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いじめられっ子の悪役令嬢転生記 第2の人生も不幸だなんて冗談じゃないです!  作者: 弥生真由
第三章 主人公の定義

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Ep.85 コイントス

「試練の内容は至って単純です。あちらにそびえ立つ、我がフローレンス教会が代々護りし古の塔……、“十六夜いざよいの塔”と“月詠つくよみの塔”。あの二つの塔の最上階は、肉眼では関知出来ない魔力の道にて指輪を封じし祭壇の間へ繋がっております」


「祭壇の間……」


 さっき見た指輪を封印した水晶の柱があった部屋のこと?と首を傾げる私と、不服げな顔のマリンちゃんの方へと向き直った導師アステルが、持っていた杖で二つの塔を指し示して説明を続ける。


「マリン様とフローラ様、お二人には今宵、それぞれどちらか一方の塔にてお過ごし願います。そして、夜0時をスタートにして一階から最上階までお一人で昇ってください。真に巫女として認められたお方が、先に祭壇の間へとたどり着くでしょう」


 “試練”って言うくらいだからもっと怖いことをするのかと思ってたけど、想像してたよりずっとシンプルな内容だったことにほっとした。


「~っ!ちょっと待ちなさ……っ、待ってください!さっきの儀式で巫女として選ばれたのは私でしょう!?どうして、儀式に参加すらしてないフローラ様と私がそんな勝負しなきゃならないのよ!」


 ガタンと乱暴に椅子から立ち上がったマリンちゃんが、声を荒げながら女神像が持つ水晶を指差す。


「あそこにある水晶の中に入っていた指輪が私に反応して光ったのを皆さんも見ましたよね?ケヴィン様、何とか言ってください。いくら皇女様だからって一度決まった地位をこんな風に横取りされるなんて、私悔しいですぅ……!」


 そういいながらマリンちゃんが会長さんにしなだれかかる。声は泣き声だったけれど、会長さんが彼女を守るように背中に手を回した一瞬に見えたその横顔は泣いてない。むしろ、その瞬間マリンちゃんの口角がニヤリと上がったのを確かに見た。


「ま、マリンさん……!そ、そうだ!確かに先程の儀式では、導師含め教会の皆が彼女を巫女として受け入れると仰った。それなのにいきなり何の説明もなしに、“真の巫女を選ぶ試練”だと?大方、儀式で指輪が彼女を選んだことが気に入らずに裏から手を回したのでしょう?流石は三つの大国全ての皇太子を侍らせていらっしゃるフローラ皇女だ、神に近しい聖霊の巫女の力を権力で奪い取ろうとは、恐ろしい!」


「ケヴィン会長、言葉が過ぎます。彼女はそんな人間じゃっ……!?」


 立ち上がって会長に反論しようとしてくれたライトの袖を掴んで、引き留める。驚いた顔で振り向いたライトに、大丈夫だからと微笑んだ。今ここで争っても意味がないと。 

 聡明なライトは、不服げにしつつも唇を引き結んだ。私の隣に腰を下ろし直したライトの手を一度ぎゅっと握ってから、今度は私が立ち上がる。


 争うつもりはないと言っても、言われっぱなしも癪だからね。ひと言くらいは言い返してもいいでしょう。


 微笑んだまま会長とマリンちゃんに向き直る。一歩踏み出すと、逆に二人は一歩、後ずさった。


「わたくしは、権力の乱用などしておりませんわ。第一、このフローレンス教会はどの国家にも与しない独立組織。貴族の権威ごときでは動かせないことくらい貴方達もご存知でしょう。先日から、憶測だけで証拠もないままわたくし誹謗中傷するのは止めてください。わたくしは、なにも恥ずべきようなことはしておりませんわ!!」


「なっ……!」


 しゃんと背筋は伸ばして、口元には淑女の笑みを絶やさずに、凛と胸を張って口にした初めてのヒロインへの反撃は、ことのほかしっかりと辺りに響いた。

 まさか言い返されるとは思ってなかったのかポカンとしてる二人を見て、ちょっとだけ胸がスッとした。


「よく言った」


 長椅子に座り直す私の耳もとで、悪戯っぽく笑ったライトがそう囁く。フライもクォーツも、それぞれ私の頭や肩をポンと叩いて笑ってくれた。それが何だか誇らしくて、ライトと小さく笑いあったまま机の下でこっそりハイタッチした。




「お話は済みましたか?」


 再びしんとなった全員を見回し、再び導師様が口を開いた。今度は、誰もなにも文句を言わず彼の話に耳を傾ける。

 静かに聞き入る全員に、導師であるアステルさんから説明された内容を簡潔にまとめるとこうなった。


 まず、儀式でマリンちゃんを選んだ、女神像の水晶に入っていた指輪。あれは、本当に指輪を封印してある塔の水晶から、魔力で一時的にその“力”と姿を転移させた偽物ミラージュだったそうだ。本物を持ってきてアクアマリン教会にまた指輪を奪われてはたまらないと、一度儀式中に襲われて以来本物は塔から持ち出さなくなったらしい。

 ただ偽物と言っても、聖なる力でコピーをしたその指輪は本物の指輪と繋がっていて、きちんと新たな巫女を選べる。事実、今回はマリンちゃんにきちんと反応したのだから何も問題はない……はずだった。本来なら。


 ただ、今回は、聖なる結界で守られてるはずの塔にある方の“本物の指輪”に私が偶然たどり着いてしまい、指輪が反応してしまった。


 つまり今は、どちらが偽物とかではなく、同じ日の違う時間、違うタイミングで指輪が2回巫女を選んでしまった、いわゆるダブルブッキング状態なのである。


「長らく新たな主を見つけられずにいた所に2人も適合者が現れて、指輪は今困惑しているのでしょう。故に、試練を行うのです。どちらが優れている、劣っていると言う話ではございません。ただ、貴女方が“正しい運命”に導かれる、その為に。マリン様、フローラ様、貴女方は、運命の扉を開く覚悟はおありですか?」


「……正しい、運命」


 その言葉に一瞬心臓が嫌な音を立てた。

 固まった私を鼻で笑って、マリンちゃんが先に答える。


「そう、これも運命なら仕方ないわね。その試練、受けて立つわ」


「よろしいでしょう。フローラ様は、いかがですか?」


 マリンちゃんの答えに頷いてから、こちらを向いた導師様の視線に、少しだけ怯んでしまう。でも、その時。


『大切な人達の為にどうしたいのか、どうなりたいのか、それさえ見失わなければ大丈夫よ』


 ここに来る前にお母様からもらった、その言葉が背中を押してくれた。

 

 すこし女性的な可愛らしい導師様の顔をしっかり見上げて答える。


「私も、受けます。運命は、自分で掴み取りたいので」


「では、決まりですね」


 導師様が、ピンと一枚のコインを宙に飛ばす。落下してきたコインを手の甲で受け止め、それをハンカチで隠した導師様がその手をこちらに差し出した。


「お二人がどちらの塔に泊まるかを決めるコイントスです。表は聖霊王が、裏には教会が描かれています。当たった方の方に、塔に選ぶ資格が与えられます」


 『さあ、選んで』


 その声に息を呑み、私とマリンちゃんが同時に答える。


 私が選んだのは表、マリンちゃんは、裏だった。


「では、行きますよ」


 コインを隠していた白いハンカチが、ゆっくりと取り払われる。現れた柄は…………。



    ~Ep.85 コイントス~


   『運命は、自らの選択で掴みとれ』



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