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episode1神の力

初投稿です。よろしくお願いします。


---from aoi side---


私は亡国の姫。


囚われの女


などと呟いていたら、付人兼秘書兼副官兼護衛兼監視役のカグヤに


「アホな事言ってないでキビキビ動いて下さいね。」と言われた。


「アホって何よ。アホって! 全て事実じゃない!」


「うーん。アンタって何か囚われの姫って感じしないのよね。」


カグヤが人差し指を顎に当てて呟く。

ロングの黒髪もあいまってカグヤの方が私のようなチンチクリンよりもお姫様って感じは否めない。


とは言え…


「それを本人の前で言うのは失礼じゃない?」


しかも、囚われの身分とは言え姫にむかってアンタって…


「ふむ、確かにおっしゃる通り。では言い直します。我が帝国には有能な人材を遊ばせる気はございませぬ。」


おおっ

私はカグヤの手をがっちり掴む。


「カグヤ! アンタ解ってるじゃない!」


「何がですか。急に。気色悪い。」


「有能って言った? カグヤ。有能って」


「はい。私は事実は事実としてお伝えしますよ。」


おお、こいつわかってんじゃねえか。

さすが私の付人兼秘書兼副官兼護衛兼監視役


「実際のところ、アンタの国を攻めた時、もっとも厄介だったのは、王国騎士でも王様でもアンタの兄でもなくて、アンタ一人だった。」


うーん。

私は複雑な顔を浮かべる。


カグヤなりに私の有能だという事例をあげたんだろうけど、その例が私の国を暗にディスってるっていうのがなー


それに…

「うーん。あのアホ兄の事、思い出しちゃった。」


私が母国のために戦っている時にアホ兄は裏切り母国敗北⇒滅亡のキッカケを作った。


「あら、話題選びに失敗したかしら?」


「いや。 そう言えばアホ兄はどうなった?」


「帝国は国のために奮迅した勇者を四天王に据える事はしますが、国を裏切った人材を扱う事はありません。」


「そっか…。」


婉曲な言い回しだが、裏切り者の行く末なんて知れている。


「それにしてもアタシが四天王だもんね。帝国の人事戦略おかしくね? 元敵だよ。」


「おかしくはありませんよ。アンタに帝国がどれだけ苦しめられた事か。帝国を苦しめたアンタは十分、四天王に座る資格がありますわ。」


「苦しめた覚えはないなー。どちらかと言うと必死に迎え撃っただけで…。 そうそう、あの人化魔法は反則じゃね? あれで、こっちの防衛線は一気に瓦解したわ。」


「クスッ、あの時はアンタ、油断しましたわね。人化魔法は我が帝国が誇るダンジョン攻略の切り札。まだ誰も攻略されてませんわ。」


確かになー。

人化魔法は初見殺しだわー。


人化魔法は、最強モンスターであるドラゴンが人間に化ける事から着想を得た魔法らしい。


ドラゴンが人に成れるなら、他の大型モンスターも同じ事出来るでしょ。という発想から産まれた企画を実行してしまう底力は流石、帝国だ。


要するに人化魔法はモンスターが人間サイズに化ける魔法。


まだ、完成には至っていないため容姿が人間形態時に元のモンスターの特徴が残ってしまったり、元に戻るには条件があったりするが、それでも戦力と考えると十分


この魔法は従来の戦の概念を変えてしまった。


私の故国やこの帝国も含めた地底国家郡はダンジョンで繋がっている。


地底の中にある大きな空洞に国家があり、その国家間を繋ぐのがダンジョン。


ダンジョンは道幅が狭く戦闘行為を行うと考えた場合、4〜5人が限界。

軍隊を派遣するというのは現実的では無い。


仮に軍隊を派遣したとしても、防衛側はダンジョンから出てきた少人数の敵を順繰り、防衛戦力の数に物をいわせてタコ殴りすればいい。


実際に私の父であるアホ国王は帝国がダンジョンを通って攻めてきたという報告を受けても


「帝国ってアホじゃね? どんだけ~大兵力あるか知らんが、ダンジョンから一度に出れるのは4人ぐらいじゃん。出入口で待ち受けてればこっちは余裕、余裕。あいつら地底国家群の常識も知らんのかしら?」


と油断しまくりだった。


まあ、そん時の私も同じだ。

魔法部隊を率いて防衛線に参加していたが、帝国はなんでこんなアホな攻め方をしているのか呆れたものだ。


当時の戦は、ダンジョンにより少人数で攻めるしかないという事情から文字通り、一騎当千の戦力が必要。逆に言えば、そういった戦力が無いと他国を攻めるなんて出来ない。


私のようなかつては敵国の人間でも帝国が戦力になりそうな人材を重用しているのには、そういった事情がある。なんのわだかまりも無く、そのような合理的な考え方を実行出来るのが帝国の強みだ。


そんなロジカルな思考の帝国がアホな攻め方をするハズが無い。


人化魔法にてS級クラスの巨大モンスターを人間サイズにしてダンジョンを移動。

ダンジョンを出たところで人化魔法を解除。


この手順をとると敵国にS級モンスターを送り込めるのだ。

敵国が暴れ回るS級モンスターに右往左往している間に兵士を順次送り込んで制圧。


これが帝国の戦術であり、私の祖国が滅亡した原因だ。


「だって、誰も人間サイズにS級モンスターが化けてるなんて思わねーべさ。初見殺しもいいとこだわ。」


「クスっ。誰も思わない盲点を突く。戦術の基本ですわ。」


「ケッ」


そんなことをカグヤとダベりながら歩いてる内に前方に光見えた。


「どうやらゴールのようですね。」


「そうね。」



今の私の状況を簡潔に箇条書する


祖国が帝国に攻められ滅亡

私、亡国の姫として囚われる

帝国、父王を人質に私を四天王として登用


四天王として馬車馬のように働かされていた時、地震発生

地震発生と同時に新ダンジョン出現

帝国は新ダンジョンの先に新たな侵攻先があんじゃねという仮説を元に私の部隊を派兵決定。

私、新ダンジョンをお目付け役のカグヤと数人の部下と共に移動⇐今ココ


この新ダンジョン。

帝国はチョッチ期待している。


地震とともに現れたのは新ダンジョンだけじゃ無かった。


城とも砦とも形容し難い大規模施設も落ちてきた。

その大規模施設にいた住人が期待の元だ。


何故なら、その大規模施設の住人が「地上からきた。」と言ってたのだ。

帝国も含めた地底国家群にとって地上は伝説の理想郷。


天は青くひかり輝き。

大地は緑に覆われ。

端が見えない広大な大河りがあるという


更に見たこともない文明

見たこともないおいしい食べ物もあるらしい。


おいしい食べ物。

うん。これ大事。特に肉。


ところで「地上」というユートピアへ兵を進めるにあたって帝国にとって懸念事項がある。

見たこともないおいしい食べ物だけでは無く、見たことも無い戦力がある可能性だ。


帝国は領土拡大を国是としている自他共認める侵略国家だ。


欲しいものがあれば攻めて手に入れる。力で手に入れる。


地上から落ちてきたと思われる大規模施設も帝国は当然欲し、当然攻めた。


が、見たことも無い戦力で抵抗され、未だ制圧出来ていない。帝国は四天王タイタンを投入したが攻めきれず、タイタンも攻めるのは止めて包囲に移行したらしい。


一度、陣中見舞いに行ったら

「奴らは孤立無援。補給も無い。そのうち餓えて我が帝国に頭を垂れるであろう!」と攻めきれないでいるのに高笑いしてた。


アホなんだろう。


それはともかく帝国も地上に向かう為に新ダンジョンを攻略する部隊に対する戦力補強の必要性を感じ、最初から四天王派遣を決めた。


それ今の私の立場だ。

はた迷惑な話だ。


ともかく、それ程、困難な事なく新ダンジョンの出口にたどり着いた様だ。


この先が伝説の地上であれば、私は帝国で初めて伝説の地に降り立つ名誉を受ける事になる。


「全隊止まれ。ここから先は私とカグヤの二人で行く。」


タイタンの事例がある。

下手に攻めて膠着したら負けるのは補給の続かないコチラ側だ。

この先は敵地なのだ。


だからイキナリ敵対するのでは無く、まずは偵察から始める。


ふとカグヤを見るとジト目で私を見ている。

何だよ。

この判断、そう間違っては無いはず。


「間違ってますわ。」

カグヤがボソッと呟くように言う。


「何が? 何があるかわからないなら様子見から始めるでしょ?」


「それは良いのです。 ただ、」


「ただ?」


「アンタと私とで偵察に行くという事が間違ってますわ。」


「ん?どういうこと?」


「行くならアンタ一人で言って下さい。」


「アホか。アンタも行くんだよ。どこの世界に組織のトップが一人だけで偵察に行くんだよ。」


「割とラノベの中では多い設定では?」


「ラノベとかワケワカンナイ事言ってるんじゃねぇ! 何のための付人兼秘書兼副官兼護衛兼監視役だ。どれ一つ役目果たしてねえじゃねえか!」


「寂しいのですか?」


「なんでだよ! 偵察に行くのに寂しいって、どんな偵察だよ。」


「では、大丈夫ですね。いってらっしゃ~い。」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――



くそ、何故か一人で「地上」を偵察する事になったよ。


責任者が自ら偵察するっておかしくね?

それはともかく…


「地上」は理想郷というのは本当だった。

特に食べ物!


味噌ラーメン

カツ丼

餃子

カレーライス


食べたこともない「地上」の美食の数々


特にモンブランとかいうケーキが美味い

調査の結果、茶色と黄色のニ種類があるらしいが私は断然、黄色派だ。


スイーツは甘味です。と割り切った甘さが、これまだ甘くてスッキリのミルクティーとかいうホットドリンクにあう。


帝国にも料理は存在するが、「地上」と比べると雲泥の差だ。


例えばカツ丼って凄くない?


豚肉をソテーのサイズに切り分けて、そのまま豚肉ステーキにすりゃいいのに、わざわざ衣を着けて揚げて、それだけでも美味しいのに、今度は溶き卵と一緒に煮るんですよ。一度揚げた完成された料理を更に煮るって発想がすごい

更に更に、それにとどまらず、熱々、ご飯にのせるって、こんな料理考えた人って神じゃね?


パフエというのもすごい。

アイス・チョコレート。それだけで完成されたお菓子を、調理素材として活用している。

そういえばかつ丼もそうだった。トンカツってだけでもう完成されているのに、それを素材とするなんて発想なかなか出てこない。



いやあ極楽、極楽

カグヤ来なかったけど、こんな美味しい料理食べる好機を逃すなんてアイツ、アホじゃないかしら。


さて、次はどこ行こう。

満腹になったし、次は趣向を変えて…


目の前を蝶が飛ぶ。私の好きな生き物だ。私の国の菜の花畑にいたのを思い出す。蝶は地上にもいるらしい。自分の国にいた蝶が地上にいることでちょっと安心する。


その蝶をぼんやり目で愛でていると。視線の先に気になる建物が見えた。


何だ、この建物?

映画館?


何のための建物かは解らんが、その映画館に張り出されているポスターに気になる文言が書いてある。


「地底戦隊 ガイアーズ」


「地底」とな?


帝国や地底国家群に関係する事だろうか?

これは調査しなければなるまい。


幸い資金はいくらでもある

「地上」では金の価値が高いらしくいくらでも換金できる。


断じてポスターに描かれているイケメンに惹かれたからではない!


………



結論

見なきゃよかった…


いや偵察という意味では見て正解だった。

いや必ず見なければならないものだった。


この映画館というのは未来の映像を映し出す予言書。または魔道具のようなものであるらしい。微弱ながら魔力も感じている。


何しろ、帝国の四天王が全員出てきた

タイタンもヘドリーもデビルフィッシュも

そして私も


さらには皇帝陛下さえも出てきた。


「地上」の人はまだ我々地底の帝国の事は知らないはずだ。


それなのに四天王や皇帝陛下の事を映し出している。

未来予知が出来ているとしか思えない。


さらに


その映画館というの名の予言書には帝国が地上を攻める事が描かれていた。


何故、我々がこれから進めようとしている作戦がわかっているのだ?

