あーかい部! 12話② マグネシウム
ここは県内でも有名な部活動強豪校、私立池図女学院。
そんな学院の会議室、現場……いや、部室棟の片隅で日々事件は起こる。
3度の飯より官能小説!池図女学院1年、赤井ひいろ!
趣味はケータイ小説、特筆事項特になし!
同じく1年、青野あさぎ!
面白そうだからなんとなく加入!同じく1年、黄山きはだ!
独り身万歳!自由を謳歌!養護教諭2年生(?)、白久澄河!
そんなうら若き乙女の干物4人は、今日も活動実績を作るべく、部室に集い小説投稿サイトという名の電子の海へ日常を垂れ流すのであった……。
池図女学院部室棟、あーかい部部室。
体育明けでHPゼロのきはだと、昨日脚をつって下半身を湿布で補装した白ちゃんの2人は部室で駄弁っていた……。
「白ちゃん脚だいじょうぶ?」
「ええ。普通に歩けるくらいには回復してるわ。」
「さする?」
「さすらぬ。」
「さするれ、」
「さす……おっと、その手には乗らないわよ。」
「ちっ。」
「いや、今どき5段活用って……古典よ?」
「1000年経っても廃れないロングコンテンツだよぉ?」
「ものは言いようね……。」
「でも不思議だよねぇ、足つるのって。」
「不思議?」
「足がつるときって、疲れてるときでしょ?」
「そうねぇ。」
「人って頑張るときに筋肉をギュッてするでしょ?だから疲れてるときは、筋肉が縮まない〜!ってなるものじゃないの?」
「そうねぇ……なんでかしらねぇ?」
「おうおう、ニヤニヤしやがって。答え知ってんだろ養護教諭。」
「ええもちろん。でも乱暴な言葉をつかう子には教えてあ〜げない♪」
「じゃあ検索
「『足がつる』っていうのは、そもそも『こむら返り』の別称ね。筋肉が伸び縮みするのには様々な金属イオンが関与しているんだけど、中でも『足がつる』現象はマグネシウムの不足で起こるの。」
「めっっちゃ喋るじゃん。」
「だって先に検索されたら知識をひけらかせないじゃない。」
「子ども相手にマウント取って楽しいか公僕。」
「良いから黙って聞きなさい。そして知識をひけらかされなさい。」
「医療従事者の風上にもおけねぇな。」
「マグネシウムは筋肉が緩むときに必要なんだけど、これが不足していると縮んだ筋肉が縮みっぱなしになってやがて過収縮の状態になるわ。」
「ふくらはぎつったときとかカッチカチだよね。」
「exactly.」
「テンション高えな。」
「良いじゃない、ハイパー威厳タイムなんだから。」
「威厳ある人は『ハイパー威厳タイム』とか言わないよぉ?」
「激しい運動をした後や下痢のとき、それから身体が冷えて循環系が鈍っているときはマグネシウム不足に注意が必要ね。」
「じゃあ今わたしはマグネシウムが不足しているんだねぇ。」
「体育の後は特にね。帰ったら緑黄色野菜やお豆腐を食べると良いわ。」
「白ちゃん最後にお豆腐食べたのいつ?」
「ええっと…………あれ、いつだろ?」
「これが机上の空論かぁ。」
「うるさい。」
「白ちゃんは筋トレとかしないの〜?」
「そんな時間ないわよ。」
「今こうして保健室サボってるのに?」
「顧問はお仕事なの。」
「お仕事しながらでも筋トレできるよぉ?」
「なら一緒にスクワットでもする?」
「やだ。」
「なんでよ。」
「わたしが『一緒にスクワットしよ〜?』って言ったら白ちゃんやるのぉ?」
「やらない。」
「でしょ〜。」
「なるほど。」
「そもそも筋トレってさぁ、自分の身体を痛めつけて喜んでるんでしょ?わたしマゾじゃないも〜ん。」
「痛めつけるのはそうだけど、喜んではいないんじゃないかしら。」
「嘘だ、『筋肉が喜んでるぅ!』とか言ってるじゃん。」
「それって、『腹筋が歩いてる!』とか『肩にちっちゃいジープ乗せてんのかい!』とか言う一部の人たちでしょ。」
「あの世界は独特すぎてついて行けないよぉ。」
「誰もあそこまでやれとは言ってないわよ。」
「じゃあどこまで?」
「とりあえず腹筋割りましょう。」
「……お腹見ていい?」
「良くない。」
「食事もダメ、運動もダメ、身体もダメってさぁ……人の健康とやかく言えるのぉ?」
「う"っ……!?」
「というわけで、はいこれ。」
きはだはカバンから、パッケージに大きく『鉄』と書かれたゼリー飲料を取り出した。
「まあたぶんマグネシウムも入ってるっしょ。」
「くれるの?」
「目の前で飲み干そうか?」
「鬼かっ!」
「じゃあ、はいこれ。」
「……ありがと。」
あーかい部!(4)
きはだ:とうっ……!こうっ!ポチッ
あさぎ:いつも変化つけてて偉いね
ひいろ:偉い偉い
きはだ:正直苦しい
白ちゃん:なんか変身しそうな掛け声ね
きはだ:欲しいのは返信だけどね
あさぎ:HAHAHA
ひいろ:HAHAHA
きはだ:乾いた笑いやめろぉ!?
