66話 リーン
「おかえりなさい、リア。少しそこに座って待ってて。すぐにお茶を入れるから。」
そういわれたので言われたとおりにする。そこから無言の空間が流れる。そこに聞こえるのはリーンがお茶を用意する音と、遠くで騒いでいる冒険者たちの声のみだった。
リーンがお茶を入れてリアの対面に座ると、
「それでは向こうであったことを聞かせてくれる?」
「はい。まず向こうに到着し…………」
そうしてリアは魔王軍幹部とその軍勢を倒し、ゼリア皇国と戦争になり、ブレイズとの戦闘の前まで話した。
しかし、ブレイズのことを放そうとすると少し言葉が詰まる。
「その後に何かあったのね?」
リーンがそう問いかけてくる。ここまでの話を全て飲み込んだわけではないだろうがリアの雰囲気を察して空気を読んでくれたのだろう。
「はい。ゼリア皇国の戦力を無力化させた後、一人のドラゴンナイトが戦いを仕掛けてきました。そこで私は魔法を使い彼と周囲の人物全員を動けなくしたのですが、彼は私の魔法の影響を受けませんでした。そして周囲には会話も聞こえていないので誰にも知られていないようなのですが、彼はこの世界の存在ではなかったそうです。そして回復に特化したスキルも持っており、この世界の存在でないから魔法やスキルも効かないので最強ともいえる存在でした。しかし彼の話を聞いていると彼はいろんな世界を救ってきたそうです。彼の生まれ落ちた世界は魔王によって滅ぼされ、同じように滅ぶ世界を減らしたいと語っていました。」
そこで少し言葉を詰まらせる。リーンもここは何も言うべきではないと分かっているのか黙ったままである。リアが再び話し始めた。
「そんなことを聞いてしまうと私も戦いたくなかったし、多分彼も戦いたくはなかったんだと思います。しかし、私の体は何者かによって操られてしまい、そいつが私の体を使って彼を殺したのです。私は彼と分かりあい、共に勇者として歩むことができるのではないかと思っていました。しかし、その存在がそれを邪魔したのです。」
ここにきて限界が来たのかリアが涙をこぼす。
「そう、それは残酷な体験をしたのね、さぞつらかったでしょうに。」
そこからしばらく沈黙が続いた。リアが落ち着きを取り戻すまで両者は口を開かなかった。
少し落ち着くとリアはその後について話し始めた。もちろん【創造神】について考えたことなどについては伏せたままで。
「同盟の解除だけじゃなくて不可侵条約まで結んできてくれるなんて本当にあなたってすごいわね。いろいろあったでしょうし、この後のことは私がやっておくからしばらく休みなさい。今回の報酬が準備できたときに呼ぶわね。」
そういわれ、ギルドマスターと別れた。そしていつもの宿屋に帰るとレイが声をかけてきた。
「おぉリアおかえり、遠征にしてはずいぶん早かったな」
「はい。魔法で移動を早くしたのですぐに依頼を終わらせて帰ってこれました。」
「そうか。そうとはいえ、遠征は疲れるだろ。今日はゆっくり休みな。夕飯はいつもの時間にもっていってやるから。」
「はい、ありがとうございます。」
そういって、部屋に戻ったリアはベッドに横になると吸い込まれるように眠りに落ちていった。




