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教国共和国護衛依頼編③

「なぁなぁ、あんたってあの“お節介焼き”のユートだろう? 同じ依頼を受けられて光栄だぜ」


 教国での休憩と補給を終え、依頼が始まった直後、“黒の獅子”とは異なる銀等級の冒険者から声をかけられた。“金魚の糞”と呼ばれたり“お節介焼き”と呼ばれたりと、我ながら通称が多くて呆れるばかりだ。


「お節介焼きかどうかは分からんが、確かに俺はユートだよ。何だよ“お節介焼き”って。俺はオカンか」

「ははは、ビギナー連中が困ってるときによく助けてくれるから、黒鉄等級とか銅等級とかの間でそう呼ばれてるんだぜ。あんたよく“黒の獅子”の連中が突っかかってくるのに我慢できるなぁ。俺正直見てられなかったぜ」

「お気遣いありがとよ。でもなぁ、“黒の獅子”が俺のことを気に食わなく思う理由もよく分かるよ。銀等級なのにギルド長とつながりがあったらコネだと思われるのは自然だろう?」

「そんなのはギルド内でのあんたの働きや実力をよく見てないから言えるのさ。それに俺、あいつら常に『他の奴らと俺たちは違います』みたいな顔してるから嫌いだね」

「向上心があることはいいことだと思うけどな。実際あいつら、行きで在来生物を討伐した時はいい動きしてただろう? 銀等級の中であれば間違いなく優秀な部類だと思うぜ」

「ケッ、お優しいこって。あんたやっぱり“お節介焼き”って呼ばれるだけあるよ」

「お前たちのパーティもいい動きしてたよ。個々の動きは十分金等級に通じるはずだ。同じ等級で恥ずかしながら言わせてもらえば、もう少し前衛と後衛の連携を滑らかにできるといい」

「ご指摘どーも。そういえば気になってたんだけどさ、なんでソロでやってる訳? あんた程の実力ならパーティやクランから引く手数多のはずだし、そうゆうとこに所属して上の等級目指そうとか思わんの?」


 確かに、“銀の鉤爪”の連中からパーティに入らないかと誘われたことは何度かあったが…。


「現状が割と性に合ってるんだ。パーティやクランに所属したり、上の等級を目指したりしたら、あちこち自由に仕事できないだろう?」

「思ったより自由人なんだねあんた。ついでにもう一つ。なんで剣と刀を二本ぶら下げてるんだ?行きの戦闘の時は剣の方しか使ってなかっただろ?」


 確かに今俺は腰に二本の武器をぶら下げている。一本はオーソドックスで無骨な両刃のバスタードソード。もう一方は柄も鞘も真っ黒な打刀である。


「ああ、この刀は形見でね。戦闘では使わないんだ。俺、生まれは和国の方なんだよ」

「へぇ、刀なんて珍しいと思ってたがな、道理で綺麗な黒髪にここらじゃ見かけないような名前をしてる訳だ」

「俺からも質問が一つだ。さっきの依頼主を見て、どこか怪しい所はなかったか?」


 依頼主たちは、自前の馬車に乗って移動している。ここからは少し離れているし、聞かれる心配もないだろう。


「あの三人組かぁ? そりゃ仮面の女は顔を見せてないし、爺さん以外はほぼ無口だけどさ、身元非公開の要人護衛なんてそんなもんじゃないのか?」

「それ以外にも怪しい部分は多いだろ。三人組であればこんなに人数はいらないはずだし、何よりなんか急いでいるように見えるんだ。もともとの依頼スケジュールも急だしな」

「急に教国から逃げなきゃいけないから質より量で依頼したんじゃないか? 今回は何故か金等級が複数人集まったけど、普通なら金等級に依頼するとなるともう少し時間がかかるぜ」


 おおよそ俺と予測は同じか。


「そうだよなぁ…。ありがとう、俺の考えすぎかもしれない」

「もっと肩の力抜いてこーぜ。金等級がついて人数が多くて、おまけに報酬金が高いなんて驚くほどの好条件なんだから。倍率高い依頼受注できてよかったぁ。報酬金が待ち遠しいぜ」

