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ウロボロク  作者: 黒黰黎
ファースト・ステップ

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7/11

冒険者ギルド

読みにくい所や誤字の報告などしてくれるとありがたいです。



感想または質問にはできる限りお答えするので書いてくれると嬉しいです。

目の前に現れた建物は、石と木を組み合わせて造られた重厚な造りだった。

華やかさよりも堅牢さを重視したその外観は、まさに“働く者たちの拠点”といった雰囲気を放っている。


正面には分厚い扉が二枚構えで立っており、その上に掲げられた看板には「冒険者ギルド」と金文字で書かれている。文字は陽の光を受けて淡く輝き、遠くからでもその存在感を示していた。


「よし、入ろっか」


カタリヤは慣れた様子で扉の取っ手に手をかけ、重い扉を押し開けた。その音は鈍い金属音を伴い、ギルド内に静かな余韻を残す。それに続くように、俺も後ろから静かに歩いて中へ入った。


中は思っていたよりも広く、温かい灯りに照らされていた。

十数人ほどの人々がそれぞれの席で話し合っていたり、机の上で書類を広げていたりする。

ざわめきと喋り声が混じり合い、活気に満ちていた。


「こんばんは!」


カタリヤが挨拶する。

その声に反応した冒険者たちの視線が一斉にこちらへと向けられる。会話の音が一瞬だけ小さくなり、いくつもの視線がこちらに注がれた。好奇、警戒、興味――それぞれ違う色を帯びた“様々な視線”は、まるで空気の中に見えない粒子のように漂っていた。


「あれ、カタリヤちゃんじゃん」

「どうしたの? あ、もしかして俺に会いに来たとか?」


軽い口調で声をかけてきたのは、金髪の男性だった。柔らかく流した前髪に爽やかな笑みが浮かぶ。まるで陽だまりのように温かい雰囲気を持った男だ。


カタリヤは慣れた様子で微笑み返した。


「こんにちは、ジョンさん。今日はギルドに案内しに来たんです」


そう言いながら、カタリヤが俺の方へ視線を向けた。それに合わせて、ジョンと呼ばれた男の視線もこちらに移る。


「なんだよ、子供じゃねぇか。ガキが来るような場所じゃねぇよ。早く帰りな」

「それよりカタリヤちゃん、このあと俺と食事でも――」


|スパンッ!


鋭い音がギルドの中に響いた。

ジョンの頭ががくんと揺れ、次の瞬間、彼は後頭部を押さえながら振り返る。


「いってーな! なにすんだよ、フィーネ!」


背後に立っていたのは、薄茶色のショートヘアの、一人の女性だった。笑顔のまま手を軽く上げている。


そして、もう一度、先ほどと同じ音がギルド内に響き渡る。


「ごめんなさいね、うちのバカが」


フィーネと呼ばれた女性が、軽く肩をすくめながら呆れたように言う。


「いえ、大体いつもあの感じなので。大丈夫ですか、ジョンさん?」


カタリヤが苦笑しながら声をかけると、ジョンは頭を押さえたままうずくまっていた。


「いいわよ、別に心配しなくて。それより久しぶりね」


「はい。お久しぶりです」


「最近忙しくて全然お店に行けてないから、久しぶりにお父さんの料理食べたいわ」


「はい、ぜひ来てください。サービスしますよ」


二人の会話がひと段落すると、フィーネの視線がこちらへと移る。


「それで――ギルドに用事があるのは、そっちの子ね?」


話の流れが、どうやら俺の方へ向いたらしい。


「冒険者になりたくて来た。ここに来ればなれると聞いて」


そう答えると、フィーネは俺を上から下まで観察するように見つめた。

その視線は決して攻撃的ではなく、むしろ慎重に、でも鋭く俺の実力を測っているかのようだった。


「一応確認だけど……齢はいくつ?」


「多分、十五だ」


「多分? まあ、十五ならギリギリ大丈夫ね」

「それじゃあ、受付まで案内するからついてきて」


俺はフィーネとカタリヤに続いて受付まで着いていった。


「ルーツって、十五なんだ」


「ああ、でもじいちゃんが言うには、だけど」


「そ、そうなんだ……」(それって齢の数、正しいのかな)

