50話 禁呪と勇気
それから2時間、自室でとにかくスキル{賭博}を使いつづけた。その結果リアの状態が次の通りだ。もちろん即死は対象を選ばず発動させないようにしている。
魔力量100倍×10回
禁呪5種
即死7回(対象を選ぶことで使用可能)
といった具合である。
魔力量に関しては100×10=100000000000000000000倍、わかりやすく書くと1垓倍である。
つまりリアの魔力量は1杼1110垓になっている。これだけの魔力があれば敵の魔族たちのすべてを一撃で滅ぼすこともできるだろう。
禁呪の中にはどんな存在にもダメージを与える魔法もあるためそれがサリスとの戦いの肝となるだろう。
カンカンカンカンカン
かなり大きな音で鐘が鳴り響いた。これはサリスの軍勢が城壁の上から確認できたという合図である。その合図を受けてリアは城壁の方へと飛び出していったのだった。
リアが城壁までたどり着くと、一人の女性騎士が話しかけてきた。
「あなたがリアさんですか?」
「はい。まずは、男性騎士を全員敵の目の触れないところに逃がしてください。サリスのチャームで万が一操られでもしたら面倒なことになってしまうので。」
「分かりました。あと、一応確認させていただきたいのですが、本当にお一人で出陣されるのですか?下手をすると世界を滅ぼすこともできるであろう軍勢に」
「はい。おそらくこの世界であの軍勢を倒すことができるのは私しかいません。サリスには苦戦するかもしれませんが配下たちはすぐに全滅させるので安心して私に任せてください。もしサリスとの一騎討ちになって私が押されるようなことがあったら誰でもいいのですぐに城に戻って守りを固めるよう伝えてください。」
「承知いたしました。それでは騎士たちにリア様からの伝言を伝えて参ります。」
「はい。お願いします。そのうちに私は魔法の準備をします。」
そういってそれぞれが行動を始めた。今回リアが使う魔法は禁呪【天界の裁き】。これを通常の威力の1000倍の威力で使うというものだ。そのため必要な魔力も通常の1000倍になり、その制御の難易度は1000倍では収まらない。通常必要な魔力量は1000であるため、今回必要な魔力は100万である。これまでリアはこれまで膨大な量の魔力を制御したことがない。そのため、集中して時間をかけて魔法を使うべきであろうと考え、リアは軍勢が到着するまでまだ時間があるにもかかわらず、魔法の詠唱を開始した。
ゆっくりと魔法の詠唱の言葉を紡ぎながらリアは魔法の発動に必要な魔力を練り上げていく。今までは自然に行ってきていたため、意識することの無かった魔法の具現化、それを意識して行うという初めての感覚にリアも少し困惑しながら魔法を作り上げていく。
そんなときに先ほどの騎士が声をかけてきた。
「リア様本当に大丈夫なのですか?もう間もなく敵軍が城壁までたどり着いてしまいます。どんな魔法を使うのか知りませんがもし全滅させることができたとしても町に大きな被害が出てしまいます。」
かなり切羽詰まった様子だ。それもそのはず。リアが詠唱をしているうちに本人の体感時間よりも圧倒的に長い時間が経過しており、あと5分もすれば敵軍の戦闘が城壁にたどり着くところだった。
それでもなおリアは詠唱を続ける。
「リアさん!!!!」
後ろから騎士たちの絶叫にも近いような声が響いている。
そんな中、リアは詠唱の最後の一言を口にした。
「この世のすべての魔を払い世界に光を与えたまえ」
そう唱えたリアの右手には魔法の力が宿り、神々しく輝く光球を掲げていた。
そしてリアは魔法を発動させる前に背後の騎士たちに警告をした。
「皆さん、魔法の準備ができました。皆さんが巻き込まれることはないでしょうが、膨大な魔力が込められているので何らかの要因で暴走したりするかもしれません。念のため伏せてください。」
「はいぃぃぃぃぃ。」
リアが掲げる光球がとてつもない力を秘めているものであることはたとえ素人であろうともわかる。騎士たちはそんな恐ろしいものを操るリアを恐れ、リアの指示通りすぐに伏せたのだった。
リアは感じていた。自身の右手に宿る圧倒的な聖なる力を。その聖なる力が自分に戦う勇気をくれていることを。
リアは元は転生した日本人。
これまでの戦闘は、自分が強すぎるせいでゲーム感覚で行っていた。しかし今回は違う。敵の大将は自分でも倒せるかどうかさえ分からない化け物なのだ。そんなものを相手にすると知った時、リアの中にいた前世の自分の弱さが敵に対して心の底から怯えていたのだ。前世の何の力も持たない自分が。
しかし、今は違う。何の力もなく、クズで最低だった自分ではない。力を持ち、自分の力を他人を守るために使うことができるのだ。そんな当たり前に考えていたことを改めてこの魔法の温かさに教えられている。
そして、人々におそれられるその力を人々を守るために、そして新たな勇者の力、そのすさまじさで世界を震撼させるために。リアはその力を開放するのだった。