「おいおい、あまり気を抜きすぎるなよ。依頼自体はここからが本番だし、何が起こるか分からないんだからな」

「はいはい、気を付けておくぜ、“お節介焼き”さん」


 そう言うと、銀等級の彼は自分のパーティのもとへ戻っていった。彼の言う通り、怪しい点が多すぎて少し肩の力を入れすぎていたのかもしれない。軽く深呼吸しつつ、とにかく無事に依頼が終わることを心の中で願った。






「敵襲! 敵襲ー!!」


 依頼が始まってから、三日目の午後。どうやら、前の方で襲撃があったらしい。急いで駆け付けると、目元以外すべて身を隠して似たような恰好をしている10人ほどの刺客が、馬車の前方を守っていた冒険者たちと戦闘していた。


「こちらの方が人数が多い! 数の利を生かして、冷静に対処しろ! もともと守っていた奴ら! 陣形を変えずにそのまま馬車への侵攻を許すな! あとから来た奴らは、陣形を守ってる奴らと連携して敵を倒せ!」


 “紫紺の炎”のリーダーが、全体の指揮を取り大声を上げている。もともと前方を守っていた冒険者は10人。“紫紺の炎”と“黒の獅子”の二つのパーティである。最低一人が一人の刺客に対応すれば、突破されることはないだろう。もし突破されそうな奴がいるのであれば、残りの遊撃の内の誰かがフォローすればよい。不安なのは普段後衛を担当している冒険者なのだが、冒険者は例え後衛だとしても有事の際には一人で敵に対応することが当たり前だ、気張ってもらいたい。

 とりあえず“紫紺の炎”は大丈夫そうなので、金等級のパーティの内の一人と目配せをして“黒の獅子”の方へ遊撃に入る。普段は後衛を担当することが多いのだろう、刺客に押され気味の奴がいたのでフォローに入る。


「ッ! おまえの力なんか、」

「集中しろ、次来るぞ」


 そう言うと俺は、一度刺客と距離を取るために刺客を剣で弾き飛ばした。体制を立て直し一呼吸置いてくる刺客に追撃をかけ、そのまま胴に一閃。無事に刺客の内の一人を討ち取った。辺りを見ると、どうやら皆無事に刺客に対応し、その数を減らしているようだ。少し離れた位置で先ほど話しかけてきた銀等級の奴が、嫌な顔をしながら“黒の獅子”のリーダーと連携している。その時、二人で連携を仕掛けてきた刺客が、その銀等級の冒険者と“黒の獅子”のリーダーに襲い掛かった。まさか二人同時に来るとは思ってなかったのだろう、銀等級の冒険者と“黒の獅子”のリーダーが予想外の顔をしている。あの様子では連携を崩されるかもしれない。そう思った俺は、二人の刺客の足元に目掛けて熱属性の地形操作魔法を使った。

 そもそも魔法とは、魔力をエネルギー変換して扱う術やその総称のことである。魔法には様々な属性があり、属性とは要は魔力をどのようなエネルギーに変換するのかを指している。そして魔法には魔力を属性変換しつつ体内で操作する方法と、魔力を属性変換しつつ体外に出す方法の二種類がある。体外に出す場合は、魔力を放射したり他の物体に付与したりと様々な方法があるのだが、そこら辺は人の力量次第で方法が変わるだろう。なお、個人の魔力属性の適正は、高さで評価され(一応、全ての人間が生命維持のために全ての適性を持ってはいる)、その人の適性が高ければ高いほど少ない魔力で多いエネルギー量に変換することができる。魔法の才能とは、基本的に魔法属性の適性の高さと貯蔵する魔力量の二つで決まり、俺の魔法の才能は魔力属性が熱属性と運動属性に適性が少しあるくらい、魔力量が底辺に近いという才能の無さなのだが、ここら辺は余談だろう。今回の俺の地形操作魔法は、魔力を刺客の足元に放射し、その魔力を熱属性に変換して地面の水分量を増加させ、ぬかるみやすい泥に変えた訳である。