あさぎ:昨日の続きだよね
ひいろ:前後編に分かれてたヤツだな!
きはだ:うん
白ちゃん:読んでこよ
あさぎ:私も
ひいろ:ワタシも
ひいろ:『鉄ゼリー』美味しいよな
あさぎ:お昼10秒で済ませられるから好き
きはだ:吸引力の変わらないただ1人のあさぎちゃん
ひいろ:えっっっ
あさぎ:おいこら
白ちゃん:今の子たちってみんなゼリーで済ませてるの……?
きはだ:あれだけじゃお腹は膨れんよ
ひいろ:あんまり食べないけど、食べるとしてもおやつ代わりだな
あさぎ:え?
きはだ:炙り出される吸引力
ひいろ:ちゃんと食べないとダメだぞ吸引力?
白ちゃん:そうよ吸引力ちゃん、噛まないと顎が退化してカブトムシみたいな口になっちゃうわよ?
あさぎ:誰が吸引力ですか
あさぎ:ご飯も食べてます
ひいろ:昆虫ゼリーって人が食べられるヤツもあるみたいだな
白ちゃん:あんな味うっっすいの、食べても全然美味しくないわよ
あさぎ:食べたことあるの?
白ちゃん:ない
きはだ:前世の記憶か……
ひいろ:白ちゃんの前世カブトムシかあ
あさぎ:『カブトムシになっちゃう』の信憑性が……
きはだ:まあ来々世は虫キング先生だ、気を落とすな
あさぎ:どうしよう……投げ技とか練習しておいた方がいいかな?
ひいろ:まだ諦めるな!
あさぎ:そうだねひいろ、食生活に気をつければ回避できるもんね!気をつけよ
白ちゃん:まてまてまてまて
あさぎ:ん?
きはだ:ん?
ひいろ:ん?
白ちゃん:『ん?』じゃないのよ虫キング先生ってなんなのよ
ひいろ:だって昆虫ゼリー食べたことないのに味知ってるなんて、
あさぎ:前世で食べたとしか……
きはだ:となると前世はカブトムシだよねぇ
ひいろ:ゼリー貰ってたしな
白ちゃん:すみません嘘つきました本当は昆虫ゼリー食べたことありますあとゼリーありがとう
きはだ:な〜んだ
ひいろ:前世カブトムシってそんなに嫌か?
白ちゃん:嫌よ!変なあだ名が定着したらどうするのよ
あさぎ:虫キング先生?
白ちゃん:それよそれ!ぜっったい学校で呼ばないでよね!?
きはだ:どうしようかなぁ〜?
あさぎ:虫キング先生の昆虫ゼリーエピソードが気になってカブトムシが頭から離れません
ひいろ:このままだと学校でもうっかり虫キング先生と呼んでしまいそうだ
白ちゃん:わかったわかった話すわよ
きはだ:やったぁ
あさぎ:よし!
ひいろ:待ってました
白ちゃん:くっ……
白ちゃん:といっても幼稚園くらいの年に、人用のと間違えて食べちゃっただけよ?
きはだ:確かに薄味エピソードだぁ
ひいろ:あんまり美味しくなかったな
白ちゃん:アンタらねぇ……!
あさぎ:1人で食べたの?
白ちゃん:愚妹に唆されたのよ
ひいろ:妹さんの感想覚えてる?
白ちゃん:覚えてないけど、甘くないって言いながらたらふく食べてたわよ
あさぎ:覚えてるんだよなぁ……
きはだ:気に入ってて草ァ!
白ちゃん:あの愚妹には昆虫ゼリーがお似合いよ
あさぎ:そんなに美味しいなら食べてみようかな……?
ひいろ:え?
きはだ:持ってるの?
あさぎ:うん
白ちゃん:やめなさいあさぎちゃんあんなの食べたら本当にカブトムシになっちゃうわよ
あさぎ:白ちゃん先生はカブトムシですか?
白ちゃん:いいえ
ひいろ:よし!
きはだ:ヨシ!
白ちゃん:よしじゃないのよ
あさぎ:いただきます
白ちゃん:待て待て待て待て
白ちゃん:『ぺっ』しなさい!『ぺっ』!
きはだ:お味は〜?
あさぎ:理科の実験で使う寒天 〜エビと樹液の香りを添えて〜
ひいろ:マジか……!?
白ちゃん:ほんとに食べちゃった……
白ちゃん:エビ?
あさぎ:確かに甘くはない
白ちゃん:え、まってエビ?
あさぎ:ほんのりビターだけど例えるならエビ
白ちゃん:それ、本当に昆虫ゼリー?
あさぎ:昆虫ゼリーって書いてあるけど
あさぎ:一応聞いてくる
ひいろ:ん?『聞いてくる』……?
きはだ:貰い物なのかな?
白ちゃん:人に昆虫ゼリーあげるなんてろくなヤツじゃないわよ
あさぎ:おまたせ
あさぎ:クリケットゼリーだって
白ちゃん:コオロギやないかいっ!?
ひいろ:まあ、昆虫ゼリーではあるな……
きはだ:う〜ん、先鋭的……!