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episode3 全・力

---from professor risa side---


「地下6階が地下1階になった??」

なんのこっちゃ?


レスキュー隊「レンジャーワン」率いる黒滝のおじいちゃんから救出状況の報告を受けて首をひねる。

なんでも洞窟の天井が巨大な泥人形化したり、敵のモンスターが洞窟内で巨大化して各階層の天井を破壊した結果、もともと地下6階だった場所が現在地下1階になっているらしい。


私たちがいる場所が地下何階かは不明だが、少なくとも6回分は近づいたという事のようだ。


「なんか違う。」

私は首をひねる。

ダンジョン攻略って、こう建物内や洞窟内を進んでいくんじゃないの?? 洞窟の天井を壊し、各階層をなくしながら行うダンジョン探索なんてきいたことがない。


現在、研究所内にいる所員の不安を払しょくしパニックをおこさないため、レンジャーワン率いる黒滝のおじいちゃんから来た救出状況を共有し、所員に救出状況を可視化したいのだが・・・


今、研究所にいる所員の不安をなくしてパニックにならないように、レンジャーワン率いる黒滝のおじいちゃんから届く救出の状況をみんなに共有して、進み具合をわかりやすく可視化したいのだが・・・。


「なんて伝えればいいのでしょう。」


とりあえず

「アホ」

と黒滝のおじいちゃんに返信しながら考える。

別に意味はない。

ただの意味不明な報告に対する八つ当たりです。


ん? 追伸が書いてる。

「君の恋人が何も活躍できず『なんと理不尽な事か!』と嘆いている」そんな主旨のことを書いていた。


「んー。まあ頑張れ。」

とりあえず赤石のアホも無事で何よりだ。文面を見る限り無茶なことはしていないようで一安心だ。私の願いは君が無茶して取り返しのつかないことにならないことなんだよ。

何の活躍も出来ていないなら問題ないな。


さて、赤石のことは問題ないとわかったので目下の問題に目を向けようか。

タコ男率いるモンスターをどう撃退するか?という課題を思案中なのです。


前回は火責めしたら

「何をする!洞窟内で火を使うとは酸欠になったらどうする!」

と敵のタコ男にマジ切れされた。


それは考えてなかった。

蛸の丸焼きができるかなぐらいの発想だったのですが・・・

あのタコ男、私の白衣着てるんだよな。返してくれないかな?


モニターを見ながらつぶやく。


「蛸はアヒージョにしてもおいしいですよね。」


同じモニターを見ていた同僚が口笛を吹きながら軽口をたたいた。

なるほど、次は油攻めにしようかな?



