96話 【魔王誕生】
魔王を倒したリアはその亡骸に手を合わせ、奥へ向かって歩いて行った。
そこに置かれているのは一冊の本、その表紙には『禁術の書』と記されていた。これこそがリアが探し求めていた魔族に転生するための禁呪が記されている本である。
さっそく中を開いてみる。
そこに書かれていたのは魔法の構成する魔力の構造式と魔法の詠唱が書かれていた。詠唱だけでないということはこの構造式に関して理解しないと使用できない魔法なのだろう。
リアはその場で構造式について1時間ほどかけて読み解き、理解した。この魔法の使用自体はできるだろうが、それでは意味がない。
魔法の構造自体は、現在の肉体とそれに根付いたスキルと魔法を失う、魔族の力を取り込む、魔族にしか使用できない魔法を使用可能になる、という主に3つで構成されている。肉体に根付いたスキルというのはリアはおそらく{鑑定}のみだ。残りの2つはリアが前世に関する夢を見た直後に得たスキルであるため、魂に根付いているはずである。とはいえ、{創造神}は【創造神】が自分に強制的に獲得させたスキルの可能性もあるため不明である。
そして、魔法について理解したことで1つ分かったことがある。この魔法は究極の魔法であるということだ。
魔力の構造が究極のバランスで保たれており、構造を少しでも変形させようものなら魔法として成り立たなくなる。
リアの力をもってしても書き換えるのはかなり困難である。しかし、それをしなければ力を失ってしまうだけなのでやり遂げるしかない。そしてリアはスキル{賭博}を使用して禁呪再現の【時間停止】を使用し、時間を停止させ、最強の転生魔法の作成に取り掛かった。
時間を止めていなければそろそろ1週間がたつ頃だろうか。ようやく、魔法の使用不可を別のものに置き換えることで均衡を保つことに成功した。
この空間内であれば食事をとることもしなくてよく、外的な影響も一切受けないので集中して作業し続けることができた。
それから時間が止まったまま10年が経過したころリアはついに魔法を書き換えることに成功したのだった。
その魔法が【魔王誕生】。
その効果はかなり変わり、それもかなり強くなっている。10年もかけた理由がそこに詰まっていた。
魔法の構造を大きく書き換え、肉体に根付いたスキルのみ失う、魔族の力を取り込む、魔族にしか使用できない魔法を使用できるようになる、肉体はそのままだが不老不死になる、容姿を変幻自在に変えることができるようになる、といった具合だ。
それだけでなく取り込む魔族の力も通常の10倍にしてある。それに肉体が耐えられるかどうかわからないが、そのくらいしないと【創造神】の足元にも及ばないことはリア自身が最も分かっている。
そしてその10年の成果をすべてが停止し続けている世界で発動させる。
「禁呪【魔王誕生】!!」
この日、新たな魔王が誕生したのだが世界がそのことを知ることになるのはもっと後の事だった。




