4. 新生
今回で完結です。
考えているうちに四月が訪れ、新学期が始まった。列車には初々しい一年生の姿が見え、満開の桜は春の訪れを報せていた。
私は彼のショックを和らげるため、好意を薄っすらと伝えていくことにした。云わばこれは、告白という疫病に対するワクチンであった。
方法として、会話の増加、食事や遊びへの誘いなどがとられた。私は不愉快な存在とならないように最大限の注意を払ったが、それでも抑えきれない部分はあったかもしれない。
多くの場合、彼は私の試みを快く引き受けてくれた。幸いにも、彼が必要以上に気を遣っている様子はなかった。我々は純粋に友人同士の関わりを楽しんでいる。そういうことにした。
また、「分からないところを教えてくれ」という理由にかこつけて、勉強を教えてもらったりもした。事実私には理解できない部分を教えてもらうのだから大した罪悪感はない。
彼は優秀な人間であり、不明点を十中八九解決してくれた。そして私が「いつもありがとう」というと、彼は「友達だし、当たり前じゃん」と笑って返すのである。彼の笑顔には癒されるが、やはり恋人にはなれないのかもしれない、という悲しさももれなく付いてきた。
私は自分を偽って、「友達」という言葉を彼に繰り返し用いた。嘘には百回言えば本当になってほしかったが、嘘はいつまで経っても嘘でしかなかった。
私と彼は以前と同じような関係をついに回復した。別の友人からは、「お前らすっかり仲直りしたのな」と安心されたりもした。
しかしその中身は前と違っていた。彼から私に向く感情はいざ知らず、私から彼に向くものの中には恋愛感情が相当な割合で雑じっていた。
かつて彼が告白のため打算的に動いていたのを気味悪く感じた私が同じことを彼にやり返しているとは、何という皮肉であろうか。
とはいえ私は利己主義者に変貌していたから、それを反省する頭の余裕をほとんど失っていた。反省しようとすれば、たちまち脳が自己正当化の理屈を創り上げた。
私が最も恐れたのは、「まさか、僕のこと好きなの?」と彼に感づかれて関係が壊れることであったが、幸いこれは現実とならずに済んだ。
我々は一緒に登校し、また下校するようにもなった。遠慮されるかと思ったが、彼は私の提案を承諾してくれた。有能な理性が、ぎりぎりのところで好意を表明するのを押しとどめていた。
彼と過ごせる時間が本当に幸せであった。共にいるときの、彼の一挙手一投足が我が楽しさと嬉しさの源であった。授業中、右斜め前に座るその顔の輪郭はとても美しかった。真なる幸福がこの先に待っていてほしい、と心から願った。
もっとも、願うだけでは不十分である。自分の幸福は自らの努力により手にしなければならない。
五月に入ると、いよいよ我々はお互いに好意を抱いているのではないか、という錯覚にとらわれ始めた。
実際、私の作戦にことごとく乗ってくれる彼の姿を見れば、そうである可能性もあるかと思ったが、恋愛で精神が狂っている今の自分の判断力は当てにならないに決まっているから、やはり勘違いなのであろう。調子に乗ってはならないと自らを戒めた。
運命の刻は、ゆっくりと、しかし確実に近づいていた。
二週間前ごろから私は落ち着かなくなってきて、隙さえあれば告白のことが頭を埋め尽くした。夜、布団に入って目を閉じると不安が次々と浮かび、数十分寝られないことも稀ではなくなった。
告白をやめようか迷った回数は両手で数えきれない。失敗した場合のことを思うと、私は恐ろしくてたまらなくなった。想像するだけで手足が冷えて胸が痛くなった。
私には、告白に失敗することが人生の終わりかのように思われた。他人からすれば馬鹿馬鹿しいかもしれないけれども、私は真剣にそう考えていた。
しかし私は不退転の決意で告白という決戦の場に挑むのであって、今さら中止しますなどという情けないことだけは絶対にしてはならないことであるとも考えた。この変な部分で尋常でなく強靭な精神力は実際役に立った。