現在と想定される日まで残り59日

軽口を叩ける精神状態ならまだ大丈夫だろう。

あいつが無茶する前に早く帰らないとな。



---from underground empire  side---


帝国最高会議 帝王と宰相。四天王が集まる会議である。

その会議はとても重苦しい雰囲気に包まれていた。


「人化魔法を洞窟内で解除した? そんなことをしたら狭い洞窟内で本来の姿になり潰れてしまうではないか!」

宰相ユミルが呆れた声をあげる。


洞窟内の通路がサイズの制限があり移動できないドラゴンや巨人などの移動に使われる人化魔法。

あくまでも洞窟内を移動させるためのものだ。

洞窟内で解除するというのは彼女にとってありえない出来事である。

しかも新兵ではなく戦闘のプロ中のプロ。四天王がいたのなら猶更アリエナイ。


「そうねぇ。潰されないであの子は頑張ったわ。天井を突き破ったんですもの。それも5回も。」

ヘドリーの報告にユミル宰相は天を仰ぐ。

潰れないにしろ天井を突き抜けながら巨大化したのであればダメージは相当であろう。

本領を発揮できないまま瀕死になったことは容易に想像できる。


「ふむ。それで天井崩壊に巻き込まれ埋まってるのでは世話ないではないか。」

「ぬかせぃ。あの程度、俺様の土魔法でどーとでもなるわ。」

「あら? タイタン。土魔法で防いでのは私の魔法ではなくて?」


デビルフィッシュ・タイタン・ヘドリーが言い争いを始め、再びユミル宰相は天を仰ぐ。

彼女はこうなった原因を探りたいのだ。

決して幼児がよく見せる自己防衛からくる他責態度を見たいわけではない。

いい大人だよね。と言いたいところをぐっとこらえる。

今日も胃薬が必要かと内心嘆いた。


「控えよ。」

宰相ユミルが三者の間に入る。


「それよりも! なぜ洞窟の途中で魔法を解いたのです?」

当然の質問をタイタンとヘドリーにぶつける。

この両者は腐っても帝国最高戦力である四天王。途中で人化魔法を解除する愚を犯す理由がわからない。


「あ゛? 俺らが解くわけねーだろ? 敵が解いたんだよ!」

タイタンが不貞腐れたように叫ぶ。


「敵が解いた? 地上のものにはそのような術者がいるのですか?」


宰相ユミルは思案する。

仮にそうだとしたら楽園「地上」は少なくとも帝国と同等の魔法技術を持ち、人化魔法のことも。そして弱点も知っていることになる。

今まではちょっとした偵察気分だったが、考えを改めないといけないかもしれない。


「あれは、アオイの副官カグヤと同じ魔法でしたわ。ほら。あの魔力を吸い取るカグヤ特有の魔法の蝶。あれで人化魔法が吸い取られてしまったのですわ。」


「ちょ。ちょっと待て。それはカグヤが裏切ったということですか!」


ヘドリーの言に宰相ユミルは慌てる。

カグヤの固有魔法は魔法使いでもある対四天王に特化している。そこで一番危険な元青の国の魔法兵隊長であるアオイにつけたのだ。

もし今の報告が真実なのであれば、大なり小なり魔法を使う四天王をぶつけるのは相性が悪すぎる。

それに裏切る理由がわからない。


「なるほど! あの地上の青い戦士はカグヤだったのか!」

「青い戦士?? 青い戦士がカグヤの固有魔法を放ったのですか?」

「ああー。全身青いスーツに身を包んで誰だかわかんなかったが、カグヤっつーんらな合点がいくぜ。」

「なぜ? なぜ敵に回っているのです??」


その宰相ユミルの問に答えるものはいない。


重苦しい空気が会議を包む。


「宰相」

帝王が宰相に声をかける。

その声は正に場に似つかわしくない明るくかわいらしい天使の声。


「はっ。」

ユミルは居住まいをただす。他の四天王も同様。


「カグヤが裏切るなんてことは絶対にないよ。」


「気持ちはわかるけどよ。カグヤの固有魔法を使ってたのは事実だぜ。」

タイタンが異を唱える。


宰相ユミルとヘドリーは息をのむ。

この馬鹿は逆らってはいけない相手というものがわかっていないのか?


その心配を他所に明るい歌うような声色で帝王がタイタンの文句にこたえる

「そうだね。青い戦士を捉える事ができたら。その謎もわかるだろう。ここで言い合っても意味のないことだよね。ところで宰相。ボクたちの基本戦術は?」


「はっ。竜クラスの巨大モンスターを人化魔法で人型サイズにして洞窟内を移動。敵国に到達後、人化魔法を解除、本来の姿に戻し、蹂躙するというのが基本戦術です。」

「そうだね。その戦術は洞窟を抜けないと使えない。しかしその青い戦士がいるのであれば、洞窟を抜けるのは難しそうだね。ではどうする?」

試すような視線を宰相ユミルにむける。


「はっ。」

慌てて宰相ユミルは、今まで得た情報や過去の経験をもとに戦術を組み立てる。


「デビルフィッシュをヘドリーとともに向かわせます。デビルフィッシュは四天王の中で魔力に頼らぬ格闘戦を主力としております。カグヤの固有魔法に対抗できる四天王です。ただそれだけでは攻め手が一つなためヘドリーを補佐に付け、臨機の対応をしていただきます。」


「それだけかい?」


「いえ。これだけであれば前回、前々回と同じく地上に至れず終わるでしょう。そこでタイタンに掘削部隊を率いていただき別ルートから地上へ至る道を作っていただきます。そこで地上にでていただき人化魔法を解除します。」


「・・・デビルフィッシュが担当している地上から落ちてきた敵の城の手当てはどうする?」


「そちらは包囲のみで十分かと。守るとなると固いですが、打って出る余力はないと推測されます。」


「よし、それでいこう。タイタン。」


「はっ!」


「きみがこの戦術の要だ。必ず地上へ至ってほしい」

帝王がいたずらっ子のような眼をタイタンに向ける。


「はっはーっ! 腕が鳴るぜぇ!」


「出し惜しみはしないでくれよ。自分で暴れたいのはわかるけど、君の子飼いも全部連れて行っておくれよ。5名全員だよ。あと「守護者」を呼び出さないように掘削場所は慎重に調査しながら進めておくれ。」


一瞬、間があった。

快活なタイタンらしくない間だ。


「わーったよ。地上には必ず至ってやるよ。それでいいだろ?」

と半ばやけくそのような言葉を吐いた。


「もちろんさ!」

帝王のこの言葉で会議は閉幕した。




---from yamabuki side---


えーっと。この状況を何といえばいいのでしょう。

僕は不謹慎ながら楽しみにしてたんです。


ダンジョンを舞台に、神様からチートスキルを授かり、勇者として大活躍――。そんなことが現実にできたら、本当に憧れます。


あの3柱の神様からドラウプニルという魔法の腕輪をもらい、魔石の洞窟と言う舞台もある。

いわゆるダンジョン攻略が実際にできるのです。


わくわくがとまりません・・・でした。


ええ、過去形です。

はい。


いま、目の前に見えるのは重機の群れです。

トラックや掘削機が蟻んこの群れのように洞窟を掘っています。


きっかけは前回、前々回の戦い。


最初の戦いで地下1階の天井は泥人形となってなくなりました。

次の戦いで地下2階から地下5階までの天井が突き破られてなくなりました。


天井を破壊して地下5階まで攻略したのです。


ここで僕たちの上司である黒滝のおじいちゃんは考えました。


「じゃあ、こんな感じでどうですかねぇ?」


その方法が洞窟を掘削していくというもの


魔石の洞窟での魔石発掘作業でも案としては考えられていた方法ではあったようですが、洞窟内のモンスターが危険ということで、その方法はお流れになったようです。

黒滝教授はその廃案を「うちにモンスターと闘えるレンジャーワンって部隊いるよ。」と復活させたようです。


それで元々、洞窟内に入り崩落現場からの掘削作業と僕たちでの洞窟攻略の2方向作戦が洞窟の天井を破壊していこうという作戦に変更されました。


それがこの状況です。


1200トンクレーンなんていう巨大なクレーンも出てきました。

そのクレーン車を組み立てるのにクレーン車が必要という禅問答みたいな光景もちょっと面白かったですが・・・


これがダンジョン攻略か?と思うと「何か違う感」が拭えません。

ダンジョン攻略って掘削作業だったんですね。

僕の中でロマンがすり減っていきます。


ちなみに作業効率ですが・・・

まだ1階の天井も掘削出来ていません。


素人の僕には良くわかりませんが小耳にはさんだ内容を整理すると、意外と地上からピンポイントで洞窟のある場所を特定するのが難しい事。

崩落させてはいけないため慎重かつ緻密な計算が必要。

あと単純に固いというのもあるようです。ダイヤモンド粉末をまぶした掘削機の刃が折れたとかなんとか聞きました。

前回の戦いの巨大帝国兵が実はすごかったって言うのがわかります。

掘削機ですら歯が立たない魔石の洞窟の天井を5階分ぶち抜いたのですから。

同時にすごく痛かっただろうなという事も・・・


また、掘削作業が進まない原因にはアオイちゃんの存在もあるようです。

いろいろ口出ししているようです。

例の変なところを壊すと「守護者」が現れるぞーという例の話です。


それで、ちょっと赤石クンと揉めてます。

早くリサ教授を救出したい赤石クン

「守護者」というモンスターを警戒し、掘削による救出作業を遅らせているアオイちゃん


どちらの言い分もわかるのですが、僕としては見たことのない「守護者」に対してどうにも危機感を持てません。いずれにせよ・・りさ教授達、崩落事故で洞窟内にいる所員全員の人命がかかっています。