少し困惑気味に返すカタリヤ。


「ちなみに私は十八だよ。ということは、私の方がお姉さんだね」

胸を張り、自信満々に言う。

その無邪気な笑顔に、思わず苦笑が漏れた。


「セルナさん、ちょっといい」


気づくと、受付の前まで到着していた。

ギルドの奥からは紙をめくる音や、羽ペンが走るかすかな音が聞こえる。

忙しく動く人々の中、受付だけは不思議と静かな空気に包まれていた。


「はーい、少し待っててください」


奥の方から小さく明るい声が響き、すぐに軽やかな足音が近づいてくる。

受付の奥から走り出てきたのは、肩まで伸びた淡い金髪を揺らす一人の女性だった。


「どうしました、フィーネさん?」


「いや、この子が冒険者になりたいみたいで」


「ギルド加入ですね。わかりました。それじゃ、君、こっちに来て」


促されるままに前へ進む。

カウンター越しに向かい合うと、彼女は微笑みを浮かべながら書類を取り出した。


「この書類にご自身のことを記入してください」

「記入された書類をもとに、ギルドに加入できるか判断いたします」


「誰でもなれるわけじゃないのか?」


「はい。命の危険が伴うことなので、ある程度の実力や才能のある方しか入れないことになっています」


彼女――セルナと呼ばれた受付嬢は、丁寧ながらも芯の通った声でそう答えた。

笑顔の裏に、幾度も同じ説明を繰り返してきた熟練の落ち着きが見える。


「そういえば、ルーツ、文字書けるの? 書けないなら私が代わりに書くけど」


カタリヤがそう聞いてきたので、俺は少し得意げに答える。


「安心していい。一応、じいちゃんから読み書きは教わっている」


「そうなんだ」


カタリヤがほっとしたように笑う。


「それじゃ、カタリヤちゃん、私たちはあっちで待ってようか」


「俺もカタリヤちゃんとお喋りしたいぜ」


いつの間にかジョンもこっちに来ていた。

三人が移動を始めたので、俺は書類に向き直る。


ペン先が紙を滑る音が静かに響く。

慣れないペンに少し手間取りながらも、じいちゃんに教わった通りに丁寧に書き進める。


「えーと……」


「セルナです」


「セルナさん、住んでる場所はどうすればいいですか?」


「カタリヤちゃんと一緒に来たってことは、『癒しの真珠亭』から来たんじゃないでしょうか?」


「はい」


「でしたらお住まいは『癒しの真珠亭』と書いてもらえば大丈夫です」


「そうですか、ありがとうございます」


分からないところは時々聞きながら、俺は書類を書き上げていった。


「終わりました」


「拝見させてもらいます」


書き終えた書類をセルナさんに返す。

彼女は受け取ると、指先で紙の端を揃えながら、丁寧に内容を目で追っていった。


数秒後、セルナさんが首をかしげ、少し眉をひそめる。

書類の文字を指でなぞりながら、目を細めて何かを考え込んでいるようだった。


「あのー、お名前のところ間違えていませんか?」


もう一度書類を確認してみる。

名前の欄には確かに「ルーツ=オリジン」と書かれている。


「大丈夫だと思います」


再び紙を渡すと、セルナさんは再び目を通し、今度はしばらく黙り込んだ。

彼女の眉がゆっくりと寄っていくのが見える。


周囲の空気が少し張り詰め、受付前の空間に静けさが降りた。

ギルドのざわめきが遠のいて聞こえるほど、彼女の表情に引き込まれていた。


「少々お待ちいただけますか」


そう言うと、セルナさんは奥の方に小走りで向かい、一番奥のドアを開けて部屋へ入っていった。

木の扉が閉まる音が響き、俺は受付前に残されたまま、少し不安げに待つことになった。


「どうしたの?」


カタリヤがこちらに近づいてくる。


「俺にもわからない。間違えずに書いたつもりなんだが……」


――もしかして、じいちゃんに教えてもらった文字が間違ってるのか?


「おい、お前」


ジョンの声が背後から飛んできた。


「さっきカタリヤちゃんに聞いたけど、風の魔法が使えるのは本当か?」


「本当だ」


「そうか。なら俺に何でもいいから魔法を打ってみろ」


「ちょっと、ジョン! 何バカなこと言ってんの!」


フィーネが声を上げる。


「黙ってろフィーネ。お前だって気になるだろ、同じ魔法使いなんだから」

「安心しろ、ちゃんと魔力で守るから。お前の魔法じゃ怪我なんてしねぇよ」


「そうか、なら軽く撃つぞ」


左手を前に出し、ジョンの胸に向かって魔法を放つ。

手のひらの中に、風の気配がかすかに集まる。

空気が震え、周囲の紙がわずかに舞い上がるのが見えた。


次の瞬間――


ジョンの体が後方に吹き飛んだ。


ギルドの壁に衝突する音が凄まじく響き、粉塵が舞い上がる。

その衝撃に、周囲の冒険者たちが一斉に立ち上がり、ざわめきが広がった。


「ちょ、ちょっと大丈夫、ジョン!」

フィーネが慌てて駆け寄る。


「どこが軽く撃つだ、馬鹿野郎! 全然威力強いじゃねーか!」

煙の中から、ジョンの怒鳴り声が返ってくる。


「大丈夫なの、ジョン?」


「あ、何ともねぇーよ!」

吹っ飛び方に比べ、ジョンは意外なほど無傷だった。

体についた埃を払いながら立ち上がる姿は、むしろ元気そうに見える。


「それよりも、普通に魔法撃ってんじゃねーか。殺す気か!」

荒げた声でジョンが言う。


「いや、軽く撃ったぞ。実際じいちゃんなら今の威力を片手で弾くし、だいいち魔法が見たいって言ったのはそっちだろ」


「お前とお前のじいちゃんの常識なんて知るか! 今のは普通に人が死ぬレベルだ!」


確かに俺は今までじいちゃんと森で二人きりの生活をしてきた。

だから、この“聖都”の常識を出されると、言葉に詰まってしまう。


――でも、それでもどこか納得いかない。


俺が黙り込んでいると、受付の方から重い声が響いた。


「何の騒ぎだ」


ギルド全体の空気が、一瞬で静まり返った。


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