未来予知が出来ているとしか思えない。

さらにさらに


その映画館という名の予言書には私を含めた四天王及び皇帝陛下が倒され帝国が滅ぶ様が描かれていた。


これが本当に未来の事を描いているのであれば私は倒される事になる。


嫌だ。

死にたくはない。


それが祖国の為ならまだしも、祖国を滅ぼした帝国と心中なんて真っ平ゴメンだ。

私にはまだやることがあるんだ。


見なきゃよかった。


……


いや、今、この情報を得た事を最大限活用しよう。未来を変える方法はあるはずだ。


まずは皇帝陛下に進言して「地上」進出を諦めてもらう。


いや、 私の進言ごときで止まる皇帝陛下では無い。この映画館で描かれている事を実際に見たものじゃないと根拠も弱く伝わらないだろう。


では、「地上」に勝てるように戦術を練り直す。


いや、これも同じで、この映画館で描かれている事を実際に見たものじゃないと戦術変更の根拠が弱く、皆の同意を得る事は難しい


ではどうする?


私が死なないためには?




---prologue ---


20××年。

地上に突如現れた巨大な洞窟。それは地上の動物とは全く違う生態系をモンスターが蔓延る危険な場所であった。


その危険だけだった洞窟に新たな利用価値が生まれた。

北都大学の藤リサ教授率いる研究チームがその洞窟でのみ採掘されるエネルギー体を発見。そのエネルギー体を「魔石」と命名。洞窟も通称「魔石の洞窟」と呼ばれるようになった。


「魔石」は火力・原子力という電力に変換せずともダイレクトに活用できる新エネルギーと注目された。


リサ授率いる研究チームは更なる研究のためモンスター蔓延る洞窟内に研究所を設置。

更なる研究開発に期待が高まる中、崩落事故が発生。

研究所は洞窟内に沈んでしまう。


事態を重く見た政府。そして北都大学の有志は急遽レスキュー隊を結成。

レンジャーワンと呼ばれた彼らレスキュー隊はリサ教授達の救出に向かった。



---from akaishi side---


「ぬう。」

なんと理不尽な事か


リサ姉を救い出す


我が願いはただこれだけなのだが

「ただこれだけ」が困難である。


いきなり門前払いである。

理由を問うと「危険だ。」という。


「ぬう。」

我は試案する。


リサ姉は研究者である。

魔石の研究をしている。


新たに発見された洞窟内から採掘される石ころ。

それが魔石というらしい。


何しろ念じれば火やら水やら電気やらが発生するのだ。

石炭もガスもウランも不要なのだ。

ここから採掘される魔石は新クリーンエネルギーとして期待されているらしい。


リサ姉が、言うには新たな産業の可能性があるものらしい。

門外漢の我でも重要という事は理解できる。


その魔石を研究し、魔石の洞窟を探索していたのが我が尊敬するリサ姉である。


勘違いしないでもらいたいのは我はリサ姉と呼んでいるが、血縁という訳ではない。

我が苗字は赤石である。そしてリサ姉は藤姓であることからもわかるであろう。


簡単に述べるならリサ姉は我が通う、総合格闘ジムの先輩である。


我は幼少の頃より学校で空手の顧問をしていた祖父の勧めもあり空手を嗜んでいたが、高校にあがり壁にぶつかってしまった。


空手には大きく、組手と形があるのであるが形が苦手であった。

他の人間にとっては違うのあろうが、我のような不器用な人間のとっては全くの別な競技としか思えぬ。


その壁にぶつかっていた時に何気なしに見学させてもらった総合格闘ジムでリサ姉と出会った。

見学するかどうか逡巡する我を見つけ「なんだ。迷っているなら入りなよ。一歩踏み出さないと良いも悪いもわからないだろ?」と背中を押してくれた。


このジムは水があっていたようである。

元々、高校の部活というのが何となくではあるが苦手であった。


それに・・・ジムにはリサ姉がいた。

彼女は熱心に我を指導した。我は年上の彼女をリサ姉と呼び慕うようになった。


多少、指導が熱心すぎて困ることはあった。

何しろ総合格闘である。打撃だけではない組技・寝技も行う。

リサ姉はスパーの時に遠慮なく体を密着させてくる。

我も健全な男子である。

どうにもやりにくい。


これさえなければ、まさに我にとって完璧な場所であった。

我はこのジムに通うことにした。


出会った当初、我にとってリサ姉は不思議な人物であった。

よくよく見ると護衛らしき人物が常に近くにいた。


漫画などではよく護衛がいるお嬢様といったキャラクターが現れる。

現実にそんな奴はいないと思っていたが、どうやら我の見識が狭かったらしい。


かといって、失礼極まる印象ではあるが、リサ姉にお嬢様というイメージはもてぬ。

スパーと称する鍛錬をリサ姉と幾度もなく行ったが、何しろ敵となれば容赦なく攻める獰猛で、かつ詰将棋のように理知的な攻め方を得意とした。

我も何度、落とされたかわからぬ。

敵を容赦なく失神KOさせるお嬢様なぞ我は知らぬ。


とはいえ、明らかに護衛と思われる人物がいるとなればそれなりの要人ではあるのであろうということは鈍い我にも理解できた。


そのため我は遠慮して距離を取ろうとした。

我とは住む世界が違うであろう予測されたからである。


しかし・・・

どうやら我が浅はかであった。


「君まで。そんな態度をとるのか。」

とリサ姉は悲しい顔をした。


その顔はおそらく二度々忘れることができぬであろう。


その時に我は初めてリサ姉がどのような立場の人物なのかを知った。


彼女は北都大学の研究者であった。


彼女を一言で言い表すなら、行動する天才である。

危険極まりないモンスターのいる魔石の洞窟を研究テーマとしている変人であり。

その持ち前の行動力で「魔石」という新エネルギーを発見し。若くして「魔石研究の第一人者」となった天才である。

現在、リサ姉しか魔石に詳しい人物がいないため、政府も万が一のことがあってはならぬと護衛を派遣しているという状況らしい。


「研究自体は楽しいのだけどね。周りの人が変わってしまった。」

とリサ姉は嘆いた。


利に敏い企業はリサ姉を取り込もうとし、

逆に現エネルギー企業は魔石という新エネルギーが広がらないよう端的に言えば邪魔をするようになり、

政府はリサ姉の身の安全と技術流出を恐れ籠の中の鳥にせんとし

同僚の研究者も嫉妬から邪魔する者も現れだした、

また有名になったリサ姉の醜聞を得ようと有象無象が群がりだしたらしい。


「そういう中で、君だけが私の心のオアシスだったのに。」

リサ姉はそう言っていじけた。


我はその本心を聞いて、我の浅慮を恥じるとともにリサ姉に寄り添い、彼女が我に求めている心のオアシスたらんと不器用ながらも努力した。


リサ姉はまだ若いし、我もまた高校生である。

言うのも恥ずかしいことではあるが、その努力の結果、リサ姉と自然と恋仲に近い関係になった。


もっとも傍目には姉貴分と弟分にしか見えないであろうが。


そのリサ姉が行方不明となった。


行方不明となった場所はわかっている。


研究フィールドとしていた魔石の洞窟である。

リサ姉の研究チームは豪胆にも洞窟内に研究所を設置していた。

研究は現場に近ければ近い程良いという実に分かりやすい理屈からだそうだ。

現場主義のリサ姉らしい考えである。


煩わしい人間関係を避け、研究に没頭したいという意図もあったようである。


当然、危険もあった。

この洞窟には今までにない危険生物=モンスターも棲息していたのだ。

この魔石の研究が利益がでるとわかっているにもかかわらず、若きリサ姉が第一人者になっている理由でもある。

誰もこのようなモンスターの出る危険な場所を研究題材とはせぬ。

豪胆なリサ姉はそのモンスターも研究対象にしようと考えていた節がある。

我にモンスター図鑑さながらの研究データを披露してくれたこともあった。


いずれにせよ、リサ姉の職場である魔石研究所は洞窟内にあった。


勿論、モンスターの跋扈する洞窟内の施設だ。

防衛設備も整えられており、食料もある程度は自給自足できるように畑や酪農施設もある。


我もリサ姉について何度か出入りしたことはあるが研究所というよりは前線基地である。

政府が拠出したのであろう火器も揃っていた。

モンスターも幾度となく撃退に成功しており姉達の研究材料となっていたようである。


そのモンスターの襲撃に対して強固な設備を持つ研究所も崩落には無力であったようだ。


地盤が崩落し、研究所は文字通り地のそこに落ちた。


リサ姉ごとである。


それを2日後に知った我はリサ姉を救うべく魔石の洞窟へ向かった。

知ったのはリサ姉からのSNSである。

無事ではあるが脱出できぬらしい。


急がねばならぬ。


が、洞窟は封鎖され立ち入り禁止となっていた。


崩落現場に自由に立ち入りさせるほど甘い国では無い。

洞窟の入口には非常線がはられ、警官が我の行くてをふさぐ。


「ぬう。」

我は思案する。


目の前の警官は我を洞窟内に入れる気は無いようだ。

数人で立ちはだかっっている。


彼らは彼らで我のことを心配してくれているのであろう。


モンスターの出る洞窟なのだ。危険と考えるのが尋常の考え方なのであろう。


その心配はありがたいが、無用である。


我は幾度となく鍛錬の一環として洞窟に出入りし、安全なルートは把握している。それにゴブリン程度であれば上手く捌く自信はある。

その自信があるからこそ、姉を救いに行くのだ。


しかしながら

「心配無用」

と目の前の警官に伝えてはみたものの通す気は無いようだ。

なんと理不尽な事か。


他の人間にとっては危険かもしれぬ。

が、我は幾度となくこの洞窟に入り生還しているのだ。

いまだ五体満足で生きているのがその証拠である


しかしながら、ここでこのまま押し問答を繰り返しても埒はあかぬ。


我は正規の入口を避け魔石の洞窟のある小山を更に登る。


ここに我とリサ姉しか知らぬ秘密の入口がある。

正規の入口ほど大きくは無いが4〜5人程度なら何とか出入り出来る。


我が鍛錬。そして良くリサ姉のいる研究所に出入りするために使っていた。


今回もここを使う。

ここを使えば楽に研究所に向かう事出来る。


「む。」


おかしい?


ここは我とリサ姉しか知らぬ場所だ。

だが、どう見ても複数の足跡がある。

何者かが出入りしたのは明らかである。


現在、洞窟内にある研究所が崩落事故で消失し、そのためレンジャーワンとかいう捜索隊が組まれている。

その捜索隊のものであろうか?


それならば理解できる。

が、明らかに人ではない足跡もある。


洞窟内のモンスターが出入りしたか?


いずれにせよ、慎重に進む必要がある。


一歩一歩洞窟に足を踏み入れる。


洞窟とはいえ何度も通った道だ。迷いはせぬ。



突如、洞窟内から悲鳴聞こえる。

あわせて、これは銃声か??


むう、判断に悩むが…


慎重に悲鳴あった方へ向かう。

何かしらの危機が洞窟内であったのであれば放置は出来まい。


綺麗事では無く、その危機が我に向かう事も考えられる。


途中、爆発音が鳴り洞窟内が鳴動した。


何だ。


崩落実績のある洞窟内で爆発?

我の本能が最大限の危険アラートを鳴らす。


ふーっ


両足を肩幅にし息吹を行う。

呼吸を正し、精神を本能に負けぬよう整える。


危険は承知で此処に来たのだ。

危ないからと言って退くようでは我もたかが知れる。


――――――


悲鳴と銃声と爆発音の現場は予想通り戦闘中であった。


状況や格好から推察するに洞窟内のモンスターと何らかの部隊が交戦している模様だ。

その部隊はおそらく姉の研究所を探すために編成された捜索隊レンジャーワンであろう。


洞窟の入り口をふさいでいた警官が「捜索隊がいま洞窟内で失踪者を捜索中だ。だからひっこんでいろ!」とも言っていたしな。


さらに接近して状況を確認する。

先程、交戦という表現をしたが適切ではないようだ。

既に勝敗はついており、捜索隊が蹂躙されている。


捜索隊の一人が最後の抵抗とモンスターを銃撃するが胴に撃っても通じず、逆にモンスターの手から放たれた衝撃波を喰らい銃が爆発し、腕が吹き飛んでいた。


むう。


あのモンスターはそうやって倒すのでは無い。

彼奴には胴体が無い。


捜索隊が交戦し、敗北し、蹂躙を受けているモンスターの一体は山羊の頭蓋骨に黒マントのモンスターであった。


あのモンスターはいきなり手のひらから衝撃波を放ってくる強敵である。

そして胴体がない故、接近して頭を狙うのが良い。


その山羊頭の他に鎧をまとった緑色の皮膚を持つモンスターが2体。

確かゴブリンと言ったか、オーガと言ったか。

いずれにせよ人に非ず鬼の類と姉に聞いた。


これがモンスター側の陣容である様だ。


対する捜索隊は一人…二人…

…概ね20名か。


20対3で敗北し、蹂躙されているのか…


見ると蹂躙されている捜索隊には何名か女性隊員もいるらしい。


いかん。

我がリサ姉も「女性には優しく」と言っておった。

戦力分析もここまでである!