 急に足元にぬかるみやすい泥ができ、二人の刺客は思わずつんのめる。冒険者の二人は刺客がつんのめりさらに驚いた顔をしていたが、しかし体制を崩された刺客であれば問題なかったのだろう。見事に対応し刺客を討ち取っていた。“黒の獅子”のリーダーが面白くなさそうな顔でそっぽを向いており、銀等級の冒険者がこちらにサムズアップをしている。そちらに向けてこちらも軽く手を振り、再度周囲を確認するが、どうやらあらかたの刺客は討ち取れたようだ。銅等級の冒険者が最後の刺客を討ち取ったのを確認し、俺は側に来ていた“紫紺の炎”のリーダーに話しかける。


「負傷者は?」

「何人かいますけど、全員ポーションで何とかなるくらいの傷です。問題ありません」

「ふぅ、何とか無事に刺客を撃退できたな。もう少し多ければ、低い等級の冒険者の所から突破されてたかもしれん」

「そうですね、人数も10人ほどで助かりました。刺客の実力も結構高かったですし、“黒の獅子”の方の陣形が少し心配だったんですが、ユートさんがうまくフォローしてくれたんですよね?」

「軽くな。しかし、あの刺客たち遠距離から馬車ごと攻撃してきたりはしなかったな。なんだか、馬車の足止めと俺たちの排除が目的の動き方をしてたように思う。要人殺害が目的じゃないらしい」

「一応、馬車が遠距離から襲われた時のために金等級のパーティの人たちには準備してもらってたんですけどねぇ」

「要人の誘拐が目的か? なんだか目的が分からなくて気持ち悪いな。こんなこと考えてるのは、俺だけかもしれないけどよ」

「気になる気持ちは分かりますよ。でも今はとりあえず、こちら側の死傷者なく無事刺客を撃退できたことを喜びましょう」

「…そうだな」


 そう言うと俺は、ギャーギャーと言い争いしている“黒の獅子”と銀等級のパーティたち、そしてそれらを取り囲む他の冒険者たちの方へ歩いていき、声をかける。


「悪いが、手の空いてる奴は刺客の遺体を一か所に集めて、火葬の準備をしてくれ」

「はぁ? なんでこいつらなんかを弔わなきゃいけないんだよ。死体なんかほっといて先に行こうぜ」

「そういう訳にもいかんだろ。遺体を残しておくと在来生物があさりにきて他の通行人に迷惑かける可能性があるからな。それに、俺たちは刺客に襲われた身だとしても、失われた命だ、弔ってやりたい」

「ユートさんの言う通りです。それに、魔法を使えば早く火葬することができるんだ、皆さん戦闘後で疲れているのは分かりますが、協力してください」


 “紫紺の炎”のリーダーが俺にフォローを入れてくれる。そうすると、しぶしぶ動き始めた“黒の獅子”たちを含め、冒険者たちが火葬の準備を始めてくれたようだ。俺も遺体を運び、遺留品になりそうなものを外して、集まっている場所に丁寧に並べていく。

 そうして火葬が始まると、俺は静かにしゃがんで目をつむり、手を合わせた。ここら辺ではあまりやらない作法なので、周りの冒険者たちが不可思議そうな顔をしている。

 俺は、死者の行き場など分からないが、それでも死者たちが安らかに旅立ってくれることを、密かに祈った。






 依頼が始まり教国を発って、11日目。今のところ、在来生物と戦闘になったりおそらく教国からの刺客であろう集団に何度か襲われたりしたが、護衛依頼を受けた冒険者のみで十分対処できる範疇であった。現在は日が沈み、湖の近くで各々が野営の設備を用いて休んでいるところである。俺は刺客の目的は何なのかについて考えていたのだが、ついつい頭がこんがらがってしまったので、気分を変えようと顔を洗うため湖まで移動した。もしかすると、このような考え事が俺の不注意を招いたのかもしれない。

 今夜は月夜が明るい。この明るさなら光源を用意する必要はないだろう。そう思うと俺は、湖の岸でしゃがみ、手を突っ込んで顔に水をかけようとした。しかしその瞬間、少し向こう側の岸で何かが動いた気配がした。夜行性の在来生物か? 危険な生物であれば追い払う必要があるかもしれない。そう思い俺は、動いた存在が何なのかを確認するために、静かに動く存在に近づいていった。