早めに掘削が進行するといいのですが・・・。



---from akaisi side---

むう。なんと理不尽な事か。世の中ままならぬものよ。

リサ姉の上司であり、今は我が所属するレンジャーワンを率いる黒滝教授が重機による掘削での魔石の洞窟の攻略を始めた。


始めはリサ姉の救出が速くなるのではと期待したが、どうにも作業はうまくいっていないらしい。


また、掘削作業に驚く魔物が地上に出る可能性を考慮し、出入り口付近にてアオイ・山吹と交代で待機しているが、魔物は逆に地下にでも向かったのか出てくることはない。

アオイが妙に警戒している「守護者」とやらも出てこぬ。


なんというか、歯がゆい。

無力感さえ感じる。


リサ姉の救出もうまくいかず。

リサ姉の居場所を知っていると思われるデビルフィッシュには逃げられ

前回の戦いでは我と対峙していた巨大帝国兵が巨大化し、天井を次々ぶち破っていくのを目の前にしながら何も出来ぬ体たらく。


山吹を見よ。事前に空飛ぶ船を配備する周到ぶり、見事に弱った巨大帝国兵を砲撃で打倒している。


「何が足りぬ?」

おそらく我に何か足りないものがあるのだ。

それがわからぬ。


ただ、我が「焦っている」というのはわかる。


魔石の洞窟入口で番をしているアオイと交代すべく歩を進める。

ふと、途中にある保育園が目に入る。

「こどものおしろ」と書いている。この保育園の名前であろう。

かといって、この保育園に縁があるわけではない。


その保育園で珍しく空手を教えていたのが目を引いたのである。

もちろん、フルコンではない。

型稽古である。

もしかしたら、保育園で教えているのではなく児童空手教室として場所を貸しているだけかもしれぬ。


児童の元気な声が響く。


我も総合格闘技を齧っている。

リサ姉との出会いも総合格闘のジムである。


さらに言えば、リア姉と共に過ごした時間が最も長いのも格闘技ジムである。

リサ姉は高名な学者である。我は一介の高校生にすぎぬ。

接点はそこしかない。


つまり、彼女との思い出の多くはジムにある。

練習中にふざけて転びそうになった我を、さっと手を差し伸べる彼女。

息が上がって汗が滴る中、さりげなく肩を叩き「大丈夫?」と微笑む彼女。

初めての大会で震える手を隠すようにしていると、彼女はそっと手を握ってくれた。

無茶な動きを注意されたときも、その厳しさの裏にある優しさに、動機が止まらぬこともあった。

しかしながら、当時の我はそんな気持ちに素直になれず、ただ恥ずかしさと緊張でごまかしていた。

言葉には出さぬが、あの手の温もりや、さりげない視線がずっと心に残っている。

…あの頃のジムは、ただの修練の場所ではなく、我にとって特別な場所でもあったのだ。

思わず口角が上がる。

そして、あの距離感のもどかしさも含めて、今でも鮮明に思い出せる。


「興味がることや正しいことに即、挑戦するのは素晴らしいことだ。しかしだ。私の身にもなってみろ。心配で仕方ない。思い立ったらすぐるのは君の美徳だが、無茶はしないでくれたまえ。」


リサ姉が紡いだ言葉を思い出す。

正しいと思ったことを即、実行するのが我らしい。


「うむ?」


なにやら保育園が騒がしい。

一瞬、疑問に思い・・・原因に思い当たった。

我の姿は他人に畏怖されるらしい。無念だが筋肉隆々の格闘技という暴力の世界にいるような漢はそう見られてもいたしかたない。


その畏怖の対象が保育園の門扉に立っているのだ。

場合によっては通報ものであろう。


我は急ぎその場を離れ、本来の目的地である魔石の洞窟の入口へむかった。


「おっす。交代の時間ね。悩める少年。」

魔石の洞窟の入り口にはアオイがいた。

今の見張りはアオイらしい。


この少女は素直にすごいと思う。

何というか見かけは軽い女子なのだが、おそらく装っている。

装う技術があるのだ。


ひとたび戦場に立つと冷徹なくらい合理的な手をうってくる。

聞けば魔法兵隊長として一国の軍を率いていたという。

その経験値がすごい。

いまもそうだ。


我が悩んでいることを見抜いている。

推測するに過去にも自分が率いてきた兵士たちを見てきた経験値からなのであろう。


「・・・フッ。悩んでいるのがわかるか?」

強がっても仕方ない。


「そら、アンタ素直だからね。顔に出てる。」


「むう。」

そんなに顔に出ているであろうか?  

顔を怖がられたことはあるが、こんなことを言われたのは正直、初めてである。


「へっへーっ。アンタ社交界じゃ無理だね。そんな演技できないくらい素直じゃ食われちまう。この「地上」生まれでよかったな。」

そういって我の背中をポンポンと叩いてくる。


励ましているのか?貶しているのか?我にはわからぬ。


それよりも「社交界」といったか?