中間考査の結果は目に見えて悪くなった。告白予定日の八日前、返却された一日目のテストを見て、私の悩みなど知らない両親は、なぜこんなに点数が悪いのかと問うてきた。「クラスの男子に恋をしてて……」などとは口が裂けても言えなかった。
代わりに私は「最近ずっと頭の調子が悪い」と、事実ではあることを言ってごまかした。どういうわけか二人ともそれで納得した。「病院行くか?」という父の勧めを、私は断った。
「まさか、恋わずらい?」と聞いてきたのは母であった。私は嘘をつけず、とっさに「まあ……」とだけ返した。
「もう高校生だもんねー。彼女くらい欲しいわよね。どんな子なの?」
「うーん……、『かわいい子』かな」
「いいじゃない。でも、あんまり悩まないようにしなさいよ」
私は母の頭に同性愛がインプットされていないことを改めて確認した。胸が苦しかった。家族にさえ、真実を打ち明けることはできなかった。
とうとう暦は六月となった。私は最終準備として脳内シミュレーションを幾度となく行った。
いかなる理由で彼を呼びよせるか、どんな台詞で想いを打ち明けるか、成功すればどうするのか、失敗した場合はどのようにリカバリーするか、仲が悪くなったときの周りへの言い訳、万が一アウティングされた場合の対処法……問題は積もりに積もる一方、時間はあまりにも少なかった。
心の乱れは指数関数のように増幅していった。彼と話すのも苦痛に感じられた。時間の流れは相対性理論的に遅くなっていったが、それでも時とは経つもので、一日、また一日、と確実に過ぎ去っていった。
前日に至ってはほとんど精神病のような状態で、眠ろうと思うほど眠れなくなった。私は「命までは取られない」という言葉を何度も反復させ、二時を過ぎたところくらいでようやく意識を失うことができた。
6月4日は快晴であった。朝から夜まで、雲はない。
透き通った青い空が、東のみを白く染めて天上に君臨する。私は空を雨雲で灰と黒に汚したくなった。輝かしい陽の光を雲で遮って台無しにしてやりたくなった。
睡眠不足と心配と不安でふらふらする頭を叱りつけて私は家を出た。普段と同じ道路、普段と同じ列車が私を運んでいった。
彼はいつも通り毎朝の待ち合わせ場所にいた。「おはよう」と爽やかに挨拶してくる彼に、私も同じ言葉を返した。
会話にはこれまで以上にぎこちない部分が目立った。理由として、私は「頭がちょっと痛いんだ」と事実を話した。彼は「大丈夫?」と不安そうな顔をしてこちらを見た。その表情が心臓の鼓動を乱した。
この日は全く授業に集中できなかった。二時間目の古文の授業は50分中40分を居眠りに充て、三時間目の数学では頭の中にひたすらルートの掛け算が浮かんでは消えていった。四時間目の地理では「大圏コース」という用語と、東京‐ロサンゼルスの最短ルートが頭を反復横跳びし続けた。
四時間目の終わりを告げるチャイムは鳴動した。一生の四分の一の長さを誇る昼休みが始まる。
「今日さ、放課後残ってくれないか?」
私は喉のフィルターを突き破ってこう言った。膝ががくがくと笑っていた。
「いいよ。どうしたの?」
「ちょっと、な」
私は返事を曖昧にしてしまった。
「君に言いたいことがあるんだ」と、はっきり言っておくべきだったのに。
弁当には唐揚げが四つ入っていた。脳裡にあの日の出来事が蘇ってくる。私は唐揚げの味と香りをできるだけ感じないように胃へ押しやった。冷えた白飯が喉につらかった。私は口少なに栄養補給を済ませて教室を出た。
廊下は賑やかであった。私はあてもなく校舎を歩き回りながら独り考えた。
曜日の都合上、教室は4時半にもなれば無人となる。そこから導入として会話か復習かを数十分して、徐々に話を恋愛に傾けていき、告白。恋愛経験の乏しい私にはそれくらいの流れしか考えられなかった。
