ルーツ=オリジン
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「どこだここ」
目を開けると、そこには見覚えのない天井が広がっていた。
少年はゆっくりと体を起こし、周囲を見渡す。木製の家具が並ぶ簡素な部屋だが、どこか温かみがある。
「だめだ、まったく思い出せん」
頭を押さえながら呟いた。
「移動していて、でっかい建物が見えたからそれに向かっていったのは覚えているが……そこから先の記憶がない」
「俺は寝ていたというより、気絶していたに近いか」
独り言のように言いながら、少年は自分の状況を整理しようとする。そんな時、部屋の外から足音が近づいてきた。
軽快な足音だ。だが、少年の中には警戒心が生まれる。思わずドアの方に目を向けた。
「ああー、起きたんだ! よかった!」
思い切り開いたドアから現れたのは、明るい声を持つ一人の少女だった。
「もう、心配したんだからね。君、覚えてる? 道で倒れてたの」
そう言いながら少女は部屋に入ってきた。
だが、少年は反応しない。ぼうっとした表情のままだ。
「おーい、聞こえてる? もしかして耳聞こえない?」
そこまで言われて、ようやく少年はその声に反応した。
「いや、大丈夫。聞こえてる」
「そう、それならよかった」
少女は安心したように微笑むと、部屋の隅にあった椅子を引き寄せ、そこに腰掛けた。
「それより、君どうしてあんなところで倒れてたの? あの道、人通りも少ないから私が通らなかったら危なかったよ」
彼女は首を少し傾けながら問いかける。その仕草には純粋な心配と興味が混じっていた。
「いや、すまないが俺自身も覚えてないんだ。でかい建物が見えたからその方向に進んでいたら、気を失っていた」
少年は眉をひそめ、記憶の糸を手繰ろうとするように言葉を紡ぐ。だが、それ以上の手がかりは得られないらしく、少し疲れた表情を見せた。
「うーん、でかい建物……なんだろう」
「聖都で一番でかいのは教会だから、もしかしたら教会に向かおうとしてたんじゃないかな」
そう言って彼女は顔を上げたが、少年は首を振った。
「いや、特に建物に用があったわけじゃない。ただその場所にたどり着きたかっただけだ」
「うん? ここは教会じゃないけど?」
「そうなのか? ちなみにここはどこなんだ」
少年は、いぶかしげに聞いた。
「ここはね、『癒しの真珠亭』っていう宿屋だよ。私の家族がやってるの」
少女は少し誇らしげな表情を浮かべながら答えた。その様子に対し、少年はまだ不思議そうな顔をしている。
「宿屋? それはあなたの家でいいのか?」
「うーん、私の家……確かにそう聞かれると難しいな」
「実際、私もここで生活しているけど、家と言われたら……うーん……むむ」
少女は腕を組んで考え込んだ。そして、何かを思いついたかのように顔を上げる。
「うん、ここは私の家。私の大事な家族と生活している大事な家!」
「そうなのか」
少年は短くそう返した。だが、それ以上の言葉を紡ぐことができなかった。
初めて見るその笑顔に目を奪われ、固まってしまった。
(はっ……しまった。会話が途切れてしまった。今までは話の流れでしゃべることができていたが、次は何を話せばいいんだ。こんなことならじいちゃんにもっと話し方を教わっておくべきだった……)
少年が頭の中で必死に悩んでいると、彼女が再び口を開いた。
「そういえば君、名前はなんて言うの? わたしはカタリヤ」
その問いに、少年は彼女の瞳を見つめ直した。そして、少しだけ姿勢を正すと
「俺は、ルーツ」
「ルーツ=オリジンだ」




