53話 契約
「何であれを食らって無事なの……」
そこに立っているリアを見てサリスが絶句する。禁呪を耐える人間など彼女の知りうる中で存在するはずがないのだから。
「あなたの魔法が発動する前に私が発動させた魔法は【プロテクション・マジック】といって、一撃だけ一切の魔法を無効化できるんですよ。あと、私はこれを無詠唱で使用できるので魔法は一切効かないと思った方がいいですよ。」
冷静にそう返すリア。しかし、その声には少し焦りのようなものが見られた。魔法の制御に集中力をかなり割いているのでその状態で会話をするのはきついようだ。
「じゃあ物理攻撃で殺すまでよ!私には物理攻撃も魔法も一切効果がない。50代前の魔王様からすべての代の魔王様に仕え続けるデーモンロードの力見せてあげるわ。」
「では、私が今から使う魔法を受けてみてくださいよ。デーモンロードなら魔法は一切効かないんですよね?ならば私程度の魔法なんて余裕なはずです。これが全く効かないようなら素直にあなたに殺されます。」
「言ったわね。いいわよ。その程度余裕で無効化して見せようじゃない。」
「では契約としましょう。あなたのHPが1でも減ったらそのまま戦闘を続行、一切効かなかったら私はあなたの好きなように殺される。それでいいですね?」
「ええいいわよ。自分からそんな提案をしたことを後悔するといいわ。」
そうサリスが言うと、リアは再度魔力を練り上げていく。先ほどの会話で少し練り上げた魔力にほころびが起きた。サリスの魔法に対する耐性なら【地獄の業火】を受けても生きている可能性がある。その可能性を少しでも減らすべく最大威力の魔法を打ち込むのだ。それでもリアは自信を持てなかった。サリスを一撃で倒す自信を。
相手は世界最強の悪魔。しかしこの攻撃でかなりのダメージを負うことになるだろう。そのすきに倒すしかない。そしてリアはその圧倒的な、暴力ともいえるであろう力を開放するのだった。
「私は世界で最も精度の高い鑑定を行えるのでやせ我慢ではごまかせないのでご注意を。それでは行きます!魔王軍幹部サリス、我が一撃で滅べ!禁呪【地獄の業火】!!!!!!」
「ちょっ……!」
サリスもこの魔法の存在は知っていたのかとてつもなく驚いた様子だった。しかしそれはすでに遅すぎた。地獄から顕現した世界をも焼き焦がすであろう業火が半径10メートルのドーム状の空間を燃やし尽くした。
その業火に費やされた魔力はこの世界でも最大の物であり、それから1時間の間燃え続けることになるのだった。
のちにこれは伝説の魔法として語り継がれ、この魔法を超える魔法はないとまで言われることになるのだが、それはまた別の話である。




