290話 実践的訓練
槍を使うルイは思っていたよりも数段強かった。私が隙を作って見せれば確実に攻撃を叩き込んでくるし、ちゃんと使いこなしている。槍自体の長さは大体2m弱くらいだけど、対敵するとそれ以上に長く感じる。魔法耐性を0にしているからかルイが槍を使いつつも魔法が乗せられているのがいつも以上に敏感にわかる。もちろん口に出すので魔法発動のタイミング自体は分かるけど、使うのが想像魔法だから内容が全く分からない。しかも感覚で想像魔法の本質にたどり着いていた。つまり、名前から魔法の効果を予想することができず、効果が表れるまでどんな魔法を使われたのかがわからない。実際に想像魔法の本質にたどり着いた相手と戦うのは初めてだけど、こんなに恐怖感があるんだ。
ルイが主に使っているのはバフ、デバフ、幻影・幻聴、呪いだ。想像魔法を極めたことで戦闘中の魔法発動が容易になり、今までよりもより良い戦いができるようになってるみたいだ。
デバフは概念突破の私には効かないけれど、呪いでAGIに制限が付いたり、幻影で槍の長さをごまかしたりしているからか、ルイは現状一撃も私からの攻撃を受けていない。私もまだ喰らってはいないけどかなりギリギリってところかな。呪いでほとんど動けないから拳で攻撃を受け流すしかないし、相手の方がリーチが長い。そのうえ熟練度が想定以上に高い。この後剣同士で本気で戦ってみようかな。もちろん私は魔法を使わずに。
おっと、攻撃が来た。突きか。フェイントの可能性も考慮するとあんまり派手には受け流せないかな。腹部を狙った突き。今は呪いかデバフかわからないけど足を今いる場所から動かすことができない。突きが直撃する前に手で強引に軌道をそらすしかない!
もうすぐそこに来ている。直撃する直前、私は槍の軌道をそらそうとする。しかしその直前ルイは唱える。
「想像魔法」
まずい!転移された!私はさっきの攻撃から身を守るモーションを取っている。一瞬とはいえ隙を作られた。しかも転移先は頭上3m。彼の身長を考慮すればその高さからでも槍は届く。
その瞬間私は槍で肩を切り裂かれた。もちろんVITをかなり高く設定してるからダメージはないけど。
「すごいねルイ。ここまでとは思ってなかったよ。」
「ありがとうございます。想像魔法は使い方を何となく分かったばかりで不安でしたが。」
「やっぱりルイはセンスがすごいね。一つお願いなんだけどさ、私と剣で戦ってくれない。」
「剣でですか?」
「うん。もちろん今度は私も剣を持つよ。先に相手を瀕死にする、もしくは反撃不可の状態に追い込んだ方の勝ち。この闘技場内で死ねないように設定したから、どれだけ攻撃しても相手が死ぬことはない。私のVITはさっきとは違って低めに設定する。その代わりRSTはさっきと違って本気の設定。私は魔法を使わないけどルイは使っていいよ。HPは無限以上で設定してあるけど、けがは蓄積されるからいつか戦えなくなる。」
「わかりました。あなた様のご命令とあらば。」
「実践と思って本気で来てね。あなた次第じゃ私も魔法を使うかもだけど。」
「そうさせられるように頑張ります!」
「それじゃこれを使って。神器の一種エクスカリバーだよ。今回ルイに渡すものとは違うけど、神器がどういうものか実感しておいた方がいいからね。私はこれを。」
空間収納から取り出したのは、さっき類に作った槍とは違い本気で作成した剣。折れてもすぐに再生し、斬撃個所の回復不能のデバフを持った呪いの剣だ。
「準備オッケーだね。あなたの合図で初めにするから好きなタイミングで切りかかってきて。」
「わかりました。」
そして一瞬の溜めの後、最高速で切りかかってきた。そのうえ、地面をける音がかなり大きくそれで隠して魔法を発動させている。さっきと同じデバフだ。今回は効かない。
ルイの攻撃を剣で受け流し、AGIを最高まで振り切り光速の斬撃を胴に叩き込む。
!?確かに命中させたはずなのにそこにルイの姿はない?魔法で回避した?いや確かに感触はあった。それに気配が消えている。魔法を発動させた様子もなかった。
!!!!!背後に気配を感じ、一気に回避行動をとる。そこにはもちろんルイの姿。さっきの攻撃は確かに命中していたみたいで服は切れている。でも、肝心の肉体に攻撃が通っていない。治癒したわけでもない。事前に魔法をトリガーさせておいて自分の時間だけ巻き戻したってところかな。
「うまいね。さすがに驚いたよ。」
「まだまだここからですよ!」
正直舐めてた。ここまで強いなんて。魔法を使わずに倒すならAGIに頼るか。一気に最高速まで加速し、5メートルほどある闘技場の壁で跳ね返り、地面に足をつけない。ルイに今見えているのはすべて残像。だから攻撃が当たった時には私のことが見えていないはず。
最高速のまま壁を跳ね返り、そのままルイに突っ込む。概念突破状態のAGIは光の速さを超える。その分空気の抵抗に耐えるためのVITも必要になる。逆にそれに耐えうるVITを持たなければ周囲にいる者は巻き込まれてダメージを負ってしまう。
さすがにこれには対応できないかな。ちょっと大人気ないけどまぁ、これも高みを知るためだと思ってもらって。
私はそのままルイに接近し武器をはじき、もう一度跳ね返ってルイの前に立ち、剣を首筋に当てる。
「おわりだね。」
「まいりました。」
「ごめんねマジの本気を出しちゃった。」
「見えませんでした。私もまだまだですね。」
「いや、私に本気を出させることができるのって三魔将にもいないんじゃないかな。その熟練度は誇っていいよ。それに戦闘センスも高い。それだけでも大きな武器になる。これからも頑張って!」
「はい!精進します!」
「それじゃ魔王城に帰ろうか。神器を作ってあげる。」