「退けい!」

我は一喝と同時にその場に飛び出す。


そのまま山羊頭に向かいブラジリアンキックで叩き落とし、そのまま膝を落として頭蓋骨を粉砕した。


この山羊頭のモンスターは初見殺しだ。


胴体が無いため胴を狙っても無効化され、遠距離では衝撃波が、近距離でもたつくと精神を侵す魔法を放つ。


知っていれば恐ろしい敵では無い。

リサ姉のモンスター図鑑様様である。


虚をつかれ硬直したゴブリンだか、オークだか良く解らぬ、緑色の肌を持った鎧武者の懐に入り掌底で顎を撃つ。

同時に外から足を刈り上げた。


謀らずも高速低空の喉輪落としのようになり、敵を脳天から洞窟の硬い床に叩きつけた。


そのまま動かなくなったところからするとオチたのだろう。

人型は対人の技が通用するのでやりやすい。


残る敵は一体。


残った緑色の肌をした鎧武者が慌てて飛びかかってきた。


が、隙だらけだ。


体捌きだけで突進を躱し、サイドに回る。

脇腹がガラ空きであることを確認する。


「ぬおおおおおッ。」

肩から背中にかけて力を入れる。筋肉が盛り上がる事を感じる。腰を捻転。腕が鞭のように広げる。

そもままスーッと滑るような歩き方で振り下ろされる敵の拳をギリギリで避けつつ

一気に懐に近づく。


「吐ーッ!」

捻転を戻すと同時に高速で 掌底を敵の脇腹に突き入れた。


体がバネが戻るかのような速度で回転する。

そこから速射で繰り出される大砲のような片手突き。


問答無用で敵がくの字に折れ曲がり吹き飛ぶ。


我が得意とする技の一つである。


捻転の溜めが必要なため隙は大きいが、この銃弾を阻害する鎧を着込んだ敵に脳震盪をおこす以外で必倒の技は我が手持ちの中ではこれが一番である。


「ふー。」

呼吸を正し、残心する。


ここは敵地である。

敵を倒したといって油断は出来ぬ。

スポーツの試合では無い。

戦闘が終わった後で再び襲われる事も当然あると考えねばならぬ。


「ぬ。」


残心を解かぬのが功を奏したか。

新たな敵の気配を感じる。


「むう。おぬしら等、速く退けい」

我は倒れている捜索隊に声をかける

気配のする方を正面に見据えつつ


敗れ、蹂躙されダメージを受けている捜索隊には申し訳無いが、一人で20名を移動させるわけにはいかぬ。


危機が去っていないのであれば尚更である。


「わ、分かった。助かったありがとう。アンタも気をつけて。」


捜索隊の一人が気丈に立ち上がり倒れ、負傷している部隊をまとめ退却していく。



「魔物にも紳士はいるのか。」

退却を見届けた後、敵の気配のする方へ声をかける。


敵の気配は捜索隊の退却中も消えなかった。

襲ってくる訳でも無く

去るわけでも無く


と、なれば敵の狙いは絞られる。


我との一騎打ち。

そのためにわざと退却する捜索隊を見逃したとしか考えられぬ。


「紳士か。そこまでは至っておらぬ。」

気配のする方から男が現れる。


「ぬ?」


我は意外であった。

てっきり歴戦の戦士のような魔物が現れるかと思いきや白髪、アンコ型体型で白衣を来た男が現れたのだ。大学教授や医者や研究者には見えるだろうが戦士には見えない。


「うぬは何者だ。研究所の生き残りか?」


まったく判断がつかぬ。

非戦闘者の格好と歴戦の戦士ような佇まい。

此奴はどちらだ?

敵か? 味方か?


「研究所の生き残り? ああ、この白衣とかいう衣裳か? コレは…」


男はニヤっと笑い。


「倒して奪ったのよ。」


我の体が無意識に動いた。

踏み込み左ハイキックを放つ。


此奴は敵だ。


元々、白衣を着ていた人物

つまりリサ姉のいた研究施設で働いていたであろう人物

その人物を此奴は倒した。

と言ったのだ。


倒して奪ったと言ったのだ。


敵では無かったとしたら何者だろうという事なる。


我のハイキックに対する男の反応は早かった。


男は素早く屈み、蹴りを放ちながら回転する。


水面蹴りか!


ハイキックを放っていた軸足を重量のある水面蹴りで刈られる。


重い! 何と重い蹴りか!


辛うじて転倒を防いだ我に、男が、背面から突き刺す様な蹴りを放つ。


トラースキックか!

その図体に似合わず何と多彩な蹴りを放つ事か!

しかも重い。


両腕を使用した十字受けで防ぐが威力を殺せず後方に比喩ではなく吹き飛ばされた。


見ると男の攻撃はそれで終わりでは無いらしい。

その巨体で当方に向かい走ってきてる。

そのまま胴回し回転蹴りを繰り出してきた。


ぬう。我に格闘戦を挑むとは。

舐めるな。


蹴りが放たれる前に踏み込み男の尻をキャッチ。そのまま頭から投げ捨てた。


地面に叩きつけられた男から鈍い音がする。

そのまま倒れている男に追撃のローキックを放とうと構える。


??


いや、ここは距離を取ったほうが良い。


我は構えを維持したまま後方に下がる。


我が違和感を感じたもの。

それは、男の頭が脱皮のするかのように皮が歪み、その皮の下から赤い触手が出ていた。その異形の姿。


「うぬは人間では無いな?」


男は返事の代わりに脱皮しかけている頭の皮を投げ捨てた。


そこには真っ赤な蛸の頭があった。

うむ。リサ姉のモンスター図鑑にも記載がない。新種のモンスターであろうか?


「吾輩の名前は帝国四天王デビルフィッシュ。人を超越し、やがて神に至る者よ。」


帝国? このタコ男。何やら聞き捨てならぬ言葉が出てきたが、とりあえず名乗りには名乗りで返さねばなるまい。


「我が名は赤石。この洞窟にあった研究所を探しておる。」


「ほう、あの落ちてきた施設は研究所であったか。」


「ウヌは知ってるのか?」


「知ってるも何も、我が帝国の攻撃対象よ。今頃は同輩の四天王タイタンの手によって陥落してるだろう。」


「!」


リサ姉は無事か?

気が逸る。

安否を知りたいがこのタコ男に素直に聞いても無駄であろう。

この男はリサ姉のいる施設を攻撃対象と言ったのだ。

即ち敵である。

素直に教えるとは考えられぬ。


逸る気持ちを落ち着かせねばならぬ。


今ある、手持ちの情報を整理する。


リサ姉の施設は洞窟内で崩落にあい、その落ちた先でこのタコ男が所属する帝国とやらの攻撃を受けている。


という事らしい。


そして、このタコ男はその施設を襲撃した実行犯であることは間違いあるまい。

奴は施設職員の白衣を着ている。つまり施設を襲い職員の白衣を奪ったのだ。


つまり居場所を知っている


「研究所の場所まで案内してもらおうか。」


「ほう。帝国四天王の俺に命令するとは酔狂な。その珍しさに案内してもよいか。いや無条件はよくないな。」


「・・・。」

相手の出方を伺う。どんな条件を出してくるか? 

まったく我は姉を救いたいだけだというのに条件を出されるとは理不尽な事だ。


「この俺を倒してみろ。こういうのは好きだろう? 同類?」

タコ男が肩で笑う。


なるほど、確かにこういう条件は悪くない。

鍛錬に鍛錬を重ねた我の腕が試せるというもの。


「悪くない。だが、後悔せよ。」

我は踏み込む。


「ふぉふぉ。やはり同類か。地上の戦力堪能しよう。」

タコ男は我の踏み込みにあわせてミドルキックを放つ。

あんこ型体形というどうみても格闘者ではない体ながら、見るからに重い蹴りだ。


だが、遅い!

体捌きだけでサイドキックを躱し、サイドに回る。

脇腹がガラ空きであることを確認する。


「ぬおおおおおッ。」

肩から背中にかけて力を入れる。筋肉が盛り上がる事を感じる。腰を捻転。腕が鞭のように広げる。

そもままスーッと滑るような歩き方で振り下ろされる敵の拳をギリギリで避けつつ

一気に懐に近づく。


「吐ーッ!」

捻転を戻すと同時に高速で 掌底を敵の脇腹に突き入れた。


体がバネが戻るかのような速度で回転する。

そこから速射で繰り出される大砲のような片手突き。


問答無用でタコ男がくの字に折れ曲がり吹き飛ぶ。


先程、ゴブリンだか、オークだか良く解らぬ、緑色の肌を持った鎧武者を倒した通背拳を組み入れた寸勁である。


「さあ、研究所に案内してもらおうか?」


洞窟の壁に吹き飛び、倒れてるタコ男に近づき告げる。


「ふぉふぉ。甘いんじゃないか? 地上の勇者よ。」


タコ男から黒い墨が吐き出された。

不覚!

間抜けにもまともにくらい。目が見えぬ

ぬう。タコ男の言う通り甘い。ここで残身せぬとは、我もまだ未熟!


続けて胸に刺されたような痛撃を受ける。


なんだ?

見えぬからわからぬが、槍か何かで刺されたような痛みを受けた


疑問が浮かぶ

あのタコ男はそんな槍のような武器なんぞ所持してはおらぬ。

で、あればこの攻撃はなんだ。


「ふぉふぉ。瞬発力・攻撃力はあるが、防御力はそこまででもないようだの。それに甘い。実戦経験は無いと見える。さあ、デビルフィッシュのランスでハチの巣となれい。」


うぬ。


ランス。ランスと言ったか。

無学な我でもランス=槍ということぐらいは承知している。


今のはやはり槍の攻撃なのだ。

どこだ? どこに槍があった?


「!」


空気の揺らめきのようなものを感じる!

勘だが。何かの攻撃ではあるまいか?


大きく横っ飛びで飛ぶ。


目が見えぬ今、ギリギリで避けるなどという芸当はできぬ。

大きく飛んだほうがリスクが少ない。


が、相手もそう甘くはないらしい。

横っ飛びで飛んだはいいが、右太ももに被弾した。


足はまずい。これでは自在に動けぬ。


徐々に視界が回復する。

タコ男の墨は、それほど長い時間、視界を奪うものではないらしい。


「ぬう。」

タコ男が変化していた。

頭が赤から黒へ。

そして前の蹴りを主体とする重心を低く落とした構えから、腕を組み背筋を伸ばした構えへ。

そしてタコの頭から生えている8本の蛸足がうねっている。


黒い頭とうねる蛸足。“デビル”の名を冠するに相応しい異形。


「なるほど。化け物であったな。」


なまじ相手がミドルキックなどの格闘戦を挑んでくるものだから、つい嬉しくなり失念したが、彼奴らの本質はモンスターなのだ。

これは失念したこちらのミスだ。


「化け物とは失礼な。吾輩はやがて神に至るものよ。」

タコ男は腕組みしたまま、しかし8本の蛸足が穂先鋭く、我を貫かんと構える。


なるほどあれか。先程、吾輩を貫いたのは。

8本の蛸足の槍


奴は武器を持っていたのだ。


まずい。


視界は回復しつつあるものの胸と右太腿に被弾している。出血もそうだが、足のダメージが思いのほかキツイ。踏ん張りが利かぬ。


これでは攻撃も躱すのもままならぬ。


死。


この文字が頭によぎる


なんと理不尽な事か

リサ姉を救出しにきただけなのに、このような目に合うとは。


さて、この急場

どうする?



---from yamabuki side---


気がつくと真っ白い空間にいた。


これはまさか有名な異世界転生時に訪れる神の空間ではないか!


なんて最近呼んでいる小説の事を考えていた。


こういう場で神様が出てくるのが異世界転生小説の定番である。


そして異世界へ旅立つ主人公にチートなスキルをプレゼントするのが鉄板だ。


そんなことを考えていたら何やら神様らしい人物が近づいてきた。


しかも三人。いや神様だとしたら三柱?


単位がよくわからんが三柱とは大盤振る舞いだよ。スキルも3つもらえるのでしょうか?


僕がよく読む小説だと、デフォルメされた少年少女の姿をとる神様が多いが、あらわれたのは一目で神様だとわかる姿をしていた。


右側の神様は神々しく金色輝いていた。人形してるっていうのしか判別できないくらい眩しい。


左側の神様はギリシャ彫像の様に筋肉隆々。真っ赤な髪と緋色のマントを羽織っている。


中央の神様は深い藍色のフードを羽織り中空に浮く魔法陣の上に座っている。あの片膝立ちの座り方は本で見た事がある。吉祥座とかいう仏様の座り方だ。


三者三様の姿だが一目で神様だというのはわかる。


「礼を言う。」


中央の神が言った。


「我々の封印を一部とはいえ解いていただき感謝する。おかげでいくつか権能を回復させることができた。」


金色に輝く神が言う。同意するように赤毛の神も頷いた。


なんか見ず知らずの神にお礼を言われた。


というか話しの流れがおかしくない?