詳しくはわからぬが「亡国の姫」ということも聞いたことがある。

その「姫」としての経験値が実際主義または戦術眼のような知恵を身に着けた背景となっているのか?


我にはわからぬ世界ではあるし、だとすればそのような修練を積む場がない以上、我は到底及ばぬ。


「ほら、また一人で悩んでいる。思考の海にいたって何も始まらないよ。お姫様に相談してみな。」


「お姫様・・・。」

一種何のことかわからず当惑したが、目の前の少女が「亡国の姫」であったことを思い出し。少し笑った。

自分のことを指して「お姫様」という人間に今まで出会ったことはないし、今後もないであろう。


「あ! なんか笑いやがった。アンタも私も姫だと思っていないだろ。」

「・・・他にだれかそう思っている奴がいるのか?」

「いる。いるわ! カグヤっていう私の付人兼秘書兼副官兼護衛兼監視役。あいつまったくアタシの事をか弱いお姫様だと思っていやがらないの。」

「・・・そういうところではないのか?」

「あ゛?」

「か弱い姫は『あ゛』なんぞ言うまい。」

「ケッ。そんなお上品にとまってられますか。」

「・・・フッ。」

「なんか笑った! バカにしてる?」

「いや。逆だ。そういうのが好ましいと思っただけだ。」


アオイは目をぱちくりさせていたが、やがて、にたぁと口角をあげた。


「アタシもアンタを好ましいと思っている。」


赤石は眉を顰める。今まで怖がられたことはあってもこんな言葉をかけられたことはない。


それに少し前、この少女とは軽く揉めていた。

我の目的はリサ姉の救出である。

それも可能な限り早めに行いたい

アオイは「守護者」というモンスターが現れることを恐れていた。

「守護者」は洞窟の壁天井を破壊すると、場所によってだが出現するという。

そのため掘削による救出作戦にはどちらかと言えば反対していた。

また、掘削場所もかなり細かく指定していた。

なんでも魔法で「守護者」が現れぬ場所をサーチしているらしい。

そのため救出作業が遅くなっていた。


救出作業を早期に行いたい我と、慎重を期したいアオイ。

そこで意見が衝突していた。


そんな相手に好ましいと言われても当惑するだけである。


「アンタは初めて出会ったときに何故、洞窟にいたの?」

「リサ姉を助けるためである。」

赤石は即答する。ここに迷いは一切ない。


「そん時にモンスターと戦っていたのはなんで?」

「モンスターに襲われていた連中を助けるためである。」

ここも即答だ。


アオイはにたぁと笑い。

「即答だね! そういう打算なく助けに行けるところが好ましいと思ってる。少なくともアタシには無理だ。アタシは実際主義だからね。自分の命も大事だ。そういう意味では好ましいっていうか眩しいって言うのがあってるかな?」


赤石は眉をひそめた。そんなことを生涯でいわれたことはないので当惑している。


「悩むなんてらしくないなー。アンタの好ましいところは迷わず助けにいけるところじゃね。 自分を見失って他者と比較したってしょうがなくね。」


ぬう。確かに今の言葉は腑に落ちた。

経験と訓練を背景に冷徹なくらい実際的な戦術をくりだすアオイ

ダイナミックな発想で戦場の盤面そのものをひっくり返す戦略を披露する山吹

知らず知らずに内にその二人と比較し、自分を見失っていたらしい。


我はアオイや山吹とは違う

我は我なのだ。


「うむ。ありがたい話をきいた。感謝する。」

「どういたまして。 何か困ったらお姫様に相談してみな。ただしカツ丼驕りで!」


アオイはニカッと笑い 持ち場を我と交代し離れた。


---from yamabuki side---


「こんな感じです!」

僕は赤石クンのステータスを書き出す。


―ステータス―――

名前:赤石剛

職業:高校生

LV:38

スキル:筋力増強Lv1 脚力LV9 総合格闘LV7

装備:ドラウプニル(赤)ミョルニルハンマー ヤールングレイプス メギンギョルズ

眷属:シアルフ

――――――――


赤石クンから「我は己を知らねばならぬ」との相談を受けてステータスをお伝えしました。

LVは元々一国の兵隊長であるアオイちゃんのLV58やカグヤさんを倒してのパワーレベリングに結果としてなったしまいました僕のLV47には届きませんが、僕の初期レベルが1であったことを考えると物凄いレベルです。


興味があったのでどのようにしてこのLVに至ったのか聞いてみました。

「ふむ、レベルとやらが何かわからぬが戦って得た強さという事なのであれば、魔石の洞窟を出入りし魔物を倒していた。その結果であろう。」とのことです。

この方はレンジャーワン入りする前からモンスターを狩っていたようです。


逆に中途半端にレベルがあがってしまってるので僕のようなLV1で高レベルモンスターを倒して高い経験値を得るパワーレベリングは難しくなっているようです。


本人に言ったら

「なんと理不尽な事か!」

と天を仰いでましたがいつものことなので気にしないでおきましょう。


しきりにステータスに出ているスキルや装備、眷属を「これは何か?」と聞いてきました。

もしかしたら・・・赤石クンはレンジャーワン加入前からモンスターを狩っていたので、変身しても戦い方を変えてなかったのかもしれません。


それでも強いですからある程度は通用してしまう。


しかしながら、それではデビルフィッシュ戦のように行き詰ってしまうと考えたらしく、改めて変身後に自分は何ができるのか?を確認。変身後の戦い方を学ぼうとしているようです。


