94話 魔王になった理由
魔法陣の上に乗ると警報が鳴り始めた。まるで警備用のロボットかのように警報に合わせて魔王が動き出した。しかし、立ち上がるとこちらを見て語り始めた。
「そなたは勇者であるか?」
リアは最初普通に語りかけられたことに驚きながらも答えた。
「はい勇者です。」
「そうかついに我もこの世界から解放されるのだな。戦う前に少し話をしよう。この世界の魔王と勇者の関係、その真実を。」
そう前置きして魔王は語り始めた。その声は穏やかで優しい声だった。
「先代魔王は、魔族に転生し、先代勇者に倒された。しかし、その魔王、おそらく全ての魔王が使用した魔法が記された本がその背後には置いてあった。先代勇者はその魔法を見て嫌悪感を抱いた。魔族に転生するなど人間の恥だと。そして彼は人間の街に帰ったのだが、彼を出迎えたのは人々の称賛ではなく、恐怖の感情だった。魔王を倒すことのできる存在など、その強さゆえ、人々から恐れられるものでしかない。次第に人間と会話さえできなくなった勇者という怪物は魔王城に赴き、魔族に転生した。
これが我が魔王になった時の話だ。先代までがどうだったかまでは知らぬが、我は自我を保っているのでこうして語っている。人間とは自分たちの中で飛び抜けた存在を嫌う。皆が同じであると願っているゆえに特別な存在を許さない。それゆえに病んでしまった勇者たちが魔王になるというわけなのだが、それでも君は我と戦うのか?」
長々と魔王について説明してくれた。おそらく元からとても親切な勇者だったのだろうが、それを強さに邪魔されてしまったのだろう。しかし、リアの返答は変わらない。
「えぇ、人間たちにはすでに国際手配されるほど忌み嫌われていますし、私がここに来た理由は魔王になるためです。私は力を得なければいけない。そのためにもその本の魔法を解析して、今の力に魔族の力を上乗せする魔法に変えてやりますよ!」
「魔王になることが目的の勇者とは、それだけ悲しい人生を送ってきたのだろう。その年齢でどれだけ悲惨な体験をしてきたのだ。死線をいくつも超えてきたものの目をしている。」
「さぁ?私にもわからないですよ。とりあえず名乗っておきます。私は『殺戮の勇者
』リア。あと、その年齢でと言われたのがちょっと嫌だったので言っておくとこう見えても私は13歳です。」
「そうか。年齢に関してはすまない。しかし我からすれば大差がないのでな。相手にだけ名乗らせるというのは魔王の恥というもの。
我が名はキョウ!世界最強の魔族、魔王である。」
「それではそろそろ準備はいいですか?」
「あぁ、魔王、そして『最優の勇者』キョウの名にかけて全力でお相手させていただこう!」
そう言い、2人は戦闘を開始した。