ここは異世界転生するための場所で、テンプレではスキルをくれる流れではないのでしょうか?


「・・・あの・・・質問してよいですか!」


「ああいいよ。」

金色の神がフランクに答える


さあ、ここでの質問が重要だ。


あなたたちは神で間違いない? お礼って何? 異世界転生じゃないの? スキルくれるの? 転生先はどこ? 魔法使えるようになる? 食べ物は美味しいところ?勇者やヒーローになれる?


いくつも聞きたいことはあるが・・・何から質問しようか?


「正直、突然、お礼を言われて当惑してます!」


僕は考えた末に、この質問から入ることにした。相手は神々しいとはいえ神様と決まったわけじゃない。いや神にだっていい神様もいれば邪神と呼ばれる類もいるだろう。


いきなりスキルをねだって、とんでもないものをもらったら大変だ。

ジャブからはいろう。


「ほう?」


中央の神が先を促すように相槌を打つ。

「お礼を言われることはしていません!」


これは事実だ。神様を助けるなんて大それたことはしてない。


「ええっと、君はここにくる直前、何をしていたか覚えているかい?」

金色の神が質問した。


この金色の神。まぶしくて表情がわからないが結構、フランクだ。

さっきから一言も喋らない赤毛の神と正反対だ。


ええっと、何をしてただって?


振り返ってみよう。


僕は北斗大学の研究所に勤務してる。最近流行の魔石の研究をしている。

高名な魔石研究の第一人者リサ教授の元で働いていた。


研究者と言えば研究室に籠りっぱなしかという印象があるかもしれないが、そんなことはない。


フィールドワークといって現場に行く。自然科学の研究者は海へ・山へいく。

人文社会学の研究者は街へいく。

そして僕たちリサ教授の研究グループは魔石が発掘されるという洞窟へ向かう

そこで魔法を発生させることができる石を発掘するのだ。


僕はそのフィールドワークで洞窟に行き、偶然にも一抱えもある円柱状の魔石を3つ見つけた。研究所は魔石の洞窟内にもあるが、これほど大きな魔石となると大学の研究所でなければ調査できない。


そして持ち帰って研究しようとして、自作の測定装置にいれたところ・・・


そうだ・・・ここで意識が途切れて、気が付くと真っ白い今いる空間にいたんだった。


「思い出してくれたかい?」

金色の神が優しい声でいう


「あれ? 僕、死んでなくない?」

僕は研究所にいたのだ。

トラックにはねられたわけでもなく、過労死したわけでもなく、だれかを庇って犠牲になったわけでもない。・・・・ことごとく異世界転生のテンプレを外れてる。


「これ異世界転生ではないじゃないですか。」


「・・・・。」

「・・・・。」

「・・・・。」


顔を見合わせる神々


まずい空気が流れてる

神様の困惑してます?


「ええっと、異世界転生したかったんですか?」

金色の神が聞いてきた。


「ゲームみたいなレベル制のファンタジーな異世界に行って、チートなスキルを神様からもらって、勇者となって大活躍。これって憧れません?」


今まで沈黙していた赤毛の神が動いた。のっしのっしという擬音が似合う歩き方で僕の方に近づき、丸太のような両手で僕の肩をがっしり掴む。

「気持ちはわかる。わかるぞー! 自らを鍛えに鍛えて、その鍛えた能力にて 研鑽邁進する!漢たるものが目指す道である!」


・・・なるほど

レベル制=鍛える

スキル=鍛えた能力

勇者となって大活躍=研鑽邁進

赤毛の神の考え方からするとこのような変換になるわけですね。

本質的には間違ってないからいいか。


「しかしながら! 死んではイカン! イカンぞー!」

赤毛の神の目から滝のような涙がでた。


死ぬ??  ああそうか。転生て死んで生まれ変わることですもんね。

そうか神様のいる場にいて僕も浮かれていたのかもしれない。

この赤毛の神は僕が死にたがっていると勘違いされたらしい。


この武骨で親切な神の勘違いを取り除かなければいけないですね。

「ええっと。ゴメンナサイ。死にたいわけではないのです。僕も常識とは違うこの場にきてちょっと舞い上がってしまったようです。すでに死んでいて転生の前に神様がいるこの場にきたのかな?と勘違いしてしまったのです。」


言葉を選びながら伝える

勘違いされないように意思を伝えるのって意外とメンドイ。


「死にたいわけはないのだな!」


「はい!」


「ならよし!」


赤毛の神は元居た場所にもどっていった。

無口かと思いきや髪の色のように熱いハートをもった神だった


「さて、本題に入ろう。」

中央の神がいい、続けて金色の神が

「我々は君が持ってきた魔石に自らを封じていた。その時に少し手違いが生じてね。強力に封じすぎたんだ。身動きもままならなくなって困っていたところ君が機械にいれてくれて、我々は目覚める事ができた。これである程度自由に動ける。そのお礼と1つのお願いをしたい。聞いてくれるかな?」

と続けた。


うーん。文字通り自縄自縛? なんか間抜けな神様たちだった。


それはともかく・・・


神様仏様にお願いすることはあっても神様からお願いされるというのは新鮮だ。

さて、どんな願いだろう?興味はあるが慎重にいこう!

好奇心、猫を殺すという言葉もある。


「用心してもよいですか? ますお話を聞いてからにしたいです!」


「うむ。その言や良し。粗忽ものではないようで安心した。」


おお中央の神に褒められた。


「まずお礼はこれだ。」

金色の神が僕を指さすと、僕の体も光に包まれ、そしてその光が左腕に収束。僕の左腕に赤・青・黄色の魔石が埋め込まれたガントレットが装着された。


「それは神々の腕輪「ドラウプニル」 君のいうチートスキルをプレゼントってわけじゃないけど我々、三柱の権能を使う事ができる。君はこういうのが欲しかったんだろ?」


おお! 神の力を使えるなんてまさにチートスキルじゃないですか!


「ただ、注意してね。我々の権能は人には余るものだから最初はいくつか制限させてもらうよ。」


そのあと、金色の神からいただいた注意事項は以下の通り

■レベルに合わせて出力を上げていく。最初は低い出力しかだせない

■レベルはモンスターを倒すとあがる。

■権能を使いすぎるとリミッターにより一定時間再使用は不能になる

■相性の良いモンスターを倒すとモンスターのスキルを一つだけ使用可能になる

■最大2名まで権能を貸与できる

■(譲渡した場合)返却するとレベルは元に戻る

■レベル50を超えると新たなタイプを選べる。

■三柱の力を同時行使もできるが人の手に余るので一人で行うのはお勧めしない


レベル! スキル! いいじゃないですか。これぞ僕の求めていたものです!


でも、もちろん無料じゃない。お願いがあると言ってます

それを聞いてからにしましょう。


「それでお願いなんだけどね。僕たちの仲間に白い神がいるんだ。彼の居場所を探してほしい。会いたいんだ彼に。」


人助けならぬ神助けですか!

これはチートスキル持ちらしいクエストです!


「その白い神様は皆様と同じように魔石に封じられているのでしょうか?」


「お! やる気になってくれたかい? どうだろうね。それは僕たちにもわからない。だけど、もし、もしもだ封印されているなら封印解除の技術を持つキミに力を借りないといけない。助けてくれるかい?」

「はい!」

僕は慎重さをポイ捨てして、即座に答えた。


僕は研究者だ

研究し、検証を繰り返し、知恵・知識を得て、それを活かせた時の充足感や達成感。

そしてその研究結果から新たな製品が生まれ、その製品をつかって笑顔になっている家族が増えていくこと


これが僕のモチベーションにつながっている。


今回のも似ている

レベルをあげて新たなスキルを得て検証し、それを実践に活かし、そして神様からお願いされるなってねー! こんなこと一生かかっても無くないですか?


まずいです。

わくわくがとまりません。


「やる気になっていただきありがたい。一つだけ忠告してもいいかな。魔石の取り扱いは気を付けたほうが良いよ。たまに人を喰う石もあるらしいからね。」


金色の神は心配そうにそう告げた。



---from aoi side---


「ああんもう! 厄介っ!」

私は手を前面にかざして

「gandir!」

と短く呪文の詠唱を唱える。


速射性に優れるマジックミサイルの魔法だ。

実戦では前衛がいない限り、のんびり大魔法を構築なんてやってたら倒されちゃうからね。

私の放ったマジックミサイルは付人兼秘書兼副官兼護衛兼監視役のカグヤに向かって発射されるも彼女の周りを大群で浮遊する魔法の蝶のカーテンに遮られ消滅した。


「無駄ですわ。アンタの攻撃は私には通じない。私はアンタ特化ですからアンタの付人兼秘書兼副官兼護衛兼監視役になっているのです。ほほほ。それもお忘れですか?」

カグヤは魔法の蝶の大軍を操りながらナイフを持って迫ってくる。


悔しいがカグヤの言う通り。あいつは私相手に特化してる。

私の専門は魔法だ。元々魔法部隊を率いていたしね。


この子憎たらしいカグヤはその対魔法に特化してる。

彼女の魔法の根源は「蝶」

偵察にも使えるその「蝶」の権能は「魔法吸収」

魔法を吸収する蝶を展開して、魔法を無効化する。


カグヤ本人は魔法の蝶で魔力を吸収するから魔力枯渇がない。

対戦相手だけに魔力枯渇を強いる対魔法使い特化がカグヤだ。


無論、カグヤ自身には攻撃力は皆無なので彼女一人では戦力にならず、別な攻撃力のあるパートナーとペアになることで真価を発揮する。


今回、敵は彼女一人のためその点は救われている。

だーけーど。

油断はできません。ハイ。


カグヤはナイフもってるからね。

魔法を封じて、ナイフで刺殺というシンプルな戦い方を選んできましたねー。

多分、あのナイフも毒とかしびれ薬とか塗ってるんだろうな。


対する私は得意の魔法を封じられているので、まったく対抗するすべはない。


はい。詰んでます。


だからこそカグヤは魔法特化の四天王である私の付人兼秘書兼副官兼護衛兼監視役のポジションにいる。

万が一私が帝国を裏切ったら捕獲できるように


そう私は帝国を裏切った。

だってそうじゃん。自分が死ぬって予言見たんだよ。

私は何を差し置いても自分の命が大事です。

特に私にはやることがある。それまではぜーったいに死ねません。


で、考えました。


あの予言では帝国が地上を侵略する悪の組織として滅ぼされるという。


であればですよ。

帝国に所属しなければよいわけですよ。

はい、問題解決。単純明快。


「なにが、問題解決ですか!脳みそ腐ってるんですかアンタは!」

カグヤが私の魔力を枯渇させようと魔法の蝶を展開する。


「うおっと!・・・gandir!gandir!gandir!!」

私はマジックミサイルの弾幕を張り、魔法の蝶を散らす。


「アンタ言うな! 上司に対する敬意ってもんがないの!」


「帝国裏切っておいて何が上司ですか! それにアホでしょアンタ。」


「アホっていった!」


「人質の両親どうするおつもりですか。アンタが裏切ったら殺されるんですよ!」


そうなんだよねー。

そこが詰んじゃってるんだよね。


正直、カグヤが私に対して相性がめちゃくちゃ良いとしても、これでも元一国の魔法部隊の隊長で元帝国の四天王。逃げるだけなら出来なくもない。でも人質がいるんだよねー。


「カグヤ。そこで相談です。」


「嫌な予感しかしませんわ。」


「私に捕まってください。そしたら私が裏切ったことを帝国にチクることはできないので問題解決!単純明快!」


「アンタ・・・アホですか。あと元お姫様がチクるっていわないでくれません。」


「えー、だって。その蝶で私を発見するからメンドーになってるんじゃん。」


「私はお目付け役です。アンタの行動を監視するのも業務の一つですわ。それにですね!」


「うん?」


「3日も帰ってこなければ心配しますわ。探して当然でしょう。それで致し方なく偵察の蝶を飛ばしたら、地上の組織に鞍替えしてカツ丼なんていう甘美なもの食べてるじゃないですか!」


うん。私はあの予言(映画)を見た後、帝国にいたら死ぬんじゃね? それよりも別な組織にいたほうがよいのでわ。という推論の元、四天王からの転職を決意しました。


問題は仕事選び。

まるっきり畑違いだと困るのと、私は私の目的のために帝国からは離れる気満々だけど。洞窟から離れる気はなかった。ちなみに地上では私たちが出てきた通路を「魔石の洞窟」と呼んでいるらしい。