こういった目標にむかってストイックにコツコツ前に進めるのが赤石クンの持ち味ですね。


・・・その時、地面が揺れました。


「地面が揺れてます。」

「うむ、地震か?」


結果からすると通常の地震ではありませんでした

帝国が文字通り城を落としたのです。



---from aoi side---

「ええー。マジ? 四天王辞めても攻城戦すんのー。ないわー。」

私はため息をつく。


だって、だってそうだよ。


私は死にたくないから帝国出奔したんだよ。


今いるレスキュー隊「レンジャーワン」だって洞窟で遭難した人の救助ってことで応募したんだよ。

救助なら危険は少ないっしょ。

それに私には目的がある。

その目的のためには洞窟にいつでも潜れる立場が欲しいのですよ。

その目的にレンジャーワンという立場はぴったんこだ。


それに・・・どうも地上人は魔法が使えないっぽい。

そんな地上で魔法を得意とするアタシが活躍できる場なんて限られるやねー。

浮いちまう。

悪目立ちはごめんだぜい。


レンジャーワンならメインの活動場所が洞窟内だ。私の得意とする魔法の知恵を活かせるし、洞窟内なら魔法ぶっ放してもいいので、変に隠す必要ないしね。

洞窟内ってモンスターでるじゃん。そのモンスターに魔法ぶっ放しても誰からも文句出ないよね。(※注:モンスターからはクレーム来る可能性はあります。)


帝国の秘密兵器であるドラゴン級の巨大モンスターならまだしも、そこらの野良モンスター相手だったら問題なし。

言っとくけど、こっちは元四天王だぜ。

野良モンスターに後れをとる私ではないのだよ。うん。


という理由で今のレンジャーワンに所属したんだよ。


なんでかつての魔法兵隊を率いてた頃のように、帝国四天王時代のように

攻城戦に参加する状況になってるのさ。


原因はあいつだ。タイタンのヤローだ。バカヤロー、コノヤロー。


タイタンのヤロー。土魔法でせっせと別な脇道つくってやがった。

そんでアタシらが知らぬ間に「地上」に到達。この街にある江戸時代とかいう400年前から存在しているという今は城址公園となっている古城を占拠しやがりました。


それで、いろいろ厄介な状況になってる。


占拠しているのはタイタンとその部下達。

という事は元々の魔石の洞窟から他の四天王であるヘドリーやデビルフィッシュが来る可能性がある。

つまり普通に考えればこちらも二手に分かれないといけない。厄介な事その1だ。


そしてこの古城。お堀があって普通に考えれば攻めにくい。まあ厄介なところを占拠しやがりましたよ。


そんで赤石がまっすぐそのお城にむかっちゃいましたよ。

あいつはそれでいい。

とは思うが心配は心配なんだよなー。これも厄介ごとの一つ


地上人にしては破格の強さだけど、搦手に弱いというか、この前もデビルフィッシュのデモンスピアにやられていたし、ちょっと目を離せない。


「行ってあげてください!ここは僕とスキーズにまかせて。」

この厄介な状況において何が最善手か思案していると山吹が格好いい事言い出しました。

にっこり笑って言ったのもポイントですね。

惚れちまうぞコノヤロー。


「ええ。それに場所が赤石クンには不利です。アオイちゃんの方が適任です。」


そうなんだよね。

格闘者の赤石には不利なんだ。


それにしても山吹って何気に凄いよねー。

山吹は大胆で何も考えて無いようで、全体を俯瞰して見えているように思える時がある。

これは山吹生来の能力なのかな? 山吹が出会ったという神様のお力なのかなー。

私は羨ましいぞ。


まあ、ここは山吹に任せよう。

山吹には長距離砲のスキーズがいるなら問題はないだろうな。

魔石の洞窟からヘドリーなりデビルフィッシュが出てきたとしても、空中という手出しが難しい場所で一方的に砲撃を加えるだけで勝てるだろ。


私はドラウプニルを起動し空間に出現したタッチパネルを操作する

「An armor changes Wodan」の機械音が鳴り響く。


私のからだが青い全身スーツにつつまれる。そしてマントのような青藍のパーカーとフレアスカート。鍔の広いとんがり帽子を被り。杖を持った。魔法使い然とした姿と変わる。


「Completion! The magicians・blue」

変身完了の音声がなる。

これで四天王と遭遇してもアタシだとは気づかないだろう。いや絶対に気づくんじゃない。空気を読めよタイタン。


山吹から借りた、神の力を宿したこの力。私にとっては正体がタイタンたちにバレないというのが一番の恩恵だ。


私は赤石の後を追った。


---from Titan side---

「はっはー! これが伝説の楽園「地上」か! これが伝え聞く青空というやつか!」

俺様は今モーレツに感動している!

俺様が連れてきた可愛い5名の部下どもも同じだ!

ヒート・プロミネンス・バーン・ライト・ファイア

俺様が赤の国の第一戦士団長をやってた時代からの可愛い部下どもだ。それに今回の脇道作成作戦に最適な土魔法が得意のドワーフ30名を帝国兵として率い、それに常勝手段である人化魔法で人サイズにして洞窟移動を容易にさせた巨大モンスター1名

これが今回の俺の部隊だ。


人数が少ないって?

そんなことはねぇ。十分だ。


ぶっちゃけ子飼いの5名はボスが連れてけっていったから連れてきただけだし、

帝国兵も脇道をつくるための炭鉱夫でしかねえ。

巨大モンスター一体を連れて適地である地上にたどり着いた時点で俺様の勝ちだ。


前回、デビルフィッシュとヘドリーが失敗したのは洞窟を抜ける前に敵さんと遭遇しちまったからだ。

今回は無事洞窟を抜け、「地上」に到達した。

俺様が地上一番乗りだ!

さあ俺様のそして地底帝国の本領発揮といこうじゃねえか。


「吐-っ!」

気合の言葉とともに帝国兵が吹き飛んだ。

ビックリした!

驚かせるんじゃねぇ。

慌てて振り向くと兵士に混じって見たこともねぇ奴がいる。

「何だぁテメェ。」

せっかくいい気持でいたところに乱入者だよ。おい。地上人は躾がなってねぇ。

挨拶もせずに、こちらの兵隊を吹き飛ばすのが地上流か?


