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ウロボロク  作者: 黒黰黎
ファースト・ステップ

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10/11

帰り道

読みにくい所や誤字の報告などしてくれるとありがたいです。



感想または質問にはできる限りお答えするので書いてくれると嬉しいです。

「...えーと、これってもう今日帰っていいのか」


少しだけ周囲を見回しながら、俺はフィーネに声をかけた。

ギルドの中は、さっきまでの緊張が嘘のように落ち着きを取り戻し、

冒険者たちもそれぞれ元の会話や作業に戻っている。


「あ、うん。大丈夫だよ」


フィーネは一瞬だけ言葉を選ぶように間を置き、

それから小さく頷いた。

どこかまだ気を張ったような、その声と表情が印象に残る。


「けど凄いね、さっきの魔法。属性は風?」


「ああ、じいちゃんと同じだ」


自然と胸が張る。

誇らしい、というよりも、

それが当たり前のことだと思っている自分に気づいて、少し不思議な気分になる。


「ねぇ、さっきの魔法だけど」


フィーネはそこで言葉を切り、

何かを言いかけて、踏みとどまったようにも見える。


「ううん。何でもない、今のは忘れて」


そう言って顔を上げた彼女は、

先ほどまでの逡巡を隠すように、軽い笑顔を浮かべていた。


「カタリヤちゃん、どうだい。これから二人でご飯でも食べに行かないかい」


その空気を壊すように、

軽い調子の声が割り込む。

振り返ると、いつの間にかジョンが戻ってきていた。


「はぁ~、あの馬鹿は……」


フィーネは額を押さえ、心底疲れたように息を吐く。


「ジョン、あんたはこれからマスターの説教があるでしょ。逃げたら余計長くなるわよ」


「うっ!」


言い訳を考える間もなく、

ジョンの体が分かりやすく固まった。


「カタリヤちゃん、この馬鹿の相手は私がしとくから、今日はもう帰りなさい」

「お店の手伝いもあるでしょ」


「はい、そうします。今日はありがとうございました」


カタリヤは丁寧に頭を下げ、

その仕草に育ちの良さが滲む。


「私も久々に話せて良かったわ。近いうちにお店にも行くわね」


「僕もカタリヤちゃんに会いに行くね」


「お待ちしてますね」


「ルーツも、また明日」


「ああ、今日はありがとう」


そうして俺とカタリヤは、

ギルドの入口で二人に見送られながら外へ出た。


夜の空気が、ひんやりと肌を撫でる。

ギルドの中の熱気が、嘘みたいに遠ざかっていった。


「それじゃ、帰ろっか」

「せっかくなら、どこか他に寄りたい所とかある?」


「いや、大丈夫だ」


「なら家に直行だね」

「けど結構遅くなっちゃったな。準備に間に合えばいいけど」


その言葉を聞いて、俺は足を止める。

そして何の前触れもなく、カタリヤの前に右手を差し出した。


「どうしたの、ルーツ?」


「約束」


一瞬、きょとんとした顔をしたあと、

カタリヤははっとしたように目を見開いた。

そして、思い出したように小さく笑い、

迷いなく俺の右手を握る。


次の瞬間、

地面との距離がふわりと遠ざかった。


「あはは、凄い。私ほんとに飛んでる」


弾んだ声とは裏腹に、

カタリヤの指先には、ほんの少し力がこもっている。


「方角はこっちで大丈夫?」


「うん、多分」

「と言っても、私も聖都を上から見たことないから、何となくだけど」


俺たちは、聖都の壁よりもさらに高く、

夜の空を静かに進んでいた。


「けど、聖都ってほんとに丸かったんだ」


眼下に広がる街を見下ろしながら、

カタリヤは感心したように声を上げる。

光の輪郭が、確かに円を描いていた。


やがて彼女は、

その視線をある一点に留めた。


「……綺麗」


俺も同じ方向を見る。


壁の向こう、砂の海の彼方へと、

光天が静かに沈みゆく。

昼と夜の境目が、ゆっくりと溶けていくようだった。


「そうだな。綺麗だ」


その言葉は、

景色だけに向けたものじゃなかった。

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