274話 【天元突破】
1か月間各々鍛錬を積み、その間も時折全員を集めた会議が行われていた。それぞれ自身がどれだけ強くなったかなど、細かいことは話さず、この期間は魔王軍という組織構成や、運営に関する会議ばかりだった。私は時間さえあれば世界を作り続けており、今では2000個以上の世界が誕生し、その中の500ほどはすでに滅んでいた。原因不明の天災が起こり、それから世界を守ることが出来ずにほろんだらしい。そのどれもが、【創造神】絡みと思われる怪物による襲撃を受け、その直後に様々な災害が起こっている。間違いなく妨害をされている。それでも世界を作り続けているのには理由があった。このままでは【リアの世界】以外のすべての世界が破壊されてしまうけれど、それでも作る必要があった。
【創造神】の差し金と思われる襲撃は3日に1回、1回につき50前後の世界が襲撃されている。つまり、その合間を縫えば、私の世界に干渉はできないはず。でも、昨日はその周期なはずなのに襲撃がなかったみたいなんだよね。嫌な予感しかしないけど。
全員が集まったことを確認し、私は口を開く。
「みんながどれだけ強くなったかはわからないけど、とりあえず最優先のリーンから聞いていくけど、どう?」
「1日30個ずつ世界を作っていたんだけど、すべて破壊されていたわ。今日目を覚ましたら、全部が消えていたの。なぜか【守護竜の世界】だけは残っていたけれど。」
やっぱりリーンの世界を壊しに行っていたか。そうなると今私の世界に干渉はされないと考えていいはず。
「そう、ありがとう。みんなちょっと待ってね。」
全員が不思議そうな顔をする中、私は想像魔法の権能、魔法創造を発動させる。普段の思い描いたことを魔力を消費して顕現させるものではなく、以前使用していた、思い描いた魔法を創り出すものだ。原理は分からないけれど、こちらならば世界のシステムに干渉されることなく魔法を創りことができる。ここ1か月、魔法の研究も行っていた中で得られた唯一の情報だ。でも、世界のシステムに干渉されることがない、すなわちすべてを超越した効果を得られる。その分魔法の創造自体に生贄が必要になる場合も多い。その中には命などを要求するものも多い。
私が思い描く魔法はステータスという概念を突破する魔法。誰にでも付与できるようにすると、生贄が足りないので神格階級のもののみに付与できるようにする。支配者階級にするのでさえ、10倍以上の生贄が必要でとても足りなさそうだった。
ステータス概念の突破、それはすなわち、思い描いたとおりになる。STRであれば思い描いた火力を出すことができる。火力が高い状態が常に続くわけでもないので日常生活で気を使う必要もない。これなら、以前アランに割らせた星も粉々にできる。ただ、この魔法の効果は被者の熟練度に依存するため、リーンならばSTRには無効、アランなら、MPには無効だろう。防御系は問答無用で強化されるように創れそうだ。
そして魔法を創り出す際に差し出す生贄は、「1500の世界とそこに存在するすべての命」だ。まだギリギリではあるけれど1500は残っている。この条件で魔法を創りだす。これでできなければ、もうどうしようもない。
[魔法【天元突破】が創造されました。ただし、効果に制限がかかります。]
成功だけど失敗か。効果制限は何かな?
【天元突破】
神格階級以上の階級のものに使用可能な進化魔法。そのもののステータスの中で一定以上の熟練度に達しているものを概念突破状態にする。ただし防御面に関しては強制的に概念突破状態にされる。他者に使用不可。
なるほど。自分にしか使えないってことね。そうなるとリーンとアランはどうしよう。あの2人こそ強化したかったんだけど。
「【天元突破】」
急激に力が抜けていく感覚に襲われる。それと同時に力を出すことができる感覚もある。今は通常時だから特に力が必要ない。それで、これまで常に張っていた力が抜けたんだろう。
「みんなお待たせ。一応、私は強化に成功したよ。1か月でつくった2000個の世界のうち1500個を生贄にして強化魔法を創ったらうまくいったよ。自分にしか使えないって制限付きだから、アランとリーンには使ってあげられないけど。今の私なら、【創造神】とやりあえるくらいには強いと思う。けど、相手の戦力がいまいちわからいのが怖いんだよね。配下が大量にいたりすると、互角の相手+たくさんの雑魚と戦わなきゃいけないから多分負ける。そうなると、やっぱりあと数人手を借りたいんだけど、今の状態では攻め込みたくないんだよね。」
「ようは、あなたと同レベルのステータスを持つ人だけを連れていきたいってことでしょ。」
「そうだね。いまのあなたたちだと、ちょっと厳しいかもしれないから……。」
話していたその途中で、突如外からあり得ないほどの大きな気配が現れた。まるで何もなかったところから出てきたような感じだ。まさか異世界からの襲撃?考えてる暇はなさそう。それにこの気配多分、リーンとアランと私以外のみんなじゃ勝てない。束になっても軽くいなされる未来しか見えない。リーンで五分ってところだろうし、私が行った方がいいかな。
「私が行ってくる。気配からして今話してた【創造神】に近い力はあると思うから。」
「それじゃあ俺もついていく。前衛がいた方がいいだろ?」
「いや、危険なところにお父さんは連れて行きたくないし、私一人で十分勝てる相手だと思うから。」
「そうか……。絶対に勝って戻って来いよ。」
「誰に言ってるの?私はこの世界の魔王だよ。それも過去最強の。そんな私が負けるわけないじゃん!」
軽く冗談を言いながら、転移の準備を整える。空間収納から武器を取り出しつつ、事前に敵のいる位置に外部・内部からの一切の干渉を禁止する結界を張った。もちろん私は干渉できる。【創造神】の差し金で私のステータスを見るためでないとも言い切れない。警戒は最大限にしておくべきだろう。
「それじゃ、行ってくる。もし巻き込まれそうだったら、兵士たちも全員連れて、【リアの世界】に避難しといて。玉座の裏に【リアの世界】につながる次元門を設置してあるから。」
そう言い残して結界内部に転移する。なんにせよこいつを生かして返すわけにはいかなさそうだね。