そこでー。


魔石の洞窟関連のお仕事を探していたところ。

あった。ありました。


臨時のレスキュー隊 レンジャーワンなるものが存在した。なんでも洞窟内に研究所があり、その研究所が崩落事故で行方不明になったらしい。それでその研究所を探すレンジャーワンなる組織があり、そこに潜り込んだ。


はじめは「素人がはいるところじゃない!」と拒否られたが、こちらとら元魔法部隊隊長だ。魔法ぶっ放したら戦力になると見込まれたのか紆余曲折はあったもの潜り込むことに成功した。なんでも地上の人間は魔法を使えないらしい。

そういえば仕事探しの時に魔法関連の仕事ないっかなーと探したがなかった。

ぜんぜん無かった。

まったく無かった

地上に魔法技術が存在しないと考えればナットクだ。

便利なのに。


そんで戦力もそうだけど魔法という地上人にとって未知の研究対象としての価値を私に見出したようだ。よくよく見ると募集先が北都大学の研究室とある。研究を仕事としているのであれば納得だ。


まあ、私とすれば帝国とは別組織でなおかつ、魔石の洞窟に出入りできるということが大事なので目的の一つを達したことになる。


そんでお昼休みにカツ丼を食べてたらカグヤの蝶に見つかって。鞍替えしたのもばれちゃって今に至る。


「私が3日間どれだけ心配したか! それをのほほんとあんな美味しいものを食べて!」


「美味しいよ。カグヤも鞍替えしない? お給料の許す限り食べ放題だよ。」


「魅力的なお言葉ですが遠慮いたしますわ。すべては帝国が地上を制すれば解決すること。」


おおう。さすが侵略国家所属の人は考え方が違う。


だとすれば次の目標として帝国に私が鞍替えしたことを伝える前にカグヤをとらえないといけない。そうしないと父や母に類が及ぶ。


「私は帝国の軍人。アンタの付人兼秘書兼副官兼護衛兼監視役。監査役のお役目果たさせていただきますわ。」


うおっ何か仁義切ってきた。


「私をとらえるってこと。」


「当然ですわ。」

「私はカグヤをとらえたいんだけど。」


「・・・なるほど、そうしないとアンタの人質が大変な目にあいますわね。」


「そうそう。」


「・・・私、良いことを考えましたわ。」


「え、カグヤの良いことってものすごーく嫌な予感しかしないんだけど。」


「私このまま引き返し帝国に報告することにしますわ。」


「えっ! あ! ちょっと待って。」


急に踵を返すカグヤを慌てて追う。


「隙ありですわ。カツ丼の恨み! basta!」


カグヤが捕縛の呪文を唱える


しまった!私もあわてて捕縛の呪文を唱える


「カツ丼って! 何かそれ違う! basta!」


しかしながらカグヤの呪文は私をとらえる事に成功し、私の呪文はカグヤの魔法の蝶に阻まれ消滅した。


うーん。カグヤはとことん私と相性が悪い。

目の前には勝ち誇ったカグヤの憎たらしい顔がある。


ぐぬぬ。最悪のシナリオ!

私は捕縛されて処刑。人質の父王も処刑。カグヤは勝ち誇る

何か。手はないか!


と思ったら空から金色の砲撃があり、カグヤが吹き飛んだ。


え、どういう事??




---from yamabuki side---



僕は神の間から研究所に戻るとさっそく神からもらったガントレット「ドラウプニル」の研究を開始しました。


手っ取り早いのは使ってみることですね。

使い方はわかりました。

面白いことに頭に流れてくるんです。

これもドラウプニルの機能の一つでしょうか?

最近、マニュアルがペーパーレス化してますがその先を進んでますね。


頭の中に流れてきた操作方法をもとにドラウプニルを操作する。

空間にディスプレイみたいなのが出現した。

タッチパネルのような操作もできるようです。


僕は空間に出現したタッチパネルを操作する。


同時に「An armor changes Frey」の機械音が鳴り響く。


僕の体がド派手な黄色の全身スーツと軽鎧に覆われる。


フルマスクのようなヘルメットに頭部が全て隠され、その容姿はフル装備のモトクロス選手にも見える。腰に大剣、背にはマントを装備している。


「Completion! The Commander・yellow」


機械音と共に黄色を基調とした神の戦士に変身した。


「うわーっ派手だなぁ。これ絶対あの金色の神の趣味でしょ。」

僕は研究室にあった姿見を見ながら腕組みする。


なんでも人間の体のまま神の力を使おうとすると、その権能に負けて体が文字通り弾け飛ぶらしく神の眷属=神の戦士に体を変換しないといけないらしい。


そのあと、いろいろ操作してみて理解したが相性があるらしく、僕は金色の神の権能しか使えないようだ。


その中で面白いのをいくつか見つけた。ゲームのようにステータスを見れるようだ。

僕はちょっとワクワクしながら操作する。


―ステータス―――

名前:山吹智

職業:帝都大学研修生 

LV:1

スキル:直観LV5 強運LV5 演算LV1

装備:ドラウプニル(黄) レーヴァティン 

眷属:スキーズ

――――――――


うーん。僕は直観と強運で生きているらしいです。ギャンブラーにでもなろうかな?

力とか素早さというのは数値化して表示されないらしいです。ちょっと残念。

ちなみにレーヴァティンというのが腰にある剣。


試しに振ってみたらなんか金色の炎が出た。


そしてスキーズというのが空飛ぶ船。

どこでも自在に出せる船でなかなか男の子のロマンをかきたてる。


試しに出現させたら僕の所属する大学がパニックになった。

そりゃそうですね。


大学の真上に空飛ぶ魔法の船が現れたんですから。

僕が神の力を授かったと大学・研究所中に知れ渡った瞬間でもあります。


魔石研究第一人者藤リサ教授の協力者の一人である黒滝教授なんて「これが魔石活用の最終系か!」と大喜びして船に乗り込んできました。


こういう時、研究者ってすごいと思います。

警戒心より探求心の方が勝つんですから。

それは先て置き、ついでに船に乗り込んできた黒滝教授もおいといて、こういうのは下手に隠すからおかしくなると僕は考えています。


正々堂々が一番です。世の中に認知さえすれば逆に下手に手出しできません。


もっとも・・・

その後の話ですけど、テーマパークアトラクション企画会社や軍事関係までラブコールが絶えなくなりました。

魔石の洞窟内に研究所をつくって、そっちに引きこもったリサ教授の気持ちがなんとなく理解できました。ハイ。


さて、空飛ぶ船を呼び出したからには試運転しないといけないでしょう。

男のロマンです。

危険があるかもしれないので防護服代わりに変身状態で搭乗します。

同じく危ないので黒滝教授や便乗して乗ってきた職員も降りていただきます。

ほら、学長もおりてください。いつの間に便乗して乗ってるんですか?


ようやく船から降りていただき安全が確保できたところで出発です。

ブーイングが聞こえますが安全には変えられません。


空飛ぶ船スキーズにのってフィールドワークという名の遊覧飛行を楽しみます。


『マスター。2時方向。魔力反応です。』

突然、スキーズが警告を鳴らしました。

へえ、索敵に音声ガイダンスによる警告もできるんですね。

なかなか優秀な船です。


ただ、言っている意味が分かりません。

魔力反応って何でしょう?

ファンタジー物には出てきそうな用語ですが、現実にそんなことを言われても

「それって何?」

としか反応のしようがありません。


僕は考えます。

どういう指示をスキーズにあたえたらよいでしょうか?


「詳しい状況はわかりますか? 特に接近しての安全性などについてです!」

まずはスキーズの索敵能力がどこまでなのかを知りたいです。


『魔法使い同士の戦闘の模様。 当船への危険度については現飛行高度を維持していれば問題ありません。』


へえ、そんなこともわかるんですね。

魔法使いですか・・・。

一人だけ心当たりがあります。


僕の所属する北都大学に一つ大問題がおきています。

魔石研究の第一人者リサ教授が遭難したのです。

魔石の洞窟内の研究所が崩落事故にあい、それに巻き込まれたということです。


僕もつい先日までその研究所にいたので他人事ではありません。

魔石の洞窟内で発見した巨大な3つの魔石。

強運と言っていいかどうか、僕はそれを北都大学内にある研究所で調査するために地上に戻ったため難を逃れました。


もちろん、それで喜んでよいわけではありません。

リサ教授達が遭難しているのです。

救出しなければなりません。


すぐにレスキューのためのレンジャー部隊が組まれました。

救出作業のプロである消防レスキュー隊を中心に、戦闘のプロである自衛隊。

そして魔石の洞窟の研究機関である北都大学の有志による混成部隊です。


第一陣は既に出ています。


僕も大学の指示で巨大な魔石の研究およびその研究の途中に得ることができたドラウプニルの性能試験終了後に第二陣に参加する予定です。


その第二陣に応募してきたのが「アオイ」ちゃんという女の子。

彼女が来た来歴は有名です。

僕も関わっています。


確かに北都大学ではレスキュー部隊。通称、レンジャーワンに参加してくれる有志を募っていました。

けれど、それは本校が魔石の洞窟に詳しいからです。そこに出てくるモンスターについてもです。

つまり、道案内役としての参加です。


まるっきりの部外者の応募に担当者は当惑しました。

はじめは地底帝国の姫だとか四天王だとか言っていて頭のオカシイ人がきたとおもわれたらしいです。


そらそうだ。

魔石の洞窟の第一人者であるリサ教授ですら遭難したんです。

そんな危ない場所に女の子を連れて行くわけにはいきません。


門前払いしようとした時、彼女は魔法をぶっ放して暴れたらしい。

「これでも足手まといっ!」

と大見得を切ったと後で聞きました。


魔法を使う。


彼女の地底から来たという話に信ぴょう性がでてきました。

そこで僕が呼ばれました。


僕がドラウプニルの権能でステータスを見ることができることを一部の研究職員は知っていました。

ステータスを見れば彼女が言っているのが本当かどうかわかるという事らしいです。


ちなみに彼女のステータスはこんなかんじでした。


―ステータス―――

名前:アオイ・ミナーモ

職業:元青の国第一王女 元青の国魔法兵隊長 元地底帝国四天王

LV:58

スキル:統率LV4 魔法(無属性)LV8

装備:なし 

――――――――


これで彼女の言ってることが事実と判明し、同時に地底にある国家群やそれを束ねる地底帝国の存在が判明した。


僕の知っている「魔法使い」はそのアオイちゃんしか知りません。

彼女は地底帝国を抜けて地上に逃れてきたといっていました。

そして地底帝国から追手が来るかもしれないと言っていました。


それならば、先ほどのスキーズのアナウンスはその追手が来て交戦中。

その可能性が高いのではないでしょうか。

心配です。

たとえLV58と僕の58倍のレベルをもっていても見た目は少女なのですから。



「スキーズ! 現高度を維持しつつ交戦エリアに近づいてもらえますか。」

『イエス、マイマスター』


この空飛ぶ船優秀です!

素直です。ノンストレスです。


この優秀な船に乗りながら、交戦エリアに到着


どっかん、どっかん魔法が飛び交ってます。

「やっぱりアオイちゃんでしたね。」

元気に魔法を放ってる。マジックミサイルって言ってたっけ。


相手は黒髪の少女。黒い着物のようなローブをまとっている。

彼女も魔法使いらしい。なにやらキラキラ輝く蝶の大軍をまとってアオイちゃんの魔法を防いでいる。


「あ!」

両者同時に同じ魔法をはなったらしい。

アオイちゃん・黒髪の少女の周囲にフラフープのような魔法の輪が発生した。


その魔法の輪は収縮してアオイちゃんを縛る。黒髪の少女は魔法の蝶で無効化した模様。

黒髪の少女は殺意をもって手に持つナイフで襲い掛かります。

殺人の現場をリアルにみました。まるで鬼女です。


「あぶないです!」

助けにいかないといけません。

かといってLV1の僕がLV58のアオイちゃんを捕縛した相手に正面から挑むのは蛮勇です。

幸い、この優秀な空飛ぶ船には魔法の大砲が左右3門づつ、計6門あります。


「スキーズ! 大砲の出番です!」

『イエス、マイマスター』


右舷の3門の魔法の大砲が火を噴く。

アオイちゃんを捕縛した黒髪の少女が吹き飛んだ。

アオイちゃんの魔法を防いでいた魔法の蝶も神の船の大砲は防げなかったらしい。


『LEVELUP!』

脳内に機械音が響き自動的に空間タッチパネルが開く。


―ステータス―――

名前:山吹智

職業:帝都大学研修生

LV:1⇒47

スキル:直観LV5 強運LV5 演算LV1

装備:ドラウプニル(黄) レーヴァティン 

眷属:スキーズ

――――――――


おお!

