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2話:猶予3日の死の宣告!?


 

「祖父を生き返ら……」

「無理だ」


 (あお)の言葉の語尾をかき消す勢いで、願い事が却下された。


「蘇生は不可だ」

「なんでも一つ叶えるって言った癖に!」


 (とが)めるように反論すると、リヴがお座りの姿勢からゆっくりと立ち上がった。そして、獲物を捕らえる寸前の肉食獣のような目でまた睨まれる。


 見た目はあくまで猫だが、並々ならぬ迫力がある。理不尽にも、碧を狩る気満々の目をしていた。


「あー、あのぉ……。よかったら、コロッケ食います?」


 コロッケで悪魔の機嫌がとれるかは不明だが、とりあえず怒りを沈めてもらう為に碧は自分の好物を差し出すことにした。この田舎町で、たった一店舗しかない駅前のコンビニで買ってきたコロッケだ。


「頂こう」


 意外にもすんなり食べるらしく、コロッケを袋から出し机に置くと、カラッと揚がった衣に(かじ)りついたリヴが、サクサクと良い音を響かせた。


「……コロッケ好きなんだ」

「いや」


 その食い付きの良さで否定されてもと、そう声に出して突っ込みたくなるほど、リヴは美味しそうにコロッケを食べている。


「俺は今、お前と血の契約中だからだ」


 話を聞くと、契約中はなぜか相手の好物が食べたくなるようだ。


 コロッケを食べ終え、満足そうに伸びをしたリヴが、「では、食い物の礼に情報をやろう。契約はギブ&テイクだからな」と、意味深な視線をこちらに向けた。


「まずはじめに、願い事の代償として、願いを叶えた後にお前の心臓を頂く」


「は?」


 

 今更のとんでもない発言に呆然となる。


 心臓とは、この心臓のことだろうかと左胸を押さえて考えた。しかしどれだけ考え直してみても、これ以外に思いつくものはない。


 それはつまり、死ぬと言うことだ。


「願い事を決めるための猶予は三日。そして、心臓を渡さないという願いは無効となる。更に、三日以内に何も願わなかった場合でも、きっちり心臓は頂く。最後に、俺の命を奪おうとする行為はペナルティとなり、行動を起こした瞬間に心臓を没収する」


「え? えぇ?」


 次から次へと、とんでもない条件ばかり加算されていく。


「ちょ、ちょっと! ちょっと待って!」


  願い事を一つ叶える。それだけなら、なんの問題もなかった。突然、猫が現れようが、その猫の態度が横柄だろうが、実は悪魔だろうが。


 願い事をするだけでいいと思っていたので、こんな非現実的な事態であろうと、碧はまだ落ち着いていられたのだ。


「それって! 願ってもアウト、願わなくてもアウトって事だろ? どうしたって僕は、死ぬことになるのか?」


 縋るようにリヴを見る。


「悪魔が見返りもなく人助けするはずが無いだろう。俺とお前は血の契約を交わした。その時点で、これはもう運命と同義だ。過去の契約者達はみな、例外なく死を迎えている」


「そんな……嘘だろ」


 碧は脱力して、椅子の背もたれに寄り掛かった。


「こうして(いにしえ)から人の命を奪い続けてきた。誰よりも長く、誰よりも多く。これが、俺が魔界最強と呼ばれる由縁だ」


 そう言ったリヴが、ほんの一瞬、何かに絶望しているような表情に見えて、碧の頭の中が余計に混乱する。しかし今の碧に、リヴの表情をいつまでも気にしている余裕など無かった。


『過去の契約者達はみな、例外なく死を迎えている』


 先程の言葉を思い出すだけで、自然と恐怖で体が震える。


「どうしよう」


 与えられた猶予は三日。

 それまでに、生きる為の【願い事】を見つけなければいけない。


 碧がいくら楽観的な男とはいえ、さすがに今まで通りのお気楽思考で「なんとかなる!」とは言えなかった。


 その時、碧のパーカーのポケットが小さく振動した。軽いパニック状態のままスマートフォンを手にとると、兄の(みどり)からの返信だった。


 

『五分以内に着く』


 簡素な一文だが、それを見ただけで重かった碧の心が一気に軽くなる。


「翠!」


 碧がたった一人でこの状況をなんとかできる訳がない。しかし碧よりずっと頭の良い翠なら、何か良い方法を見つけてくれるような気がする。高校の成績もそこそこだった碧と違い、翠は学年でも常にトップだった。


『待ってる!!!!!!』


 ビックリマークの数に待ちわびているという感情を込めて、ハイテンションに返信する。それに対する翠のリアクションは何もなかったが、メッセージに既読マークがついたので見てはくれているようだ。


 どちらかというとテンションの高い碧と違い、兄の翠は昔からテンションが低い。


 それは根暗という訳ではなく、翠が必要最低限の動作と言葉の省エネモードで過ごしているからだ。


 大学・就職と東京で一人暮らしをしている翠とはしばらく会えていなかったが、相変わらずこの性格は変わっていないようだ。


 兄が来たらまず何から説明すればいいのかと、碧はスマートフォンを握り締めて考える。落ち着け。脈打つ心臓を説得するように、碧はそう心で呟いた。


 その時、遠くで砂利道を歩く足音が聞こえた。小さかったそれが、徐々に大きくなりこちらへと近づいてくる。


 碧は一目散に古書店の扉を開け、ゆっくりと歩いてくる兄に向かって大きく手を振ったのだった。



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