83話 「殺戮の勇者」
もうどれだけの国を救ったかもわからなくなり、今救っている国の名前さえ把握していないリアは戦闘の途中で日付が変わり、この世界での成人である13歳になった。そのころには以前よりも身長が少し伸び、レベルやステータスも以前とは比べ物にならないほどに強くなっており、人間で勝てる存在がいないほどに強くなっていた。その日は、国から現在確認されている最後の魔王軍の軍勢との戦闘をしていたが、それも苦戦することなくすぐに終わった。
そのころ、世間では彼女に通り名がつけられていた。
それは「殺戮の勇者」。
これまでの勇者も皆、通り名を付けられていた。しかし、これまでの勇者は「希望の勇者」のようなプラスなイメージのある言葉が通り名になっていた。しかし、リアは魔族の軍勢に対し、一方的にそして冷酷に殺戮を行う姿からこのような、聞いたものに恐怖を与えるようなとおり名がつけられた。
リア自身もそう呼ばれているのは知っていたが、特に気にしていなかった。
とてつもない力を持っているにもかかわらず、一切の油断を見せない。戦闘中や、各国との交渉などの際には圧倒的なカリスマを見せつけ、冷たく対応する。しかし、拠点であるキルスにいるときには明るく、年齢に見合った姿を見せているという。
しかし、人々はその姿さえ彼女が作り出している虚像であることに気が付いていない。彼女の体にあるのは、たった一つの存在に対する憎悪と、すでに50年以上生きてきている精神である。実際は少女なんて可愛らしいものではなく、化け物と形容するのが正しいものになってしまっていた。
リア自身もそれは感じていた。しかし、あくまでも自分はこの世界で生きている限り「リア」なのだ。しかし、今の自分ではそうあることさえ自然にできなくなっている自分に嫌気がさしてきていた。
そんな時彼女の脳裏をよぎったのは、こうなってしまう前の自分が、母親に投げかけられた言葉だった。
「何かあったらすぐに帰ってきていいからね。」
そんな言葉を思い出し、久しぶりに自分に憎悪以外の感情が戻ってきた気がした。そして「殺戮の勇者」は、世界を救うことで失われた、本来の自分を取り戻すために、彼女の両親のもとへ向かうことにしたのだった。