こっちの帝国兵を吹き飛ばした奴を見る。

180センチを超える偉丈夫だ。肩と胸の筋肉が発達して服がパンパンになってやがる。

正に偉丈夫。正に「漢」って感じの覇気が垂れ流しででてやがる。


その姿に相応しく単騎でこの30名を超える小隊に突っ込んできやがった。

こういう馬鹿は嫌いじゃねえ。


「おう。テメェ、ナニモンだ。」


「我はレンジャーワンのレッド。お主は帝国のものだな?」


「おう、俺様は地底帝国のタイタンだ。おうおう。俺らが帝国兵だってわかって喧嘩売ってきたのかよ。元気だねぇ。テメエら少し遊んでやりな。」


俺の合図で30名・・・いんやさっき吹き飛ばされた奴がいるから29名の帝国兵が好漢に襲いかる。さあどこまで戦えるかね?「地上」の勇者さんよ。


---from akaishi side---

「容赦はせぬ!」


敵が拠点とした城址公園。

ここに至るまでに惨劇の跡があった。


おそらく地上に出てから城址公園に至るまでの間、破壊しながら進軍したのであろう。

家は破壊され、止めにはいったであろう警官やパトカーが蹂躙されていた。


そして、たまたま進軍経路にあったのであろう「こどものおしろ」という名の保育園も

なんと理不尽なことか!


我は内心のやるせない気持ち・忸怩たる思い・怒りの感情をそのままに、地底から出てきた敵を視野に入れる。

最初から全開で行く。


思えば我に「慢心」があったように思える

リサ姉を助けるとお題目を唱えつつも、実際には我が今まで培ってきた武技を試したい。闘いを楽しみたいという欲求があり、山吹より借りた神の力もそれほど使わず、己の武技だけで戦闘していた。


それは武技格闘の「全力」ではあっても、我のありとあらゆるすべての全力ではない。


仮に前回、デビルフィッシュとの戦いで我の格闘術のみではなくドラウプニルの性能もすべて出し切った「全力」であれば、逃がすことも無かったかも知れぬし、逃がさず確保できていれば帝国ではデビルフィッシュの敗北を知らず、目の前のタイタンという男が地上に出てこなかったかも知れぬ。であればタイタンによって引き起こされた街の破壊も無かったかも知れぬのだ。


忸怩たる思いである。


ありとあらゆるこだわりを捨てる!

本当の全力。無我の全力でいく!


頭の中に入っている情報に従いガンドレッドを慣れぬ手つきで操作する。

「An armor changes Tor」の機械音が鳴り響く。


我の体が派手な真紅の西洋甲冑のようなものに覆われる。

腰回りは大きなスカート装甲。

肩の倍はある巨大な肩当に、膝から下もフレア装甲。右腕には二回りも大きな円筒形の腕あて。左手には腕には炎をデザインしたようなシールドが装着される。


「Completion! The Fighter ・RED」

機械音と共に真紅の重装戦士に変身した。


「あぁ!? その姿は報告で見たぜ。テメェ! あのデビルフィッシュを倒した奴だな。 そうかテメェ、カグヤの仲間か!」

「カグヤ? 知らぬな。それよりも。お主はタイタンとかいったか! 道中の惨劇はお主の仕業か?」

「道中?? ああなんか邪魔そうだったんで掃除したんだよ。掃除! 歩くに邪魔だろ?」


邪魔?

邪魔と言うだけの理由で家々を 保育園を吹き飛ばしたというのか!


「ぬおおおおおッ。」

肩から背中にかけて力を入れる。腰を捻転。腕を鞭のように広げ体に巻き付ける。

「吐ーッ!」

捻転を戻すと同時に高速で 掌底を敵にむかって突き入れた。

体がバネが戻るかのような速度で回転する。

そこから速射で繰り出される大砲のような我が最も得意とする片手突き。


『Mjollnir hamme』

機械音と同時に右腕装着されている二回りも大きな円筒形の腕あてから放電。

電撃が走る。


我が得意とする片手付きがこの神の力を利用すると電撃による遠距離攻撃も可能となるのは前回の戦闘で学習済みである。


不意を突かれた帝国兵が何名か吹き飛ぶ。


「ちぃ!ヒートぉ!」

「あい!」

タイタンにヒートとか呼ばれた部下が土壁をつくり我の放った電撃を防ぐ。


「ぬう。」


「やるねい! でも、この場所であたしたちを相手にするのは分が悪いっす。」

ヒートが生き残っている帝国兵を3部隊にわけた。


「「aurr!」」

1部隊が何やら呪文を唱える。

足元が泥と化す。


「ぬう。」

一気に膝まで埋まる。

機動力を奪われたか!

移動も足腰を利用した技も使えぬ。


「「berg-nos! berja! bellr!」」

別の1部隊が長めの呪文を唱えた。

城址公園の石垣が浮遊し巨大な礫となり我に向かってくる。その数、ざっと十!