一気にレベルがあがりました。

これはゲームでいう低レベルで高レベルの敵を倒したから一気にレベルがあがったって状態ですね!


『スキル:胡蝶の夢を獲得しました。』


おお、確か金色の神が言っていました。


■相性の良いモンスターを倒すとモンスターのスキルを一つだけ使用可能になる

ってね。このことですね!早速スキルを手に入れたわけです。


このスキルは黒髪の鬼女がアオイちゃんの魔法を防ぐために使っていた魔法の蝶を操るスキルのことでしょう。


わくわくが止まりません。

さっそく使ってみたいです。


『ERROR 本スキルはドラウプニル(青)の使用者のみが使えるスキルです』


NO~


僕のドラウプニル(黄)では使えないってことですか。

空振りです。


テンションダダ下がりです。

それはともかく気を取り直して!


アオイちゃんの無事を確認しなければ。


僕はスキーズを着陸させます。


お! アオイちゃんが駆け寄ってくる


どうやらあの黒髪の少女の捕縛の魔法を脱したようだ。


一安心!


「アホなのアンタ! カグヤが吹き飛んだじゃない!」

開口一番、アオイちゃんから非難がとんだ。


ええーっ!

アオイちゃんを助けるためにやったのに。

「他にも方法があるでしょうが!」


いや、無理です。

さっきまでLV1だったんです。

LV58のアオイちゃんを捕縛できるってなるとそのカグヤって黒髪の方もそれなりに高レベルですよね。

無茶ですよー。それ。


「カグヤをギャフンと言わせる事できなかったじゃないの」


ええーっ


アオイちゃん負け寸前でしたよね。

殺されかけてましたよね。


困っていた僕に文字通り神の声が聞こえた。

『要するにカグヤって娘と話出来ればいいのかな?』

そしてドラウプニルの青い魔石が光り出す。


出来るんですか? 神様

「何これ。アンタの悪趣味なガントレット光ってるよ。」


悪趣味って、なんか一言多いんですが


「その・・・カグヤって人と話せるみたいですよ。」

「え、跡形もなく吹き飛んだじゃない?」

「このガントレットは神様から貰ったっていうのは同じ研究所にいますから知ってますよね?」

「嘘臭いけどね。情報としては知ってるわ。」

「そう言わないでくださいよ。それでこのガントレットを通して、このブレスレットをくれた神様から伝言いただいたんです。」

「え?どういう事? カグヤ吹き飛んだんじゃないの?」

「似たようなものですが・・・厳密にはそうじゃないみたいですよ。」


こういうのは論じてるよりも体験してもらったほうが早い。


先程、金色の神にいただいたアドバイスに従って・・・

中空ディスプレイの操作画面から「譲渡⇒青」を選択する。


■最大2名まで権能を貸与できる

当初の注意事項にあった上記の機能を使う。


アオイちゃんの腕に僕と同じガントレット=ドラウプニルが装着される。

それに伴い僕のドラウプニルが変化した。


赤・青・黄色の魔石が埋め込まれたガントレットだったのだが青の魔石がなくなり赤・黄色の魔石が埋め込まれたガントレットとなった。

では、なくなった青の魔石はどこにいったのかというと、アオイちゃんのドラウプニルに埋め込まれていた。

これがドラウプニルの貸与機能なんだろう。青の神の権能を貸与したわけだ。

どうやら僕は金色の神の権能しか使えないようなので問題ない。


「うわっ! 何かダサいの移った!」

・・・神の腕輪を病気みたいに言わないでください。あとダサいって言わないでもらえます。


「それで人間の体のままだと権能が使えないので変身してください。変身の方法は頭に自動的に流れてきます。」


「え、マジ・・・本当だ。頭ン中に操作説明が流れてくる。 でも、そんな金ピカになるのはやだなぁ。えーっとこうね。」

アオイちゃんは空間に出現したタッチパネルを操作する。


僕の時と同じようにアオイちゃんの体が発光する。

違うのは色だ。

僕は黄色だったがアオイちゃんは青く光った。


同時に「An armor changes Wodan」の機械音が鳴り響く。


アオイちゃんの体が僕と同じく全身スーツに覆われる。

僕との違いは、全身スーツの色が青い事

そして軽鎧の代わりにマントのような青藍のパーカーとフレアスカート。鍔の広いとんがり帽子を被っている事か。手には杖を持っている。


「Completion! The magicians・blue」

機械音と共に青を基調とした魔法使いにアオイちゃんが変身した。


「うわー。見事に青一色。でも金ピカよりはいっか。」

「そんなにディすらないで下さいよ。」

「まあまあ、それでどうするの?」

「これでカグヤさんでしたっけ? 彼女はスキルという形でその青い魔石にとりこまれたようです。ですから青い魔石をアオイちゃんにお渡ししました。変身して神の権能を使えるようになった今のアオイちゃんであればスキルとして取り込まれたカグヤさんとコンタクトがとれるようですよ。」


すべてアドバイスいただきました金色の神の受け売りです。


「どれどれ。お、ほんとだ。やほー。カグヤ元気?」

『元気なわけないじゃないですか? あんたアホですか? こっちは訳も分からず魔石に封じられちゃってるんですよ! なんなんですかこれは?』


おおー! 意思の疎通ができる。金色の神が言ったことは本当だった。


「これ何って・・・?  天罰?」


アオイちゃんの言っていることがあながち嘘とは言えないところが怖い。

神の権能を使って発生した現象なので天罰と言えば天罰だ。


『ふざけないでください。元に戻しなさい。』

「あらぁ誰にいってるのかしら。それに戻したら帝国に報告するでしょ。」

『そのとおりですわ。 まったく忌々しい・・・私を魔石に封じた仕組みがよくわかりませんが、アンタにとって最良の結果が出たようですね。』

「ん? どういう事?」

『理解してないのですか? アホですか? いいですか? アンタはこの地上で見た予言を見て死にたくないと思った。具体的には帝国の所属から脱しようと思った。』

「あたりまえだべさ。誰が望んで死にますかいな。」

『はいはい。で、普通に帝国から離反しても私という監視役がいる。私が帝国に報告すれば人質である両親が殺される。そのためには私を殺すか、拘束しないといけない。』

「うん。あんた邪魔。」

『はいはい。でもアンタは私を殺したくない。できれば捉えたい。でなければ先程の戦闘で私を斃している。』

「いんや。倒そうとしてたよ。 でも相性ってあるじゃん。」

『確かに相性はありますし、私はアンタ特化です。とはいえ。アンタは四天王。帝国の武力の頂点の一人。客観的に見て斃せない理由はありません。ですが、一時とはいえ先程の戦い。私と互角という事は・・・そもそも倒そうてしてませんでしたよね。とらえようとしてましたよね? つまりアンタが描く最良のシナリオは私を生きたまた捉えるでしたよね。』

「おお! そうか! カグヤが魔石に封じられているという事はまさにその状態! ベストじゃん。」

『ですから先程、そう申し上げました。気づいてなかったのですか?』

「まったく。」


はあ~とカグヤという女性のため息が聞こえる。


何だろう? この二人。単純な敵味方じゃないような関係のようだ。

それに人質とか物騒な言葉が聞こえてくる。

なに? アオイちゃんって両親を人質にされて無理やり帝国に従わされてるの?


その当人はくるっと僕の方をむいて


「でかした! 山吹!」

と背中をたたいた。


女心は猫の目と言うが、さきほどカグヤさんを斃した僕を非難していたかと思いきや今度は褒めるって感情の変化がすごい(汗


その時、僕の携帯が鳴った。


電話を取ると相手は焦った早口でこう言った。

「洞窟内の研究所を捜索していたレスキュー隊 レンジャーワンが全滅した!」


電話の相手はレスキュー隊 レンジャーワンの担当者でした。


僕もレスキュー隊に応募していました。

第二陣で行く予定です。

そしてドラウプニルの権能を得たことから、第二陣の主力と見なされていました。

おそらく隣の魔法少女アオイちゃんも同じでしょう。


だから連絡がきたのでしょう。

けど、その内容は衝撃的すぎます。


第一陣で出発したメンバーは一軍メンバーです。

それが全滅って何があったのでしょう。


「まだ速報だ、詳細は不明だ。救援信号では、第一陣が現地で三体のモンスターと交戦し、壊滅的な被害を受けたという。急ぎ救出が必要だが、ここで無造作に人を送れば、犠牲は増えるだけだ。そこで、今編成中の自衛隊精鋭と、新兵器ドラウプニルを携えた君を投入することにした。君には現地出身で土地勘のあるアオイとともに、現地へ行ってもらいたい。」


なるほど、なんか兵器扱いされている気もしなくもないですが、人の命がかかっています。LEVELも一気にあがりましたので、僕でもお役にたてるかもしれません。急ぎ自衛隊に合流しましょう。なんたってレベル47です。


「は? アホなの? あんたら?」

アオイちゃんが僕の携帯を奪う。


「横から聞いてたけどさー。そんな悠長なことしてたら遺体も残らないわ。この「地上」の通信速度の速さは知ってる。全滅なんて大げさな話してるけど、先行部隊から連絡があってからそんな時間がたってないはず。生き残りがいるかもしれない。ここは速攻がベスト! 他部隊の編成を待ってなんて暢気な!」


わお! さすが元隊長 言う事が違う。

「山吹!さあ!いくよ! あの船だと洞窟まで速い!」

アオイちゃんが僕の腕をとった。


「あっ! ちょっと待って。アオイちゃんは帝国の人に追われてるのですよね?」

「は? それがどうしたの?」

「洞窟で帝国の人に会ったらまずいのではないですか?」

「アホなの? そのためのこの青いスーツじゃん。これだと私だとわからないよ。」


全身スーツのアオイちゃんを改めてみる。これなら大丈夫か?


「アオイちゃん ありがとうございます!」


僕はアオイちゃんの両手を握る。


「何よ。突然!」


「洞窟に潜ると帝国に見つかる可能性があります。その危険があるにも関わらず助けに行く。感動しました!」


アオイちゃんはしばらく間をあけたあと


「・・・・アリガト」

とはにかんだ。



---from aoi side---


いやあ。地上人ののんびりムードには驚いた。

部隊が敵に襲われたというのにのんびりこれから救助部隊を編成するという。

それは、ないわー。


そんなことしていたら助かる命も助からないじゃない。

こういうのを地上の諺でなんていったっけ?ドロケイ? ドロナワ?


少なくとも兵を率いてきた私の常識からいってありえない判断。


幸い、山吹のダサいガントレッドの力で強化されると全身が青いスーツでおおわれるので元帝国四天王だと顔バレしない。念のため変身中は名前ではなくブルーと呼んでもらう事にした。

安直とか言わないでね。

こういうのは分かりやすい方がよいのですよ。

言葉ってのは意思疎通を速やかに行うためのツールなんですから。


私はそのまま山吹の空飛ぶ船に乗り込み、一直線に目的の洞窟前へ。船を降りるや否や、そのまま内部へ突入した。


一番私が恐れているのが私の帝国時代の部下がいること。

姿が変わってるから大丈夫だとは思いたいけど、バレたときに非情にメンドクサイことになるのが目に見えている。

が、杞憂に終わったようだ。

部下はいなかった。


おそらくだけど、私もカグヤも戻らない事から一時撤退し、帝国に報告にいったんじゃないかな。「私が戻らなかったら戻って報告するように!」そう指示したしね。


あん時の私グッジョブ。


さて、駆け足で先行しているレスキュー隊がいると思われるであろう場所に向かう。

この青いスーツはなかなか良い。脚力も上がっているようだ。移動が非常に速い。

普通、防具を身にまとうとその重量で動きにくくなるんだけどね。

これは逆だわ。いわゆるマジックアイテムの類だね。


力の上昇も感じられる。顔バレしないし、カグヤを封じれるし、私が現在、欲求しているものが叶えられている。


いいね。いいね。


ただ・・・。

どうも無償ではないようだ。

こんな高性能な装備。無償という訳にはいかないっていうのはわかる。

魔力が時間経過とともに消費されている。微弱な魔法を常時使用しているような感覚。

おそらく魔力切れを起こすとこの変身も解けるんじゃないだろうか。


つまりはだ。

時間制限がある。


急ごう! 

