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Ep.20 ツンデレ少女は森の中

 二つ結いの髪をピョコピョコ揺らしながら駆けていくその背中を、私は思わず追いかけていた。


 校舎の向こう側は確か自然豊かな森だから、まぁスコップやバケツを持っていくのもおかしくはないかも知れないけど……。


 それにしたって、今のこの状況でわざわざ一人で森に入っていく姿を見ちゃったら流石に心配だよね。




「えーと、確かにこっちに行ったと思ったんだけど……」


 学園用の島の中にいくつかある中ではまだ小さな森だけど、意外と入り組んでるのかもしれない。


 急いで追いかけてきたのに、ルビー王女を見失ってしまった。


「仕方ない、一旦戻ろう……って、あら?」


 真っ直ぐに駆け込んで来たはずが、来た方向を振り返ると道がなかった。

 これはおかしい、まさか私がルビー王女を探している間に草花が育って道を覆ってしまったのかしら?


「って、そんなことあるわけないでしょ!!」


「痛っ!」


 自分でも流石にあり得ないなとツッコミたくなる予想を立てていたら、誰かの鋭いツッコミと一緒に頭に何かが飛んできた。

 コンッと言う軽い音に似合わず私に中々の痛みを与えたそれは……


「……クルミ?」


 何故か、殻のついた小さめのクルミだった。


 そもそも、今のツッコミは誰がしてきたのかしらと、クルミが飛んできた方向に体を向ける。


「……体隠して髪隠さず、と言った所ですわね、ルビー様?」


 小さな木の陰に隠れつつも、大きなツインテールが隠しきれていないルビー王女がそこに居た。

 手にはやっぱりさっき持っていたスコップとバケツ、そしてバケツの中には……


「大収穫ですわね……」


 てんこ盛りのクルミとキノコがあった。

 もしかしなくても、収穫してたのね……?

 濡れ衣の件で落ち込んでるかと心配してたけど、案外大丈夫そうかな?


「なっ、何よ。これは全部野生何だから、取ったって責められる謂れはないし……。私達の国“アースランド”では、大地の呼吸を聞くために草花について色々学ぶわけで、だから……。~~っ、なっ、何か文句ある!?」


 別に、ただよくこれだけ集めたなぁと感心してただけだったのだけど、ルビー王女はバカにされたのだと思ったのかマシンガン並みの早さで言い訳を口にし、最終的には逆ギレした。

 うーん、こう言う口調の子、なんかマンガてかでよく見たような……。


「何とか言いなさいよ!」


 ついまたぼんやりしていたら、ルビー王女に怒られてしまった。

 これ以上怒らせたらまたクルミが飛んできそうなので、とりあえず答えることにする。


「何も悪いことなどございませんわ。自然の恵みを頂く事は、良い事だと思いますし」


 そう言って、出来るだけ親しみを込めて微笑んでみた。

 でも、ルビー王女は未だ木の陰に隠れたまま私に険しい表情を向けている。


 き、嫌われてるなぁ。


 ――……でも、これはまたとない機会かも知れない。

 恐らく普通の生徒は愚か、先生たちも立ち入らないようなこの森の中なら、誰の目にも触れずにルビー王女とちゃんと話せるかも。


「……ルビー様」


「なっ、……何?」


 静かに名前を呼び、一歩ルビー王女の方へ距離を縮める。

 すると、ルビー王女が躊躇うような顔をして、私が進んだ一歩分後ずさってしまった。


 ……距離を縮めるのはちょっと難しそうね。心理的にも物理的にも。


「ここなら邪魔も入りませんし、宜しければ少しお話しませんか?」


「は、話って、あのこと……?」


 ルビー王女の瞳が揺れる。

 私はそんな少女を真っ直ぐに見つめたまま、首を縦に振った。


 目の前の少女は、そんな私を見て目を見開き、悲痛な声をあげる。


「あっ、あれは私じゃないわ!!私がやったんじゃない!!!」


「えぇ、わかっています」


「えっ……?」


 即答した私に、ルビー王女の瞳が更に見開かれる。

 よく見ると目の下がちょっと赤い。


 もしかしたら、やっぱり疑われたり悪口を言われたりして泣いたりしていたのかも知れないと思った。


「う、疑ってたから、追いかけてきたんじゃないの?」


 あら、追いかけてたの気づかれてたのか。

 だから見失っちゃったのねー……。



「少なくとも私自身は、貴方が犯人だなんて思っていません。だから、ちゃんとお話をさせてくださらない?」


「――……」


 私がそう言ったら、ルビー王女はしばらく視線をあちこちに動かしてから、小さく頷いた。

 そして、近くの大きな岩の右端に腰掛け、隣を小さな手で叩いて見せる。

 どうやら、隣に座ってもいいらしい。


「お隣、失礼しますわね」


「……どうぞ」


 岩を椅子代わりにして腰かけると、丁度森のなかをそよ風がサァッと吹き抜けて木々を揺らしていった。


 そんな木々のざわめきを聞きながら、ちょっと沈黙……。


「……ふ、フローラ、様……」


「はい、何でしょう?」


 そんな中、先に口を開いたのはルビー王女だった。


 俯いていて目は見えないけど、真剣な声色で名前を呼ばれて少女の方に顔を向ける。


「どうして、私を疑わないのですか?」


 不安げな様子のルビー王女の口から出た言葉は、そんな問いかけだった。

 何でかって?だって理由が無いからね。


「――……」


 何て答えるべきか考えるために黙ってしまった私を、ルビー王女は無言で見上げてきた。

 どうして、……かぁ。

 こう言っちゃなんだけど、結局答えはライト皇子やフェザー皇子に言ったあれ一択なんだよね。それ以外で言うなら正直……勘?


