聖女
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「聖都は、今日も平和ですね」
協会の一室にて、純白の修道服をまとった女性が窓越しに外を眺めながら静かに呟いた。
「えーと、今日は確かお昼に婚輪の儀に出席でしたね」
「はぁ~」
長いため息をつきながら、彼女は机の上に体を預けた。
「憧れますね、婚輪の儀。私もいつかしてみたいものです」
彼女は立場上、婚輪の儀に参加する機会が多かった。
彼ら、彼女らの幸せそうな顔を目にするたび、その思いは日に日に増すばかりである。
それは羨望にも似た思いだが、その立場故に、簡単に行えないのが現状である。
「アイギス様、身支度はお済でしょうか」
静寂を破るように、部屋のドアを控えめにノックする音が響いた。その後に聞こえてきたのは、低く穏やかな男性の声だった。
「はい、もう済んでいます」
「ドアを開けてもよろしいでしょうか」
「どうぞ」
彼女の許可を受けて、扉がゆっくりと開く。そこに現れたのは、全身を重厚な鎧で覆い、腰に剣を帯びた男だった。
「失礼します」
「お迎えにあがりました」
「おはよう、ギル」
親しげにそう言うアイギスに、男は少し困ったような表情を浮かべた。
「アイギス様、何度も申し上げていますが、私のことはギルバートとお呼びください」
「いいじゃない、二人の時ぐらい」
「あなたも、二人の時は私をアイギスと呼び捨てにしてもいいのよ」
彼女の悪戯っぽい笑みに、ギルバートは軽く息を吐きながら肩をすくめた。
「御冗談は程ほどにしてください」
「あなたは聖女なのですから、自分の立場を十分理解してください」
「自分の立場は十分理解しているわ」
「理解した上で言っているのよ。だってあなたは私の専属騎士なのだから」
彼女の瞳が真っ直ぐにギルバートを見つめる。軽口の中にも確かな信頼を感じさせるその言葉に、彼は少し目を伏せながら応えた。
「はぁ……専属騎士と言っても、所詮は騎士です」
「聖女であるあなたとは立場が違う」
「無駄話はこれくらいにして、そろそろ参りましょう。朝礼が始まる時間です」
「そうですね、では行きましょうか」
アイギスは微笑みながら椅子を立ち、ギルバートとともに部屋を後にした。廊下を進む二人の間にしばしの沈黙が続いたが、それはギルバートが話を切り出すことで破られた。
「そういえば、昨日の謎の飛行物体の件についてご存じですか、アイギス様」
「謎の飛行物体? 何ですかそれは?」
アイギスは少し首を傾げながら問い返した。その仕草は彼女の純粋さを象徴するようで、ギルバートは僅かに微笑んだ。
「昨日、巡回中の騎士の数名が空を飛ぶ飛行物体を目撃したとの報告がありました。さらに奇妙なことに、聖都の外から飛んでくるのを見たという者までいます」
「念のため、巡回の騎士たちに何かあればすぐ報告するよう指示を出しましたが、今のところ特に変化は見られません」
「冒険者ギルドにも何か知っている事があれば協会に知らせるように言ってあります」
「聖都の外から来た謎の飛行物体ですか……」
アイギスは窓の外を見つめながら言葉を紡いだ。
「もしかしたら、神の使いかもしれませんね」
彼女の口元には微笑みが浮かんでいた。その表情はどこか夢見るような、穏やかで柔らかいものだった。
それに対し、ギルバートは厳しい表情で言葉を返した。
「あるいは、聖都の平和を脅かす獣かもしれません」
彼の声には鋭さが宿っていた。それを聞いたアイギスは目を細めながらも、楽しそうに微笑みを浮かべていた。
「ギル、そんなに怖い顔をしないで。もしかしたら、私たちにとって必要な出会いに成るかもしれませんよ」
その言葉の真意がどこまで確信に満ちたものなのかはわからない。しかし、アイギスの言葉にはどこか説得力があった。