 そうして、動く存在を確認できる位置まで移動し、思わず目を奪われてしまったのである。それはまるで、時が止まったかのような光景であった。軽く水浴びをしていたのだろう、月光に照らされて肩ほどまで伸びた美しい銀髪がたなびく。端正な顔立ち、穏やかに揺れ動く蒼穹の瞳、すらりと伸びる綺麗な体つき。その後ろ姿は、まるで神話の女神様を想像させるような静謐さであった。



「誰ッッ!?」


 向こうも俺の存在に気が付いたのだろう。少し呆けていた俺は、急いで正気に戻り、両手を挙げつつ疑われないよう努めて話しかけた。


「護衛依頼を受けた冒険者の内の一人だ。こちらに害意はない。顔を洗おうとしたら、たまたま鉢合わせてしまっただけだよ」

「あっ、ああ、そうなんですか。驚いた。夜だったせいでお互い近づくまで気づきませんでしたね。おかげで顔を見られてしまいました」

「あんた、教国の聖女候補だろう? 新聞で見たことあるぜ。通りで身元を非公開にする訳だ」


 そう、先ほどは思わず呆けてしまったが、この女性の顔自体は新聞の写真越しに見たことがあった。教国で近日行われるはずの聖女選抜、その候補者の内の一人であったはずだ。教国の聖女とは、神器所有者のことを指し、聖女候補とは、神器の適性が高く神器を扱える候補者のことを指す。そして教国のトップである長老たちからいくつかの試練が課され、その試練の結果の末に聖女が選ばれるのである。この一連の試練は聖女選抜と呼ばれ、教国の中での一大行事だ。今頃は教国で選抜に向けて準備をしなければならないはずだが、どうしてここにいるのだろうか?


「少々後ろを向いてお待ちいただけますか? 今、身なりを整えますので」

「すっ、すまん」


 思わず反射的に後ろを向く。心臓がさっきからバクバク動いていて、まるで自分のものじゃないようだ。心臓を落ち着かせるため、俺は深く深く息を吸い込んだ。


「お待たせしました。もう振り返っても大丈夫ですよ」


 呼吸を整え、ゆっくりと振り返る。彼女の美貌に心を奪われている場合でない。事故とはいえ身元非公開の依頼主の正体が分かったのであれば、この不可解な依頼の詳細について問いただすべきだ。


「改めまして、今回の依頼人のフィリアです、あなたの名前をお伺いしても?」

「ユートだ。いくつか質問してもいいか?この依頼自体がそもそも怪しい点が多すぎるんでな」

「ええ、構いませんよ。正体がばれてしまったんです、今更隠し事を貫き通すのは不義理でしょう。今の私にお話しできる範囲であれば、お答えいたします」

「それじゃ遠慮なく。そもそも、なんで聖女の候補者であるはずのあんたが共和国に来ようとしている? 今頃は聖女選抜にむけて準備しなければならないはずで、共和国に来ている余裕なんてないはずだろう?」

「そうですね、はっきりとさせておきましょう。私は確かに聖女候補ではありますが、私自身が聖女になるつもりはさらさらありません。魔力属性の適性の高さから、勝手に候補者に祭り上げられただけです」


 そもそも神器とは、各国家が持つ戦略兵器のことである。この大陸には四つの神器が存在しており、それぞれの神器を用いることで大陸全土に影響を及ぼすような大魔法を用いることができる。神器を用いることで使える魔法の属性はその各々の神器によって異なっており、帝国の水槍の神器「グングニル」であれば熱属性、教国の土杖の神器「ケリュケイオン」であれば生命属性、王国の火剣の神器「カレドヴルフ」であれば核属性、共和国の風盾の神器「アイギス」であれば運動属性である。神器を用いるには各々の魔力属性の適性がとんでもなく高い人物が神器そのものに認められなければならない。詳しいことは俺もよく知らないが、神器に触れ、一度でも神器を起動できた人間が、神器適合者になるらしいのである。なお、神器は一人しか主を認めず、その代に一人ずつしか神器適合者は現れない。現在聖女選抜が行われているのも、先代の聖女が亡くなったためだろう。ここら辺の話は、全部ババアからの入れ知恵である。

