聖都
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「冒険者ギルドって遠いのか?」
癒しの真珠亭を出て、行き交う人々の波を縫うようにして歩きながら、俺はカタリヤに尋ねた。
「遠いよ。ここから反対側の開発地区にあるから」
「開発地区?」
「あー、そっか。ルーツは外から来たんだもんね」
「えっとね、開発地区っていうのは聖都の北側にある物作りが盛んな場所なの。
聖都で使われてる道具のほとんどは、そこで作られたものなんだ」
彼女は指で方角を示しながら、軽い調子で説明を続ける。
「隣同士の西側と東側にも名前があってね。西が商業地区、東が生産地区で、私たちが今いる南側が住宅地区だよ」
「覚えるのが大変だな」
「はは、確かに。初めて聞いたらそう思うかも」
「ちなみに聖都って丸い形をしてて、高い壁で囲まれてるの。実際に丸いかどうかはわかんないけど」
「確かに、あの壁は見た。入る時に越えたからな」
「……ちょっと待って。どうやって中に入ったの?」
「普通に上から入ったけど?」
「上からって、あの壁を!?」
「魔法で空を飛べるから、それで入った」
「空を飛べるの!?」
カタリヤは目を輝かせて身を乗り出した。
「それって、昨日の魔法で?」
「ああ」
「へぇー、魔法ってそんなことまでできるんだ。いいなぁ」
「飛んでみたいのか?」
「そりゃあね。少し怖そうだけど、楽しそう!」
「なら、一緒に飛んでみるか」
「飛べるの?」
「ああ。一人くらいなら余裕だ」
「じゃあ、飛んでみたい。約束!」
カタリヤは左手の親指と薬指で輪っかを作り、俺に差し出した。
「オリュリパスか」
俺も同じように指で輪を作り、彼女の輪に重ねる。
「知ってるんだ?」
「じいちゃんに教わった。たまに二人でやってたから」
「そうなんだ。じゃあ一緒に言おう、せーの」
「『天と地が続く限り、あなたとの誓いを忘れない』」
二人で唱え、指の輪を崩す。
「約束だよ」
「ああ、絶対に守る」
そのとき、不意に視界が開けた。
今まで建物が並んでいた道が、広々とした空間に変わっていた。
木々と芝生が生い茂り、道の上には多くの人々が行き交っている。
そして、視線の先――白銀に輝く巨大な建物がそびえ立っていた。
「あ、いつの間にか教会まで来てたんだ。開発地区はこの教会の向こう側だから、このまま真っすぐ行こう」
「これが教会か……すごいな」
「聖都で一番大きい建物だからね。そういえば、教会も知ってたんだ?」
「うん。じいちゃんが言ってた。『一番目立つから、迷子にならないだろ』って」
「そっか……もしかして、ルーツのお爺さんって聖都の人?」
「多分そうだと思う。でも、自分のことはほとんど話さなかったから」
そのとき、教会の入口に人だかりができているのが見えた。
誰もが笑顔で、祝福の声をあげている。
「おっ、婚輪の儀かな」
「婚輪の儀?」
「夫婦になった人たちが“生まれ変わってもまた会えますように”って誓う式だよ」
「カタリヤはやったことがあるのか?」
「えっ、ないない。そもそも恋人だってできたことないもん」
「そうなのか」
「そうなの!」
「……さ、ここから先が開発地区だよ」
道を進むと、空気ががらりと変わった。
鉄や油の匂い、木槌や金属を打つ音――
住宅地区とはまるで違う、職人たちの息づかいを感じる場所だ。
「冒険者ギルドまで、あと少しだよ」
「すごい音だな」
「うん、色んなものを作ってるからね。慣れれば心地いいよ」
「流石に、地区全部がうるさいわけじゃないから安心してね」
カタリヤは歩きながら、ふと振り返った。
「そうだ、ギルドに着くまででいいから、森での話を聞かせてよ」
「森の話?」
「うんうん」
「そうだな。森では、じいちゃんと二人で生活してた」
「森って、“樹赦の森”だよね。聖都の外の西側にある」
「そう。俺たちは面倒だから“森”って呼んでたけど」
「じゃあ、“災火”と“氷陸”には行ったことある?」
「いや、じいちゃんから話は聞いてるけど、行ったことはない」
「そうなんだ」
「というより、俺はここに来るまで森の外に出たことすらなかった」
「じいちゃんが死んで、その遺言で俺は聖都まで来た」
「……お爺さん、死んじゃったんだ」
カタリヤが少し申し訳なさそうに顔を伏せる。
「カタリヤが気にすることじゃない」
「じいちゃんが死んだことを話したのは、俺の意思だ」
「それに……ちゃんと別れは済ませた。ここまで育ててもらった感謝も伝えられたし、悲しむ理由なんてもうない」
「それに、じいちゃんの遺言のひとつでもあるんだ。“オレの話をする時は楽しく話せ”って」
「..なんか、いいね。そういうの」
彼女は笑っていた。けれど、その笑顔はどこか少し寂しそうだった。
「私はね……ちゃんとお別れできなかったから」
そう呟いたあと、カタリヤは横の建物を指さした。
「さぁ、着いたよ。ここが――冒険者ギルドだよ」