何でも先行して救援に向かった人たちの中には大学の研究員。

つまり民間人がいるらしい。


戦士はしゃーない。戦士は命をかけるのが商売だ。

しかし戦士以外の救える命は救う。それが元護国の魔法隊長の矜持。

民間人を救えなくて、何が戦士だ。何が護国だ。何が魔法隊長だ。

一瞬、過去のトラウマがよみがえる。

祖国、青の国の魔法隊長として帝国の侵略に抵抗した時のことだ。

あん時は、守れなかった。

今度は守る。


結果オーライという言葉があるが、まさにそれだった。

魔石の洞窟に入って間もなくボロボロのレスキュー隊と遭遇したのだ。


「Eir!」

私は治癒の魔法をかける。

この魔法。体力は回復しないが怪我はある程度治る。自分でも驚いたが腕が吹き飛ばされていたレスキュー隊員がいたが、それも治っちゃった。


治療を受けた隊員も驚いていたが、私の方がもっと驚いたよ。


推測だけどこの変身で魔法の効果が強化されたためじゃないだろうか?

普段の私は逆立ちしてもこんな奇跡おこせない。

いや、マジで。


奇跡といえば。20人のレスキュー隊がモンスターに襲われて1名の死者を出すことなく戻ってこれたのは奇跡だ。いや、実力か? 地上の戦力を侮っていたかな?


お話を聞いてみたが、どうも違うらしい。


たった一人の男が現れ、あっという間にモンスターを倒したらしい。しかも素手で。

何それどんな化け物?


その化け物のような強さの男のおかげでここまで逃げてこれたらしい。


「で、その人はどうしたの?」

「僕らに早く逃げろと言ってその場にいました。あの感じじゃ他にもモンスターがいたんじゃないかと。」


「一人残して逃げたの?」


思わずレスキュー隊を責めそうになるが思い返した。今は治癒しているが腕を吹き飛ばされている人もいたんだった。退却は客観的に正解だろうね。


「ブルー!行きましょう。その人が心配です。」

山吹がいいこと言う。いつもなら混ぜっ返すところだが、ここは戦場。

そんな余裕はない。


あと、ちゃんとブルーって言ってくれた。帝国の人に遭遇した時に身バレしない事が重要

山吹やるじゃん。

私は山吹の肩をペシペシ叩いた。


何だよ。私流のお礼だよ。なんか文句あるか?


私はその後、レンジャー隊が治癒魔法により、自力で帰れるだけ回復したのを確認し

「いくよ!」

と山吹と連れ立って奥へ急いだ。


そのレスキュー隊をたった一人で救出した男。

どんくらい強いかわからんけど。一人は厳しい。

打つ手が限られるんだ。マジで。


挟み撃ちを受けたり、別方向からの攻撃があれば戦況を逆転できるのがわかっているけど一人しかいないっていうのが一番、精神的に堪えるんですよ。

そうなっていなければいいけど。


私は駆けた。

状況からして嫌な予感しかしないからね。


・・・・・・

・・・・・・

・・・・・・

嫌な予感は当たった。

どうして、こういう時にあたちゃうかな。いい予感は全く当たらない癖に。


一人残った闘士が倒れていた。彼がレスキュー隊を単身、救った男だろう。

そして、その闘士のよこには帝国の人が立っていた。

それも私と同格の四天王 タコ頭のデビルフィッシュが。


はー。

全部、嫌な予感が当たっちゃってるよ。


闘士の怪我がひどい。

胸と足を貫かれてる。

正直、生きているかどうか微妙だけど、生きているなら早めに治癒しないといけないだろう。

私は自分のメンタルを戦士モードにする。

早めに治療するには四天王デビルフィッシュをどうにかしないといけないからね。


「gandir!gandir!gandir!!」

マジックミサイルの弾幕を張りつつダッシュ!


山吹もついてきた。


「!!」

さすがのデビルフィッシュも不意を突かれたね。

すんげー驚いた顔してた。タコ頭だけど。

驚く間もなくデビルフィッシュが吹き飛ぶ。


ざまみろ!


そもそも、なんでアンタがここにいるんだよ。

地上の調査を受けたのは私だぜ。


「イエロー。あいつの相手をお願い!」

私は山吹に対して叫ぶ。

実際に戦ってみて分かったけど、この変身装備。私の全てが強化されている。

四天王相手に多少心もとないけど、この変身装備があれば山吹でもなんとか持ちこたえられるはず。っていうか持ちこたえろ。

私はやることがあるんだ。

これから急いで治癒魔法をかけなければならない。

たった一人で殿を務めた闘士を見殺しにしたとなっては女が廃る!


「え? それよりももっと良い方法ありますよ。」

山吹が急場にそぐわない普通のトーンで言葉を帰してきた。


「え?」

この急場に何のんきなことを言ってるの?

頭沸いてるの?

アホなの?

これだから「地上人」は!

ここでのんびりしてたら、あのぶっ倒れている男しんじゃうじゃんか。


対する山吹は私の焦りなどどこ吹く風という感じで

「来てください! スキーズ あなたの出番です!」

と唱えた。


応じるかのように山吹から例の空飛ぶ船が出現して・・・って洞窟内でそんなもん召喚すな!

崩れる。崩れるって。


私の心配を他所に、空飛ぶ船は洞窟を塞いでしまった。


「やっぱり。物は試しでしたけどうまくいきました。この船。魔法の船なんで、魔力量によって大きさ変えられるんじゃないかと思ったんです。この大きさなら洞窟を崩すことなく塞げましたね。これであのタコ頭のモンスターもこちらに来れません。その倒れている人をまず助けましょう。」


いやあ。入ってこれないっていうか、この船の大きさだと洞窟の壁と船に挟まれて潰れちゃってるんじゃないの。


帝国四天王デビルフィッシュをこんな方法で倒すなんて、「地上人」は恐ろしい。

私には思つかねーわ。こんなの。

やっぱりあの予言は正しいわ。

こっちにきて正解だわ。


それはともかく、モンスターを一人で一手に引き受け、レスキュー隊を逃した闘士を治癒魔法で回復させる。


よくよく考えればこの闘士も恐ろしい「地上人」だ。


レスキュー隊の話しを鵜呑みにするなら、武器も魔法も持たずに単身で複数のモンスターを倒すのだから。


ただ、すべての「地上人」が山吹やこの闘士と同じではないらしい、先程ボロボロになった20名のレスキュー隊の面々がそうだろう。また普通に「地上」にいる人々がこんな戦闘力をもっているとは思えない。もしかしたらこの振り幅の大きさこそ「地上人」の脅威かもしれない。


治癒魔法をかけながらこんなことを考えていると闘士が回復したのか起き上がる。


「ぬう。ここは?」


「大丈夫。動かないでっつーか。動くな。傷は治癒魔法でふさがったけど、血や体力は消耗してる。おとなしくしてて。」


「うむ。・・・おぬしが助けてくれたのか礼を言う。」


「え・・・あ・・・はい。」


変な返事しちゃった。この闘士。強面で巨漢。見かけで判断するわけではないが、こんな無頼漢の姿の人から素直に謝られると対応に困っちゃう。


「ここに顔が蛸のモンスターがいたと思うが、おぬし等が倒したのか?」

ギロリという表現がぴったりの視線で見ながら話さないでください。ちょっと怖いです。


「あっ!それなら隔離しました!この船の向こうにいるとおもいますよ。」

山吹が明るく元気にハキハキと答える。

こいつは物怖じせんな。


それはともかく。

隔離っつーか、壁と船とのサンドイッチになってるよね。


「・・・決着をつけることかなわぬか。・・・20名ほどの一団に出会わなかったか?」


「あ! レスキュー隊ですね。そこのブルーが治癒魔法をかけて回復させました。位置と時間帯からもう地上についていると思いますよ。」


「ぬう。我のみではなく、あやつ等も助けたというのか! ・・・重ね重ね礼をいう。我が名は赤石! この礼は必ず!」




「いやいや。アンタもレスキュー隊を身を挺して助けたんでしょ? 見たところレスキュー隊でもなさそうだし。私たちはレスキュー隊 レンジャーワンのコード”ブルー” あっちは“イエロー”。同胞を助けてもらってお礼を言うのは私たちの方よ。あと洞窟内だから名乗りはコードネームでごめんね。」


「いや。命の恩人は恩人である!重ねて礼を言う。」


なんか、この遠慮合戦の終結が見えないなと思ったら


『そんな漫才いいですから。警戒してください。相手は四天王デビルフィッシュですよ。』

と青の魔石にスキルとして封じられているカグヤの声が聞こえた。


「え。あんたからも話すことできたの?」


『このドラウプニルというのですか? これをアンタが装着している間は可能みたいですね。それよりもアンタもそうですが四天王はゴキブリ並みにしぶといですわ。』


「ちょっ、ゴキブリって!・・・」

と言いかけた瞬間、洞窟が揺れ動いた。


「貴様ら。地上の戦士か? その赤石という勇者と違い中々卑怯な手を使う。だがこの程度で帝国四天王デビルフィッシュを倒せると思うなよ。」


うぉっ! デビルフィッシュ生きてた。

「ほんとにゴキブリ並みにしぶとい!」

山吹が変なところで感心しちゃったよ。


ちょっと待て

帝国四天王(デビルフィッシュ、アオイ)=ゴキブリ

こんな公式できてないかい?


「吾輩をおおおおっ・・・ゴキブリって言うなーっ!」


すごく同感なデビルフィッシュの叫びとともに船の陰から閃光が放たれ、視界が白一色となる。


同時に衝撃が私たちを襲った。

いや、洞窟全体が揺れ動いているんか。これ。


やがて衝撃が収まる。気が付くと洞窟の天井も壁も無い。

空が見えている。


もう一つ。とんでもないものも見えた。


巨大な泥人形<クレイゴーレム>だ。・・・でかすぎね?

40mぐらいあるんじゃね?


「この神に至らんとするデビルフィッシュをここまで追い詰めるとは見事!っ。だがここまで! 吾輩の僕。クレイゴーレムの一撃で死ぬがよい。」


えーっと。状況から察するに・・・ゴーレム生成の魔法で洞窟の天井や壁を泥人形の材料にして壁と船に挟まれている状態から脱出した? 

確かに壁がなくなれば脱出できるけど・・・危ない真似したなー。


私たち地底国家の人間にとって洞窟の壁の破壊はタブーとして幼いころから言い聞かせられている。岩盤事故や崩落事故の危険もあるし、場所によっては「守護者」という厄介なモンスターが出てくる。

ちなみに「守護者」という名前は洞窟の壁天井を破壊すると、洞窟の守るかのように出現する性質から自然とついた名前らしい。


デビルフィッシュも当然、その危険性は知ってたんでしょうけど。

それ以上にさっきの山吹によるサンドイッチアタックはヤバかったってことだろうね。


私は念のため「守護者」の出現を警戒する。

・・・どうやら、ここは出てこないエリアらしい。

まあ、地表に近いしね。

つーか。地下1階だから天井が地面だしね。

このエリアで地面を壊すたびに「守護者」が出てくるんなら、地上で土木工事やるたびに出て来てるんだろうけど、そんな情報はない。


おそらくだけど地上に近いエリアは大丈夫なんだと思う。


私は「守護者」の警戒を解き、改めてクレイゴーレムに向き合う。


でかいなー。

どれだけ魔力をつぎ込んだのさ。


ほら肩で息してるじゃん。

魔力カラッカラでしょ?

1階の天井も壁も全部材料にしちゃうなんてアホかこいつ。


『それにしても不思議ですわ?』

カグヤが疑問を呈する。


アンタはスキルになっちゃたんだから自重しなさいよ。なんでスキルが喋るのよ。

「なにがよ?」


『あの自称知恵者の格闘バカ蛸様。魔力は確かに四天王と呼ばれるだけのものはありますが、魔法そのものは使えないはずですわ。それなのにこんな大魔法を行使するなんて、いつの間に魔法を使えるようになってのかしら。』


「あれでしょ?  魔法の巻物<スクロール>つかったんでしょ?」


デビルフィッシュの右手に燃えカスが握られていた。


『なるほど。』

カグヤが頷く。


魔法の巻物〈スクロール〉は魔法を使えない者でも魔法を使えるようになるマジックアイテム。


勿論、そんな便利なものが無制限という訳ではない。制限がある。

使用回数は一回。使用したら燃えてなくなる。


魔力消費量も多い。

巻物に書かれている魔法しか使えない。

そんで高い。とにかく高い。給料の3か月分 ボッタクリ価格。


などなど


それでもこの場面では有効だ。


攻撃魔法のスクロールではなく、クレイゴーレム生成のスクロールを持ってきたのもアイツらしい。

とはいえデビルフィッシュも脱出のためとはいえ無茶したみたいね。


折角、生成した巨大なクレイゴーレムだけど形を維持するのに大変らしくところどころ崩れ落ちてる。


魔力の練りが甘く急すぎたんだ。

ここは魔法を使えないデビルフィッシュの弱点が出たねー。


「スキーズ! 大砲の出番です!」

『イエス、マイマスター』


山吹が間を置かず空飛ぶ船スキーズに砲撃指示を出す。早いな。おい。

砲門から繰り出される3筋の魔法の砲撃。


クレイゴーレム程度の防御力では防ぐことは難しいらしく砲撃を受けるごとに崩れ落ちていく。

まあ、土くれだしね。泥人形だしね。

本物のゴーレムの防御力はないでしょうね。

うーん。デビルフィッシュって山吹と相性が悪いのかも。

このまま倒せそうだよね


であれば、この有利な状況の内にちょっと試したいことがある。

ピンチの時に初めてのことを試すのは博打でしかないからね。


先程、変身したときに頭の中に流れてきたマニュアル

その中に眷属という項目があった。

山吹の空飛ぶ船スキーズもおそらく同じ眷属なんでしょ。


せっかくだから余裕のある時に試してみたい。

私の眷属は全部で5体らしい。


多くね?