神器適合者の候補になるほど魔力属性の適性が高い人材は少ないので、本人の意志に関係なく候補者にされてしまうことは十分に考えられるだろう。


「じゃああんたは、聖女選抜を辞退するために共和国に亡命しようとしてんのか?」

「概ねそうですね、一部の教国の長老たちはそれを許さないでしょうけど」

「ということは襲ってきた刺客たちはあんたを連れ戻そうとしてたのか。なるほど、通りであんた達ごと殺そうとしなかった訳だ」


 護衛されている対象の殺害が目的であれば、あの場面では遠距離から対象が乗っている馬車ごと攻撃すれば事足りていたはずだ。しかし、何度か襲撃してきた刺客たちはむしろ足止めと冒険者たちの排除に努めており、馬車に攻撃する素振りは見せなかった。


「あんたたち今回の依頼を妙に急いでいるように見えるんだが、なんでそう共和国への亡命を急いでる? 急がないとやばい刺客でも来るのか?」

「“掃滅の魔女”殿に今すぐにでもお渡ししなければならないものがあるのです。ものがものなだけに、なに振り構っている時間はありません。冒険者の皆さまには秘密が多いうえに危険を大きく伴う依頼をしてしまい、申し訳ありませんが…」

「ギルド長のババアにか? 確かにババアなら、どんなものを渡してもうまく取り扱ってくれるとは思うが…」

「ユートさん、“掃滅の魔女”殿とご面識があるのですか!?」

「あ、ああ、一応、俺の育ての親だよ。一般の冒険者よりはギルド長と関わりがある」

「そうなのですか…。であれば、あなたにならお話しても問題ないでしょう。私が今持っているこのケース、その中身は教国の神器、土杖ケリュケイオンです」

「ハァ‼⁇ちょっと待て、その中身がかぁ!?そんなもん国外に出していいもんじゃないだろ!?」


 思わずフィリアの側に置いてあったケースを見てしまう。一目見た時から厳重に閉じられており印象的なケースであったが、まさか教国の神器が入っていたとは。


「教国の長老内でも、現在色々と揉め事が起きているんです。あの人たちも一枚岩ではないですから。それでとりあえず、この大陸で最も中立的であり抑止力のある人物にお預けしようという話になりまして」

「それでギルド長に神器を渡そうってなったのか。そんな話、俺なんかにして大丈夫なのか?」

「他の方には他言無用でお願いしますよ? “掃滅の魔女”殿とそれほどの関係性であるなら、今の内に話しておくのが得策だと考えました。何より私、隠し事は苦手なのです」

「なるほどなぁ…」


 ようやくこの依頼の不明点が露わになってきた。細かい不明点はまだいくつかあるが、大筋はこんなものだろう。


「依頼条件の詳細について聞いても?」

「すみません、実際にギルドで事務処理をし依頼発注をしたのはセバスなんです。申し上げにくいのですが、依頼内容についての細かいことはあまり…」

「あの依頼を色々取り仕切っている爺さんか?」

「はい、私が幼い時から面倒を見てもらっている人なんです。もう一人はクリス。私が聖女候補に選ばれた時から護衛していただいている教国の騎士です」


 これ以上の不明点はそのセバスなる男性を問い詰めないと分からないだろう。急に投下された膨大な衝撃の情報をまとめるために、頭の中を整理していると…。


ドガアアアアアアアアアアアアン!!


 不意に、背後で何かが爆発する音がした。その衝撃が、少し離れたこの場所にも届くくらい大きな爆発のようだ。爆発が起こった場所はどうやら俺たち冒険者たちが野営している場所らしい。


「やばい、何か起こったようだ。すぐ戻んなきゃいけねぇ! あんたはここに、」

「いえ、私も戻ります。セバスとクリスの安否を確かめなければなりません」


 少しだけ逡巡してしまう。危険な場所に彼女を連れていくのはよくないかもしれないが、ここで彼女を置いていくよりも、近くにいてもらったほうが護衛しやすいと思われる。何より彼女の顔を見るが、その決意は固そうで、説得に時間を割いている余裕はない。


「分かった、何が起こるか分からないから、安全を確保するまで俺から離れないでくれよ」

「承知いたしました。急ぎましょう、ユートさん」


 依頼の大きな不明点は解消されたはずなのに、なにやら胸騒ぎがする。舞い戻ってきた不吉な予感を押し殺し、俺は依頼人であるフィリアを連れ急いで野営地点に戻るのだった。

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