265話 別れ
さて、アレウの家の前に来たわけだけど、家の中からは特に気配を感じないし、アレウたち獣人たちは全員外で見つかっている。ただ、気配を感じないというのに魔法では家の中にアンデッドがいると反応がある。アンデッドは全員人間に戻したはずなのに何でアンデッドがいるのかな?もとからアンデッドだった奴が村にいたのか。それとも、【創造神】が種族を変更できないようにしていたのか。いずれにせよ戦闘は回避できないし、場合によっては救えないかもしれない。それでも、村人たちにこれ以上の被害が出にようにするためにも戦うしかない。
この先にはいったい何がいるのか。
私は扉を開けた。その先にいたのは分かってはいたけれど、かつて私の母だった何かだ。アンデッドにされたときに魂を代償にしてリッチーに進化させられたみたい。もともと強い魔法使いだったし、アレウとアラン達には荷が重いくらいかも。私の手で弔うのが一番の供養かな。殺されてしまったのは仕方がない。意地でも【創造神】のクソ野郎はこの手で殺してやる!
「想像魔法」
周囲を柔らかな光が包み込み、苦痛を与えない浄化の力が働く。この魔法は使用者の感情による力が働く。使用者が対象に憎悪など悪感情を抱いていれば苦痛に襲われるが、いい感情を抱いていれば苦痛を与えることなく温かさを感じながらゆっくりと浄化される。
もちろんリリスには感謝と愛の感情しか持たない。苦痛など微塵も感じずに縛られていた魂の残滓も解放されたことだろう。
さて、【創造神】の野郎にはどう落とし前付けてやろうか?
この村に関することを全部終わらせたら絶対にあいつを殺しに行く。あいつがどこにいるのかはもう割り出してある。それでもなお、別の場所に姿を現したり、罠を仕掛けたりしないのは、今の私には負けないと思っているからだ。冷静になれ。
今のままではまだ勝てないのにここで死にに行くなんて意味がないでしょうが!今の私には仲間たちもいる。彼らに頼れるだけ頼らせてもらおうじゃない!相手が孤独なこの世界の支配者なら、こっちはこの世界の総戦力を上げてそいつを殺しに行ってやろう。
とりあえず、今は村人たちの安全を確保しないとね。リリス、いやお母さんならそうするだろうし。今はとにかく落ち着いてすべての事の後始末をつけないと。
外に出ると、村人たちは目覚めていて、何が起こったのかわからない様子だった。そこで、アランを呼び、状況を説明した。リリスのことについては後から話した方がいいと思い、まだ話していない。
アランは村人たちに状況を簡潔に説明して、しばらくはここでの生活になるということで、村人たちを納得させた。【創造神】について話さずにここまで皆を納得させる手腕はさすがだ。
ひとまず村人たちについてのことが終わって、私はアランと、アレウたち獣人を集めた。
「それでリア、俺たちだけに話ってのは何だ?」
「ついてきて。」
私はアレウたちの家の前まで歩く。この状態のリリスを見せたくはないけれど、大変な時だからこそ現実を見てもらう必要がある。
扉を開けると全員が固まった。目の前に倒れているひどい状態の死体はどう見てもこの村でも皆から頼りにされていたリリスに他ならなかった。
「リア・・・・・・。これは・・・・・・?」
アランが絞り出すような声で尋ねてきた。私も声が出ない。それでも絞り出して、
「救えなかった・・・・・・。アンデッドにされて人間に戻せない状態にされてたんだ。どうしようもなかったからせめて苦痛なくと思って、魔法で浄化するしかなかった。」
「そうか。俺たちでしっかり弔ってリリスの分まで強く生きよう。」
アランはこんな状況だというのにとてもやさしく声をかけてくれた。やっぱり私のお父さんなんだね。
「うん。」
リリスの死体をきれいな状態にして、一度家に連れて帰った。もう魂がないので蘇生はできない。それでも、せめて肉体をきれいな状態で保管してあげたい。あんなにもむごい死に方をしたのだから。
原子単位で時間を停止させる効果をリリスの遺体に施して、棺に納めた。せめて家にいてほしいというアランの願い、そして私の願いもあって、リリスの寝室に安置した。
これで本当に終わりだ。
「リア、一つ頼みがあるんだがいいか?」
少し元気がないように見えるけれど、そんな状態で頼みって何だろう?
「俺を進化させてくれ。アレウたちと同じように。リーンの仇を取りたいんだ!頼む、俺も一緒に戦わせてくれ!」




