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いじめられっ子の悪役令嬢転生記 第2の人生も不幸だなんて冗談じゃないです!  作者: 弥生真由
第三章 主人公の定義

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Ep.90 嵌められた皇女

 闇夜に溶け込んでしまいそうな、漆黒のローブと杖。その二つを身につけ、満月を背に怪しく微笑むその顔に確かに見覚えがあった。

 この男は、二年前にフェニックスの城下で、フローレンス教会が保護していた子供達とライト、そして、私を誘拐しようとしたあの事件を牛耳っていた男。そして同時に、フローレンス教会が護る“聖霊女王タイターニアの指輪”を手に入れたがっているアクアマリン教会の司祭でもある。

 問題は、彼が単に“指輪のみ”を狙って私達を塔から遠ざけたのか、それとも“指輪と巫女候補”の二つをセットで奪いに来たのかだ。どちらなのかによって、どうこの場を切り抜けたら良いのかも変わる。私の魔力や手負いのキール君だけでは、きっとあの男は倒せない。どうやったら二人とも無事で済むか考えるためにも、まずはそこを聞き出さなくちゃならない。


 重たい一撃を喰らいうずくまったキール君の身体を支えながら立ち上がり、毅然と男に向き直った。こう言うときこそ、敵の空気に呑まれては駄目だ。


「貴方はアクアマリン教会の者でしょう。この森は、貴方達と相対するフローレンス教会が護っている神聖な場所です。今すぐ立ち去りなさい!!」


「残念ながら聞けませんねぇ。『立ち去りなさい』と言われてはいそうですかと聞くくらいなら、こっちもわざわざこんな真夜中に敵地のど真ん中には来ないんですよ。長年求め続け、一度は実力行使に走り諦めた聖霊の巫女の……否、“聖霊女王タイターニアの指輪”!!それを手にする機会がようやく訪れたのだから!!!」


 にっこりと笑うその表情の胡散臭さと来たらない。

 今の男の口振りからだと、まだ狙いのピントがいまいち定まらない。内心で歯噛みしたその時だ、男が杖でドンッと地面を叩いた瞬間、辺りが急に明るくなった。オレンジに揺らめくぼんやりとした灯り……、松明だ視線を動かして辺りを見ると、松明を手にした男達に辺りを完全に囲まれていた。いや、松明だけじゃない。立派なオイルランプを持っている人もちらほらいるようだ。嘘、さっきまで微塵も気配を感じなかったのに、どうして……!?


「そんなに怯えないで下さい。彼らは皆、私の同胞です。我々を更なる高みへと導く巫女様をお迎えに上がった使者達ですよ」


「……っ!」


「教会の、使い捨ての駒にされている者達です。気配を感じなかったのは、魔導具で波長を完全に森に溶け込ませて居たからだと……!僕が貴女を連れてくるよう指定されたのは、この座標でしたから」


 痛みで息も途切れ途切れなキール君が説明してくれた。なるほど、彼らは自分の姿や気配を隠す“ステルス”みたいな機能を使って身を隠していた訳ね。そして、『迎えに来た』と言うことは、やはり彼等は巫女候補である私も拐っていくつもりなのだろう。これは中々厳しい状況だ。指輪だけが狙いならば、とりあえず隙をついてここから走り去れれば時間が稼げたのに。

 ぐるっと顔を動かして辺りを見る。闇に紛れて見えづらいけれど、敵の数がかなり多い。今回の件は、五年生のときに巻き込まれた事件より更に綿密に練られた策なのかもしれない。

 そこまで考えて、ハッとなった。


「まさか、アニバーサルゲートの事故も貴方たちが……!」


 そう問うと、ローブの男が口角を上げた。


「ご明察ですよ、皇女様。まんまとアニバーサルゲートへ呼び出された炎の皇子様は今頃、同胞達が起こした土砂崩れで立ち往生。風の皇子は王都へ戻り、土の皇子も調べものの為と勝手に町を離れた……。助けが来るなどと、淡い期待を抱かないことです」


 やっぱり罠だったのね……!しかも、ライトやフライを側から遠ざけただけじゃなく、戻ってこられないように土砂崩れで道まで塞ぐなんて、作戦の規模が前回とは桁違いだ。『火事の白昼夢が現実にならなくてよかった』なんて呑気に言ってる場合じゃなかった……!とにかく、戦うにせよ助けを呼びに行くにせよ、敵に完全に囲まれたここからは一旦離れるには、彼等の視界を悪くしてその隙を突くしかない。でも水や風の魔法単体じゃ目眩ましにならないし、一体どうやって……!


 そう歯噛みしながらもう一度敵の数を見回した時だ。煌々と燃える松明の灯りで、ぱっと思い付いた。そうだ、火!!

 身体を支えているふりをして、キール君にそっと耳打ちする。


「ねぇキール君、まだ魔力残ってる?」


「え、えぇ。小さな竜巻ひとつくらいならば出せそうです……」


「そう、よかったわ。じゃあ、私が合図したら残ってる魔力全部で思い切り辺りに風を吹かせてほしいの」


 キール君の黒に近い深緑の瞳と視線が重なる。数秒後、キール君はしっかり頷いた。 

 拳を握りしめて、手のなかに氷の礫を作る。大きくなくて良いんだ、せいぜい、オイルランプの枠のガラスが砕けるくらいのサイズでいい。


「おやおや、秘密の相談ですか?生憎ですが、密談の時間はおしまいですよ。かかれ!!」


 ローブの男が私とキール君に向かい杖を振り下ろした瞬間、辺りを囲っていた男達が一斉に飛びかかってきた。

 今だ!!!掌に作っていた氷の塊を一気に放つ。勢いよく飛んだ氷達が、男達の持っていたランプを盛大に破壊した。漏れ出たオイルの嫌な臭いが鼻を突く。


「キール君、お願い!」


「かしこまりました!!」


 その瞬間に、私の指示でキール君が辺りに暴風を吹かせる。松明の火がその風に巻き込まれ、気化したオイルに引火した。一気に燃え広がった炎に松明を手にしていた下っぱ達がパニックを起こす。


「何と言うことだ……!ええい落ち着け!くそっ、まさか森を焼いてまで逃げようとするとは……だが無駄だ、こうなったら私の手で直々に……っ」


「あら、失礼ね。私達、そんな無責任な子供じゃないわ。火遊びをしたなら、きちんと消火しないとね!」


「この小娘が、何を……っ!?」


 ローブの男がフードを脱いだそのタイミングで、燃え広がった炎を私の水の魔力で一気に消火。急激な温度差をぶつけられた炎は、ジュウゥゥゥッと音を立てて消えた。そして……


「しまった、蒸発した水で霧が……っ!この餓鬼どもが、待て!!!」


 そう、狙い通り、一気に蒸発した水のお陰で辺りが霧に包まれる。視界が悪くなった敵が私達を見失った隙に、全力ダッシュで敵の円から抜け出した。


    ~Ep.90 嵌められた皇女~


  


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