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Ep.34 水底の地下通路

「ここはっ……!?」


 ピチョンっと、水滴が弾ける音で意識が浮上した。勢いよく飛び起きたところで、周りの温度に負けない冷ややかな声が飛んでくる。


「学院内にある十の噴水を繋ぐ地下通路だよ」


「ーっ!フライ様……!そうだ、私噴水に落ちて……!!」


 弾かれるようにそちらを向けば、松明すら灯っていないほぼ真っ暗な通路の壁に凭れたフライ皇子が、腕を組みつつため息をついていた。

 

「『突き落とされて』の間違いじゃないのかい?あれほど頻繁に僕らの近くに居ると知られればやっかみ位は出てきて当然だよ、だから気を付けろと言ったんだ。全く、なんで僕までこんな目に……!元はと言えば君がこんなもの忘れていくから……!!」


「わっ!!」


 嘆くように呟いたフライ皇子が投げつけてきたのは、私が彼の部屋に忘れてきたノート。私がこれを忘れたことに気づいて取りに行くか迷っている合間に芋虫ロール先輩たちに絡まれたことと、水に沈んで意識を失う前に誰かに腕を掴まれた感触がしたことを思い出せば、ノートを届けに追いかけてきてくれたフライ皇子が私を助けてくれたのだとわかる。

 あんなに迷惑がってたのに、助けてくれたんだ……!


「届けに持ってきて下さったのですね、ありがとうございます!ご迷惑をおかけしてしまって……あれ?」


 受け取ったノートを抱き締めて、今さら気づいた。濡れていないのだ、噴水の中に落ちたにも関わらず、このノートも私とフライ皇子の髪や身体や、服も。それどころか、今私達が居る通路から周りを見渡しても、水気が全くない。これはおかしい。

 そもそも、私が落ちたあの噴水、深さは1メートルも無かった筈だ。なのに、その噴水に落下した私は石造りの噴水の底には落ちず、更に深い位置へと沈んだ。実に不思議だけど、この流れ、私にはなんだか覚えがあるぞ……!


「もしかして私達、噴水に掛けられていた結界をすり抜けてここに迷いこんでしまったのでしょうか?」


「……っ!なんだ、ただの無知なお姫様かと思えば、意外と知識は豊富なようだね。学院内の噴水に結界が組まれていることくらいは知っていたのか」


 少し嫌味っぽく笑うフライ皇子のその言葉には、苦笑だけを返す。勉強して得た知識ではなく“前世“のゲームを元にした知識なので、偉そうにひけらかすべきじゃないと感じたのだ。

 そう、落っこちた噴水の場所や起きる時期、仕掛けてきた令嬢達の顔ぶれは違っていたけれど多分間違いない。これは本来高等科編で起きるイベントに酷似した状況だと。でも、イベントの内容自体が細かく思い出せない。記憶が歯抜けみたいに飛び飛びなのは何故だろう?とりあえず今わかるのは、学院内に点在する10個の噴水にはそれぞれ特殊な施設を守る結界の類いがあって、その結界が各攻略対象のシナリオに一回は絡んできてたってことと、今フライ皇子が言った通り、全部の噴水同士は秘密の地下通路で繋がってるってことだけ。

 フライ皇子のルートの噴水ネタ、なんだったかなぁ?攻略対象によって噴水ネタの重要度はまちまちだったけど、でもそこそこの鍵は握ってた気がするんだよね……。なんて考えてる場合じゃないか!今は早く地上に帰るのが第一だわ。


「はぁ……、何故君が本来特殊な解除具が無いと抜けられない結界を抜けてここに迷い込んでしまったかはさておき、まずは地上へ戻らないと不味いね。とは言え……」


 フライ皇子が言葉を濁して天井を見上げる。釣られるように私も上を見上げれば、そこでは澄んだ水がゆらゆらと揺蕩っていた。私達が落下してきた水は多分、あの天井の上にあるのだろうと思う。


「何で降ってこないんだろ、不思議……」


 ガラスも何もないにも関わらずその水は降ってこない。それが不思議で壁をよじ登って指先でつついてみても、まるでグミみたいな弾力で弾かれて、中に入るなど不可能な状態になっていた。つまり、落ちてきたルートを使って戻る事は不可能と言うことだ。それくらいは私にもわかる。


「ここを通って先程の場所に戻るのは不可能みたいですね。とりあえず、通路沿いに進んで見ましょうか?ほぼ真っ暗ですが、水面から少しは明かりも入ってきてますし、歩くくらいなら問題はないかと思いますから」


「……っ!」


 通路の方を見ながらそう提案したら、何故かピシッと音を立ててフライ皇子が固まった。


「フライ様?どうかされました?」


「……いや、何でもない。行くよ」


 てっきり私のことは置いて歩き出しちゃうかなと思ったけど、フライ皇子は通路に続く扉を開けて私に先に行くよう促してくれる。


 一歩踏み込むと、ひんやりしている筈の地下通路の空気が妙に優しく感じられた。


    ~Ep.34 水底の地下通路~






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