「ぬううおおおおおおお!」

我は砲弾のように向かってくる石垣を受け止めると投げ返し、別な石垣を粉砕。その繰り返しで何とか凌ぐ。


「「bandingi! Dys!」」

更に別部隊が呪文を唱える。


城址公園の土が我の頭上に集まる。

どれだけの量が集まるかわからぬが、大量に土が集まり、それが落とされた場合、生き埋めになる。

逃げようにも足は泥で埋まり動けず、手も石垣の砲弾を防ぐので手一杯である。

このままでは生き埋め確実である。


「ヒャッハー! どうよ俺様の部隊の実力は? 身の程を知ったか?」

「フン! どうやらお主より部下の方が優秀のようだ。だが今の我をこの程度で倒したと思うなよ!」


我は飛来する石垣を受け止め、タイタンめがけて放り投げる。


「お褒めに預かり。恐悦至極っす。でもタイタン様をやらせる訳にはいかんのです。」

ヒートが再び土壁をつくり石垣を防ごうとする。

が、我の投げた石垣はその土壁を吹き飛ばし、タイタンやヒートを生き埋めにした。


「ぬぅん!」

もう一つ、飛来する石垣を受け止め、今度は上空に集まりつつある土塊に放り投げる。 


土砂が四散した。


同時に

「gandir!gandir! gandir!」という呪文と同時に上空からマジックミサイルが降り注ぎ帝国兵をなぎ倒していく。


その降り注ぐ魔法。

流星のように奇麗である。


空を見ると巨大な機械仕掛けの鳥に乗ったアオイがこちらに飛行しながら向かってきていた。その上空から魔法の矢の雨を降らせている。


「おいで! ムニちゃん!」

機械仕掛けの鳥に乗り上空を飛行するアオイの周辺に2重に展開する魔法陣が出現。

その魔法陣からもう一羽の機械仕掛けの鳥が出現。その鳥も空高く飛ぶと空中にいくつもの魔法陣を展開。その魔法陣から怒涛の魔法弾連射を行う。


アオイともう一羽の機械仕掛けの鳥の魔法弾連射で敵の帝国兵が一層された。

同時に泥と化していた地面が元に戻る。


「やるじゃん。不利な地形で。ここまで戦えるなんて。」

アオイが地上に降り立ち、我が背をポンと叩いた。


うむ。不利な地形とは何のことであろう。


その疑問が顔に出ていたのであろう。アオイが答える。

「あいつら正規の出口じゃなくて、横穴掘って出てきたじゃん。となると穴掘るために土魔法が使える奴らが多数きてるっていうのは簡単に予想がつくよねー。土魔法に対して飛行手段のないアンタは不利じゃん。更にはもっとシンプルな問題だけどアンタの闘いは格闘戦オンリー。一対一で強みを発揮するよねー。洞窟戦向けなんだよねー。洞窟だと狭い通路での戦いだから一対一の状況作りやすいじゃん。こういう開けた場所で奇襲もしやすい塀なんかあるところだと本領発揮できないんじゃないかと思ったけど、そこまで心配する必要はなかったみたいだねー。」

「いや、助かる。」

「あら、やけに素直じゃん?」

「実際に奴らの土魔法とやらで膝まで埋まり今も身動きとれぬからな。」

「ん? 今も。」

「うむ。」


我の足は膝まで泥に埋まって身動きがとれなかった。アオイが敵を倒してくれたおかげで地面は泥状態から通常にもどったが、膝まで埋まった状態で元に戻ったため、身動きがとれぬのは変わらぬのである。


「うむ。じゃねぇえよ。手間のかかる!・・・skufa!」

アオイの手のひらから魔法の衝撃波が放たれ、我の足元の地面を吹き飛ばす。

しかしながら、痛い思いをしたものの我が足が地面に埋まっている状態を開放するには足りぬようだ。


「おり? ならもう一丁! skufa! skufa!skufa!」

「ぬう。待てい!」

「あ? どうした?」

「何も改善されておらぬ。無駄撃ちをやめよ。」

正直に言えば足に衝撃波を受けるので痛いのである。それで脱出の見込みがあるのであれば我慢もできるが、改善の余地が見られぬのであれば別の方策を考えねばならぬであろう。そもそもドラウプニルの鎧がなければ足が吹き飛ぶ威力である。

うむ。痛いのである。


「むうー。」

今度は我の腰に腕を巻き付け、引きぬこうとするが女の力で抜けるようなしろものではない。何より我が重量は80㎏を超えておる。


「テメェら何いちゃついてんだ!」

タイタンが瓦礫と化した巨大な石礫の中から這い出てきた。

その他、無事だったものを数名いるようだ。


「おい! プロネミンス!」

「御意! ・・・Fimbul!Jǫtunn!Fimbul!draca!Fimbul!Óscópnir!sœkja!  fé!」


タイタンに指示されたプロネミンスとかいう部下が冗長な呪文を唱える。


「GYUMOOOOOOO!」

無事だった帝国兵の一人が吠える。

そして着ていた鎧も弾け飛び巨大化した。

同時に人型から別な生き物に変化する。


その姿は巨大な漆黒の一本角をもった黄金の兎という表現が適切か?

その化け物が40m近くまで巨大化した。


「ヒャッハー! これが帝国の戦略ぅうう 戦術ぅぅ! やっとだ! やっと帝国の本領発揮だ。この巨大モンスター!アル・ミラージ相手では手も足も出まい!」

タイタンが勝ち誇った顔を見せる。


ぬう。確かに今のままではどうにもできぬ。サイズが違いすぎる。

もっとも膝下が埋まっているので文字通り足は出せぬという事情を考慮してもだ。


だが、それは今の我だからだ。


アル・ミラージが吹き飛ぶ。

遠距離からの砲撃を受けたのだ。

砲撃の主は知れている。

山吹の眷属 空飛ぶ戦艦 スキーズの主砲の攻撃。

山吹やスキーズは万が一に備えて掘削現場と化している魔石の洞窟入口に待機している。

入り口からも帝国兵が来ないとも限らぬからである。

そのため、そこからは動けぬが、砲撃での攻撃は可能ということであるな。


合理的で、かつ虚を突く、全体視野を持つ山吹らしい攻撃である。


「おらおら! お代りもあるよ。喰らいやがれっ!」

アル・ミラージの上空をアオイが操る機械仕掛けの鳥が2羽飛び回り魔法弾を連射する。


「GYUMOOOOOOO!」

アル・ミラージは攻撃どころか成すすべもなく山吹とアオイの砲撃を受け転げまわっている。


本来であれば、その長大なランスともいうべき漆黒の一本角を構えた突進であらゆる敵を粉砕。あるいは串刺しにするのであろう。

本来であれば、その太い後ろ足による跳躍で翻弄するのであろう。


しかしながら、相手が悪い。戦略家山吹と戦術家アオイの攻撃により本領を発揮出来ぬまま転げまわっている。


アル・ミラージは瀕死になりながらも我と目をあわせる。

そして身に受ける砲撃をものともせず我に向かって跳躍する。


うむ。このままでは勝てぬまでも我だけでも倒そうというのか。

その心意気は嫌いではない。

自分の力を出し切れずに倒れるのは不本意であろう。


我も容赦はせぬと誓った。

我が全てを出し切る・・・本当の意味での全力で相手する!


