲恋の、美しい物語。

 続編など有り得ない、姫は月に消えたのだから。

 だから、もしも、物語に続きがあるとするならばそれは


 もし生まれ変われたのなら今度は間違えない。



 もう一度、俺と––––…




 *




 彼女が泣いた、泣いていた。


 笑えない。



 ずっと、


 泣いていたのは俺も同じだったから。



『竹取物語』と名付けられた、その中で。




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