その眷属がどんな能力をもって、その眷属を扱うにあたってどんなリスクがあるのか?

それがわからないと実戦でつかえないからね。


「まずは・・・1体目 おいで! フギフギ」

巨大な機械仕掛けの鳥が出現した。

フギフギは私を乗せて空へ飛び立つ


「うおっと! フギフギは空中移動用のようね。魔力の消費を感じられるけどまだ余裕。次は2体目 おいで!ムニちゃん」


フギフギと同じく機械仕掛けの鳥が出現する。

ムニちゃんは空高く飛ぶと空中にいくつもの魔法陣を展開。その魔法陣から怒涛の魔法弾連射を行う。


「GYAAAAAA!」


クレイゴーレムはスキーズの砲撃とムニちゃんの魔法弾の弾幕により成すすべなく崩れ落ち土塊に戻った。


「ありゃ。倒しちゃった。あと3体試したかったのに。」

山吹から借りた神の力。クレイゴーレム程度ではオーバーキルだったらしい。

---from akaishi side---


「ぬう。あちらは決着がついたようだ。デビルフィッシュとか言ったな。おぬしはどうする? ここで退くか? 退くならば白衣を手に入れた場所へ案内してもらおう。」


我は目の前のデビルフィッシュに問う。

先程の巨大な泥人形を呼ぶのに相当消耗するらしい、肩で息をし、玉の汗をかいている。


「・・・吾輩を甘く見ては困る。魔法の治癒を受けたとはいえ胸と足を貫いたのだ、実際立つのも辛かろう。そんな瀕死に遅れをとるような吾輩ではないわーっ。」

デビルフィッシュの口から黒煙が噴出される。


先程の目くらまし。


しかし!


その手札があると理解しておれば恐れるに足りぬ。

大きく横にスッテプして煙幕を躱し相手に踏み込む。


「ぬう。」


太腿に刺さるような痛みが走る。痛みはともかく踏み込みが弱い。

無念だが奴の言う通り治癒魔法とやらで表面上は治ったかのように見えるが、所詮、応急処置であり、完治ではないらしい。


ステップの反動で膝をついてしまった。

ぬう。大きな隙を作ってしまったか。


「ほうれ見たことか! 串刺しとなれ。デモンスピア!」

デビルフィッシュの蛸頭から生えている8本の蛸足が穂先鋭い槍と化し、我を襲う。


「危ないです! これをお使いください。神の力譲渡します!」


「ぬう?? これは??」


黄金色の船を操る黄色の戦士が何やら俄かに理解しがたいことを言ったかと思うと我の頭の中に大量の情報が入り込む。

変身?? 強化??


ふと腕を見ると大きな紅い魔石のついたガントレッドが腕に装着されていた

このガントレッドは黄色い戦士や蒼い魔法使いと同じものだ。


いずれにせよ。

なんであれ最低、この踏ん張りが利かぬ不自由な状況を打破できるのであればありがたい。

頭の中に入ってきた情報に従いガンドレッドを慣れぬ手つきで操作する。


「An armor changes Tor」の機械音が鳴り響く。

我の体がド派手な真紅の西洋甲冑のようなものに覆われる。

鏡が無いため子細はわからぬが、腰回りは大きなスカート装甲。 自分の肩の倍はある巨大な肩当に、膝から下もフレア装甲。右腕には二回りも大きな円筒形の腕あて。左手には腕には炎をデザインしたようなシールドが装着されている。


黄色と青の戦士が軽装のスーツなのに比較して重装甲のデザインのようである。

「Completion! The Fighter ・RED」

機械音と共に真紅の重装戦士に変身した。


目の前に迫るデモンスピアを左手のシールドで弾く。

「うむ。」

衝撃はない。なによりも重要な足の踏ん張りもきく。

これならいける。


なんとしてもこやつを捉えてリサ姉の居場所を聞き出さねばならぬ。

デモンスピアを弾いた衝撃でよろけるデビルフィッシュの懐に入る。


脇腹がガラ空きであることを確認。


「ぬおおおおおッ。」

肩から背中にかけて力を入れる。腰を捻転。腕が鞭のように広げ一気に懐に近づく。

「吐ーッ!」

捻転を戻すと同時に高速で 掌底を敵の脇腹に突き入れた。


体がバネが戻るかのような速度で回転する。

そこから速射で繰り出される大砲のような我が最も得意とする片手突き。


『Mjollnir hamme』

変身の作用か? 機械音と同時に右腕装着されている二回りも大きな円筒形の腕あてから放電。 電撃も走る。


問答無用でタコ男がくの字に折れ曲がり、電撃の紫電をまとったまた吹き飛び大爆発をおこした。


「ぬう。この力は」

デビルフィッシュの攻撃を無効化する装甲

電撃を発生させ一撃で吹き飛ばす攻撃力

申し分はない。申し分はないがこの場合は過剰戦力である。


我はリサ姉の居場所を聞き出したいのである。

その手がかりが吹き飛ばしてしまった。

これでは生きてはいまい。聞き出すことなど不可能であろう


なんと理不尽な事か!


「地上の勇者たちの力。見させていただきましたわ。」

「ぬう。」


デビルフィッシュを吹き飛ばした先から声が聞こえる。


不覚!

まだ敵がいたか?

残身せず油断していた証拠である。


タコ男を倒し呆けている場合ではない。

不意を打たれていれば我は倒されていたであろう。

我が未熟さを痛感する。


爆発の煙が消えるとぐったり倒れているデビルフィッシュの巨体を軽々と抱える黒いドレスをまとった女がいた。


「アタシは帝国四天王ヘドリー。デビルフィッシュを倒すなんて素晴らしいですわ。その力。そしてこの物語で聴いていた青空。どれも素晴らしい。やはり「地上」は理想郷でしたわ。今はこのデビルフィッシュ救助のため退きます。が、次に来るときはその「地上」の力。私の手でいただきますわよ。」


女は不敵に笑うと巻物を出す。

ほぼ同時にデビルフィッシュとヘドリーが消えた。


あとで聞いたところによると<転移のスクロール>というものを使用したらしい。

ぬう。なんと理不尽な事か。これだけ苦労してリサ姉の手がかりを失うとは!



---from aoi yamabuki---


「リサ教授のご友人だったのですね!」


レスキュー隊をただ一人で救い出した勇者の素性を探ると、意外にもリサ教授の友人でした。

出会いは、教授が通っていた総合格闘技ジム。

そして彼は、教授を救い出すためだけに戦場へ潜入したのだといいます。

無謀としか思えない行為ですが、その無謀を現実に変えるだけの力を確かに持っていました。

モンスターを素手で倒しているのですから。


今、僕たちは北都大学にいます。

この北都大学の一室がレンジャーワン。つまり、レスキュー部隊の本部です。

魔石の洞窟に近いという理由で臨時に設置されました。

その他、モンスターや地形情報も学内にあるという理由もあります。


デビルフィッシュ、クレイゴーレムとの戦闘後、僕達も一旦、事務所に引き上げました。

赤石くんのダメージも大きかったですし、僕たちも魔力切れで変身が解除されたからです。


特にアオイちゃんは元地底帝国の方で顔バレするとイロイロ拙いので強く退却を希望しました。


話は戻りますが、彼がりさ教授と同じジムのご友人と聞いて色々納得しました。


りさ教授はモンスターが跋扈する洞窟内に研究所を作るなかなかアグレッシブな人なのですが、赤石くんも同じ人種らしいです。


「それで、りさ教授を助けたいと。」

確認したのは黒瀧教授。

臨時でレスキュー隊であるレンジャーワンの責任者をしている方です。

リサ教授のような魔石や魔石の洞窟の専門家ではありませんが、リサ教授の理解者であり、立場が上の方ということでなられたようです。


「無論。」

赤石クンは黒滝教授の質問に短く答えました。

あれ?赤石クンって高校生だよね? その・・・すごい威圧というか、威厳を感じるんだけど、体もデカいし、顔も濃いですし・・・年齢偽ってないよね?


「ふむ。で、あれば目的は同じじゃな。レンジャーワンに参加せんかね。赤石さん。」


うん、こうなるのはわかってました。

この黒滝のおじいさん、ちょっとでも戦えそうだと思ったら、すぐに声をかけるんです。

正直、そのおじいさんのキャラがあったからこそ、僕もアオイちゃんもレンジャーワンに入れたんだと思います。


そうでなくても今、レンジャーワンは危機的なのです。

第一陣が全滅。

そして第一陣の失敗で、レンジャーワン加入に名乗りをあげていた有志も大半が離脱。

また、半端な人員を魔石の洞窟に投入しても二次被害が増えるだけと判断されました。


その結果・・・モンスターと戦える人員だけに絞ることになりました。


つまり・・・レンジャーワンは僕とアオイちゃんしか残っていないのです。

黒瀧のおじいちゃんが戦える赤石くんをスカウトするのはある意味当然です。


「ちょっと待って。いっちゃ悪いけど、遭難したりさ教授や研究所が無事とは限らない。悪いけどね。」


「何が言いたい?」

アオイちゃんの言に赤石くんが反応する。


「怒らずに聞いて。無事なら急いで救助したほうがいい。でも2日過ぎてる。焦って進める時間は終わった。であればちゃんとレスキュー隊員の負傷者の回復を待って進めた方が良く、無理に赤石くんを誘う必要はないわ。赤石くんもまた胸に風穴を空けられたくはないででょ?」


アオイちゃんの言っているのは「72時間の壁」の話です。

これが救助のタイムリミット。

この時間をすぎると生存確率が下がるから無理をするな。

とアオイちゃんは言ってるのです。


いろんな思惑があると思います。

アオイちゃんの立場であれば洞窟に踏み入れて帝国の人達との接触リスクは避けたいでしょう。


また兵を率いていたとも聞いてます。

隊長として非情な選択をしなければならない場面もあったのでは無いでしょうか?


だからこそのドライな発言なのでしょう。


でも・・・


赤石クンはどこぞの世紀末覇者の様な見た目に反して正直です。

リサ教授に対する感情が駄々洩れです。

赤石クンのプライドを考慮してご友人という表現つかいましたけど、彼、リサ教授の事。好きですよね。恋してますよね。

こんな場面じゃなければ思いっきり揶揄っていたところです。

そんな彼にリサ教授を救出しないという選択肢は彼にはないでしょう。


実質的なりさ教授の救助延期の提案にどう反応するか?

延期すればするほど助かる可能性は低くなるのです。


怒り出さなければいいのですが・・・


「勘違いしているようじゃが・・・・

黒滝教授が口を挟む。

「りさ教授は生きておる」

「リサ姉は生きておる」


黒滝教授と赤石くんがはもった。

微妙にズレたのはご愛敬。


かたやご老人。かたや武人。息をそろえてなんていうのは難しいでしょう。


それにしても「生きてる」と二人ともりさ教授の生存に確信をもっているようです。

なぜでしょう。


二人とも懐からスマホを取り出しSNSの画面を見せる。


それにはりさ教授が研究所の仲間と仲良くカツ丼とビールを頬張る写真と以下のコメントが添えられていた。


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今日は豚の頭をもったモンスターが攻めてきた。

オークとかいうやつらだった。

撃退したら、豚が食べたくなったので今日はカツ丼だ!

追記:こちらは無事だ。焦って妄動してくれるな

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うん、元気そうだ。

っていうか助けに行く必要なくない??

戦隊モノが好きで書いてみました。

拙作ですがよろしくお願いします。

全50話 毎週 日曜日 9時30分に投稿できたらいいなぁと考えてます。


ちなみに皆様が好きな戦隊は何でしょう?

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