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教国共和国護衛依頼編⑧

 真っ暗闇から、次第に意識が浮上していく。全身がだるく、かいた汗が少し気持ち悪いが、不思議と痛みは少ない。どうやら、俺はまた生き残ってしまったらしい。意識を手放す直前、どこか安堵を覚えていたような気がするが…。いやいや、今回はフィリアと約束したのだ、無事とは言えないかもしれないが、約束を反故にすることが無くてよかったと考えるべきだろう。

 だるい体を起こして、未だにはっきりしない頭のまま辺りを見回す。どうやら俺は、共和国のギルド本会館の医務室のベッドで横になっているようだ。どうやら治療が間に合ったらしい。ベッドの足元を見ると、フィリアがベッドに寄りかかりながらすやすやと寝息を立てていた。よかった、彼女も無事に共和国に到着したのである。


「ようやく起きたか、この寝坊助め。三日も起きずに寝っぱなしとは、ずっと側で看病してたフィリア嬢に心配かけすぎじゃぞ?」


 声がする方へ視線を向けると、そこにはババアが医務室の簡易椅子に座っていた。ババアの口ぶりから察するに、爺さんから逃げ切って、俺はそのまま丸三日寝てしまっていたのだろう。


「うるせいやい、糞ババアめ。あんな無理難題の依頼を振りやがって。明らかに俺の手に余ってたぞ?」

「それに関しては、弁明の余地もないわい。まさか複数の金等級の冒険者とお主でも対処できないとは、完全に見間違えたわ。すまないの、ユート」


 いつになくしおらしいババアを見て、俺は思わずフォローの言葉を入れてしまった。


「まぁ、教国の長老たちの思惑も色々絡んでいたみたいだし、何よりただの要人護衛の依頼であれほどの化け物が出てくるなんて普通では考えられないからな。ババアの読みが外れても仕方ないことではある。今回の依頼の詳細はフィリアから聞いてんのか?」

「ああ、聞いておるよ。まったく、いつも言っておるじゃろう?いざとなったら、依頼など放り投げて逃げてこいと。命あっての物種なのじゃからな、お前はいつも傷だらけになって帰ってくる」

「一人であればそうしてたさ。今回はフィリアがいて、しかもその命を狙われていたからな。なにもかも放り投げて、逃げるわけにはいかなかった。それに、依頼の話をするのであれば、今回の依頼は完全に失敗だよ。フィリア以外の人間を、一人も助けられなかった」

「フィリア嬢を助けられただけ上等だと思うがのう。お主の役割は十分すぎるほど果たされたと思うぞ。一人の人間ができることには限界がある。あまり、大きく手を広げすぎるものではない」

「それは分かってるつもりだけどな」


 ババアの言うことは、至極全うなのかもしれない。しかし、それでも俺は、失われてしまった面影に思いを馳せてしまうのだ。彼ら彼女らを救うために、少しでも俺にできることはないのかと。


「ババア、俺もっと強くなりたい」


 全ては無理なのだとしても、それでももっと多くのものを救えるように。自らの手からこぼれ落ちそうなかけらを、少しでも多くかき集められるように。


「焦ることはないよ。お主はまだ若い。これから少しずつ、成長していけばよいさ」

「そうかな、俺自分の魔力量とか魔力属性の適性とか、才能のなさに絶望してるんだけど。今回の依頼も、相手の爺さんに剣術で全く歯が立たなかったし」

「ほっほっほっ。なに、魔法の才能は確かにお主にはないがな、それだけが冒険者としての才能の全てではないし、何よりお主の剣術や他の戦闘面での伸びしろはまだまだあると儂は見ているよ。精進あるのみじゃな、頑張りなさい」

「へいへーい」

「それと、フィリア嬢とその刀にちゃんと感謝しておくのじゃぞ? その二つの存在が無ければ、お主は今頃助かってなかったからな」

「待ってくれよ、フィリアに助けられたのは分かるが、こいつにも俺助けられてたのか?」

「気づいておらんかったのか? ああそうか、意識が無かったのであれば仕方ないのう。フィリア嬢の治癒魔法が呪いに押し負けそうになる度に、その刀がお主に魔力供給をして、なんとかお主の命を繋いだそうじゃよ」