私は昼休みが終わる三分前に教室へ戻った。彼は別の友人と喋っていたが、教師が入ってくると椅子に着いた。
五時間目は二回目の数学であったが、難しい授業なのでついていくので精一杯、余計なことを考える余裕はなかった。いっぽう六時間目、七時間目はさして難しい内容でもなかった。だから私は不安に満ちて自分だけを見続けた。
前々から大きかった不安は今になってますます膨れ上がり、悪性腫瘍のように脳を圧迫していた。私は無駄な心配をしていることを自覚したが、それを理解したのは理性であって、感情ではなかった。ここ数週間考えてきたすべての心配事が現実のものとなるように思われた。
しかし、それでも、私は告白という行為を断固として成し遂げねばならなかった。兵士が自らの意思に関係なく命令に応じて戦場へ赴かねばならないのと同じく、告白とは私にとって戦いそのものであり、私はその戦闘に臨む義務を課せられた一兵卒であった。
七時間目が終わるチャイムが鳴らされると、まもなく帰りのホームルームが始まり数分で終わった。私には三十分はあるように感じられた。我々は礼をして、自由を得た。
幸いなことに私も彼も掃除係であり、ひとまず教室に残るにはうってつけの理由が用意されていた。机を運ぶ手は震えた。私は彼に朝言ったのと同じ「ちょっと体調が悪くて」という言葉を繰り返した。実際私は体を壊していたのだから、それを嘘だとか方便だとか思う必要はなかった。
刻一刻と運命の時間が近づいていることは、焦りを加速させた。今さら焦ろうが何のメリットもないのに焦躁に駆られるのは、我ながら可笑しかった。
彼は約束通りに残ってくれた。人が去った教室で二人。夏至まであと二十日弱ということもあってまだまだ外は明るく、ロマンチックな雰囲気はない。
教室に残る口実はこうである。「数学の宿題をいっしょにやろう」
実際五時間目の数学は理不尽なほど難しかったから、我々にとっては理由のための理由などではなかった。秀才でない限り、友人と協力しなければクリアーできないレベルのものが出題されていたのだ。
「数Ⅱ難すぎ。なんで大学の受験問題を宿題にするんだよ」
私はわざと大声で不満を吐いた。彼も「ほんとに。自称進あるある……ってやつじゃない?」と同調した。ここばかりは本音の独擅場であった。
私はチャンスを見計らっては彼を窺った。暑くなりゆくこの季節にも未だ長袖の、その袖から覗かれる手首が芸術作品のように美しかった。綺麗ながら男性らしく目立ってもいる骨格が、何度見ても好きだった。
「ここの式の計算合わないんだけど」
「僕も」
「……あっ、ここの二乗忘れてるだけだわ」
「えー? こっちは二乗は合ってんのに進まない」
会話は宿題という媒介のおかげである程度確保された。
私は話題を徐々に恋愛へ寄せていった。
「なあところでさ、中宮と文人って仲いいよな」
「確かに」
「付き合っててもおかしくなくないか」
「それはないんじゃないの? すぐ恋愛に結びつけるのやめといたほうがいいって」
彼は恋愛に対してあまりいい印象を抱いていない様子であった。彼自身の苦い経験がそうさせるのであろう。私は心の中で深々と頷いた。
忘れたころに、「友達ってだけでしょ」と彼は付け加えた。
シャープペンシルの動きはどんどん弱まっていき、代わりに意図的に起こした会話が場を支配していった。
「友達……友達と恋人の境目ってどこにあるんだろうな」
思わず口を突いて出た言葉に私は焦った。あまりにも直接的な話を出すのはまずい。
だが彼は「境界線なんて、簡単にわかるもんじゃない」と小声で言うのみだった。私は安心した。
また、しばらく経って彼はこうも言った。
「なんか、『好きだよぉー』ってぐいぐい来られても困るっていう人もいるらしいね」
私は絶望した。これは私のアプローチを暗に糾弾しているのではないか。告白への期待度が再び落ちていった。そして、可能性のないことに挑まなければならない自分を憐れんだ。