山吹には空飛ぶ船 スキーズが

アオイには機械仕掛けの鳥がいる。


我にもいるのだ。


「来るがよい。我が眷属 シアルフ!」


我の足元に巨大な魔法陣が展開される。

その魔法陣からせりあげるのは巨大な真紅のフルアーマー。アル・ミラージよりは小型で30m程度であろうか。フルアーマーとはいえ細身であり、その分、機動力を重視していると一目でわかる姿をしておる。背にも2基の推進器らしきものが見える。これもまた機動力重視ということなのであろう。両肩には山羊頭を意匠した肩当がついているのが唯一の外連味であるか。


ふと、我の意識が一瞬途絶える。


「ぬう。なるほど」

この巨大な真紅のフルアーマー。つまり我が眷属 シアルフと同化したらしい。

何らかの補助が働いているようで一瞬でそのことを理解する。

つまり、今の我は30mの巨人と化したと同義である。


これが今の我の全ての力を出し切った姿である。


くるがよい。アル・ミラージとやら。

お主の全力を我の全力で打ち破って見せよう。


アル・ミラージの跳躍からの一本角の突きを最小の動作で躱す。回し受けの応用。一本角の横を掌底で押すのがコツである。


その後、飛び込んできたアル・ミラージの頭をカウンターでのパントキックで蹴り上げる。

中空に吹き飛んだ40mの巨大に捻転からの片手掌底突きを入れる。


「吐-っ!」

『Mjollnir hamme』


我が裂帛の気合と機械音が混じる。

我が片手掌底突きは紫電を発し、アル・ミラージを文字通り粉砕した。



・・・ここまでは良い。ここまでは。

アル・ミラージを倒したあと『スキル:幻獣の角を獲得しました。』というアナウンスもなった。なにやらアル・ミラージの能力を手に入れたのであろう。

山吹からもドラウプニルの能力して敵のスキルを獲得することがあると聞いていた。


これもよい。何かは分らぬが戦力アップしたと思われる。

ここまでは良い。ここまでは・・・


アル・ミラージと戦っている間にタイタンどもは逃亡していた。

また、リサ姉のところに最短でたどり着く手がかりも手に入れることはできなかったのだ。

敵を撃退し被害を最小限にとどめたといえば聞こえは良いが、リサ姉の救出を進展させることはかなわなかった。


なんと理不尽な事か!




---from hedley side---

何がおこっているというのかしら。

洞窟内のモンスターが皆、地下。つまり帝国の方へ退去して下っているではありませんか!


スタンピートに近い様相となっていますわ

これでは洞窟を抜けて「地上」にいくどころかモンスターを防ぐのに手いっぱいですわ。


私もデビルフィッシュもいますので例えスタンピートであろうともドラゴンクラスがこなければ防ぎきる事だけはできますが、これでは「地上」に行くことは難しそうです。


確かに「地上」に近くなればなるほど、何やら大きな振動音が聞こえてきます。まるで工事現場のような・・・。それに対してモンスターたちは怯えて、入口とは反対側のこちらに向かってきているようなのです。


これではタイタンとの連携もとれません。


横道を土魔法で作りながら「地上」を目指したタイタンは無事「地上」にたどり着いたのでしょうか?

本来であればこの洞窟の正規ルートを進む私たちが地上戦力のお相手をして、タイタンが「地上」に到着。巨大モンスター アル・ミラージの人化魔法を解き放ち、「地上」を制圧する予定でしたが。


仮にタイタンがうまくいってたとしたら、またあの不快で下品な笑い方で自慢してくるでしょう。それはそれで腹立たしいですわね。


ええい。このモンスターの群れ何とかならないのかしら。このまま足止めなんて間抜けな事、絶対に嫌ですわ。


---from Akaishi side---


どうやら我は知らずのうちに本当の意味での持てる全ての力を出し切ることができていなかったらしい。その点に気づけたのは僥倖である。きっかけをくれたアオイに感謝を述べると、不思議そうな、慌てた顔していた。あの顔はどのような心情なのであろう?

最後に「困ったら。お姫様に相談しな!」と言っていたので悪感情は持っていないと思いたいが・・・


「む。」

姉からSNSが届く

次の文言が記載されていた。

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今日はモンスター蔓延る洞窟内で穏やか日だった。帝国とやらも攻めてこなかったしね。珍しい事もあるものだ。

そのおかげで戦闘中できなかったモンスターの素材の回収ができたのはありがたいことだ。貴重な研究素材や食料になりえるものを腐らせてしまうのは非常にもったいないことだからね。


かといって静かかと思いきやそうではなく、何やら上層が騒がしい。

何かあったかと想定されるのだが情報がないのだよ。

何か情報を得ていたら教えてくれたまえ。


回収した素材の中に鳥型モンスターがいたんだ。これから焼き鳥がつくれるか試してみる予定だ。

------------------------------------------------------------------


まだ無事のようである。我も焼き鳥を頬張りながらつぶやく。

それにしても上層の異変とはなんであろう?


ネットニュースでスーパー戦隊シリーズ終了と書かれていましたが本当でしょうか・・・ショックです。

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