癒しの真珠亭
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「お父さん、起きたよ」
彼女と少し話をしたあと、食堂に案内すると言われた。
そのまま彼女に続いて階段を下りていく。
階段を下り終えると、カタリヤは迷いなく一つの部屋に入っていった。
俺はその背中を追うように部屋に足を踏み入れる。
部屋に入った瞬間、俺は思わず目を見張った。椅子とテーブルは見たことがある。森の中で使っていたからだ。
しかし、これほど多くの椅子とテーブルが整然と並べられている光景は初めてだった。何か特別な場所なのだろうか?
「これが食堂」
カタリヤが振り返りながら呟いた。
「うん、 なんか言った?」
彼女が聞き返そうとした瞬間、奥の部屋から低く響く声とともに大柄な男性が姿を現した。
「おぉ、起きたか。それは良かった。大丈夫だったか?」
その男性は、カタリヤとは正反対のがっしりとした体格をしており、威圧感を感じるほどだった。しかし、その表情はどこかカタリヤと似ていた。
「うん、何ともなさそう。ただ、少し記憶が曖昧みたい」
カタリヤが俺の状況を簡潔に説明すると、男性は「そうか」と頷き、俺に視線を向けた。
その視線には、俺をじっくりと観察するような鋭さがあったが、嫌な感じはしなかった。
「よう、坊主。まずは飯でも食うか」
そう言うと男性は、来た道を引き返していった。
「じゃあ、座って待ってようか」
カタリヤが微笑みながらテーブルの一つを指差した。俺も促されるまま椅子に腰を下ろす。
少しの間待っていると、先ほどの男性が両手に大皿を抱えて戻ってきた。
「ほれ、食べろ」
俺の前に置かれた料理はどれも大皿に盛られており、初めて見るような料理ばかりだった。だが、次の瞬間、大きな音が響いた。
「なんだ、お前、腹空いてんじゃねぇか。さっさと食えよ」
男性――カタリヤが「お父さん」と呼んでいた彼は、口元に笑みを浮かべながらそう言った。
ああ、そうだった。俺は思い出した。森を抜けてから何も食べずに飛び続けて、いつの間にか倒れてしまったのだ。
俺はまず、目の前のスープに手を伸ばした。スプーンで掬い、口元へ運ぶ。
「おいしい」
その一言が自然と口をついて出た。これまでに味わったことのない味だった。
「でしょ。お父さんの料理はどれも絶品なんだから!」
カタリヤが嬉しそうに笑いながら言う。その言葉に促されるように、俺は他の料理にも手を伸ばした。
それぞれが新しい感覚をもたらし、俺の食欲を刺激した。気づけば目の前の料理はすべて平らげていた。
「いい食いっぷりだな」
「どれもおいしかった。初めて食べる味ばかりだった」
「そうか、それは良かった」
男性は満足そうに頷いた。そして、言葉を続けた。
「俺はダン。もう気づいてると思うが、カタリヤの親で、この『癒しの真珠亭』の店長だ」
「俺の名前はルーツ。料理を作ってくれてありがとう」
そう言いながら懐から硬貨を取り出そうとした。じいちゃんに教えられたのだ。何かをもらったら、対価を支払うのがルールだと。
だが、ダンは手を軽く振りながら言った。
「いや、金はいい。次から払ってもらえれば今回はタダだ。それより、ルーツ、お前どこの区画に住んでるんだ? カタリヤが言うには倒れてたって聞いたけど」
俺は少し迷ったあと、正直に答えた。
「俺は今まで森に住んでいた」
「森?」
ダンは眉をひそめた。
「聖都に森なんかねえぞ。実際に俺も生まれてから見たことねぇ」
「ああ、だから俺は聖都の外から来た」
その言葉を聞いた瞬間、ダンの目が驚きに見開かれた。カタリヤは戸惑ったような顔をしている。
「お前、それは本当か。一体どうやって……」
俺は手を軽く上げ、答えた。
「俺は風を操れる。それで空を飛んできた」
その瞬間、部屋の中に風が巻き起こり、全員の髪が一瞬で上へと跳ね上がった。
「おいおい、まじかよ」
「何、今の……?」
二人とも、目の前で起きた出来事に困惑している。
「じいちゃんに教えてもらった。これは限られた人しか使えない技術だって。そしてそれを魔法と言うと」
「そして、聖都に行って冒険者になれと言われた」
ダンは腕を組み、少し困ったように唸った。
「はぁ……これは俺が相手できる案件じゃねえな」
そう言うと彼はカタリヤの方を向いた。
「カタリヤ、明日店を空けていいから、起きたら案内してやれ」
「どこに?」
「冒険者ギルドだ」




