97話 100代目の魔王
禁呪を使用したリア、使用すると同時にその視界は暗闇で覆われた。そして体の感覚がだんだん失われていき、指1本さえ動かすことができなくなった。
その直後、リアは夢を見ているかのような感覚に包まれた。やけに体が軽くフワフワしている。そしてリアの視界を包む暗闇の中にぽっかり穴が開いた。
うすうすリアは気が付いていたのだが、ここはリアの肉体の内側、つまり、今感じている体の軽さは自分の意識が魂その物に宿り、体の内側から体を見ている。そして穴が開いたということはスキルが失われたということだろう。そして空いた穴は二つ。それを埋めるように何かが外から覆いかぶさってくる。
ここでリアの意識は肉体に戻った。そして、この世で最大の苦痛を与えられる。
全身に激痛が走り、魔力が体内で暴走しかけているのか燃えるように熱い。そしてリアの中に大量の他人の苦痛が流れ込んでくる。元の魔法の10倍の量、そして質も10倍の苦痛を与えられ続けるのだ。
リアの精神力をもってしても限界が近かった。全身の痛みに精神的にも病んでくる。
しかしそんな彼女の支えになったのは、彼女が誰よりも尊敬する両親、そして勇者ブレイズの存在である。彼らがいなければ自分はこの場に立っていない。彼らにつないでもらったこの命、この力をものにしなければならないという使命感である。
しかし、それも一瞬で消し去るほどの苦痛が与えられ続ける。それでも耐え続けられるのにはもう一つ理由がある。
それは、この程度の苦痛など苦でないと感じられるほど彼女の中に渦巻いている【創造神】への憎しみの感情である。
憎しみの感情だけで、1時間以上も与えられ続けた苦痛を耐えたリア、それが終わると再び彼女の意識は魂に吸い寄せられる。
そこでは先ほど相手ふさがれたはずの穴から、膨大な量の瘴気が流れ込んできていた。それは何をしなくてもリアの中に吸い込まれてゆく。
最後に、肉体に意識が戻ると自身の細胞一つ一つが変わっていくのを感じた。細胞についてなんてわからないはずなのになぜか肌で感じる。そしてすべての細胞が変化を終え、リアの肉体がすべて書き換えられるとともに彼女を包んでいた魔力の光が消えた。
そこに立っていたのは魔法を使用する前と一切外見に変化のない一人の少女。しかし、その本質は大きく異なっていた。
今ここに100代目『魔王』にして、『勇者』の力を持つ世界最強の存在が誕生したのだった。
そして10年の間止められていた時は彼女によって動き出す。もはやその魔法を発動させていたのは彼女ではないといっても過言ではないほどに肉体的に変わってしまっているのだが、たとえ他人が発動した魔法やスキルにさえも干渉してしまう。
歴代『魔王』最強にして最上の存在、種族『魔王』が誕生した。
歴代『魔王』たちが到達することのできなかった種族としての『魔王』それがこの世に誕生してしまった瞬間である。この事件はのちに『魔王』誕生事件、として語り継がれ、彼女こそが真に『魔王』であって他の『魔王』は『魔王』ではないとまで言われるようになった世界史上最大の事件となった。
 




