ジーク=オリジン
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「――ジーク=オリジンについて、知っているか」
ギルドの空気が、さらに重く沈んだ。
その空気など気にもとめず、俺はすぐに口を開いた。
「ジーク=オリジンなら――俺のじいちゃんだけど」
静寂を裂くように、その言葉が響いた。
次の瞬間、ギルド中が一斉にざわめき立つ。
「じいちゃんってことはあの人の孫」
「オリジンって、まさかあの伝説の!」
「ははっ、嘘だろ……」
今日一番のどよめきが起こった。
椅子が軋み、誰かがカウンターを叩く音が混じる。
空気が震えるほどのざわめきの中、ただ一人――マスターだけは微動だにしなかった。
その鋭い視線だけが、俺をまっすぐに射抜いている。
だが、不意にその顔が不敵な笑みに変わった。
「ジーク=オリジン?」
ジョンが首をかしげる。その顔にはまるでピンときていない様子が浮かんでいた。
隣のフィーネは、まじか……とでも言いたげな顔。
「まじか、こいつ……」
あ、口に出た
その言葉を聞いて、ジョンが慌てて取り繕うように言葉を発した。
「いや、流石に知ってるから! ほら、確か……あれだよな、昔に活躍した伝説の冒険者だろ?」
その発言にフィーネがため息を吐いた
「はぁー。いいジーク=オリジンは冒険者で唯一、教会から聖号を授かった、お人なの」
「氷陸の海の新しいルートの開拓に樹赦の森の探索範囲拡大、そして災火の山岳にいる頂生“災火の龍“を退けた冒険者なら誰もがしっている人物よ」
「いや、だから知ってるって!」
フィーネに詰め寄られながら、ジョンは必死に弁明する。
その様子を横目で見ながら、俺はふと呟いた。
「へぇー、じいちゃん、そんなことしてたんだ」
マスターが少し目を細めた。
「お前は知らなかったのか」
「じいちゃんはあんまり自分のこと話さなかったから。龍のことは、少しだけ聞いたけど」
ほんの一瞬だけ、マスターの声に懐かしさの色が混じった。
「……あの人は、今どうしてる」
「少し前に死んだ。だから、俺は聖都に来た」
「そうか」
沈黙が一拍、落ちる。
「あんたがギルドマスターであってるか」
「そういえば自己紹介がまだだったな。お前の言うとおり俺がギルドマスターだ」
「ギルドマスターのジーベックだ。よろしくな」
「よろしく」
ジーベックは、俺をじっと見つめながら言葉を続けた。
「その感じだと、“聖号”については知らないみたいだな」
「聖号?」
「お前の名前の後ろについてる“=オリジン”のことだ」
「聖号って言うのは教会が定めた特別な人間だけに贈られて名乗ることが許されるものだ」
「実際、俺や他の奴らにはついてねぇ」
「カタリヤも?」
「うん、そうだよ。私はただの“カタリヤ”」
「そうなのか」
「だから、聖都では“=オリジン”を名乗らない方がいい」
「めんどいことになりそうだからな」
それを聞いて俺は一瞬だけ考える
「うーん、断わる」
「……って、おい」
「ギルドマスターの言いたいことは何となくわかった。でもこれは、俺がじいちゃんに貰った大切なものだから。俺がそれを否定しちゃいけないような気がする」
「けど、俺のことは普通に“ルーツ”って呼んでもらっていい」
「はぁー……頑固なところは似てるな」
ジーベックは頭をかきながら、わずかに笑った。
「そういえば、じいちゃんからこれを預かってきた」
俺は懐から包まれた布を取り出し、差し出した。
「これは……?」
受け取ったジーベックの目が一瞬だけ鋭くなる。
「手紙って言ってた。これを“冒険者のマスター”に渡せって」
「お前は中身を見たのか」
「いや。俺に対するものじゃなかったから、中は知らない」
「……そうか」
ジーベックは手紙をじっと見つめた後、静かに頷いた。
「よし、今日はこんなところでいい」
「明日の昼前にもう一度ここに来い。そこで合否を伝える」
それだけ言い残すと、ジーベックは踵を返し、受付の奥へと歩いていった。
重い扉の軋む音が響き、閉まる音とともに――場の緊張が、ゆっくりと溶けていった。
マスター室の扉がゆっくりと閉まると同時に、
外の騒がしさが嘘のように止んだ。
ジーベックは深く息を吐き、静まり返った部屋を見渡す。
壁際の棚には古びた地図や依頼書が積まれ、
長年の香りがしみついた空気がゆらりと漂っていた。
彼は机の椅子に腰を下ろすと、
慎重にルーツから渡された布を解いた。
中から一枚の手紙が現れる。
羊皮紙の表面は時間の経過を思わせるように少し黄ばんでおり、
そこにはびっしりと文字が刻まれていた。
ジーベックはその紙を丁寧に手に取り、
一文字、一文を嚙み締めるように目で追っていく。
読み進めるにつれて、
その険しい表情が徐々に和らいでいった。
最後まで読み終えると、
彼は手紙をそっと机の上に置き、
背もたれに体を預けて天井を見上げる。
長い沈黙が部屋を包んだ。
あの少年、ルーツの話を信じるかは半信半疑だった
――正直なところ、あの少年の言葉を信じる気にはなれなかった。
“ジーク=オリジンの孫”などという話、
常識的に考えれば荒唐無稽だ。
だが、この手紙を読んで確信を得る
――あの人は、本当に生きていたのだ。
20周期ものあいだ信じ続けていた生存が、
ようやく形を持って現れた。
「……ははっ、やっぱり生きてた」
ジーベックの口元に、懐かしさと嬉しさの入り混じった笑みが浮かぶ。
ゆっくりと目を閉じ、椅子の背に頭を預けながら呟いた。
「まったく、あの人らしい……」
部屋には再び静寂が戻り、
手紙の上でランプの明かりが、柔らかく揺れていた。




