98話 国王メルギス
世界が動き出すと同時に、リアはめまいがした。10年以上も禁呪を使用し続けた状態になっていたのだから仕方がないだろう。リアは魔王の部屋の中で座り込んでしまい、しばらく動くことができなかった。最強の存在となったからこそ耐えられていたが、これが生身の人間だった場合、数秒もしないうちに発狂し、そのまま死を迎えることになっていただろう。それだけ危険な魔法をリアは耐えきったのだ。
1時間ほどすると落ち着いてきたリアは深呼吸を繰り返し立ち上がった。
そして今後の方針について考え始めた。
とりあえずしばらくは人間のふりをして過ごすのが得策なので一度キルスに戻り、魔王を倒したことを世界中に広める。そして、自身が魔王になったことは基本的には誰にも話さず過ごしていく必要がある。
そしてリアからすれば10年ぶりだが、彼らからすれば1年ぶりなので一度魔法を改造し続けた10年は忘れてキルスに戻るべく転移魔法を発動させる。しかし、リアはここで重要なことを忘れていることに気が付いていなかった。
転移するとそこはクヌム王国の王城の前だった。目の前には兵士たちがおり呆然としている。
そう、リアは毎回転移する際に使っていた透明化の魔法を使用するのを忘れていたのだ。しかし、2人いた兵士のうち1人とは話したことがあったので
「お疲れ様です。国王メルギス様に取り次いでいただけますか?」
「リア様、お早いお帰りですね。たった4時間でお帰りになるとは思いませんでした。すぐに国王様にお伝えいたします。」
そういうとその兵士はすぐに下がっていった。
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「国王メルギス様に申し上げます。勇者リア殿が帰還されました。」
「それは誠であるか。ガロの死を伝えたところ突然出立し、それからまだ4時間しかたっていないのだぞ。」
「誠にございます。リア殿の姿を私の目で確認いたしました。この命に懸けて誠にございます。」
「そうか、わかった。先ほど会談していた部屋へ再び通すがよい。」
「はっ、かしこまりました。」
兵士がかけていく足音が聞こえてくる。今この玉座の間には国王メルギス1人しかいない。そこでメルギスは悶えていた。配下たちの前では堂々とふるまっているのでこんな態度を取れないが本当はのたうち回りたい気分だ。
まさか数時間で魔王を倒してくると誰が予想できる。しかも、彼女が『勇者』である以上彼女はこの後『魔王』になってしまうだろう。これ以上ないほどに最悪な展開になってしまった、そう考えつつも、苦痛に耐えながら会談が行われる部屋へ向かったのだった。
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リアが部屋に通されるとそこにはすでに国王がいた。そして国王の体面のソファに座ると、
「それでは、話を始めようか。」
国王がそう言い、とても一国の王と、その国の国民の会話とは思えないような会話が繰り広げられた。