「なんか、あたかも見てきたのような口ぶりだな、ババア」

「その刀に聞いたんじゃよ、だいぶ慌てふためいておった。まったく、過保護じゃな」


 以前から知っていたことだが、この刀にはどうやら何らかの意識があり、ババアはこの刀と会話できるらしい。他の武器などとは会話なんてしないのに、なぜこの刀のみ会話することができるのだろうか?何度もババアに聞いているのだが、その都度ごまかされるので、もう諦めている。

 静かに、傍らにあった黒鞘の刀を抜く。無駄な装飾のされていない、綺麗な刀身だ。その様子はまるで、一切揺れ動かない水面を想像させる。


「お前、力を貸してくれたのか?」


 返事はない。ババアと違い、俺はこの刀の意識など分からないから当然である。これまでのババアの話を聞いていると、俺が窮地に立たされる度に、どうやらこの刀は俺に力を貸してくれているようだ。


「ありがとう。お前にまた助けられた」


 この刀を見ていると思わずあいつのことを思い出してしまう。胸の奥から懐かしさとどこか走る痛みを感じつつも、俺は刀を鞘に納めた。


「フィリアには、この後ちゃんと感謝しておくよ。そういえばババア、神器は無事届いたのか? あとはフィリアの今後とか、現状分かる範囲での事の顛末とか知りたい」

「これ以上の事に関しては、フィリア嬢と二人で説明することにしようかのう。フィリア嬢が起きたら、二人で儂の部屋に来なさい。そこで詳細について話すとしよう」


 そういうと、ババアは立ち上がり医務室を出ていった。どうやら、ギルド長室に戻ったようだ。神器のことは機密事項であるから、ここでは話せないのだろう。

 フィリアが起きるのを待つため、ふとフィリアの顔を見る。彼女の傍らには仮面が落ちており、ベッドに腕を組んでこちらを向きながら規則的な寝息を立てていた。このように彼女の寝顔をまじまじと見るのは二度目である。段々と見ることに慣れてきた彼女の美貌に、俺はどこか安心感を覚えていた。しかし、ようやく慣れてきたこの顔も、そろそろ見納めになるだろう。彼女は本来、聖女候補という俺なんかが気軽に会える立場の人間ではないのだ。例え共和国に亡命し、聖女選抜から降りて候補ではなくなるとしても、彼女の治癒魔法の適性の高さでは引く手数多のはずである。しがない一介の冒険者である俺が関わるようなことは、もうないだろう。今回の依頼のような俺の身の丈に余ることが起こることは御免被りたいが、それでも彼女との別れが近づいているような予感に、俺は一抹の寂しさを覚えた。


「ん、んんう…。ん…。ふにゃっ! ユート! 起きたの!?」

「起きてるよ。おはよう、フィリア」

「痛い所は!? 変な所とかない!? 隠しちゃだめだからね!?」

「だ、大丈夫だよ。落ち着けって。体のだるさと、あとは節々が痛いだけだ。ありがとよ、お前も治療してくれてたんだろ?」

「そう、そう…。よかった、ほんとによかった…」


 そういってなんだか泣き出しそうな様子だったのだが、ふと彼女が下を向いた瞬間、彼女の雰囲気が一変した。

 フィリアが両手を突き出し、俺の両頬を思い切りつねる。その慣れた手つきから繰り出される予想外の行動に、俺は思わず度肝を抜かれた。


「ひっ、ひはい! ほい、ひひはひはいほ!」

「痛いじゃない! あんな無茶して、君、もう少しで死んじゃう所だったのよ!? 二人で生き残るって約束したのに、どうしてあんなことしたの!?」


 フィリアが、ようやく頬を離してくれた。彼女は怒っているのだ。俺が彼女を守るために、自分の命を粗末にしたことに。


「仕方ないだろ? とっさの場面だったし、あれくらいしかあんたを守れる方法が思いつかなかったんだ」

「そうなんだとしても、もっと自分を大切にして。短い付き合いだけど、君、そういう自罰的な所があるんだから。分かった?」


 まるで幼子を諭すかのような口ぶりだ。こうなっては手も足もでない。


「…分かったよ、今度から気を付ける」

「よろしい。怒っておいてなんだけど、助けてくれてありがとう、ユート、あそこで庇ってくれてなかったら私の命はなかったし、それ以外にも何度も、何度も助けられたわ。本当に、言葉では言い表せないくらいよ」

