Ep.92 皇子様はメイド様
「ぐぁぁぁぁぁっ!目が、目が見えない……!くそっ、小娘が、どこだ……!」
絶叫を上げたローブの男が、片手で目を覆いよろよろしながらも私とキール君を探している。
「ふ、フローラ様、先程の光は一体……!」
「しーっ!声を出しちゃ駄目、今の内に離れましょう!」
今、あいつは強い光のせいで目がくらんで辺りが見えてない。音さえ立てなければ見つからずに済む。
そうキール君の口を塞いで、静かにその場から逃げ出した。
「……この後はどうされるおつもりですか!?」
ローブの男が完全に見えなくなる位置まで走った頃、キール君がそう聞いた。必死に走りながら、振り向かずに私も答える。
「決まってるでしょう、さっき言った通り、十六夜の塔に戻るのよ!!そんなに離れてないし、もうすぐ……ほら!見えた!」
バッと急に視界が開けたその場所で、月明かりに淡く輝く塔が現れる。ほっと肩の力が抜けた。
0時まであと2分、よかった、間に合った……!
「よし、中に入りましょう!」
「そうは、させませんよ皇女……!大事な侍女達がどうなっても、良いのかな……!?」
「ーっ!?」
塔の扉を開こうと意気込んだタイミングで聞こえた、追い付いてきたローブの男の声。うぅ、しつこい……!そう振り向いて、一気に血の気が引いた。
ローブの男の部下の人たちに捕まり、ナイフを喉元に突きつけられたハイネ達がそこに居たのだ。そうか、皆私に何かあったときの為に森の中で待機してたから……!
「貴女が大人しく我々についてくるなら、侍女達は無傷で解放しよう。さぁ、どうする?」
「姫様、我々に構わずお逃げください!」
ハイネがそう叫び、他のメイド達も頷くけれどそんなこと出来るわけない。侍女を守るのだって、主君の勤めだ。
「余計な事を言うな!」
ハイネ達を捕まえている下っ端らしき男達が乱暴な手つきで彼女達を押さえる。堪らず声を上げた。
「お止めなさい!わかりました、要求を呑みましょう」
そう答えた私に、まだ本調子じゃなさそうなローブの男がニヤリと笑った。
「よーし、お利口だ。とは言え、連れていく途中でまた逃げられても厄介だから人質は必須……。だから、この場で貴女と引き換えに逃がす侍女は一人だけだ」
散々逃げまくった私たちに気が立ってるんだろう、大分言葉遣いが乱れてきたローブの男がそう言って、捕まっている侍女達に品定めするような視線を向ける。そして、隅で俯いたまま震えていた一人を無理矢理立ち上がらせる。そう、試練前に私に礼服を持ってきてくれた、あの新人メイドだ。
「よし、逃がすのは一番役に立たなそうなこいつだ。さぁ、こちらへどうぞ?皇女様」
未だ俯いたままの侍女を片手で拘束し、『残り1メートルの所に来た時点でこいつだけは解放しよう』とわざわざ地面に印までつけたローブの男が笑う。
足を踏み出そうとした私を、キール君が引き留めた。
「フローラ様、なりません!」
そう右手を掴んできた手をふりほどいて、微笑む。キール君がハッと息を飲む音が聞こえた。
一歩ずつ、慎重にローブの男へと近づいていく私を、もう誰も止めない。
残り1メートルの印に、私の右足が触れた瞬間。ローブの男が高笑いしながら縄で私を縛り上げてきた。人質の新人メイドは解放しないまま。
しまった、油断した……!
「ちょっと!約束が違いましてよ!!」
ギリッと縛り上げられたまま、ローブの男を睨み付ける。
「ふん、知ったことか!所詮はガキと女ばかり、多少手こずったがもうお遊びは終わりだ。折角だ、この侍女共は売り飛ばして今回の駄賃がわりにさせて貰う……さ!!?」
ローブの男が高笑いしながら悦に浸っていたその時だ。新人メイドが男の拘束を振り払い、私を縛り上げていた縄を強く引き寄せた。逆らう間もなく引っ張られ、侍女とは思えない力強い腕に抱き止められる。嗅ぎ覚えのある、爽やかなハーブの香りがした。
逆上したローブの男が振り下ろした剣をさっとかわし、私を横抱きにした新人メイドが男の顎に狙いを定める。
「何しやがる、この侍女風情が!」
「侍女だって?……ふっ、残念だったね、男だよ!!!」
可憐なメイド服のスカートから炸裂した膝蹴りが、ローブの男を吹っ飛ばす。
反動で外れたメイド帽の下から現れた、エメラルドの艶やかな髪がふわりと揺れた。
~Ep.92 皇子様はメイド様~
姫抱きにした私を見下ろした、フライが不敵に微笑んだ。




