242話 獣魔人は叛逆者?
ニケ村での作戦を開始して1週間が経った。ハンゾウの報告ではニケ村の人たちは【リアの世界】のニケ村で不自由なく生活しているらしい。私はというと、【基軸世界】のニケ村に張った結界に変化がないかひたすら警戒するだけの生活が続いていた。初日にあまりにも暇なのでハンゾウ経由で村のことについて何かしておいてほしいことはないか聞いて、1日中広大な畑の手入れや水やりをしている。それくらいしかすることがないので困っていたところにようやく動きがあった。
結界の外で結界を攻撃していたはずの精霊番犬の攻撃が急に止んだ。反応は消えていないので死んではいないと思うけど、一応確認しに行こう。もしかしたら獣魔人が到着して精霊番犬を止めようとしているのかもしれないし。
今、私は実家で休憩をしていた。精霊番犬がいたのはここからおよそ300m先の結界の端だ。即刻向かおう。
(リア、今いいかしら?)
(リーン?どうしたの?)
(クヌム王国に報告に行かせてた子が帰ってきたんだけどクヌム王国の討伐軍がそちらに向かっているそうよ。)
(もう動いたんだ。思ったよりも早いね。分かった。ありがとう。こっちも今動きがあって様子を確認しに行くところだから、何かあったら連絡するね。)
(分かったわ。気を付けてね)
魔法通話をしながら走っていた私は魔法通話を終えるころには精霊番犬が見える位置まで来ていた。どうやら精霊番犬は何かを警戒しているようだ。私には何も見えないが森の方を見て威嚇をしている。自我がないのになぜこういった行動を起こしているのだろうか?
「幻武【幻狸】」
そう聞こえたかと思うと、精霊番犬が何もないところにいる何者か攻撃され、吹き飛ばされた。精霊番犬ほどの魔物にも効果のある幻覚の魔法なのだろう。実際結界越しでは私にも見えないのだし。
精霊番犬は立ち上がることなく、光の粒子となって消えてしまった。さすがに強いし、あれが獣魔人で確定だろう。さすがにあれだけとは思っていないのだろう。結界の方を注視している。結界自体に幻覚を見せる魔法が組み込まれているので私の事はバレていないはずである。
「そこにいる魔族の小娘!貴様が元凶なのだろう?幻術など私には無意味だ。おとなしく出てくるがいい。」
あっさりばれてしまった。幻術のプロフェッショナルななだけあってこの程度は簡単に見破ってしまうか。
「バレましたか。ちょっと待ってください。すぐに出ますので。」
そう言いながら、私は結界の外へ向かって歩いて行った。こうなってしまっては隠れる意味もないし、話をする方が早いだろう。万が一戦闘になった時のために先に情報を集めておこう。ステータスまでは見る余裕がなくてもスキルと照合くらいは確認できるだろう。
狸の獣魔人 サダン
スキル{幻術支配}{獣魔人}
称号:獣魔人、神獣、叛逆者
{幻術支配}はその名のとおり幻術系の魔法を最大限強化でき、{獣魔人}はステータスの大幅上昇に加え、魔力そのものを操ることで好きなように魔法を創り、使用することができる。
それは予想していた範疇なので何の問題もないのだけど、気になるのは称号。獣魔人と神獣は分かる。叛逆者とは何だろう。獣魔人とはこの称号を持っている者なのだろうか?
「お待たせしました。狸の獣魔人のサダンさん。こちらは争う気がありません。良ければ中でお話を聞いていただけないでしょうか?」
「話を聞くくらいは良いけど、先に聞かせて。なぜあのような化け物を出現させたの?あのようなものが暴走すれば世界の均衡が崩れて、崩壊することくらいわかるでしょう。」
「その答えは簡単なことです。あなたに会いたかったから。私は少し事情がありまして獣魔人を探していたのですよ。もちろん悪いようにはしませんので話だけでもどうでしょうか?」
「まぁ、聞いてあげましょうか。鑑定でバレてるみたいだけど、改めて、私はサダン。世界に4体しかいない獣魔人の1体。あなたのお名前は?」
「私はリアといいます。一応魔王です。」
「そうなのね!魔王が変わって最強の魔王が生まれたとは聞いていたけれど、確かに強いわね。歴代の魔王は全員目にしたことがあるけれど、そんなもの比べ物にならないくらい強いわね。」
「ありがとうございます。それではご案内します。中には誰も居ませんのでゆっくり話せますよ。」
私はサダンを案内しながら、ハンゾウに連絡を入れる。
(ハンゾウ、クヌム王国まで行って精霊番犬が討伐されたって報告してきてくれる。通りすがりの魔族が倒したって言っておいて。)
(かしこまりました。)
サダンが魔法の気配を感じたのか少し不思議そうにこちらを見ていたけれど、それは無視して実家に案内し、お茶を出した。