「感謝するのはこっちのほうだよ、あんたがいなきゃ、俺は今頃ここにはいないさ」

「命の話だけではないわ。セバスに裏切られて、もうどうしようもなくて、自分に居場所はないって思ってたけど、君が側にずっといてくれて、私ずっと勇気づけられてた」


 それはこちらも同じである。あの野営地での地獄で怯えてしまった自分だったが、彼女がいたからなんとか前を向けた。その後の道中でも、何度彼女の振る舞いに元気づけられたことだろう。しかし、そのように返してはきっと堂々巡りだ。であるならば、かける言葉はこうである。


「それじゃあ、お互いがお互いにどこか助けられてたんだろうな。結果論になるかもしれないけど、二人で生き残るっていう約束が果たされたことを素直に喜ぼう。お互いよく頑張ったよ」

「そうね、本当によく頑張ったわ、私たち」


 月光が明るかったあの夜、あの湖で、俺たちは出会った。そしてあの野営地での地獄を抜け、裏切りや無力さの絶望と決別したその先に、二人で生き残ったのである。彼女がいつものように笑っている。ここまで何度も彼女に悲しい顔をさせてきてしまっていたが、やはり彼女には悲しい顔より笑顔が似合う。そう思うと俺は、自然な笑みでフィリアに微笑み返すのだった。






「さぁ、さっさとババアの所に行って面倒くさい事の顛末を聞きに行こう。あまり大きい声では言えないが、神器がどうなったのかとか、あんたの今後とかも知りたいしな」

「あ、えぇ、そうね。確かに、大事なことだと思うわ。マーリン様に呼ばれてるの?」

「ああ、フィリアが起きたら一緒にギルド長室に来るよう言われたんだが…」


 なんだが、フィリアの歯切れが悪く、なんだか怪しい。そんな様子を訝しみつつも、俺は病み上がりだからと無理やり乗せられた車いすに押され、フィリアと一緒にババアの待つギルド長室へと向かった。


「おお、来たかの。早い到着じゃな。もうちょっと乳繰り合っててもよかったのじゃぞ?」


 冗談よしてくれよ、ババア…。俺なんかとフィリアが釣り合う訳ないでしょうが。ほら、フィリアの顔が真っ赤になっちまってるよ。


「おらおら、あんまりからかってくるんじゃないよ。そういうの年寄りの悪い癖だぜ、ババア」

「ふむ、どうやらいらないお節介だったようじゃな。すまんの」

「早く本題に入ってくれ、こっちも病み上がりなんだよ」

「分かった分かった。で、何の話じゃったかな?」

「とりあえず神器が無事に届いたのかどうかと、フィリアが今後どうするのか。あとは、現状分かってる範囲での事の顛末についてもできれば知りてぇな」

「なんだか多いのぉ、途中で忘れそうじゃわい」

「耄碌したか、ババア?」

「抜かせ、まだまだ現役よ。それで、まずは神器がどうなったかについてじゃな。ちゃんと届いておるよ。ほれ」


 そう言うとババアは、フィリアがずっと持っていたケースを見せてきた。厳重にかけられていたその封は破られており、中には何も入ってなかった。


「…中身を出してどこかに保管してんのか? どこにしまったんだ? 個人がぞんざいに扱っていいような代物じゃないだろ、あれ」

「そうじゃのう、とても大切なものじゃからな。厳重にしまっておるよ、お主の中に」


 ………ん? 今なんて言った?


「…聞き間違いじゃなければ、今俺の中にしまったって聞こえたんだが、」

「間違っておらぬよ」

「あ、あのね、ユート。実は、君の治療のために、どうしても神器を体内に埋め込む必要があってね? それで実は、今も神器が君の中に…」

「っはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!?」


 俺の大音量がギルド長室の外にまで聞こえる勢いで鳴り響いた。外の人を驚かせてしまったかもしれないが、いやいや、今はそんなところではない。


「うるさいのう。お主、まだ病み上がりなのじゃぞ? あまり大きい声を出すのは関心せんのう」

「いやいや、は? 神器が? 俺の? 中に? ……マジで?」

「だから、マジじゃと言っておるじゃろう。そもそも、今のお主の状態の話からせんとな。今のお主は、未だに刺さった短剣によってもたらされた呪いにより、体を蝕まれている状態じゃ。自分の胸を見てみなさい」