「例えば誰?」
私はそう訊きたかった。しかし答えが分かるのが恐ろしくて、ついぞ言えなかった。
そのような調子で話を続けていき、ふと顔を上げると、教室の時計は17時20分くらいを指していた。外も少し暗くなってきている。時間稼ぎにしては随分役に立ってくれた問題集に目を向けて、私は言った。
「これ以上考えても無理そうだし、帰る?」
「了解」
問題集とノート、筆箱を鞄にしまい、机の中に忘れ物がないかのぞいて立ち上がる。じりじりと緊張が湧いていき、私を駆り立てる。
「最後のほう全然違う話ばっかだったなぁ」と独り言のように彼はつぶやいた。私は「確かに。宿題やるはずだったのにな」と同調するほかなかった。
……準備は終わった。
さあ、チャンスは今である。彼を引きとめ、こちらに振り向かせて想いを伝えるのだ! 私は妙な昂奮に満ち溢れて緊張を失った。アドレナリンの大波が荒れ狂う。
「あのさ、」
「トイレ行ってくる」
「え、分かった」
何ということか。私はタイミングを逃してしまった。彼は私の呼びかけに気付かず教室を出て行ってしまった。
引いた副腎髄質ホルモンの波に代わって、緊張が再び襲い掛かる。猛烈な吐き気と息苦しさ。気を強く持たなければ倒れてしまう。
ひとり取り残された教室で私は二回目のチャンスを待った。今よりも辛い時間は存在しない。
胃がきりきりと痛む。心臓がはち切れんばかりに拍動する。手足が氷のように冷え切り、細かく震える。汗が止まらない。頭が絞られるような嫌な感覚に襲われる。
脳内には無意味な計算式が怒濤の勢いで現れては消えていった。私はその防衛本能に身を任せて待ち続けた。
客観的には何分経ったのだろうか。彼は何も知らずに再び戻ってきた。本当に今の私には、二時間が経過したといっても全く過言ではなかった。
「お待たせ―。じゃ、帰ろうか」
「その前に、ちょっと話したいことがある」
「何?」
私は彼の正面に来るように位置を変えた。ちょうど教室の引き戸の前であった。これ以上待てば心臓破裂で死んでしまうと本気で思った。
「あのさ――」
そして一世一代の大勝負、もてる限りの力と勇気を振り絞って声を出した。
「実はずっと、君のことが好きだったんだ!! だからさ、付き合って欲しい……!」
私は段取りを全て忘れてしまったことに気付いた。だが遅い。声は物理的な波となって彼の耳を貫いていた。
「自分勝手なことだけど」「良かったらでいいから」……そんな配慮の言葉をみな置き去りにし、言いたいことだけを伝えた自分はなんたるエゴイストだろう。私は申し訳なくて彼を直視できなかった。
世界は無音となった。
私は彼に拒絶されるのを覚悟した。肯定の返事が返ってくるには長すぎる時間が過ぎていたからである。
「えーっと、あれから僕を好きになってくれたのは嬉しいけど、もう別に好きな人がいるから……」
彼のせりふが頭に浮かんだ。前に出した右腕は彫像のように動かない。
しかし拒否の返事は聞こえなかった。代わりに響いたのは、微かな嗚咽、欷歔の声。気持ち悪さとショックが極まって泣いてしまったのか。罪悪感を覚えながら私は視線を上げた。
「僕も…………だよ」
ところが返ってきたのはあまりにも意外な言葉であった。最初、私はその意味を理解できなかった。
「えっ?」と咄嗟に返し、考える時間を設ける。その数秒は理解するのに十分だった。
瞬間、体中の力がいっせいに抜けていった。私は大きすぎる衝撃により感動を失ったまま、視線を上げた。
「ほんとに?」私の声色は、純客観的だった。
彼が流す涙の筋が太くなると同時に、彼は口を開いた。
「断られて、ダメだなってもう諦めてたけど、最近仲良くしてくれるから、もしかしたらと思って、でも『友達』だって言うし、やっぱ無理かって思ってて……」
彼は言葉を詰まらせながら懸命に話す。ショックで麻痺していた感情と現実感が生き返ってくる。
ああ、告白は成功したのだ!
