原初の地獄
そこには、地獄が広がっていた。
一面の焼け野原。燃え広がり崩れていく家屋や木々。ソレから逃げ惑うことしかできない人々の悲鳴や命乞い。ソレに立ち向かうような人間はすでに淘汰されており、あとは逃げることしかできない弱者のみが生存している。そしてそのような弱者も、一人、また一人とソレの二次災害の余波で踏みにじられていく。どこからか聞こえてくる怒号も、誰かに助けを呼ぶ声も、恐ろしさを吐露する子供たちも、そんな子供たちだけでも逃がそうとする者も、ここでは同様に無価値であった。死体の山が積み重なり、阿鼻叫喚が徐々に広がってゆく。
そんな地獄の中で、唯一留まっている二つの影があった。一つは仰向けに地に倒れている少女の影であり、もう一つは倒れている影を抱きかかえている少年の影である。倒れている少女の影に生気はなく、生命を維持するための要素が止めどなく流れていた。
「なんで…、なんで俺なんか助けたッ!? お前のやることは違うだろうッ!?」
周りの死体になってしまった多くを、あるいは少女自身でさえも、本来であれば救えていただろうと少年は糾弾する。
「お前が、皆が、助かるべきだろうが…、なんでお前は…?」
「馬鹿だなぁ、ユートは」
少女の手が、ぎこちなく少年の頬に伸びる。今際の際で、少女は少年に何かを告げる。
「□□□□、□□□□□□□□、□□□□□□□□□□」
「ッッ!!」
「□□□、□□□。□□□□、□□□□□□□。□□□□□、□□□□□□□□□□、□□□□□□□」
「おい、ダメだ□□□!! 逝くんじゃない!! お前まで居なくなったら、俺はッ!!」
「□□□□□□□、□□□□、□□□□□、□□……」
そうして、少女は息絶えた。残るは少女の亡骸を抱き、絶望に打ちひしがれる少年のみである。
「ウッ、ウウウッ……」
ソレが、少年の目前まで迫る。存在するだけで死を撒き散らすソレは、嗚咽する少年のことなどお構いなしに周囲の死体ごと吞み込もうとする。
「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
少年の絶叫が灰色の空に鳴り響く。少年の精神が限界に達し、またソレが少年を呑み込まんとする寸前で。
少女の傍らに落ちていた刀が、鈍く輝いた。