 言われた通り確認すると、確かに呪いめいた黒い文様が俺の胸の突き刺さり貫通しかけた部分についていた。刺さっていた背中側は、もっとひどいことになっているだろう。


「でも、傷は痛まないし、体調もぴんぴんしてるぜ」

「それは、埋め込んだ神器がもたらしている効果のお陰じゃ。教国の神器である、土杖ケリュケイオン。その効果は、生命属性の極致とも呼べる大魔法の行使。例えこの大陸の大半が砂漠になったとしても、その効力さえあれば、大自然へと戻すことができるような規模の生命エネルギーの活性を起こすものじゃ。本来、個人と比較できるようなものではないのじゃよ」

「その神器を俺の体に埋め込んで、無理やり呪いの進行を押しとどめてるのか。でも、神器って体に埋め込んで勝手に効果を発揮するようなもんなのか?」

「それはほら、ちゃんと神器を起動した人物がおるからの。適任者がすぐ近くにおるじゃろう?」


 ああ、なるほど…。フィリアが神器を起動してくれたのか。


「でもそうなると、フィリアは聖女様になってしまった訳か? 神器に認められて起動できているとなれば、もういっぱしの神器適合者だろう?」

「私は、神器適合者にはなったけど、聖女になるつもりはないわ。もともと無理やり候補にさせられただけだし、いまさら教国に戻るつもりもないしね。わざわざ教国の聖女認定を受けに行くつもりもないよ」

「それって色々問題があるんじゃないか? 教国は実質、神器も聖女という名の神器適合者も失うわけだろう? ほら、国家間のパワーバランスとかさ…」

「何、そこら辺の政治的なやり取りは儂や教国の長老たちに任せておけ。それに、今回と似たように個人に神器を埋め込まれたケースは、歴史上何度かある」

「その場合は最後どうなったんだ? というか、体に埋め込んだ神器って摘出できるのか?」

「これまで神器を埋め込まれた人物たちは、皆死後にその遺体から神器を回収されておるよ。現段階では、埋め込んだ神器を摘出するような手段は聞いたことがないのう」

「じゃあ俺、今のままじゃ一生神器を埋め込まれて生活しなきゃいけないのか…。襲われそうで怖いから摘出したいんだが」

「どうせ神器の行方は今回の騒動で儂たち以外分からんのじゃ、襲われる心配も少なかろうて。それより、未だに残っている呪いの方をなんとかせねばならん」

「一応聞くけど、一生このままじゃいかんのか?」

「できないことはないとは思うがの。お主、一生フィリア嬢から魔力供給してもらうつもりか?」

「え、一回の神器の起動じゃダメなの?」

「当たり前じゃ、お主はこれから毎日、その呪いが解呪できるまでフィリア嬢からの魔力供給を受けねばならん。ケリュケイオンに魔力を送れるのは、適合者であるフィリア嬢しかおらんからの」

「うわぁ、迷惑かけるな、フィリア」


 どうやら、終わると思っていたフィリアの同行は俺の呪いが解呪されるまでもう少し続くようだ。俺の都合にフィリアを巻き込むようで、何だが申し訳ない。


「名誉の負傷よ、誇りなさい。任せて、毎日キッチリ魔力供給してあげるわ」

「頼むよ。それで? 呪いの方は、具体的にどう解呪すればいいんだ? あんまりフィリアを俺の都合に合わせたくないから、簡単に解呪できればいいんだけど」

「それが、その呪いはとても強力な呪いでの。なぜ今回の襲撃者がこのような短剣を持っていたのかは分からぬが…。その呪いは、とある神と呼ばれた魔獣から作り出されたものであってな、おそらく帝国の神器を用いなければ解呪することは難しいじゃろう」


 なんだか話が壮大になってきたな…。帝国の神器、つまり水槍の神器グングニルか。つまりは、次に俺たちは帝国へ向かわなければならないということになる。


「帝国がほいほいと神器の力を貸してくれるとは思えないんだが。そもそも、俺一介の冒険者だし。帝国に行っても門前払いされるだけじゃないか?」

「それは、儂の招待状を持っていけば多分大丈夫じゃぞ。帝国の総統には貸しがある、一人の冒険者に力を貸すくらいはしてくれるじゃろうて。ま、代わりに交換条件を出してくるかもしれんが、修行のつもりで乗り越えて来なさい」