どうしようもない嬉しさと喜びが爆発する。歓喜の情が今までの苦しみを全て吹き飛ばし、高々と踊り狂った。こんな素晴らしいことが人生で起こるのか!
涙を流す彼を見て、自分も頬に温かいものが伝わっていくのを感じる。呼吸が乱れていく。手足に血色が戻ってくる。
さあ、あとはこちらから返事をするだけだ。何がいいだろうか。やはりシンプルなのが一番であると思った。
「ありがとう」
声は芯を通せたが、手は震動したままだった。
彼からは私と一言一句同じ答えが返ってきた。そのことがなぜだか嬉しかった。
緊張の余韻で「じゃ、じゃあ……」と遠慮ぎみに出た私に、彼は「これから、よろしくね」と右腕を上げ、こちらに向ける。
伸ばした手が彼の右手に触れた。私のと違って、温かく柔らかい。
私はそのぬくもりをしみじみと味わいながら彼の目を見た。大きな黒目とカールしたまつ毛。涙できらきらと光っていて、とても綺麗で美しい。この人が自分の彼氏になるのだと思うと、さらに嬉しさがこみ上がってくる。
見合ったまま、手を互いにぎゅっと握りしめる。これは交際開始の儀式であった――あのときの、諦めるための儀式ではなく。
腕を三回縦に弱く振って、我々は手をほどいた。
名残惜しく手を離し、再び彼に向き合う。何か気の利いたせりふを言いたくなった。
「こちらこそよろしく、恋人として」
言った後で私は猛烈に恥ずかしくなったが、彼は嬉しそうに笑ってくれた。二人とも顔が赤いのに気づいて、もう一度同時に笑った。
私は純粋な幸せだけを感じた。真の幸福とは、こんなにも近くにあったのだ。
「君がいてくれて、ほんとうに良かった」
「『君』じゃなくて、名前で呼んでほしいな」
「……分かった。唯戸がいてくれて良かった、本当に」
彼はまたふっと微笑んでくれた。私はもっと幸せになった。
周りに人がいないのは好都合である。私はこのままずっと二人きりで彼といたいと思った。
しかし我々は帰らねばならない。だが、明日も明後日もまた彼氏として会えると思えば楽なことである。これからは、二人きりになど何時だってなれるのだ。
「一緒に帰ろうか」
「うん!」
沸騰する歓喜も冷めやらぬままに私は言った。「また明日会えるな」と声をかけると彼の顔はさらに明るくなった。
鞄を持って、教室から廊下に出る。無人のその場は、まるで我々ふたりのために設けられた舞台のように思えた。
我々の足音だけが廊下に響く。彼が横にいるのは前と同じである。しかし今の彼は友人ではなく恋人なのである。その事実がやはり嬉しかった。
もう気まずくはない。昨日までの埋めようにも埋めきれなかった溝は消滅した。私は揚々と校舎を歩いていった。
外では西の太陽が低空に輝いていた。あの夕日は、これまでの苦難の終わりを告げる希望の光である。壮絶な苦しみでさえ、消えるときはあんなにも美しい光となるのだ。
私は「眩しっ」と彼に独り言をいった。彼は「うん」と言いながら左手で陽光を遮った。眩しそうに目をつぶる表情も素晴らしい。
そんな彼の姿を見て、希望は我々の前に燦然と輝いている、そういう確信が心の中に沸き起こった。
私は思った。
自分のエゴイズムが最終的に私の願いを叶えてくれた。だから私の利己主義性には感謝しなければならない。
私は、世界最高の利己主義者である。
ここまでお読みいただきまして、ありがとうございました。