「正直に申し上げるとですね」


「……はい」


「何となく、ですわ」


「――……はい?」


 私の出した答えに、ルビー王女のつぶらで可愛い真ん丸の瞳が点になった。

 それはもう、効果音で『てーん・・・』とつきそうな位に見事に。


「ばっ、馬鹿にしてるの!?」


「いえ、そんな事はございませんけれど」


「じゃあ『何となく』ってなんなのよ!!」


 あー、結局怒らせちゃった。

 でも、事実としてそれが私の本心だから仕方ないのですよ。


 さっきフェザー皇子に言った具体的な理由ももちろん本心だけど、それ以上に……。


 ただ何となく……、本当に何となく、この子の仕業ではないって、私はそう思ったんだ。

 もう言い訳を考えるのも面倒だったので、今思ったことをそのまま伝える。


 すると、ルビー王女は煙が出そうなくらいに顔を赤くしてまた俯いてしまった。


「バカみたい、あり得ない。お人好しなんてレベルじゃないけど……がと」


「え?」


「だっ、だから、ありがとうって言ったの!一度で聞き取りなさいよ!!」


 そう捲し立てて、今度は下じゃなくそっぽを向かれた。

 ……あぁ、思い出した。


「ツンデレって言うんだ、こう言う子」


「はぁ!?」


「あらやだ、ごめんなさい。私ったら……」


 しまった、また心の声が……。

 どこかに口を閉じる用のチャックは売ってないかしら。


「――……」


「え、えーと、それよりここ最近の噂についてなのですが……」


 ルビー王女のじと目が怖いので、話を本題に無理矢理戻す。

 あんまり二人して姿を消していてもまた有らぬ誤解を招きかねないから、そろそろ戻らないといけないしね。


「一度立ってしまった煙はなかなか消えません。当分は、いたるところで噂の火が燻くすぶり続けるでしょう」


「……わかってるわ」


「ですから、まずは貴方が犯人ではないと言う証拠と、真犯人を見つけねばなりません。これ以上濡れ衣を着せられないためにも、今日のような単独行動は当分控えた方がよいですわ」


 私の言葉に頷きかけたルビー王女は、『でも……』と途中で言葉を濁した。


「……キノコやクルミの採取以外にも、目的があるんですの?」


「……ちょっと来て……ください」


 頷いてそう答えたルビー王女に連れられ、さっきまで居た位置より更に奥まで進む。

 すると、そこには立派な幹の太い木があった。

 よく見ると、木の上の方に小さめの丸い穴が空いている。


「あれは……、巣穴ですか?」


「……えぇ、見てて」


 そう言ってルビー王女が口笛を鳴らすと、巣穴から手のひらに乗りそうなサイズの仔リス達がチョロチョロと並んで出てきた。


「かっ、可愛い……!」


「私の友達なの」


 そう言ってルビー王女が木に手を伸ばすと、その手を伝って仔リス達が彼女の肩や頭に上っていく。

 本当に可愛い!!さ、触りたい……っ!


「――……抱いてみる?」


「いいの!?……じゃなかった。えぇ、お願いしますわ!」


『落としたりしないでね』と言いながら、ルビー王女が広げた私の手のひらに一匹の仔リスを乗せてくれた。

 前世でも動物は色々見てきたけど、リスと触れ合うのは初めてだ。

 うわぁ、可愛いなぁ……。


『僕は可愛くないって言うの!?』


「えっ!?」


「……どうかした?」


 手の上でクルミをガジガジしている仔リスに夢中になっていたら、不意にブランの不満げな声が聞こえた気がした。


 ま、まさかね。


 今日は部屋でお留守番の筈だし……。


「な、何でもございませんわ。それより、この仔リス達にご飯をあげていたのですわね?」


「この子たちの母リスが、帰ってきてないみたいで。だから……」


 そう言って、またルビー王女は瞳を伏せた。

 今日はずいぶん弱気だなぁ。

 悪いことをしてた訳じゃないんだから、もっと堂々と言って良いのに。


「事情はわかりましたわ。……ですが、やはり貴方が一人でこの森に入ることを黙認するわけにも参りません」


「――……はい」


「ですから……、明日からは私も一緒に参ります」


「えっ!?」


 最初はハイネに当分のお世話を頼もうかなとも思ったけど、やっぱり小さい子は自分の目で見てないと納得いかないだろうしね?

 それに、ここで定期的に会う機会があれば、お互いの情報を共有しやすいかも。


 その旨を伝えたら、ルビー王女が『でも……』と視線を泳がせた。


「……それに、私もこの子達にまた会いに来たいんです。駄目ですか?」


「……っ!わ、わかったわ……。」


 だめ押しとして本音を付け足したら、ルビー王女が渋々折れた。

 画して、私達の花壇荒らし真犯人捜査及び仔リスちゃんのお世話が始まったのでした。


   ~Ep.20  ツンデレ少女は森の中~



『……帰ったら、ブランも目一杯構ってあげようとは思いつつ。結局この日は丸一日仔リスちゃんを構い倒して終わったのはまた別のお話』





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