「…自分の命がかかってるからな、何とかするよ」


 さて、話が時々脱線したが、今の一連のやり取りで神器の行方とフィリアの今後(というか俺たちの今後)が分かった。あとは今回の依頼の事の顛末である。


「今の段階で、どれだけの情報が出そろってるんだ? 教国側のギルドの方にも、情報収集させてるんだろ?」

「そうじゃな、初めから軽く解きほぐしておくと、そもそも今回の騒動の裏には、教国の長老たちによる三つの勢力の分裂から始まったようじゃ。一つ目は、分裂の発端となった勢力で、神器を奪い、国外に運び込もうとした勢力。二つ目は、一つ目の神器を奪おうとした勢力の思惑を阻止するため、神器を守ろうと一度儂に預けようとした勢力。三つ目は。中立で現状維持を良しとし、神器をそのまま教国に留めようとした勢力。フィリア嬢は二つ目の勢力で、今回裏切ったセバスなる老人は二つ目の勢力と見せかけて一つ目の勢力に属していた訳じゃな。フィリア嬢の後見人の長老や孤児院を襲ったのが一つ目の勢力、そして途中でフィリア嬢と神器を取り戻そうとしたのが三つ目の勢力であったと」

「結局、一つ目の勢力がなんで神器を奪おうとしてんのか分かったのか?」

「そこら辺は、詳しいことがまだ分かっていないのじゃが、どうやら最近各国で色々と暗躍している組織が関係しているっぽいのじゃ。名前としては、自らを“黄金の林檎”と名乗っておる。その組織が、一つ目の勢力である長老に力を貸していたのじゃろう。しかし、武器や薬の密輸だけでなく、神器まで狙いだすとはな…。もう少し、警戒度を上げねばならん」

「セバスがあの呪いのこもった短剣を持っていたのは、その“黄金の林檎”なる組織が横流ししたためなのでしょうか?」

「推測にはなるが、恐らくそうじゃろうな。あれほどの呪いを教国が隠していたのだとすれば、通常は我々ギルドが取り締まっておるよ」

「一つ目の勢力はまだ教国にいんのか?神器奪取するなんて考える長老がまだ教国のトップにいるのだとすれば、すげー怖いんだけど」

「いや、長老ごと国外に逃亡したようじゃな。足の速い事よ。聖女選抜があるというのに、教国は大変じゃな。ふむ、むしろ聖女選抜の慌ただしさに乗じて、今回の騒動を企てたのかもしれん」

「これから、教国はどうなるんでしょうか?」

「おそらく、ひとまずは傾いた国力を立て直し、聖女選抜をしっかり終わらせるじゃろうな。幸い、中立の立場をとった三つ目の勢力の長老たちに被害はあまりないようじゃし、二つ目の勢力の長老たちも被害が出たとはいえ生き残っている者たちがちらほらいるようじゃ。残った長老たちで立て直すじゃろう。聖女選抜に関しては、代理の聖女を立てレプリカの神器を用いるのではないか? ギルドではケリュケイオンの今の情報なんて流しとらんから、神器がどこに行ったのかを把握できていない以上、教国としては他国にあたかも神器があるかのように振る舞うしかないからのう」

「なんだか、少し教国に対して申し訳なく感じちゃいますね…」

「何、勝手に聖女候補に祭り上げられて、その上こんな騒動に巻き込まれたお主が気に病むことではないよ。それに、今回の騒動は教国の自業自得とも言えるしの」


 その時、背後の扉からノックが聞こえてきた。


「ギルド長、いらっしゃいますでしょうか?」

「アメリアか。よいぞ、入れ」


 そうして遠慮気味にノックをした人物が入ってくる。あまり話したことはないが、オリーヴァの先輩にあたるギルド職員だった。静かに俺たちをすり抜けた彼女は、そのままババアの側まで行き、何か耳打ちをしている。


「ふむ、ふむ、分かった。引き続き、調査を頼む」

「承知いたしました。それでは失礼いたします」


 彼女はババアに伝えることを伝えると、俺たちに会釈してすぐに部屋を出てしまった。


「今、報告が入った。お主たちを襲ったセバスなる老人の、教国内での死亡が確認されたようじゃ」


 淡々と、事務処理めいた口調でババアが告げる。その一言に、フィリアが大きく目を見開いた。

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